海と毒薬 (角川文庫)

著者 :
制作 : 駒井 哲郎 
  • 角川書店
3.58
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レビュー : 172
  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041245255

作品紹介・あらすじ

腕は確かだが、無愛想で一風変わった中年の町医者、勝呂。彼には、大学病院時代の忌わしい過去があった。第二次大戦時、戦慄的な非人道的行為を犯した日本人。その罪責を根源的に問う、不朽の名作。

感想・レビュー・書評

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  • 罰と罪の違いについて。
    罰と罪への対応の違いについて。

    読み応えあり。
    構成が面白い。

  • 戦時下の病院なんて、もっと爆撃とかでやられて苦しんでいる人だらけ…なイメージがあったので、まずは一般の病人が入院してたということが、単純に私にとっては発見でした。
    そして、権力抗争。
    権威をほしがる人間の欲求なんて、普遍的なものなのかも。

    とはいえ、死と隣り合わせの戦争をしていた時代。
    人の命をどう扱うのか、医者として勝呂は悩む。
    読みながら、だんだん自分も何が正しくて何が正しくないのか…わからなくなってくる。
    戦争によって傷つけられるのは、町や人の体だけじゃなく、人の心なんだということを再確認。

    それぞれの人の内面に深く深く入り込んでいく作品。
    戦争という異常なできごとだったからこそ、の部分と、いつの時代も変わらない人間の本質的な部分と。
    どちらも感じられ、読みごたえがありました。

    文体も読みやすく、遠藤周作の他の作品も読みたくなりました。

  • 恥ずかしながら遠藤周作の小説を読むのはこれが初めて。
    相川事件については詳細は知らず、あったという事実だけしか認識していない状態だったけれども、いつかは読まねばーと思い、ようやく達成できた。

    平野氏の解説にあった「罰を恐れながら罪を恐れない日本人の習性」を浮かび上がらせるために、普通の生活を送る私たちが想像しやすいよう、小説という体裁をはずれず、”派閥争い”や”恋愛”などを織り込み、結果小説としても問題提起としても成功しているところに作者の力量を感じた。

    悩み続ける勝呂に寄りそっていたはずが、いつの間にか戸田の感情に共感することもあり、読んでいる間何度も混乱に陥った。
    恐ろしいことに、たしかに戸田の言うとおり、この時代、こういう状況下に置かれたら私は罪を犯すだろうと平然と思っている時間があったからだ。

    それでも何となく、いや、多くの人がこうした場合流されて戸田や浅井のような行動を取るんじゃないか? と思ったりもした。
    しかし、果たして本当にそうだろうか、日本人が神を持っていないということも大きいんじゃないか、いや神とは何だ? とかぐるぐるし始めて、結局答え出ぬままパンクして終わってしもうた……

    今でもまだ印象に深く残っているのは、小説や詩にはからきしの勝呂がよく心に浮かばせるという「羊の雲の過ぎるとき~」詩だ。
    私も詩の教養はさっぱりだけれど、あれを読んだとき何となく救いを包含した悼みの詩だという気がして、だから勝呂はあれを心に浮かばせたとき、大きな偉大なものに抱かれ、少しでも救われるような気がしていたんじゃないかと思っていた。
    だからこそ、最後に罪を得た勝呂があの詩を呟けなかったことに私も打ちのめされ、まだ黒い海を漂っているような感じなのであったー。

  • "日本人は罰を恐れ、罪を恐れない"
    この言葉が実に的確に日本人を表している。怯える男、良心の無い男、嫌悪を抱く女。戦争中の生体解剖が行われた"相川事件"を通して描かれるのは読者に問う良心であり、愚かさだと思う。読んでいる最中、病院の薬品の匂いと黒い海を想像していた。それだけ熱中できる名作。

  • リアルだった。空気って怖いね。事実のままではなく、小説にしたよさが完璧に出ているという事なんだなぁと、解説を読みながら思えた。やはり、日本人は、こういう風になりやすいんだろうか。
    戦争のことだけについていうと、この本だけじゃなく、他の本やテレビなどからもおもったのが、一旦始まってしまうと、段々感覚が麻痺してきて、というか麻痺させないと生きていけないところに追い込まれるのが戦争なんだろうなとおもった。一旦そうなってしまうと、止めることも出来ないよな。
    文章が読みやすかった。
    「私」が、この後、医院へ通うのかが、わからないままなのがいいのかな?あなたなら、ということなんだろうか。

