複雑な彼 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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本棚登録 : 251
感想 : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (388ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041212127

作品紹介・あらすじ

森田冴子は国際線ステュワード・宮城譲二の精悍な背中に魅せられた。だが、譲二はスパイだったとか保釈中の身だとかいう物騒な噂がある「複雑な」彼。やがて2人は恋に落ちるが……爽やかな青春恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • ▼「レター教室」でも思ったのですが、エンタメ系の三島小説、それも執筆当時の現代風俗モノは、読めば読むほど「ウディ・アレン風味」です。もちろんウディ・アレンさんが大活躍するのは1970年代ですから、相互に自覚的な影響は無いでしょう。三島さんは1970年に45歳で割腹自殺していますし。


    ▼三島由紀夫「複雑な彼」。初出1966年。2020年3月読了。ヤクザから刑務所に入って、出所して作家になった安部譲二さんがモデルとなっていることでちょっと有名な一作。田宮二郎さんで映画化もされてます。


    ▼1966年当時の風俗がピンと来るのは難しいですが、国際線のスチュワードの青年・宮城と、実業家のお嬢様・冴子の恋愛模様を描いた内容。といいながら内容は、宮城という青年の、10代の頃からの諸外国放浪、どこでもモテまくり、腕は強いし遺志堅固、底辺暮らしも闇社会も心得ているインテリ男、という不思議な魅力を描くことに執着した、チョット変わった小説です。


    ▼でも全体には、実にエンタメです。1966年なんて、まだまだ日本の地方に行けば、明治大正とそう変わらない暮らしをしていたヒトもいた時代ですが、この小説は上流階級ばかり出てくる。気軽な小説。ルビッチ、ワイルダー、てなもンです。みんなオシャレで金持ちで、恋のテクニックを振るって騎士道よろしく戦います(笑)。それを作者は確信犯で、くだらなオモシロク描きつつ、純情上品な女子・冴子が、不思議なアウトロー感が魅力の宮城君に惚れていく心情をみずみずしく描く。このあたりのストレートで、かつテクニカルな語り口って、ほんとに開いた口が塞がりません。三島、うめえ。うますぎる。ずるい。


    ▼と、褒めながら、大した小説でも無かった気がするんですが(笑)、内容以上に語り口が上質。ほんっとに上手い。素敵。惚れます。


    ▼内容的には、恐らくモデルの安部譲二さんの履歴を、三島さんが妄想でブローアップしています。そして、そこに三島さんなりの理想妄想な男性像を作っているンですね。それはもうなんだか行間からモロバレです。三島さん自身は、「スーパー・ウルトラ・金持ちお坊ちゃま」で、親の金と名門の力で徴兵から逃げ、10代からホモで、恋愛にコンプレックスを抱き、肉体的にも貧弱で(作家として寵児になってから反動でボディビルに没頭)・・・つまり、この小説のスーパーヒーロー、宮城くんと、真逆です。


    ▼宮城くんは、10代から気骨反骨肉体堅固、モトの育ちは良いが、常に体制に反逆し、実力一本で諸外国を放浪、アウトロー底辺暮らしでも実力発揮、女にモテまくり、ヤリまくり(笑)、女にモテても拘らず、知性品性語学力はスーパーマン並、男気ひとつで気ままに生きる好青年なんです。


    ▼つまりは、三島さんの理想像なんでしょうね。そして、最後は泥沼化した末に、冴子との恋愛を終わらせて、何やら右翼愛国派らしき?活動に身を投じていく・・・。


    ▼愉しく読めた三島エンタメ。連載雑誌はなんと「女性セブン」。ちなみにこの「複雑な彼」連載終了直後から、こんどは「女性自身」に「三島由紀夫レター教室」を連載しています。純文学だけでも20世紀の巨人なのに、ほんとにこの人は、日本語で小説を書かせれば天下無双だったんですね。すごいなあ。まあでも、金閣寺とか潮騒とか春の雪に比べれば、やっぱり全然、大した小説ではないです(笑)。気軽に楽しめるなんかヘンテコな小説。でもうまい。

  • 格好いい男の人が出てくる小説が読みたかったので、
    あれこれ探してこれを選びました。

    本当は金閣寺とか潮騒から読まなきゃいけないですが
    私は三島さんの、軽い感じの上品な小説が好きで
    初の小説はこれを選んで見ました。

    どこかに、皮肉と優しさ、慎ましさが香っていて
    男性がたまらなく格好良く、女性が頭が良くて。

    いいですね。

    良家の出身であるらしい謎めいた国際線パーサーの
    青年に惹かれた上流階級の娘、冴子。

    この男性は、とてもイイ男でモテるのですが
    今の職業につくまでに、いろいろ経験してるよう。
    女達も、何年経っても彼を想っている…。
    そんなひと。

