不道徳教育講座 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041212073

作品紹介・あらすじ

大いにウソをつくべし、弱い者をいじめるべし、痴漢を歓迎すべし等々、世の良識家たちの度肝を抜く不道徳のススメ。西鶴の『本朝二十不孝』に倣い、逆説的レトリックで展開するエッセイ集、現代倫理のパロディ。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;三島氏は、戦後の文学界を代表する作家の一人です。ノーベル文学賞候補になる等、作品は、英・仏・独語等に翻訳され、海外でも有名。Esquire誌(1933年にアメリカで創刊された世界初の男性誌)の「世界の百人」に選ばれた初の日本人。代表作は、「仮面の告白」「潮騒」「金閣寺」等多数。晩年は、自衛隊に体験入隊し、民兵組織「楯の会」を結成。1970年、自衛隊市ヶ谷駐屯地で、クーデターを促す演説をした後、割腹自殺しました。
    2.本書;三島氏の小説に表れない座談における機智をまとめたエッセイ集。女性向け大衆週刊誌の「週刊明星」に連載された。「知らない男とでも酒場へ行くべし」・・「おわり悪ければすべて悪し」まで、69のテーマにコメント。逆説的な教訓話になっています。
    3.個別感想(気に留めた記述を3点に絞り込み、私の感想と共に記述);
    (1)『教師を内心バカにすべし』より、「本当に、いかに生くべきか、という自分の問題は、自分で考え、本を読んで考えた問題であって、先生にはほとんど教わらなかった。・・大人の世界のみじめさ、哀れさ、生活の苦しさ、辛さ、・・・そういうものを教師たちは、どこかに漂わせています。・・この世の中で、先生ほどえらい、何でも知っている、完全無欠な人間はいない、と思い込んでいる少年は、一寸心細い」
    ●感想⇒私は、「この世の中で、先生ほどえらい、何でも知っている、完全無欠な人間はいないと思い込んでいる少年」でした。教師は一般人とは違い、人格者だと素直に信じていました。成人になってからは、教職に就く友人もいて、教師も一人の人間で、悩みや苦しみもあると理解しました。マスコミは教師が起こす事件(窃盗・援助交際・・)を面白おかしく報道します。先生も人間なので、そのような人もいるでしょう。読書と経験で、理性を鍛えるしか防止策はないと思います。知力重視ではなく道徳教育の強化(天皇への忠誠を軸にした修身ではなくて)も必要かもしれません。老婆心ながら、大多数を占める意欲ある教育者には、生徒以上にもっと勉強してほしいと願います。
    (2)『馬鹿は死ななきゃ・・・』より、「秀才バカというやつは、バカ病の中でも最も難症、しかも世間に珍しくありません。バカの一徳は可愛らしさにあるのに、秀才バカには可愛らしさというものがありません。バカの症例;①秀才バカ(高飛車・頂上にへつらい・・) ②謙遜バカ(嫉妬心・被害妄想・・)③ヒューマニスト・バカ(無類の強がりで無類の臆病者・・)④自慢バカ(自分の立志伝を3時間しゃべる・・)⑤三枚目バカ(自分を人お笑い物にする・・)⑥薬バカ(薬付け・・)・・ほんの微妙な抑制の神経を持つか持たないかで、バカ病は、うんと好転もするし、うんと悪化もする」
    ●感想⇒私も何がしかのバカです。自己評価すると“謙遜バカ”或いは、“三枚目バカ”でしょうか。バカを辞書で見ると、「社会的常識に欠けている事や人。取るに足らないつまらない事・・」とあります。他人に迷惑をかけないバカはよいと思います。だけど、三島氏の言う、可愛らしさのない“秀才バカ”は嫌ですね。付合いたくないですね。“バカに付ける薬はない”と言いますが、“馬鹿と鋏は使いよう”とか“バカと天才は紙一重”とも言います。何か一つでも打込めるバカは許容範囲ですかね。
    (3)『言葉の毒について』より、「言葉がテキメンに怪物的な力をふるうのは、我々自身の内奥にふれてくる場合で、しかもそれが第三者の口から出た場合です。『Aさんがね、あなたの事を、イヤラシイ奴だって言っていましたよ』こう言われただけで、もう何の証拠もないのに、我々はAを憎み始めます。・・流言蜚語が、早い伝搬力と強い影響力を持つのは、言葉そのものだからです」
    ●感想⇒“人の噂も七十五日”とは言うものの、根拠のない無責任な噂を流された当事者は大変辛いでしょう。伝言ゲーム的で言われたりすると、事実がドンドン歪曲されます。噂話には誰もが興味しんしん。井戸端会議やビジネス帰りの酒席では、話に尾ひれがついて、始末に負えません。楽しい一時でしょうが、根拠のない話には留意したいものです。当事者の心の痛みを推して知るべし“壁に耳あり、障子に目あり”。
    4.まとめ;三島氏は、純文学者のイメージが強く、本書を書いたと思えません。氏は、文学にも生活にも遊びにもマジメ人間と言われました。不道徳教育という一面ふざけた題名ですが、中身を読むと、逆説的表現の裏に、当時を風刺した道徳教育を説いています。私がコメントした3点以外にも「友人を裏切るべし」「人の恩は忘れるべし」等、多く訓示しています。1967年初版発刊の古い本にも拘らず、ブクログを見ると、登録者=5,588名と読み継がれています。小説を何冊か読んでいるが、私にとっての三島は、「不道徳教育講座」と「文章読本」とまでいう人もいます。(以上)