  • 太平洋戦争、本土への無差別的な空襲が激しくなった頃、アメリカの戦闘機B29の乗組員が捕虜として、九州にあるF病院に連行された。その病院では生きたまま解剖するという、おぞましい生体解剖が行われた。
    この作品は、実際にあった出来事を題材に、小説化したと言われている。
    本来、人の命を救うべき立場の彼等がヒトを生きたまま解剖するという不条理な罪意識を、登場人物それぞれの視点で巧みに描いている。
    元々は問題的ではない常識的な人たちが、時代背景や利害関係よってに流されていく様子は、まさしく毒薬であると言える。
    「沈黙」と並び、罪に対する意識について問いかける筆力は凄まじく、寝る前に読む本でないことは間違いない。

  • ☆0。思わせぶりで陳腐な人間描写。
    ナルシストで社会派ぶって、最後は読者に問いを投げて終了。丸投げスタイル。
    東野圭吾と似た感じ。
    女性心理も陳腐で読んでてしんどかった。

  • 淡々とした筆致ながら、人の本性を抉り出す筆力がすごい。主題とは直接は無縁の、登場人物の過去の日常の書きぶりに共感する箇所多々。戸田医師の小学生時代とか。それだけに、ちょっとした(というには戦争は巨大だが)きっかけで、人間性と言われるべきものがいとも簡単にひっくり返る様は強烈なインパクトだった。

  • これはなんとも言えない。明日は我が身ですよ。時代、状況、立場によっては自分が裁かれる側になってしまう恐怖。つまらない嫉妬、優越感、個人の良心の呵責を確かめる材料であったり、同調圧力によって断われず…あるあるです。怖いな〜。

  • 苦悩する人としない人の差とはなんだろう。
    罪とはそもそも人の決めた倫理の中にあるから、
    その範疇に収まらなければ、
    感じるとこはできないんだろうなと思った。
    チャンスがあるからものにしたい。その欲求のみ。

    ただ、読んでくときの違和感はぬぐえませんでした。たぶん、フィクションとノンフィクションの違いなんだろうけど、生体解剖事件の本を読んでからだったので、各関係者こんな複雑な思い抱えて、参加してたとは思えませんでした。

  • 戦時下での人間の罪や良心について考えさせられる作品でした。
    外国人捕虜の生体解剖について関係者の十人十色の感情が描かれています。
    生きた人間を医学の進歩の為に解剖することは、殺人と同義ではないのか?それとも、医学の進歩の為に欠かせないことなのか?
    戦争という時代背景で、実験体が敵である捕虜だから死ぬことを前提として解剖しても良いのか?同じ日本人であればそのようなことは出来ないのか?
    結核治療の為に必要な実験だとして、私個人としては
    如何しても殺人の概念が頭から離れず恐怖や呵責で苦しみ逃げてしまう勝呂は正解だと思うし、
    未来の人の病気を治す為に致し方ないと割り切れる助教授や看護婦長も正解だと思うし、
    戦争という激動の時代で死の価値観が屈折している戸田も正解だと思いました。
    おそらく程度は違えど現代にも同じようなことはあって、
    まさに人類の苦悩の核心を突いていると感じました。

  • 以前に一度読んだことがあったのだが、恥ずかしながら残酷だなぁという感想しか抱けなかった。
    ただ、医学生になった今読み返すと少し違った気持ちを抱いた。まず、以前より専門用語がわかるようになったため、手術の生々しさが伝わってきてより、強烈に感じる。そして、生体解剖など絶対に間違ってる、決して行ってはならないことだと強く思った。心臓が少しドキドキした。

  • 戦時中の九大生体解剖事件が題材の小説。皆が死んでいく時代で戦争も日本も自分も凡てがなるようになるがいいという雰囲気の中、運命に押し流されて勝呂は実験に参加する。他方、戸田は他人の眼や社会の罰に対して恐怖を抱くだけで、どのようなことをしても良心の呵責を感じることができない。

