犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)

著者 : 横溝正史
  • KADOKAWA (1972年6月12日発売)
3.87
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  • 228レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041304051

犬神家の一族 金田一耕助ファイル 5 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  •  古谷一行金田一版も、石坂浩二金田一版も視聴済みである。ゆえに、犯人も動機もトリックも、そして犯罪の特異性(意思の連絡なき事後共犯。ただし実際は、行為・実行行為の共同や加功がなく、共犯ではなく別罪?)も判っている。

     が、それでも心象と行動の両面で恐怖を惹起するホラー・ミステリー小説だ。ネチネチした叙述がそう感じさせるのだろう。特に、青沼菊乃・静馬母子をリンチに掛けた松竹梅三姉妹の言動のおどろおどろしさには絶句。映像版より生々しく凄惨である。

     一方、犬神左兵衛翁や松子の心奥については、多少救いようのある処に落着させているのは意外に感じた。静馬の珠世への態度・行動も同様だろう。
     つまり、悪党一辺倒には描いていないところが原作小説の特徴なのかもしれない。
     
     松子のそれはラストの数行で語られるだけだが、とってつけた感はしなかった。それは父・犬神左兵衛翁に対する骨の髄までしみ込んだ恨みという感情が、妹の竹子・梅子と長く共感する関係にあったからだろう。

     一方で、娘に恨まれた犬神左兵衛の遺言が、真に恋しい人へのラブレターと、その忘れ形見の子に対する防衛用道具の如き内実を備えている件。
     松子らが、左兵衛翁の意図に気付くシーンではこちらも唸らされてしまった。

     このように、結末や犯人を知って読んでも充分楽しめるし、また結論を知って読めば、逆に伏線とミスリード目的の叙述の塩梅の絶妙さに気付かされる。
     非常に練って、また考えられて書かれているのが伝わってくる。そんな小説である。

  • 佐清と静馬の入れ替わりのタイミングが絶妙ですね。
    真犯人は単純なことしかしてないのに、佐清たちのふるまいがこんなに事件を複雑にするとは。
    真犯人がしでかしたことが単純な分、真相が明らかになった時のスッキリ具合が引き立つと言うか。
    戦争と復員など、当時の情勢が引き起こしたという引き合いもあり、歴史的なものを感じたりもします。
    映像化のために書かれたものではないんでしょうけど、映像がくっきりと浮かぶ。名作。

  • 昔読んだことあったか、微妙なのですが、もっと堅そうなイメージなのに、おまわりさん、とか出てきてかわいかったりする。
    時代の感じがのどかでよいです。しかし金田一は2か月もとどまっていて良いんだろうか、普通もっと事件のサイクル短くするか、一度帰ったりしませんかね、とちょっと気になる。まぁ戦後でのどかだったから、とか無理やり納得する。
    最後の母の情は好き。

  • 1976年石坂浩二版映画の印象が強すぎて、佐清のセリフがあおい輝彦ボイスで脳内再生される。

    那須ホテルの女中役の坂口良子が、金田一に朝ごはんを給仕して「これ全部あたしが拵えたの。どれが一番美味しかった?」と聞いて、金田一が「うーん、生卵」と気の無い返事をした後の「もうっ!」という表情は、映画史上最高に愛くるしい怒り顔。
    全然原作のレビューになってない…

  • 初横溝正史。
    あんまりにも有名なので、そのタイトルからある程度のイメージを持ってはいたましたが、予想以上の複雑な愛憎模様でした。
    過不足無く、流れるようなストーリー展開はさすがの名作。
    個人的には、オチは明白であるのに犯人とトリックが分からないという複雑な作品。
    他の横溝作品を読んでないのでどうだか分からないけど、探偵物というよりは心理物という印象を受けました。
    とりあえず、他に有名な獄門島と八つ墓村、あと悪魔が来たりて笛を吹くを読んでみたいと思います

  • 初・金田一耕介。グロテスクで暗くて暗澹とした気分になるミステリだと思ってましたが、そうでもなかったです。連続殺人事件が起こるなかでも無邪気な金田一のキャラクターにホッとしたり。犯人だとわかってからの方が好感度があがったり。あの最後を大団円としちゃうのはどうかと思うけど、まぁ前向きととれなくもない。相次ぐ事件の最中、吐き気を感じるほどの告白もありましたが、ほんのわずかながらでも明るさを感じられるというのが意外でした。事件そのものは金田一がいうように偶然の要素が多いし、ミスリードに持ち込もうとする手段はかなり強引。ですがトリックに凝るとか全ての事象を説明するとか理屈攻めのミステリではないですしね。昔の作品でもこれくらいの時代のものなら読みにくさもないし、舞台が想像できないほどかけ離れてもいないし。敬遠してたのが勿体なかったなと反省してます。

