愛 (角川文庫)

著者 :
  • 角川グループパブリッシング
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感想 : 24
  • Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041216385

感想・レビュー・書評

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  • とても自分の好みな短編集だった。
    内容は「愛」に関する趣向の違った3つの短編から構成されている。
    「結婚記念日」は宝くじが当たった吝嗇家である夫婦の新婚箱根旅行についての話で、結局は宿泊などにお金を使うことを両方が渋って一日で東京に帰ってきてしまうという面白さやそこに同じ価値観をもつパートナーと過ごす良さや憧れを感じた。とても穏やかでほんやかとした気分にさせてくれる短編。
    「石庭」は新婚旅行で京都の龍安寺の石庭に訪れる夫婦の話で、夫とこれからを一緒に過ごすことに迷いがあったけれど妥協していた妻がその石庭の冷たく厳しい美しさに触発されて夫の元から逃げていく。そのように人に行動する勇気を与えたり、心の変化を促す芸術の凄みを強く感じた。
    「死と恋と波と」はそれぞれで自殺を考えている男と女の愛の話で、お互いに死を求めるほど追い込まれている中で寄り添い生きる希望が芽生えていく過程を表現した短編。
    少し昔の作品なので少し身構えて読み始めたのだが、どの短編も心理スリルに焦点を当てているため、文章に軽快さと品の良さを湛えていてとても読みやすかった。他の作品にも触れてみたいと思う。

  • 平凡な男女の愛を描いた短編集。愛といっても情熱的な愛ではなく、ふとそこに愛があった(もしくはなかった)と気づくような愛。「結婚記念日」では縁とか運命を感じた。「石庭」は怖いなあと思ったけれど、何だかわかる気もした。

  • 3人の半生を追体験できる本。

    かたまりを感じる。

  • おーい、僕の好きな友達たちよ、この小説を読んではくれないか。三篇合わせて113ページだから、すぐに読めてしまうよ。

    いじらしいというときの気持ちをこの小説から味わったので、それが入った幾つかの文章を載せる。

    p12「結婚記念日」
    加奈子との五年のこのアパートの生活の中で、少なくともその最後に近い頃の一夜だけは、冷たい加奈子の体を沸ぎり立つような愛情で抱きしめたと思う。何ものにも替えがたいいじらしい生き物を自分の体温で温めてやった、あれが愛情でなくてなんであろうかと思う。

    p102「死と恋と彼と」
    杉は、急に憑きものが落ちたように素直になっている那美を、少しいじらしく感ずる。生きるがいい。死ななければならぬ理由なんて、この女のどこにもありはしない。


  • とても良かった

  • 「軽みと品のよさ」のある作品(解説より)
    心地よい愛にまつわる3編でした

  • 3組の男女を巡る短編集。書かれたのは昭和25,26年。傍目には何気ない行動でも、戸惑いや憤りや愛情がある。簡潔な描写にいろんな心理が込められていて豊かな3編。「結婚記念日」は、大事件はないのに何でこんなにハラハラするのだろう。「石庭」は結末の切り返しが見事。

  • 「結婚記念日」「石庭」「死と恋と波と」の3つの短篇集。
    「死と恋と波と」を読んでいる時からデジャヴのような感覚。過去の記録を見ると5年前に読んでいた。こんなことは初めてである。当時の評価は、三段階で「B」だった。今回は迷わず「A」にする。

    昭和25~6年に発表された作品だが、古さを一切感じさせない。「愛」がテーマなのに重たくなく、軽妙な筆致で、作者の幅広い視野を感じる。お気に入りは「結婚記念日」と「死と恋と波と」。

    本書を読んでいて郷里にいるような心地よさを感じた。愛の価値観が作者と似ているのかもしれない。

  • あんまりしっくりこなかった。。

  • 【Entertainment】愛 /井上靖/ 20150605(60/344)<121/13591>
    ◆きっかけ
    日経記事、リーダーの本棚消費者庁長官 板東久美子氏

    ◆感想
    ・短編は無駄が削がれた分だけ、とても奥深い。
    ・心理描写が秀逸。井上靖作品を他にもますます読みたくなった。
    ・結婚記念日ー他人がなんと言おうと貫き通せるものが愛なのだな、夫婦のケチ感覚がとてもかわいらしい、がこんなところで同じ価値観を共有できているのはやはり夫婦なのかも。死因はなんだったのか、長編への期待かも高まる物語。
    ・石庭ー昔の出来事会ったところに新婚旅行で訪れること自体どうかしている。その時の怨念が新妻にうつったのか。
    ・死と恋と波とー死のうから生きよう、という心理スリルが素晴らしい。思わずその後の展開が気になってしまう。

