人面瘡 金田一耕助ファイル 6 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041304976

作品紹介・あらすじ

「わたしは、妹を二度殺しました」。金田一耕助が夜半遭遇した夢遊病の女性が、奇怪な遺書を残して自殺を企てた。妹の呪いによって、彼女の腋の下には人面瘡が現れたというのだが……表題他、四編収録。

感想・レビュー・書評

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  • こわい女が絡む事件5編。大体の女は不倫するし、男は気弱だし、そうじゃなければ死体と寝る。「こいつもか」と半ば呆れつつ、決して飽きない。短編は金田一の活躍が何度も見られて満足度が高い。

  •  すっかり気に入って読み継いでいる横溝正史4冊目。本巻には5編の金田一耕助シリーズの短編が入っている。執筆年は1947(昭和22)年から1960(昭和35)年。
     何となく、横溝正史を好んで読みまくるというのは、何やら淫靡な趣味のような感じがする。淫靡と言ってもそんなにエロくはないけれども、当時としてはあからさまに性交を扱った作風として、同時代においてやはり淫靡な世界と扱われたのではないか。それに加えて、おどろおどろしい怪奇趣味。本巻に収められた短編には、屍姦とか、作者にとってグロく思われたらしい「義眼」が複数回出てくる。
     しかし、このように短編の体裁の中に本格推理の構成をもってくるとなると、複雑なプロットを急いで進めなければならないので、そんなに「雰囲気」に浸ってはいられない。トリックと種明かしに相当な分量を取られるから、本格推理の短編小説は、お決まりのフォームを手際よく機械的に展開した、アイディア一発勝負で行くしかないといった観がある。
     この短編集はそうした「大急ぎ」の印象が強く、ちょっと情趣や物語の推移の面白さが、いくぶん抑えられてしまっているように感じた。
     それにしても、金田一耕助シリーズはやたらと岡山県に行く話が多いようだ。作者は神戸出身のようだが、よほど岡山県が気に入っていたのだろうか。

  • 「わたしは、妹を二度殺しました」
    金田一耕助が遭遇した夢遊病の女性・松代の告白。腋の下には怪しげな人面瘡が出現していた。それは殺された妹の由紀子の呪いか。表題作を含め、5篇が収録された短編集。

    『人面瘡』
    人面瘡という妖異とそれを取り巻く殺人事件の謎。夢遊病の女、顔に火傷の男、怪しげな暗黒趣味を取り入れながらも、人間の思考や証拠で事件を固めてくるところに安心感がある。それにしても、人のものを奪わなければ幸せを感じられないって悲しいサガだよね。

    『睡れる花嫁』
    ある夜に発生した警察官殺し。その舞台は陰惨な歴史を持ったアトリエだった。死んだ妻を部屋で愛し続けた男。その出獄とともに繰り返される事件の真相とは。

    50ページほどの短編ながら、丁寧に張られた伏線で思わぬ結末を用意してくれるのがさすが。犯人の目星はついたものの、その一段上のサプライズは気づかなかった。事件のグロテスクさと花嫁というキーワードのコントラストが実に不気味。歪んだ人の欲とサガが臭いとして伝わってくる物語。

    『湖泥』
    北神家、西神家という二つの家が反目し合っている村が舞台。その家のせがれ同士が狙っていた上海帰りの娘・由紀子の失踪を皮切りに、農村を惨劇が襲う。

    まさに横溝正史の庭と言うべき世界観。冒頭のこの磯川警部の言葉が印象深い。
    「当人同士は忘れようとしても、周囲のもんが忘れさせないんですな。話題のすくない田舎では、ちょっとした事件でも、伝説としてながく語りつがれる。」
    金田一がこれを補足した言葉も後に描かれるけど、こういう人間哲学が短編の中にギュッと詰まった作品になっている。村人たち同様にすっかり振り回されてしまった。見えない真実ほど湖面の波ではなく、底に沈んだ泥の中で眠っている。

    『蜃気楼島の情熱』
    久保銀造のもとへ静養に訪れた金田一耕助。彼らは沖の小島に豪邸を建てたアメリカ帰りの資産家・志賀泰三と会う。アメリカにいた時代に妻を殺された経験のある泰三。今は幸せそうな毎日を送っていたが、ある晩に妻の静子が何者かに殺されてしまう。

    幸せを掴もうとした男に襲いかかった悲劇。蜃気楼の前に立ちすくむような読み味。犯人のおぞましいほどの冷酷さが、妻に情熱を注いだ泰三の姿と対比されて際立つ。シリーズの中で悪魔と出会うことがあるが、この犯人は悪をどれくらい言い換えても足りないほどの外道っぷり。探偵は事件を解決はできても、そこから被害者が幸せになることまでは手伝えないんだよなあ。それがつらい。