  • プールで佐清ごっこ。

  • 判じ物のヴィヴィッドな殺人のせいで、すっかり犯人を忘れていた。そうかそうだったのか。
    佐清はなぜ偽名を使って復員したのか…哀れと忸怩たる思いだ。昔、日本には戦争があったのだ。
    昭和20年代はまだ煙管煙草が一般的に使われていたのか。驚き。

  • 犬神財閥の創始者がのこした複雑かつ非常識な遺言状によって、一族の中で連続殺人が起こる。仮面を被った長女の息子は果たして本物なのか?遺産相続の鍵を握る恩人の孫娘は最後に誰を夫に選ぶことになるのか?「犯人は誰なのか」という謎以外にも、一つ一つの細かい謎が意外な所に繋がっていたり、思いがけない結末が待っていたりするので、相変わらず面白さは抜群です。

  • 犬神家の一族の特集をした番組で、道尾秀介さんが、犬神佐兵衛の臨終が犬神の儀式の見立てになっていると仰っていました。
    犬神の儀式とは、犬を飢餓状態で土に埋めて首だけを出して、餌を見せて首をはねるというものです。犬が佐兵衛翁で、その犬の前にいたのが松子です。その見立てからすると、布団から頭だけを出している佐兵衛は、土に埋められて首だけを出している犬を連想させます。その遺影は犬の頭がい骨になりますね。そして、犬神の力を手に入れた松子が次々と殺人を成功させていくことになります。
    また、橋本麻里さんの仰っていた源氏物語に見立てた光の表現も興味深かったです。
    それを参考にしてこの作品を捉えてみると、犬神の儀式で始まり、犬神の儀式で終わった作品という印象を持ちました。ただ、それぞれの儀式の見立ては正反対の意味になっていると思います。


    佐兵衛翁の臨終を犬神の儀式に見立てると、犬と犬の前にいた人物はどうだったでしょうか。

    犬は飢えていたか?飢えていた。
    犬神佐兵衛は晴世への愛のために最後まで飢えていました。自分が愛した人の血を引く人物に犬神家の財産を相続させようとして、あの遺言書を書きました。

    犬の前にいた人物は、犬神の力を欲するほどに飢えていたか?飢えていた。
    犬神の儀式では、犬が飢えているのはもちろんですが、それほど恐ろしい儀式を行ってまで力を求めるのですから、その人物も何かに飢えていると考えられます。
    松子は、我が子が生きて帰って来たことだけでは満足せずに、佐清に犬神家の全財産を相続させるために殺人まで犯してしまいます。それは佐清にメッキを施そうとするものですね。マスクの下が別人だと気が付かないのも表面的な部分しか見ていないということです。佐清と同じ顔でも、その下は全く別の人間です。
    他の犬神家の人間たちも同様に、その描き方を見てみると何も輝きを放つものがありません。斧・琴・菊の三種の神器と同じく、犬神家の財産というメッキで輝いているように見えますが、そのメッキをはがすと中身は上等なものではありません。
    猿蔵や宮川香琴は犬神家の人間たちとは反対の描かれ方をしていると思います。

    その三種の神器と対照的なのが珠代と佐清の思い出の品の懐中時計ではないでしょうか。金側の両ぶたの懐中時計は神器と同じように外側の見た目は金色です。時計の中の部品は金ではありませんが、犬神家の三種の神器と違う所は、時計のような精密機械は中を綺麗にしていないと動きません。時計が壊れるといつも佐清が修理していましたし、珠世は時計の修繕を時計屋に出すことはしませんでした。これは珠世と佐清の二人の関係を、懐中時計が動くという精密機械の中身の輝きとして表現しているのではないでしょうか。佐清が偽物であるなら時計が再び動き出すことはありません。また、懐中時計は二人にとっては大切な品物ですが、犬神家の財産の相続とは関係がありません。


    冒頭の場面と対になるように、松子の最期の場面も犬神の儀式の見立てになっていたのではないでしょうか。今度は松子が犬で、犬の前にいた人物が珠世と佐清です。

    犬は飢えていたか?飢えていなかった。
    最後に一目佐清に会えて、珠世が佐清を待っていてくれることを聞いて、それだけで松子は十分でした。

    犬の前にいた人物は、犬神の力を欲するほどに飢えていたか?飢えていなかった。
    珠世は佐清を待ち続けることを誓い、佐清も珠世の思いに応えます。犬神家の財産の相続などは関係なくて、大切な人がいるだけで満たされている温かみのある愛を感じます。愛する人と晴れて夫婦になる。それは犬神佐兵衛が叶えられなかった愛の形でもあります。
    実の母である松子も騙されたのに、珠世はマスクの下が別人であることを見抜いていました。犬神家の財産目当てに本物の佐清以外の人と結婚することも考えませんでした。小夜子の子に財産の半分を分けることにもためらいはありません。佐清も財産を相続するために本物だと名乗り出ることはありませんでした。例え犬神家の金メッキがなくなっても、二人にとって問題にはならないでしょう。
    犬神の儀式は成りませんでした。

    飢えた愛で始まり、満たされた愛で幕を閉じた物語という印象を持ちました。

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