- Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041303191
作品紹介・あらすじ
ある時代、電話がなんでもしてくれた。完璧な説明、セールス、払込に、秘密の相談、音楽に治療。ある日マンションの一階に電話が、「お知らせする。まもなく、そちらの店に強盗が入る……」。傑作連作短篇!
感想・レビュー・書評
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13日昼過ぎ、ブクログのhotaruさんの本書のレビューを読んで、私はその10分後にはネットで本を注文し、次の日の夕方には本を手にしていた。読み終わったのが17日の午後。これは、私が未だアナログ人間だからそんなに遅くなったのであって、ホントは直ぐに電子書籍を買って、夕方まで音声朗読で聴いて、音声入力でその日のうちに感想を書くことも出来た。そうしたら、皆さんは早ければ13日のうちにこのレビューを読むことができただろう。これが2020年11月段階の技術力である。
ところが、今から50年前1970年に、未来で実現するほぼ凡ゆるネット技術を連作短編に描いた作家がいた。本の書評は紙でしか読めず、感銘を受けて読もうとすれば本屋に赴いて、無ければ注文し、数週間待たなければ手に入れることの出来ず、それを読んで書評を書けば掲載されるのは早くて2ヶ月後、たいていは3ヶ月後という時代に、である。
安部公房(『第四間氷期』)にしても、星新一にしても、彼らはタイムマシンで一回「未来」を垣間見ているのではないか、と穿ってしまう様な才能を見せている。それが描けた理由は、おそらく2つあるだろう。
ひとつはコンピューターの可能性をよく知っていた。ただ、それだけで未来の社会を生き生きとは描けない。
ひとつは人間に対する根本的な理解「教養」があったからだろうと思う。
この作品に関して言えば、
「ヒトは秘密を持たなければ生きていけない」
という理解である。「声の網」は、そのヒトの性質を使って、さまざまなことを仕掛ける。
もし、星新一の「洞察」がホンモノならば、ここで書かれていて、未だ現実化していないか、しつつあるものが有れば、私もこれから起きる未来を予測することができるかもしれない。本末転倒かもしれないけれど。
曰く。
・オンライン診療では、希望家庭に「小型脳波測定器」が配られていて、それで測定値が即時医者に送られる。
←1部実現しているか?
・evernoteみたいな「情報銀行」クラウドに蓄積された「記憶」をもとに「新アイデア」を考えてくれる。
←ちなみにこの「秘密の倉庫」を、著者は「当人は貴重極まりないもののような気になっているが、内容はとるにたらない、くだらないもの」なんだよと、喝破している。
・「情報銀行」の秘密データによって当人の「性格分析」も行う。
←もしかして、既に何処かやってる?
・「情報銀行」によって、各銀行は密かにブラックリスト(お金使いの荒い人、賭博好きの人)の共有もしている。
←おゝ怖!
・ワザと事件を起こして、それによって「ビッグデータ」がどのように変化するか、測定する。
・あらゆるweb情報、通信情報を「傍受」「分析」して、あらかじめ反抗を予測し、それを未然に防ぐ。
←未だ現実化していないことを切に願います。
なんか、私たちが気がついていないだけで、全部既に実現している気がしてきた。でも、そうなっていると物凄く恐ろしい。 -
衝撃的。リアルで凄まじく怖い。1970年当時の星新一さんの着眼点、2020年からしたら、予言者の域。
スマホのメモ機能、オンライン授業、おすすめ機能を持つネット通販にアレクサ、サブスク、SNSの友達の誕生日通知機能など、現代人にはお馴染みのツールやサービスを彷彿とさせるコンピューターの多機能化と、人間とコンピュータのどちらが主従かもはや分からないほどの依存がこれでもか描かれていて、身につまされる。
そして、利便性のためにデータとして保管・管理されるようになった個人情報の保護意識の高まりと、
情報資産としての高い価値化、
漏洩への不安、
だからこその、他者の秘密を覗き見る快楽や罪悪感といったものも余すことなく盛り込まれている。
星さん、タイムマシンで50年後の2020年に来てこっそり覗き見してから書いたんじゃなかろうか。
いや、もう、ほんとうに、すごい。
うん、すごい。
すごい。(興奮のせいで語彙力崩壊。)
この作品は、ショート・ショートの神様と言われた星さんにしては珍しく、12階建の某マンションを舞台に、12人の登場人物を用いて、12ヶ月の物語として描いた、12編からなる連作短編集。
第1、2章を読んで、3〜4ページで明確でハッとする結末をいくつも作り出してきた星さんにしては、うーん、なんかぼんやりしたまま終わったな…と思ったと思えば。
3、4、5章…と読み進めていくうちに、連続性や伏線が明らかになると同時に、描かれている人間の多様性、少なからず体験した覚えのある不安感や欲望、罪悪感などに引き込まれてしまう。
