ながい旅 (角川文庫 お 1-2)

著者 :
  • 角川書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041211083

作品紹介・あらすじ

第二次大戦中、空爆を行った米軍搭乗員の処刑を命令した容疑で、B級戦犯として起訴された東海軍司令官・岡田資中将は、軍事法廷で戦う決意をする。米軍の残虐な無差別爆撃を立証し、部下の命を救い、東海軍の最後の名誉を守るために。司令官として、たった一人で戦い抜いて死んだ岡田中将の最後の記録。『レイテ戦記』を書き終え、戦争の総体を知った大岡昇平が、地道な取材を経て書き上げた渾身の裁判ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 映画になった明日への遺言の原作ということで読んでみました。名古屋で空襲があったとき、不時着した米兵を処断した罪で戦犯となり、判決により絞首刑となった岡田中将について書かれています。裁判の様子が細かく、そして淡々と描かれています。
    戦犯から逃れようとした、罪が軽くなるようにしたという話は聞いたことがありました。しかし、この岡田中将は当時の部下が減刑になるように、すべての責任を自分にというように仕向けながら裁判に挑んでいました。一方で、アメリカ兵のやり方も国際法に対して違反しているということも最後まで強く主張しました。

    このような方がいらっしゃったということをこの作品を通して知りました。戦争について本当にうわべだけ知っているのだということを改めて思い知らされました。本を通してでも戦争について勉強し、戦争を遠い過去にしないようにしていかなければとも思いました。

  • この映画を見ていなければ
    この本は 読みきれなかったかも・・・・
    裁判の やり取りなどが 多くてちょと難解な 部分もありました。
    ノンフィクションのジャンルになるのでしょうか。
    だから すいすいとは読めませんでした。

    日本では 情報が手に入らず
    公判30年を経て 裁判記録が公開されて
    やっと入手した資料をもとに 描かれていました。
    勿論 国内での 遺族からの資料もあったのですが
    裁判の資料は欠くことのできないものです。

    映画でも 凄い人だと思いましたが
    岡田資中将の 人柄が とても良く描かれていました。
    映画では 遺稿の 表現が あったか忘れましたが
    巻末には 遺稿も収められていました。

    戦争の中で 無差別攻撃が起こり
    そして その攻撃をした者を 処刑。
    その責任を 取った中将だけど 
    しっかりとした方だけに 
    残念です。
    戦争がなければ とても良い上司で 
    社会に貢献していた人になったと思います。

    そして この裁判で アメリカ人でありながら
    公平な目で 見て 戦ってくれた
    フェザーストン弁護士も とても勇気があって 素晴らしい人だと
    改めて 思いました。

  • 第二次大戦中に 無差別爆撃をした米軍パイロットを捕虜としてでなく、戦犯容疑者として扱ったことの妥当性について、法廷で闘った陸軍中将 岡田資を描いたノンフィクション

    著者の命題は「なぜ 組織(東海軍)の名誉と 部下の命を 守るために、不条理な状況下でも 自決せず、冷静に 法廷で闘い抜いたのか」ではないか

    命題に対する答えは
    岡田資氏が 日蓮宗信者であり 現世の仏性を信じていた点、敗戦国が受ける不条理に立ち向かう正義の心を持っていた点 だと思う

    法廷のやりとりは ノンフィクションの方が面白い。先が読めないというか、法廷そのものが生きている感じがする

  • B級戦犯となった岡田資の法廷闘争を描いたドキュメンタリー。岡田氏の思想や気概よりも、戦争のやりかたを法で定めることの是非、犯罪行為の有無を戦勝国が裁くことの是非など、根本的な問題を棚上げしておこなわれた極めて政治的な裁判の様子が良くわかる。またそれ以上に、戦争末期から戦後初期の日本国内の混乱状態や、タブーを抱えつつも民主的かつ公平な姿を示したい米国の苦悩が強く感じられる。