    ◆引用
    なし

    リーダーの本棚消費者庁長官 板東久美子氏
    心羽ばたかせる文芸作品

    2015/4/19付日本経済新聞 朝刊
      文部科学審議官を経て、昨年8月に現職に就任した。官僚として、2人の子どもの母親としての忙しい日々を支えたのは井上靖の作品だった。
     文部省に入った1977年の秋、仕事の合間に読める短いものをと、たまたま手にとった短編集『愛』にひかれ、次々と読み始めました。社会人になり仕事で読む本が増えた分、自分の時間には、仕事とは関係ない文芸作品で好きな作家をまるごと味わいたいという気持ちが強まっていました。
     詩のような切れ味を持つ『愛』の収録作品や『猟銃』など初期の短編が今も大好きですが、井上作品には膨大な広がりがあります。多彩な世界の中にどっぷりとつかりました。結婚、出産、子育てと本当に忙しく、心にゆとりがなくなりがちな時期でしたが、井上作品が常に心を羽ばたかせ、潤してくれる源でした。
     作品に登場した風景やゆかりの場所もいろいろ訪れました。例えば自伝的小説『しろばんば』『あすなろ物語』の舞台になった伊豆・湯ケ島には、子どもが小さい頃に家族で泊まりに行き、井上靖生誕百年の2007年にも夫婦で訪れました。井上靖という人物そのものが好きで、知りたい、理解したいという気持ちが強かったのだと思います。
     仕事でも小説の舞台に立つご縁がありました。秋田県副知事を務めていた99年夏、秋田県が中国甘粛省と友好県であり、文化財保護の協力もしていたご縁で、出張で莫高窟など『敦煌』のゆかりの地を訪れました。井上靖は、まだ敦煌を訪れることができなかった時に資料と想像力を駆使して小説を書きました。実際に洞窟に臨むと、まさに小説で描かれた世界が濃厚に立ち上ってきて、井上靖の作家としての力量に改めて感銘を受けました。
      向田邦子や村上春樹の世界にも強くひかれている。
     『阿修羅のごとく』『あ・うん』をテレビで見ていましたが、本として手にとったのは『父の詫び状』を84年に読んだのが最初です。その鮮やかな切り口、うまさの際立つ文章が、深く心に残りました。彼女に関する随想や解説本もたくさん読みました。作家としての類いまれな力量だけでなく、自分のセンスで粋に美しく築き上げてきた生き方そのものが魅力的で、いろいろな刺激を受けています。
     管理職となってからしばらくは、仕事に関係した本が増え、小説は減りましたが、その中で作家としての力を感じたのは、村上春樹です。だんだん深みにはまっています。子どもたちも学生時代から読んでおり、家族で感想、解釈を述べ合える楽しみがあります。
     エッセー『走ることについて語るときに僕の語ること』からは、創作を支える基盤が明らかになった気がします。奔放に見える創造が、実は地道でたゆまない積み上げによって成立している。それを支えているのが、健康な体であり、走ることです。村上春樹のプロとしての強さを感じました。私も秋田県赴任以来マラソンを趣味としており、興味深く読みました。
      建築史やまちづくりの本への興味も尽きない。

     課長時代にお目にかかった西村幸夫東大教授の『町並みまちづくり物語』を読み、そこに取り上げられた町に足を運んできました。その一つ、近江八幡で出合ったのが、ヴォーリズの建築です。伝道者であり、社会起業家でもあるヴォーリズは、建築家としては、あまり専門的訓練を受けた人ではありません。しかし、健康になる家、心を育む学校建築など、建築の本来の使命を追求し、温かい配慮に満ちた建物をつくり上げました。山形政昭監修『ヴォーリズ建築の100年』は多くの作品を収めています。
     この数年は、夏目漱石、森鴎外のような明治の文人に改めてひかれています。東京・文京の根津、本郷など明治の文人たちの息づかいを感じる街を歩きながら、昔読んだ本を引っ張り出して読み始め、その奥深さを感じています。
    (聞き手は編集委員 辻本浩子)
    【私の読書遍歴】
    《座右の書》
    『愛』(井上靖著、角川文庫)。「石庭」「結婚記念日」など3作品を収録。
    『しろばんば』(井上靖著、新潮文庫)。『夏草冬濤(なみ)』『北の海』と続く自伝的小説。伊豆・湯ケ島の自然と、そこに生きる人々を慈しみを持って描いている。
    『父の詫(わ)び状』(向田邦子著、文春文庫)
    《その他愛読書など》
    (1)『孔子』(井上靖著、新潮文庫)。最後の長編小説。
    (2)『天平の甍(いらか)』(井上靖著、新潮文庫)。鑑真和上と彼を日本に呼ぶのに心血を注いだ弟子たちの思いが迫ってくる。
    (3)『阿修羅のごとく』(向田邦子著、新潮文庫)。人間の怖さと切なさを鋭い視点で描ききっている。
    (4)『走ることについて語るときに僕の語ること』(村上春樹著、文春文庫)
    (5)『ヴォーリズ建築の100年』(山形政昭監修、創元社)

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著者プロフィール

井上靖
一九〇七(明治四十)年、北海道生まれ。静岡県に育つ。京都帝国大学哲学科を卒業後、毎日新聞社に入社。五〇年「闘牛」で芥川賞を受賞し、五一年に退社、作家生活に入る。五八年『天平の甍』で芸術選奨文部大臣賞、六〇年『敦煌』『楼蘭』で毎日芸術賞、六四年『風濤』で読売文学賞、六九年『おろしや国酔夢譚』で日本文学大賞、八二年『本覚坊遺文』で日本文学大賞、八九年『孔子』で野間文芸賞など、受賞作多数。その他の著作に、『あすなろ物語』『しろばんば』ほか自伝的小説、『風林火山』『淀どの日記』ほか歴史小説、『氷壁』ほか現代小説など。七六年、文化勲章を受章。六九年にはノーベル文学賞の候補となった。一九九一(平成三)年死去。

「2022年 『殺意 サスペンス小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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