そして、迎えた結末はといえば…。
こんな未来、本当に来るかもしれない。
いや、もう始まっているのかも。
この、ネット社会を予知していたとしか思えない生々しさや驚きは、ネットがなかったゆえに近未来のSF作品として捉えていただろう1970年当時よりも、2020年を生きている現代の読者こそ味わえるものだと思います。
50年越しに今こそ読むべし、と思った名作。 -
星新一氏の「声の網」を読んだ。
物語りはメロンマンションの一室から始まり、不思議な電話を通して住人同士が結びついていく。
今日の情報社会を彷彿させる連続短編小説で、便利なような、恐ろしいような、そんな世界だった。 -
星新一の名著中の名著。この人の頭の中はいったいどうなっているのか。すごいのひとこと。
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時代を先取りしている内容ではあるけど、響くものはなかった。有名な作品だが、明らかに星新一のベストではないと思う。
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1970年、通信手段といえばインターネットは当然存在せず、電話網が唯一の手段であったこの時代において、電話網の向こう側のコンピュータに自らが有する情報を記録させ、必要な時に引き出すという「情報銀行」の概念をハブにしたディストピア小説。
現在、政府のIT総合戦略本部において、自らのパーソナルデータを預託・信託し、その受益をユーザ自らが獲得するための手段として「情報銀行」構想が議論されているところであるが、本書の概念はそこから一歩下がり、言うなればDropboxやEvernoteのように、クラウド上に自らのデータが管理され、自由に引き出すことができるという点に留まっている。しかしながら、1970年という時代を考えれば、現在では当たり前になっているクラウド上にデータを預託するという概念を、ここまで先見的に描いているというのは、恐ろしくすら感じる。 -
この本の中の「電話」を自然と2016年現在の「インターネット」に置き換えて感情移入しました。
読み替えていると「ありえないことでもないんじゃない?」みたいな感覚になっていって、改めて星新一さんという作家さんのイマジネーションや感性に舌を巻きます。「電話」の表現にこそ古臭い感はありますが、時代を超えて読める作品だと思います。面白くて一気に読んでしまいましたし、色々考えさせられました。 -
廻る歳月、辿る階層。無から有へ、有から無へ。円環する世界。電脳と人間の甘やかな蜜月関係。
完成度が高すぎる。電脳網とメロンの網目をかけてるなどネーミングの妙も心踊る。 -
星新一の中~長編。長編といえど、章ごとに完結するショートストーリーのアンソロジーになっているので、短篇集という読みも出来そう。
突然かかってくる謎の電話から起こる事件、誰も知らない秘密をネタに脅され、市民が萎縮していく社会は、コンピューターのネットワークに操られて…。
電話の向こうの誰かに秘密を握られており、それによって恐怖をもたらされるという意味で、ジャンルとしてはSFというよりもホラーになろうかと思う。
ホラーといえど星新一なので、ドロドロと湿った感じではなく、あくまでもドライ。そこが救いのない怖さを増強しているといえる。そして、いかにして解決するかを期待して読み進めていくが…。
1970年に、今では当たり前に使われている、電話とコンピューターネットワークを「声の網」という言葉で現していることは非常に興味深い。現在の人工知能に対する懸念なども、そのまま含まれている。
難しい話ではないので、中学生くらいの読書感想文の題材として、一度読んでみてはいかがかな?
著者プロフィール
星新一の作品






にゃ
にゃ
こんばんは!この作品、本当に、星さんタイムマシン持ってた?ってビックリしますよね!
kuma0504さんが本作を購入...
こんばんは!この作品、本当に、星さんタイムマシン持ってた?ってビックリしますよね!
kuma0504さんが本作を購入から読了するまでの経緯をお書きになった文章が、淡々と端的に、けれど、現段階の技術力にまで思いを馳せてらして、その洞察力と冷静な語り口が、なんだか星さんのそれに似ていて、ドキドキしました。
そして「本人が重要視している秘密は、実は、たいしたことなくて、くだらない」
これには本当にハッとしましたよね!
ネタバレできない星さんの一冊について、取りこぼしなく紹介するkuma0504さんの緻密なレビュー、すごく素敵でした。
今日のニュースによれば、マイナンバーカードを銀行口座に関連つけることを「義務付け」する法案の提出は、とりあえず見送られた...
今日のニュースによれば、マイナンバーカードを銀行口座に関連つけることを「義務付け」する法案の提出は、とりあえず見送られたようです。物凄くホッとしています。星新一は、正に「これからの未来」まで見通しているようです。
良い本を紹介してくださって、ありがとうございました!