  • 1945年8月15日日本は敗戦し、武器を使った戦闘は終了した。太平洋戦争ではアジア全域及び太平洋を囲む島々に於いて、一般市民軍人合わせて300万人以上の日本人が亡くなっている。勿論日本以外の国の死者を含めればその数は桁が上がる。武器による戦闘はこの日終結したが、その後待ち受けていたのは極東軍事裁判という方の裁きによる戦いだ。後の世に言う、あれは裁判などではなく、戦勝国による一方的な復讐劇といわているが、そこには法の下に戦う人々の姿があった。岡田資(たすく)中将の名前を聞いた事のある方はそれほど多く無い様に思う。太平洋戦争やその前段の日中戦争などの書物を読む方でも余り印象には残っていないだろう。
    彼は戦争末期日本本土決戦に備え東海地方を守る東海軍を司令官として預かっていた。戦争後期に入ると、アメリカは日本の軍事施設のみならず、一般の住宅地を如何に焼き尽くしていくか無差別爆撃を開始する。昭和20年3月10日の東京大空襲では、燃えやすく火の広がりを計算に入れた焼夷弾による爆撃を効果的に実施しており、結果として10万人以上が亡くなっている。その後も各地の主要都市への爆撃は手を緩めず、日本中が無差別爆撃の被害を被る。岡田の管轄する東海地方でも名古屋が大きな被害に見舞われ、無辜の市民が多く被害を受けることとなった。その様な状況下で、アメリカ軍の捕虜をとり、その扱いに関して罪名を受けたのが岡田である。
    事件の内容はとらえた捕虜の扱いに関して部下が斬首刑に処したことになる。通常は捕虜の取り扱いを定めたジュネーブ条約(日本は批准してないが従う意思は表明)に基づき、正当な裁判と処理が行われるべきところ、当時の空襲により上位の総軍とも連絡体制が乱れ、裁可を待ってられない状況にある。これを部下達が斬首に処したのである。
    一般的にこの手の裁判では、司令官までが関与することは珍しく、他の同様の事例においても司令官の耳に届かない事案として、司令官自ら死刑になる事は滅多に無い。だが岡田は自身の管轄下に於ける罪の責任は自分にありと、裁判で戦うことを決意するのである。通常司令官を法的な面で支える法務少将がいるのであるが、裁判前に自身の関与を否定する遺書を残して自殺してしまう。よって岡田は独り裁判に立ち向かうしか無いのであるが、元の部下達そしてアメリカ側が付けた弁護団と協力して裁判を戦っていくのである。岡田は武器を持たないこの戦いを、自身が信仰する仏教に準え「法戦」と呼ぶ。
    争点は部下の行った処置が正しかったか、そもそもアメリカ側が行った一般市民への爆撃自体が国際法違反であり、それによって捕らえたアメリカ兵は捕虜ではなく戦犯である(だから処置するのが当然)といった部分で争っていく。アメリカ側もこの裁判に無罪判決を出そうものなら、無差別爆撃の罪を認めることに成りかねず、検察側も周到に岡田を追い込もうとするのであるが、岡田の嘘偽りない姿勢、部下を守る決意、卓越した人間性に向き合い徐々に態度を変えていく。後半では検察自ら岡田に有利になる様な姿勢まで出てしまう(当然裁判官達も同じだ)。
    だが一方ではアメリカ側も自国のしてきたことを国際法違反と認めてしまう事は、他の裁判や戦後の日本統治に多大なる影響を及ぼしてしまう。このジレンマを抱えながら、多くの証言者の意見と弁護によって出された判決は絞首刑。裁判の1シーンとして、アメリカ側の無差別爆撃が国際法違反を否定できず静まりかえる場面、夏の日差しが既に死刑に決まった岡田の牢屋に差し込む場面、最後に刑場に向かう岡田を他の死刑囚達が「南無妙法蓮華経」の声で送る場面など、岡田の態度と発言に心を揺さぶられた読者の胸を熱くするシーンが多々ある。戦争とは何なのか、それによる罪とは何か、そしてその様な状況下で人はどうあるべきか、様々な疑問が湧き上がりながらも、独り最後まで自身を貫き通した1人の日本人がいた事を誇りに思う。
    岡田は最後までこの法戦及び牢獄での出来事について後世に残すべく「毒箭」と言う書を残している。本書はレイテ戦記で私を太平洋戦争の世界へ引き摺り込んだ大岡昇平。間も無く終戦記念日を迎えるこの時期に何度でも読み返したくなる名著だ。