    生きる世界が違うと言われそうなふたりが
    異国の空の下で燃えるような恋をします。

    男は彼女を抱きたいのに、どこかで自制して。
    女は危ういと分かっていながら彼に惹かれてゆく。

    でも、どうしても越えられない何かがあって
    彼らはほろ苦い別離を選びます。

    濃厚な場面はそんなにないのに、惹かれ合っていく
    恋人同士の心の揺らぎと、抱き合った熱さがわかる。

    舞台も背景も繊細に美しい言葉で書かれている。
    むしろ通俗性もある作品なのに、汚らしくない。

    恋の経過がどこか夢の中か舞台のような
    ひとときの幻のような気がするのですが
    いつか覚める恋だという予感があるのが
    たまりません。

    シビアな現実認識がラストに効いているのが
    三島らしいですね。

    恋の焦慮と燃え上がる陶酔感が切ないまでに
    存分に味わえて、面白かったです。

  • 三島由紀夫ってこんな作品書くんだ、というのが率直な感想。全体的に軽めで、思いっきり恋愛小説。「命売ります」等もっと深かった気がするので、若干違和感を感じた。
    国際線の後ろ姿のかっこいいスチュワードに恋する事業家のお嬢様の話。このスチュワードは安部譲二がモデルらしい。思わずWikiってみたら、本当に小説に出てくる宮城譲二と同じ経歴なのか。スチュワードの経歴が突拍子もないと思ったけど、これが事実であるならば、事実のまますぎるのでらしさを感じられず残念。
    ラストは流れは読めるが、オチに唐突感あり。全体的にもうちょっと重厚な感じがほしいのと、展開に工夫が欲しい。

  • まさかモデルがいるとは思わなんだ。

  • 安部譲二なんだよねぇ❗
    テレビに出てた頃の彼は好きにはなれなかったけど、若い頃は「痩せて」たんだろう。
    もてる男とは想像もできなかったけど。
    安藤組組員だとか。
    安藤昇と菅原文太とか。
    それに三島由紀夫。
    現代では考えられない社会構造だ。

  • 読んでいる間、モデルになった安部譲二の顔がちらついてしまい。
    接吻する安部譲二、若干キザなことを言う安部譲二…。
    確かに背中は広そうだけど。

    スラスラ読めて、内容はともかく、文章はやっぱり三島で上手だなぁだし、おもしろいのに、安部譲二がどうも邪魔をする。
    具体的な人を思い浮かべると、自分の想像が入り込む余地がなくて、あまり没頭できませんね。

    そうは言っても、安部譲二の解説は興味深くて、よかったです。

  • 2012.7.5 読了

  • 第15回大四次之会の課題テーマ、「苦手な恋愛小説に挑戦」の流れで検索に引っかかった一冊。

    久々の三島由紀夫作品で、今回は某女性週刊誌に連載されたという通俗小説。プライドの高い良家のお嬢さんと、精悍な背中が魅力的だが物騒な噂のある"複雑な"彼の恋物語が面白い。
    軽く読めるストーリィなのに、彼らの微妙な心情が手に取るようにわかる。つまらない言い方だが、やはり文章がとびきり上手い。どうしたって真似できない。読んでいるだけで幸せうっとりしてしまう小説にはなかなか出会えない。
    登場人物も魅力的。複雑な彼こと宮城譲二くんの、実は単純で愛嬌のあることこの上なし。自分に忠実に思うままに生きて来たら、いつの間にか謎の多い男になってしまったとさ。そのお陰で困っていると語る彼を可愛らしいとさえ思う。
    それにしても、『潮騒』が思い出されるような異質なラスト。通俗小説とは言え、三島先生はやはり三島先生だった。

  • 彼は果たして複雑なのだろうか。
    いや気質からすれば、かなりの単純、いや言い換えれば素直な男だ。


    すんなり読める物語だった。
    ミシマらしい美しい文章も散見するが基本的には大衆向けに描いたものと取れる。
    しかし背景が楯の会の資金を捻出するために女性週刊誌のために書き下ろしたって言うのだから、かなりの曰く付きとも言える。
    それを知った後に、最後の結末を見てみると、ちょっと匂い立つ部分もあるが、まぁ私の考えすぎだろうと言うことにしておく。


    元のモデルがあの安岡穣二とは恐れいった。
    いやジョージもっとハンサムな印象だったんだけど。確かにガタイはいいんだけど。
    誰でも楽しめる、読みやすいミシマだろうと思う。

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著者プロフィール

三島由紀夫

一九二五(大正一四)年東京に生まれる。本名、平岡公威。学習院高等科を経て東京大学法学部を卒業。在学中の四四(昭和一九)年に処女創作集『花ざかりの森』を刊行。戦後四七年大蔵省に入り翌年退官。四九年に刊行した『仮面の告白』で名声を確立し、以後、文筆活動に専念する。『潮騒』にて新潮社文学賞、『白蟻の巣』にて岸田演劇賞、『金閣寺』にて読売文学賞、『絹と明察』にて毎日芸術賞、『サド侯爵夫人』にて芸術祭賞などを受賞した。六八年、「楯の会」を結成し、七〇(昭和四五)年、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。

「2020年 『三島由紀夫 石原慎太郎 全対話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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