にっぽん製 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041212158

作品紹介・あらすじ

ファッションデザイナーとしての成功を夢見る春原美子は、洋行の帰途、柔道選手の栗原正から熱烈なアプローチを受ける。が、美子にはパトロンがいた。古い日本と新しい日本のせめぎあいを描く初文庫化。

感想・レビュー・書評

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  •  談話室にて教えて頂いた一冊。巻末の解説にこの本を読んで感じた特徴がおおよそ書かれてあるので、ここにはちょっと気になった一文をピックアップしてみる
     「(略)でも死に急ぎすることはありませんよ。……私、ふたまわりも年上の女として言うんだけれど、人生って、右か左か二つの道しかないと思うときには、ほんの二三段石段を上がって、その上から見渡してみると、思わぬところに、別な道がひらけてるもんなのよ。そうなのよ」
     とてもいい言葉なのだけど、後に作者自身がセンセーショナルな自殺をしたことを思うとなんだか結果的に皮肉めいたものを感じる。彼はこの言葉を思い出すことはなかったのだろうか?

  • あご頤で結んだネッカチーフ ほりゆうのしつ蒲柳の質 がいとう外套地 しんかん森閑とした御幸通り 飾窓 ねむけ睡気に襲われて 聴耳 麗々しく賽銭箱が据えてある えりしょう襟章 孔子さまの廟びょう いつもの習性の擒とりこ 豪奢な 仰向いて笑う美子の微笑みは 対抗の会社の選手が呉越同舟で稽古をしているから 御御御付け(味噌汁) 絢爛たる応接間 古い在り来りな 恩顧をこうむった 言い換えれば消費とエンターテイメントの交差の始まりだったのだ 蒲郡プリンスホテル 強羅の環翆楼 美子は衣を着けなければその姿が見えない美の観念であって、正が日本製の身体なのである。美しい身体には愚直と純粋が宿っている、というのが三島の「思想」であった。

  • 読みやすく、50年前の日本に生きる人々のワンシーンを知ることができて興味深かった。

  • 西洋文化を最先端に取り入れているファッショナブルなマダム主人公の恋バナ。

    パトロンと元カレと今彼と、個性ありすぎの登場人物たちに振り回されて分かったこと
    心は結局「にっぽん製」だったのね。いい意味で。

  •  パリ帰りの飛行機の中で出会ったデザイナーの美子と柔道家の正。パトロンに囲われ、男に困らず、華やかなバタ臭い世界で生きる女と、亡き母の教えを尊び、柔道一筋の実直なにっぽん男児。巡り合わないはずの二人が出会い、彼女の嘘に正直な男がだまされ、堕ちてしまうのかと思いきや、孤独な女が愛を知る結果に。やっぱりにっぽんの魂、質実剛健がいちばんである。
     登場人物の名前の符号が面白い。女性は美子で「美」の象徴、男性は正で「正義」を表す。パトロンは金杉で「金」、泥棒であり正の舎弟になるのが根住(ねずみ)。さらに、美子の洋裁店ベニレスとは、フランス語で「うわべ」「見せかけ」という意味だそう。
     1952年当時、ハイカラな小説だったんだろうなあ。わかりやすいので、三島由紀夫を読んだことない人にもおすすめしたい。

  • F-1 日本の小説

  • 真実の愛が好きな三島御大。今回も彼のテンプレート通り。

  • ファッションデザイナーの美子と、柔道五段の正の青春恋愛もの。わかりやす過ぎるぐらいわかりやすい三島由紀夫によるまっすぐな青春小説でした。まだムキムキになる前の三島由紀夫が書いた小説だけど、ムキムキへの憧れがちらほら垣間見えて面白かった。

  • はじめて読んだ三島由紀夫さんの作品。試しに図書館にあった三島由紀夫さんの作品の中で一番薄い本を選んだのだけど、わかりやすく読みやすいことに驚きました。
     ココ・シャネルのような女性が、虚栄心も劣等感・優越感も超えて、自分にとって本当に大切なものを見いだす話なのかな、と想いました。
    他の作品も読んでみようと思えた作品です。

  • お洒落な雰囲気が出ている小説。
    柔道、ファッション、背景、50年以上前の小説にしては想像しやすい内容です。

  • 笠井夫人の言葉がよいです

  • きらびやかで日常を忘れさせてくれる設定が良い。

  •  正と根住のやりとりが浅田次郎みたいだった。読みやすいし、あっという間に読める。
    軽くて楽しい。
    けど、体を鍛えている男の純情、純潔賛美に比べて、女ってそんなに醜い?っていう読後はやはりミシマ。。。
    それに日本の泥臭さもけっこうイイとこあるんだけどなあ。
    正のお惣菜の買い物シーンなんてけっこうおいしそうなんだけど。
    時代かなあ。

  • パトロンの金杉への情と、朴訥な柔道青年・正への恋で悩み、
    相談に行った美子に、今で言うセレブ(死語)奥様の
    笠原夫人が伝えた言葉、
    「人生って、右か左か二つの道しかないと思うときには、
    ほんの二三段石段を上って、その上から見渡してみると、
    思わぬところに、別な道がひらけてるもんなのよ。そうなのよ」
    が印象的。頼りになるなあ、笠原夫人。
    あと、銀座のダンスホール、御茶ノ水のニコライ堂、新宿の劇場など
    東京の猥雑さが描かれていて面白かった。