  • 「明日への遺言」の原作
    B級戦犯として起訴された岡田資中将の裁判の記録です。
    小説ではなく、レポートです。
    なので、ぶっちゃけ読みにくいです

    この裁判の論点は大きく2つ
    (1)岡田中将が死刑の判決を下した米兵は俘虜なのか戦争犯罪人なのか?
    (2)その判決を下したときのプロセス

    結果、米兵は無差別爆撃を実施したことを岡田中将はこの裁判で立証します。ってその弁護人がすごいです。
    一方、その判決を下したプロセスは略式の軍律会議ということで、岡田中将は死刑判決を受けることになります。
    しかしながら、全責任は自分にあることを明言し、部下を死刑判決から救うことになります。

    この裁判での岡田中将は堂々としていて、アメリカにこびることなく、毅然とした態度で自分の意見を貫き通します。
    誇り高い日本人を感じます

    特に、作中にあった検察側の、「戦争法規に照らして違法な行為に及んだとき、報復を認める」という前提をベースに、
    「搭乗員の処刑は彼らの違法行為に対する報復だったのか?」という質問に対して
    「報復ではない。処罰である」
    と答えているところに対して、高潔な日本人魂を感じます。報復でしたって答えれば減刑された可能性もあるのに..

    一方、死刑判決を受けて、家族への遺言を残すわけですが、これは優しさに満ち溢れています。

    日本人の侍魂を感じさせるレポートとなっています。

    お勧め

    --
    本書でもちょっと触れていますが、やはり触れないわけにはいきません。
    名古屋の無差別爆撃が戦争犯罪なのであれば、東京大空襲も戦争犯罪と思いますし、広島、長崎の原爆は間違いなく戦争犯罪と思います。
    戦勝国による裁判ってどこまで意味があるものなのか、考えさせられます
    --

  • 戦時中の内地の兵隊、現場のトップの横顔に触れられた。敗戦後も、戦争は続いていたんだと思った。

  • B級戦犯として処刑された東海管区司令官岡田中将の裁判と彼の処刑についてのノンフィクション。小説ではなくて資料中心で語るスタイルなので慣れていないと違和感を感じる。作家の勝手な想像で事実を弄ぶようなことを避けているのだ。中将は絞首刑の判決を受けて処刑される。撃墜降下した米軍爆撃手たちを処刑した罪なのだが、裁判で中将は爆撃手たちを無差別爆撃した犯罪人であるとみなし処刑したのだと訴えた。証人の供述により法廷は無差別爆撃を認めた。中将の人格と責任の取り方は立派とだが無差別爆撃を認める米国司法の公正さに舌を巻いた。

  • 米軍捕虜を処刑したとして、B級戦犯として裁かれた岡田資中将の裁判記録。
    岡田中将は「法戦」と称し、部下の責任も一身に背負いつつ、米国の戦争犯罪をも明らかにしようと裁判において戦い続けた人物であるが、その思索の深さ、思考の明快さ、そして信念を曲げない姿に感銘を受けた。
    同じく東京裁判で責任を一身に背負った広田弘毅首相にその姿が重なる。

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著者プロフィール

大岡昇平

明治四十二年(一九〇九)東京牛込に生まれる。成城高校を経て京大文学部仏文科に入学。成城時代、東大生の小林秀雄にフランス語の個人指導を受け、中原中也、河上徹太郎らを知る。昭和七年京大卒業後、スタンダールの翻訳、文芸批評を試みる。昭和十九年三月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、二十年一月米軍の俘虜となり、十二月復員。昭和二十三年『俘虜記』を「文学界」に発表。以後『武蔵野夫人』『野火』(読売文学賞)『花影』(新潮社文学賞)『将門記』『中原中也』(野間文芸賞)『歴史小説の問題』『事件』(日本推理作家協会賞)『雲の肖像』等を発表、この間、昭和四十七年『レイテ戦記』により毎日芸術賞を受賞した。昭和六十三年(一九八八)死去。

「2019年 『成城だよりⅢ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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