    クリスチャンである作者は罰を恐れながら罪を恐れない信仰なき人の意識について問いかける。しかし日本にも「お天道様が見ている」といった道徳観念があり、この作品が日本人全体の罪責意識の欠如を批判していると考えるのには違和感を感じる。

  • 実話に基づいている小説とのこと。「重い」小説で、読むと気持ちが沈む。
    死刑が決まっている人間に対し、眠らせて安楽死(と言えるかは謎)させる、そしてその実験により多くの人間を救うことができる、といった状況を正当化しようと葛藤する登場人物。
    それの何が悪いのか、自分としては説明ができないが、その状況に直面した場合、自分も同じように苦しむだろう、と考えた。

  • この作品からの問いかけに面と向かって大見得を切れる人がどれだけいるだろうか違和感を覚えつつも雰囲気に流されてしまう人の弱さと怖さ。本当に何か感じられるかどうか自信が持てるだろうか。そういう人の危うさを自覚させられる。ための殺人。戦争もそうだ。理由はある。そんな時、戦地から帰ってきた死んだ祖父が夜、時折、うなされていたという話を思い出す。一方、割りきれてしまう人もいるというのは恐ろしいことだとこの作品は教えてくれる。

  • 医者がどんな気持ちで患者の自分に向き合っているのか、これからそんな事を無駄に気にしながら恐る恐る診察してもらう事になりそうだ。

  • 戦時下という一種異常な状況における人命の扱われ方、その尊厳のなさ、命には優劣があり、対する疑問や憤りもやがて諦観に覆われていく、物語全体に漂うその虚無感、が印象的な作品だった。私は幸運にも今この「時代」に生きていられるから、人命第一という価値観のもと過ごしていけるが、戦時下という「時代」のもとならばどうだろうと、考えさせられた。けれど同時に、人間に時に垣間見える残酷さ、残忍さ、残虐さ、他人を陥れるときの仄暗い喜びや、他者を攻撃する際の高揚感を、「時代」のせいにしてはいけないとも思う。罪ではなく罰を恐れる自分の心を肯定してはいけない、ということを、頭ではなく心で感じるには、どうすればいいのかなあ。

  • なにもしない、できないことの罪。
    こころの闇。
    C0193

  • 登場人物を混同しそうになるけれど、なるほど、代表作とされるだけある。たんたんと進むため、意外と気持ち悪さなどはあまりないが、そのぶん、生体実験の怖ろしさを思う。

  • 死というテーマが呑まれるような日本海の暗さで覆われていた。
    ただ罪深き行為と死、だけでないところに名作と呼ばれる所以があるのではなかろうか。

  • 1945年第二次世界大戦末期に九州大学医学部で行なわれた「生体解剖事件」を題材にしたもの。相川事件というそうだが。短編小説だけど、多方面からの人物の描写と心情が描かれている。知らずに読んだので、読んでいる間結構しんどかったかも。神とは、良心とは、呵責とは、責められるようでテーマが重すぎる。戦争という時代が作り出した悪魔のようだった。史実を基に描かれているようなので、それが一層深く感じられた。

  • 心をえぐっていくのがうまい.登場人物の心の中身には,遠藤周作が過去に触れた感覚が宿っているのだろう.

    ただこの本は精神的に余裕のあるときに読みたい.陰鬱な力が強く疲弊してしまう.

  • 「木は森に隠せ」そう言ったのは推理作家のチェスタトン
    「毒は海に捨てろ」これはぼくの創作したことわざ
    「海と毒薬」を書いたのは遠藤周作である
    悪は人の心の中にまぎれていて、見出すことができない
    だけどそんなつもりで、軽い気持ちで、みんなの心をよせあえば
    公害級のでっかい悪になることだってあるのさ
    それはもう大学病院の中だけに限定された話じゃない
    戦争という、生と死のグレーゾーンを現世に呼びこんだ
    悪の歴史の物語である

