小説帝銀事件 新装版 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.26
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041227695

感想・レビュー・書評

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  • たらればが頭をめぐる一冊。

    昭和史に残る謎多き「帝銀事件」。

    その事件を著者なりの考察で描いた作品。

    読み応えあり、かつ事件の経緯、詳細、時代背景を知ることができて良かった。

    もしもこの戦後の占領期の時代じゃなかったら、もしもこの犯人とされた平沢氏の性格が奇矯でなかったら…もっと決定的な証拠があれば、自白重点主義でなく証拠第一主義であれば…と、たらればがずっと頭をめぐる時間だった。

    人の記憶ほど曖昧で、怖いものはない。

    時の経過と問いかけ法でいくらでも変わり危険な証になり得ることをしみじみ感じた。

  • 帝銀事件についてのお話
    当時の捜査の杜撰さにちょっとあきれた
    軍関係の捜査は大変そう
    内容的に平沢は犯人にしたてあげられた感がある
    犯人としては矛盾するようなところもありながら
    警察が決めつけてしまったような感じ
    事実はいったいどうだったのだろう?

  • ★4.8
    日本の警察捜査史上初という、モンタージュ写真が作成され、実際の捜査にも活用された。そして、横溝正史の悪魔が来たりて笛を吹くのモデルとしても知られている。
    帝銀事件の予備知識はこんなところだった。絵空事ばかりに関心がいって、実際の事件を恥ずかしながら、調べたことはなかった。昭和史に関心を持つようになり、色々漁り始めて、冤罪の可能性が極めて高いことを知った。この作品を読み、それはほぼ、確信に近いと思えた。

    「しかし、とに角、個人的なおれの力ではどうにもならない」

    この、最後の一行は、松本清張自身の嘆息に思えて仕方がない。

  • 終戦後、旧刑事訴訟法最後の取扱事件である帝銀事件の真相に迫る小説。冤罪事件ではないかと言われており、死刑判決を受けた平沢死刑囚は無実を訴えつつ獄死。病気のため虚言癖があった画家の死刑囚に薬物を扱えたのか、見えかくれする陸軍特殊部隊とその記録をめぐる米ソのしのぎ合い、真実はどうであったかに松本清張が迫る。
    時代の巡り合わせと当時の世論、ある警察官の執念、米ソの情報線でGHQの影響もあったかなどさまざまがあるとはいえ、無実の市民が突然逮捕、有罪にされる社会にはしたくないものです。

  •  松本清張が描く、帝銀事件。

     平沢は果たして真犯人だったのか。犯行の様子、平沢の暮らしぶりから事件が書き起こされる。そのあとの捜査では、生存者の記憶をもとに作られた似顔絵と本人の自供をもとに平沢犯行説が組み立てられた。

     確かに怪しいところはあり、平沢が捜査線上に浮かぶのは無理はないが、犯行当日のアリバイや犯行に用いられた青酸化合物の入手経路が不明確。

     また時代背景としてGHQの影響力がなかったとは思えない。戦後史の闇。

  • 戦後の米国占領下時代に起こった実際の事件。
    小説の中身の事はほぼ事実であろうし、松本清張は実際に
    平沢氏の釈放運動を行っている。

    当時の闇の部分が垣間見える事件ではあった。
    小説は平沢・検事・弁護士のすべての3方面での主観を
    記しているが、どれもが納得いくものであり、どれもが納得
    いかない部分もある。

    が、個人的な意見として、やはり平沢氏なる画家が、
    手早く薬品を、威厳持ちながら堂々と扱えるとも
    思えないというのが正直な感想。
    あくまで、松本清張氏の小説、及び他から仕入れた資料による、
    勝手な想像につきないが。

    死刑宣告されながらも、執行されずに、最後は病で亡くなった
    平沢氏が本当に無罪だとしたら、どんなに悔しいだろうか。


    国家が人を食い潰す。
    許されない事実だが、これもまた事実なのだと、思わざるえない1冊でした。

  • 帝銀事件が起きた昭和23年の日本は、連合国の占領下にあった。当時の日本人はもちろん、日本の様々な組織(検察・警察含む)にとってアメリカを中心とする占領軍は途方もなく巨大で、時には「壁」になったのだろう。
    事件の犯人を旧日本軍関係者と睨んでいた警察捜査の主流は、「壁」にぶち当たってしまった。「壁」が旧日本軍のある一部に利用価値を見出し保護したからである。行き場をなくした主流が傍流の平沢貞通犯人説に殺到し、あれよあれよという間に平沢の死刑判決に至ってしまった。平沢自身、あまり素行がよくなかったことや脳の病気による虚言症などを抱えていたことがあり、自白重点主義の当時、心証の面で不利に働いただろう。
    無関係の人が、時代や巡りあわせの悪さから想像もしなかった境遇に陥ってしまうことがある。これがフィクションでないことが恐怖である。

