海と毒薬 (角川文庫)

著者 :
制作 : 駒井 哲郎 
  • 角川書店
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本棚登録 : 1296
レビュー : 172
  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041245255

感想・レビュー・書評

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  • 戦時下での人間の罪や良心について考えさせられる作品でした。
    外国人捕虜の生体解剖について関係者の十人十色の感情が描かれています。
    生きた人間を医学の進歩の為に解剖することは、殺人と同義ではないのか?それとも、医学の進歩の為に欠かせないことなのか?
    戦争という時代背景で、実験体が敵である捕虜だから死ぬことを前提として解剖しても良いのか?同じ日本人であればそのようなことは出来ないのか?
    結核治療の為に必要な実験だとして、私個人としては
    如何しても殺人の概念が頭から離れず恐怖や呵責で苦しみ逃げてしまう勝呂は正解だと思うし、
    未来の人の病気を治す為に致し方ないと割り切れる助教授や看護婦長も正解だと思うし、
    戦争という激動の時代で死の価値観が屈折している戸田も正解だと思いました。
    おそらく程度は違えど現代にも同じようなことはあって、
    まさに人類の苦悩の核心を突いていると感じました。

  • 以前に一度読んだことがあったのだが、恥ずかしながら残酷だなぁという感想しか抱けなかった。
    ただ、医学生になった今読み返すと少し違った気持ちを抱いた。まず、以前より専門用語がわかるようになったため、手術の生々しさが伝わってきてより、強烈に感じる。そして、生体解剖など絶対に間違ってる、決して行ってはならないことだと強く思った。心臓が少しドキドキした。

  • 戦時中の九大生体解剖事件が題材の小説。皆が死んでいく時代で戦争も日本も自分も凡てがなるようになるがいいという雰囲気の中、運命に押し流されて勝呂は実験に参加する。他方、戸田は他人の眼や社会の罰に対して恐怖を抱くだけで、どのようなことをしても良心の呵責を感じることができない。

    クリスチャンである作者は罰を恐れながら罪を恐れない信仰なき人の意識について問いかける。しかし日本にも「お天道様が見ている」といった道徳観念があり、この作品が日本人全体の罪責意識の欠如を批判していると考えるのには違和感を感じる。

  • 実話に基づいている小説とのこと。「重い」小説で、読むと気持ちが沈む。
    死刑が決まっている人間に対し、眠らせて安楽死(と言えるかは謎)させる、そしてその実験により多くの人間を救うことができる、といった状況を正当化しようと葛藤する登場人物。
    それの何が悪いのか、自分としては説明ができないが、その状況に直面した場合、自分も同じように苦しむだろう、と考えた。

  • この作品からの問いかけに面と向かって大見得を切れる人がどれだけいるだろうか違和感を覚えつつも雰囲気に流されてしまう人の弱さと怖さ。本当に何か感じられるかどうか自信が持てるだろうか。そういう人の危うさを自覚させられる。ための殺人。戦争もそうだ。理由はある。そんな時、戦地から帰ってきた死んだ祖父が夜、時折、うなされていたという話を思い出す。一方、割りきれてしまう人もいるというのは恐ろしいことだとこの作品は教えてくれる。

  • 医者がどんな気持ちで患者の自分に向き合っているのか、これからそんな事を無駄に気にしながら恐る恐る診察してもらう事になりそうだ。

  • 戦時下という一種異常な状況における人命の扱われ方、その尊厳のなさ、命には優劣があり、対する疑問や憤りもやがて諦観に覆われていく、物語全体に漂うその虚無感、が印象的な作品だった。私は幸運にも今この「時代」に生きていられるから、人命第一という価値観のもと過ごしていけるが、戦時下という「時代」のもとならばどうだろうと、考えさせられた。けれど同時に、人間に時に垣間見える残酷さ、残忍さ、残虐さ、他人を陥れるときの仄暗い喜びや、他者を攻撃する際の高揚感を、「時代」のせいにしてはいけないとも思う。罪ではなく罰を恐れる自分の心を肯定してはいけない、ということを、頭ではなく心で感じるには、どうすればいいのかなあ。

  • なにもしない、できないことの罪。
    こころの闇。
    C0193

  • 登場人物を混同しそうになるけれど、なるほど、代表作とされるだけある。たんたんと進むため、意外と気持ち悪さなどはあまりないが、そのぶん、生体実験の怖ろしさを思う。

  • 死というテーマが呑まれるような日本海の暗さで覆われていた。
    ただ罪深き行為と死、だけでないところに名作と呼ばれる所以があるのではなかろうか。

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著者プロフィール

遠藤 周作(えんどう しゅうさく)
1923年3月27日 - 1996年9月29日
東京生まれ。父親の仕事で、幼少時代を満洲で過ごす。帰国後にカトリックの洗礼を受けた。1941年上智大学予科に入学したが、中退。慶應義塾大学文学部仏文科入学・卒業後、カトリック文学を学ぶためにフランスへの留学。帰国後の1954年『アデンまで』を発表し小説デビュー。1955年『白い人』で芥川賞を受賞し「第三の新人」として脚光を浴びた。
1958年『海と毒薬』で第5回新潮社文学賞及び第12回毎日出版文化賞、1966年『沈黙』で第2回谷崎潤一郎賞、1979年『キリストの誕生』で第30回読売文学賞評論・伝記賞、1980年『侍』で第33回野間文芸賞などそれぞれ受賞。1995年に文化勲章を受章している。
上記受賞作のほか、1993年刊行『深い河』もキリスト教と日本人をテーマにした代表作と見なされており、映画化された。60年代以降「狐狸庵山人」(こりあんさんじん)を名乗り、様々なエッセイを記した。数々の作品が欧米で翻訳され高い評価を受けており、存命中ノーベル文学賞候補だったこともよく知られている。

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