  • 傍観者目線の出だし3人の手記という形という構成。
    手記の部分では男と女の文体の違いが明らかで、1人の頭の中で両性の文章を書けることに驚いた。
    戦争時という今考えると非日常を舞台としている。
    そこに生きる医学者たちが毎日生と死に直面する場面をそれぞれの人の人となりを踏まえながら表している。
    私としては非日常すぎてあまり感情移入できない部分が多かった。
    文中で、非人道的なことを行っているにも関わらず自分は罪悪感や良心の呵責に苦しまないことを不気味部だと思っている部分があった。初めは医学者特有のものなのかなと想像した。しかしあまりにもこういった場面が多いので、非日常で衝撃的な出来事が立て続けに起こると心は平常を保とうと殻にこもるためだと考えが変わった。

  • バーコード検索で出てくる表紙が違う…借りたのは濃い浅葱に黄色の字の表紙。

    三回目くらいなんですけど、相変わらずものすごく陰鬱。ちょっとなかなかわかりかねて再読を繰り返してる。分量自体は短くて読みやすい。

    1958年発表とのことで戦後すぐではないんですね。これだけ薄暗いなら戦後すぐくらいのやつなのかと…

  • 実話をもとに書かれている。なぜ。彼らはそれで良かったのだろうか。戦時中で、多くの人々が亡くなり、身近なところに人を殺したことがある人がいる、そんな時代だったから、人を殺すことを簡単に考えられたのだろうか。どうせ死ぬ命だと割り切れたのだろうか。たくさんの人の死が、医学を進歩させてきた。それと、健康な人に積極的に死を与えることは別の話なのに、なぜ混同して語っているのだろうか。ちょっと医者不信になりそうです。

  • 文章自体は難しくないので読めます。
    しかし、淡々と書かれているので何だか追い詰められて来るような気持ちになります。

    生体解剖の場面は少なめで、登場人物が関わるまでの心理描写の場面が多いです。

    人間(日本人)が考える罰や良心。
    そして、いずれは必ず向き合うことになる死というものを考えさせられます。

  • 戦時中実際にあった出来事をモチーフにして綴られる、戦争下の医師をめぐる物語。
    異常な時代における人間の平常心とは、良心とは、罪とは何なのだろうか。

    現代と過去の両方でそれぞれの登場人物が語る「考えるのをやめた」という言葉が、とても意味をもっているように感じた。
    考えないということは罪なのだと思う。
    あとがきの「日本人は、罰はおそれるが罪は恐れない」という言葉が印象的だった。

  • 独白部「こういう人間にはこういう背景があって、ね?分かるでしょ?」と誘導する雰囲気が性に合わず不愉快さ満点。主題は蝿の王と同じ。

  • 対照的な2人の患者。裏切られていく予想。最初のほうと比べて情景描写が少なくなっていくように感じとた。視点が幾つか変わっていくが、それぞれの半生が非常に興味深い。手術のシーンは目をそらしたくなる描写だった。嫌でも生と死を感じさせられた。
    (2014.11.11)

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著者プロフィール

遠藤 周作(えんどう しゅうさく)
1923年3月27日 - 1996年9月29日
東京生まれ。父親の仕事で、幼少時代を満洲で過ごす。帰国後にカトリックの洗礼を受けた。1941年上智大学予科に入学したが、中退。慶應義塾大学文学部仏文科入学・卒業後、カトリック文学を学ぶためにフランスへの留学。帰国後の1954年『アデンまで』を発表し小説デビュー。1955年『白い人』で芥川賞を受賞し「第三の新人」として脚光を浴びた。
1958年『海と毒薬』で第5回新潮社文学賞及び第12回毎日出版文化賞、1966年『沈黙』で第2回谷崎潤一郎賞、1979年『キリストの誕生』で第30回読売文学賞評論・伝記賞、1980年『侍』で第33回野間文芸賞などそれぞれ受賞。1995年に文化勲章を受章している。
上記受賞作のほか、1993年刊行『深い河』もキリスト教と日本人をテーマにした代表作と見なされており、映画化された。60年代以降「狐狸庵山人」(こりあんさんじん)を名乗り、様々なエッセイを記した。数々の作品が欧米で翻訳され高い評価を受けており、存命中ノーベル文学賞候補だったこともよく知られている。

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