  • 雨で本当に残念ね。大丈夫よ、でも、あしたはきっといいお天気だから。

    ご謙虚なのね。人間って、惚れるとそんなに謙虚になるものなのね。あなたが古井戸なら、私はなに?私はもう枯れた井戸だから、誰かが落葉をどけてくれたって、青空の映りようもないんだけれど。

  • 急に三島ブーム。王道作品も読みつつ、角川から出版されたこれまで文庫化されていなかった作品も併せ読む。

    『にっぽん製』は、パリ帰りの新進女性デザイナーとまさに「にっぽん製」な柔道青年の恋の顛末を描いた作品。だが、その恋をめぐるストーリー以上に、この作品に流れる時代の「空気」がなんともいい。

    冒頭の四十八人乗旅客機DC-6、その飛行機を誘導するジープに「FOLLOW ME」の文字(解説によればアメリカ軍のジープだとか)。私たちの知る現代の空港とは違う、まだ海外旅行が「洋行」と呼ばれた時代を彷彿とさせる空気。

    主人公が出かける2つの宿は、現在「蒲郡プリンスホテル」「環翠楼」としてまだ健在で、断絶することない時の流れをしみじみ感じてうれしくなる。行ってみたいな。

    「にっぽん」とひらがなで表されたタイトルが軽妙洒脱な印象を与えるが、戦後日本のどことなく浮ついた空気をも示しているようで面白い。その実、その言葉そのものが示す「日本」を象徴するのは古来の柔道により鍛え上げた肉体を持つ正であり、その存在がこの作品の安定感につながっている。
     美子はパリに学び、身にまとう服をつくるデザイナーだが、そのまとう本体が醜いとせっかくのデザインも台無しになってしまう。笠田夫人のエピソードが語るように。

    この笠田夫人は成金の下品さを象徴する存在として描かれているのかと思いきや、案外いいことを言う。

    「人生って、右か左か2つの道しかないと思うときには、ほんの二三段石段を上って、その上から見渡してみると、思わぬところに、別な道がひらけてるもんなのよ。」

    こういう人物にさらりとこう言わせるところがニクいなぁ。
     

  • 一流デザイナーの美子と柔道五段の正との恋愛を描くことで、新旧の日本の価値観の対立と融和を描いた作品。
    ……ということらしいが、そんなことは別に考えずともすらすら読める、エンターテインメント色の濃い作品。
    全体の雰囲気は明るく、どの人物もくせがあるが憎めなくてよかった。
    ラストの台詞はどうとればいいのか悩んだが、考えてみればそんな深いテーマの作品でもない。
    感じたままに苦笑を浮かべておけばそれでいいのだろう。

  • 2人の日本人を乗せたパリからの飛行機が羽田に降り立った。わがままなフランスの老婦人の隣に座ったばかりに、機中その面倒をみることになったファッションデザイナーの春原美子と、そんな美子に一目惚れした若き柔道家、栗原正。しかし美子には、金杉というパトロンがいて・・・・。戦後間もない日本が直面した、伝統と新たな価値観のせめぎ合いを背景に、28歳の三島が描き出す2人の恋の行方。(裏表紙より一部引用)

    三島由紀夫っぽい、しゃれおつーで美しい恋愛もの!
    恋愛小説だったからちょっと退屈でしたw←わかってて読んだんだけれども・・・
    ああ、この二人くっつくんだろうなあ、とか、結構先が見えてるんだけど、描写の美しさから結局最後まで読んでしまうパターンです。

    面白かったのは、田中優子さんの解説。
    この作品は、美と正義、繊維と鉄、ヨーロッパと日本という対照性を軸にしてるそうな。

    結局、何が「にっぽん製」なのかという理解に関しては、概ねこの田中さんの意見(=正の身体)に賛同なんだけれど、私としては「身体」だけじゃなくて正の内面的な部分も「にっぽん製」なのではないかと思います。

    大衆的な恋愛小説で、普通に面白かったんですが、特に印象に残ったわけでもないので☆3つで。

  • 非現実的でアナクロで軽い恋愛小説でした。重厚かつ流麗な文章が売りの三島由紀夫にしては妙に軽薄な文体で、誰の著作か知らなければ、「誰だこのけったいな恋愛小説を書いたやつは?」という感想を抱いたことでしょう。まさに異色作という言葉がぴったり。三島由紀夫という名前を通して理解するからこそ意味がある本だと思います。

  • げらげら。
    角川ってあえて今まで文庫化されていなかったようなものを文庫化しているのかなぁ。

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著者プロフィール

本名平岡公威。東京四谷生まれ。学習院中等科在学中、〈三島由紀夫〉のペンネームで「花ざかりの森」を書き、早熟の才をうたわれる。東大法科を経て大蔵省に入るが、まもなく退職。『仮面の告白』によって文壇の地位を確立。以後、『愛の渇き』『金閣寺』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など、次々話題作を発表、たえずジャーナリズムの渦中にあった。ちくま文庫に『三島由紀夫レター教室』『命売ります』『肉体の学校』『反貞女大学』『恋の都』『私の遍歴時代』『文化防衛論』『三島由紀夫の美学講座』などがある。

「1998年 『命売ります』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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