  • 実際にあった事件を題材にした小説。
    小説だけど、ほとんどノンフィクションのような形式。

    この事件は犯人が逮捕され死刑判決まで出ているが、松本清張は元731部隊の人が犯人と推理している。
    戦後、731部隊のノウハウが米軍に必要だったため、731部隊の隊員はGHQによって庇護された。
    そのことを公にしたくなかったため、捜査の手が731部隊に及ぶと、GHQが邪魔をした。
    と松本清張は推理を展開する。

    いずれも何の証拠もなく、あくまで想像に過ぎないと思うが、一理あると思う。
    ただし、冤罪なら誤認逮捕された人は、なぜ事件後、大金を持っていたのか。
    そして、そのお金の出どころをなぜ言わないのか。この点が理解できない。

  • ▼「小説帝銀事件」松本清張。初出1959年。角川文庫。2019年8月読了。

    ▼1948年に東京都豊島区の帝国銀行支店で、一般営業閉店後の時間に「東京都の防疫の者だ」と名乗る男性が「赤痢の予防薬を飲んで」と騙して銀行員たちに毒物を飲ませ12名を殺害、現金などを奪って逃走。これが「帝銀事件」。ちなみに帝国銀行というのは今の三井住友銀行の前身だそうです。

    ▼同年、画家の平沢さんという人が容疑者として逮捕され、自白します。ただその後「拷問に近い取り調べを受けたから。ほんとうはやっていない」と。無罪を訴える中で裁判が行われ、1955年に死刑が確定。同時代から色々と辻褄の合わないことや疑惑が語られいて、死刑確定4年後の1959年に松本清張さんがこの「小説帝銀事件」を発表。ただ、再審や再捜査ということにはならず、平沢さんはずっと刑務所で暮らし、死刑も執行されないまま、1987年に95歳で病没。今の段階で公式見解はともあれ、多くの人が「平沢さんは無実だったろう」と発言しています。だとすれば、およそ40年無実で獄中にいて、死んでしまったことになります。

    ▼どうやら、実際に起こったこととして。捜査員の皆さんは、別段、全く根拠もなく平沢さんをでっちあげた訳ではなさそうで、それなりに「犯人である可能性がある人」ではあったようです。ただ、いろいろと辻褄が合わない。常識で考えて筋が通らないところが多い。そして、平沢さんを調べる一方で「これは旧軍人関係の仕業ではなかろうか」という線でも捜査が動いていた、あるいは動こうとしていたそうです。ところがどうやら「上=GHQ」に阻まれて、その線の捜査は終了させられた・・・。ということだそう。

    ▼この時代の法律が、「とにかく自白を最重要視する」という考え方だったんだそうです。今は違います。それもあって、有罪判決になった。作者の松本清張さんは、「これは平沢さんの犯罪ではなくて、旧陸軍関係者の犯罪。ただ、その犯人はGHQにとって重要な人物だったから、平沢犯人説でまとめられてしまった」という説に則って、一応小説として書いています。

    ▼ただ、あからさまなフィクションではありません。ぶっちゃけ読み応えとしては「ほぼほぼノンフィクション」な本です。そして、オモシロイ。とにかく本としてオモシロイ。清水潔さんの「桶川ストーカー殺人事件」「殺人犯はそこにいる」を読んでいる気分に似ています。やめられない止まらない。

    ▼色んな情報、色んな反証が語られますが、「確かになあ」と思ったのは、12人を遅効性の特殊な毒薬で殺害するっていうのは、これまで人を殺したことも無い、従軍経験もない、医薬系のキャリアもない、画家のオッサンが単独で冷静沈着に行えるもんぢゃないよなあ・・・ということ。

    ▼あと全然本筋と関係ないですが、平沢さんは一部の収入源を頑として語らなかったそう。松本清張さんは、「恐らく、カネを稼ぐために裏でポルノ的な画を描いていた。一応それなりの画家だった本人としては、その不名誉は言いたくなかった」という仮説を立てています。なるほど。1948年だから、「ポルノな画」というのが商売になったんだなあ。今ではネットで動画がいくらでも無料で・・・画ぢゃあ、商売にならないだろうなあ。

  • P280

著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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