  • 道徳というもの自体、時代によって変化していくものなので、現在の価値観とはずいぶん違う部分もあるが、真面目に見える人間ほど大きな事件を起こすところをみると、たしかに不道徳さというのは必要なのかもしれない。そしてその後の三島の最期を考えると、この人も不道徳さが足りなかったようにもおもえてくる。

  • 何をしろ/するなという教訓なんかに収まらない、三島の底の見えない人生観に迫れる本

    こんな道徳のない本に騙されるな!

  • これまで作品を通して思い描いていた三島由紀夫像を良い意味で壊されます。

    芸術史上主義で正統派の作風、ボディビルで鍛え上げた肉体、割腹自殺…ストイックな人だと感じていたけれど、ユーモラスな人でもあったんだなぁ。

    花嫁探し中の三島が美智子さま(美智子皇后)とお見合いしていたと知り、さらに驚愕。

  • やー三島由紀夫いいなあ。道徳教育についてのレポートを書くのにいいかなと思って読んだが、ふつーに面白かった。やっぱり、道徳というもの自体が難しいし、道徳を学校で一斉に教えるなんて難しいよなあ

  • なにこれ!間違えてコメントに感想書いてしまった、戻しかた分かんない……

    • 千利休(再)さん
      何だか読むと力をもらえるような気がして、毎朝会社に1時間ぐらい早く行ってちょこちょこ読み進めてきた。(ほやほや新社会人なので、これを読んで「...
      何だか読むと力をもらえるような気がして、毎朝会社に1時間ぐらい早く行ってちょこちょこ読み進めてきた。(ほやほや新社会人なので、これを読んで「会社」というものに立ち向かおうとしたのかもしれない)

      つい、高校生のときにこれ読んでたらどうなってたんだろ…と想像してしまう(無益な考えですが、好きな作品に出逢った時つい想像しちゃう…)国語の先生が、『教師を内心ばかにすべし』の章を抜粋して生徒に配っていたら好きになっちゃいそう。

      どの章も好きだけど、日常の中で『美人の妹を利用すべし』『人の失敗を笑うべし』『死後に悪口を言うべし』『たくさんの悪徳を持て』をよく思い出すなぁ。思い出すというか、それについて考えると言うか…

      特に『死後に悪口を言うべし』は、不謹慎不謹慎と叫ばれる世の中において、つい考えてしまいますね。そういえば小さい時、テレビで有名な方が亡くなったという報道を観て、なぜ芸能人だけこんなに惜しまれるのだろう…?他にも毎日人は亡くなっているのに、それなら亡くなった人の名前を毎日報道しないと不公平でないのか?と母に質問してたのを思い出した……こわ…。まぁ小さい頃は好きな芸能人とかもいなかったから分かんなかっただろうなぁ。

      あと、一文一文にユーモアや皮肉が練り込まれていて、軽く読み流すことは出来ないなと当たり前だけど感じました。(時折意味が分かるまで読み返すことがあった)今はTwitterや短いニュースが主流になってきて、いかに短く簡潔に印象強くまとめるか、が重視されるというか目につきやすくなってしまうけど、一見突飛なこと言ってるようなものをじっくり読み込む・文章美を味わう時間も大切にしたいものですなぁ(と自戒を込めて言い聞かす…(´・ω・`))
      2020/08/24
  • 『三島由紀夫のレター教室』(筑摩書房)の小気味よい洒落と毒気がたまらなかったので、こちらも読んでみました。
    書名からしてにやりとしてしまいますが、目次の各章の名前を見て、ますますにんまり。
    人の不幸を喜ぶべし、約束を守るなかれ、できるだけ己惚れよ…等々、期待を裏切らぬ不道徳な項目が並びます。

    さらに本文に進んでも、切れ味鋭い三島節が炸裂。
    不道徳のススメの体裁をとってはいるものの、三島流の道徳論・生き方論です。
    清らかな道徳を正道で説かれると「どうも胡散臭いな」と思ってしまうのですが、不道徳面から話されると説得力がある…!

    「いわゆる「よろめき」について」に書かれた男と女の違いに、ものすごく納得してしまいました。
    世にある、体だけの浮気、というものを自分が受け入れ難い理由がようやくわかりました。
    ううん、勉強になるなぁ。

  • .

    結局読み終えるのに1年掛かってしまうとはなあ
    三島と色んな場所を旅したものだ。
    NYではこの本が暇を潰してくれた。

    三島が衝撃的な、壮絶な最期を遂げたことを思えば、
    「人の恩は忘れるべし」とか、「沢山の悪徳を持て」とか、「教師を内心バカにすべし」とか、「約束を守るなかれ」とか、
    不道徳教育講座で語られた教訓らしいものがすべて、絵空事のように思えてくる。
    人は孤独である。青春だとか、恋愛だとか、自殺だとか死だとか。
    全てはそこに帰着するけれども、
    結局は何かに依らず生きられまい。

    自殺について、人を殺すか、人に殺されるかのほうが何倍もマシであると言っていたのになあ。

    さて、彼の純文学小説は本当に手を出しにくい。私が読めないから。
    この本が1年も掛かってしまった理由はそこ。
    何度も何度も中断して、「サロメ」や「たゆたえども沈まず」、「ハムレットQ1」を中継ぎにようやく裏表紙を閉じることができた。
    文体なのか、日本語なのか、
    悩ましいけれど、義兄から借りた金閣寺を読み始めるとするかな

    人は孤独だけれど、三島も最終的には、そういう青春とやらを肯定している。
    人は孤独。それでも、私の側にいてくれる人はどれほどいるだろうか?私の側でお話をしてくれる、相槌を打ってくれる、会話をしてくれる人たち。
    大事にしたい、みんな

    ーーーーーーーーーーーーーーー

    小説ではなくエッセイであり、タイトルから判るように「講座」の体を成しています。
    アイロニーたっぷり、なのに突き刺さる。

    どうして本というものが後世に残るのか?
    それは多くの人に読まれ、愛され、人の心を動かしてきたから。

    数百円で遺産を私の中に蓄積できるのは本当に素晴らしい。嬉しい。

    私は辛抱強く読み続け、1年でようやく読み終えることができたけれど、読書初心者さんや現代小説を多く読む人には難しいかもしれません。

  • 三島由紀夫が全力で逆張りしている本。

    「友人を裏切るべし」「告白することなかれ」「自由と恐怖」「人に尻尾をつかませるべし」「人を待たせるべし」「言葉の毒について」「ニセモノの時代」がお気に入りです。

    最終章の締めの一文も好きです。

  • 三島由紀夫著『不道徳教育講座(角川文庫)』(角川書店)
    1967発行

    2018.6.26読了
     三島由紀夫のいなくなった今となっては、彼の文学を通してしか彼の素顔を知る術はない。そんな中、この本は彼の素顔を窺い知ることができる貴重なエッセイだ。三島由紀夫がエッセイだなんてイメージがつかないが、読んでみると意外と面白く、三島文学のとっつきにくさが和らいで、敷居が少し下がったような気がする。あ、こういうことを考える人なんだと親近感が湧いた。ニヤニヤしながら読みせていただいた。

    URL:https://id.ndl.go.jp/bib/000001102355

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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