    『蝙蝠と蛞蝓』
    湯浅順平が住むアパートの隣室へ引っ越してきた蝙蝠のような男・金田一耕助。順平は日頃の鬱憤を晴らすため、裏手に住む蛞蝓女と呼んで観察しているお繁を殺し、その罪を蝙蝠男・金田一へと着せる空想小説を書いた。すると、なぜかその空想は現実のものとなり、しかもその罪は順平に着せられてしまう。不可解な事件の謎やいかに。

    タイトルからじめじめした話かと思いきや、展開もオチもユーモラス。サクッと読める短編で好き。ラストはあまりの痛快さに声を出して笑ってしまった。30ページほどなのに、ミステリとしてのロジックもしっかり組まれていて無駄がない。

  • ただれた人間関係!
    おぞましい猟奇趣味!!
    ソンナアホナな真相指摘!!!

    うーん、いつも通り(  ˘-˘  )←褒めてる

    金田一シリーズって、立て続けに読んでも食傷しそうでしないのはいいんだけど、1度金田一マイブーム途切れると一つ前に読んだ作品の内容もうろ覚えなのよね(っ'ヮ'c)なんでや



    【内容まとめ:テキトーにまとめたのに疲れた(っ'ヮ'c)大分前に読んでるから間違ってる部分あるかも(っ'ヮ'c)←←】

    ◎睡れる花嫁…愛する妻の体を死後も愛で続けた男が刑務所から出所した直後、病院から若い女の死体が盗まれる事件が発生。男が逮捕前に住んでいたアトリエから、盗まれた死体が発見され、事件は男の再犯ということに落着しかけるが…。

    ◎湖泥…村の有力な家筋の跡取りたちが嫁にもらおうと争っていた女が、祭りの日に失踪した。真相究明に乗り出した金田一探偵は、やがて無残な姿に成り果てた女の骸を発見するが…。

    ◎蝙蝠と蛇蝎…金田一耕助という男に濡れ衣を着せるという内容の小説を書いていた「おれ」に、何と本物の殺人事件の下手人の嫌疑がかかる。その疑いを晴らしたのは、「おれ」が面白おかしく「蝙蝠男」と形容した金田一耕助その人だった。

    ◎人面瘡…「妹を二度も殺してしまった」ーー妹に恋人を奪われた女の体に出来た、奇妙な人面瘡。夢遊病状態の女を目撃した金田一耕助が指摘した真実とは。

  • 金田一耕助シリーズ6冊目、中短篇集。『睡れる花嫁』、『湖泥』、『蜃気楼島の情熱』、『蝙蝠と蛞蝓』、そして表題作『人面瘡』の5篇が収録されている。

    戦後の混乱期、閉鎖的村社会、人々の愛憎・嫉妬等を背景に描かれるミステリー5篇。決して楽しめなかった訳ではないが、他のシリーズ作品と比べると一歩物足りないか。中短篇集ということで、コンパクトで読み易かったが、残念ながら唸らせられるような物語はなかった。

    それにしても1冊で2回も殺害される「由紀子」さん(別人)。横溝御大にとって「由紀子」という名前には何か特別なものがあるのか・・・と、安直に考えてみたり。

  • 金田一耕助の短編集。表題作の「人面瘡」は夢遊病の女性の腋の下に現れた人面瘡を絡めた姉妹の確執を描く。「湖泥」は岡山県の山村の湖で発見された女性の死体を巡って昔からの憎悪や確執のある北神家と西神家の争いを描く。表題作より「湖泥」が面白かったです。「蜃気楼島の情熱」は、長編にしてもっと深掘りしたら良かったのにと思う。コンパクトに収められた感じです。「蝙蝠と蛞蝓」は、書き出しはユーモア小説ぽいが、後半の人物の正体が分かってゾッとする。人間の表面とは違う怖しい感情がゾッとする。2023年8月2日読了。

  • 5作の短編集。短編を読むのは初めて金田一シリーズの短編を読むのは初めて。どれも面白かったです。金田一さんや磯川警部の活躍がいろいろ知れて満足。

  • #読了 五編からなる短編集。倫理観を逸脱した男女がたくさんでてきてもうお腹いっぱいかと思いきや、まだ読みたくなっちゃうのが横溝正史のすごいところなのだろうな。めちゃくちゃ面白かった。

  • 「横溝正史」の短篇集『人面瘡』を読みました。

    「横溝正史」作品は昨年10月に読んだ『犬神家の一族』以来ですね。

    -----story-------------
    「わたしは、妹を二度殺しました」。
    金田一耕助が夜半遭遇した夢遊病の女性が、奇怪な遺書を残して自殺を企てた。
    妹の呪いによって、彼女の腋の下には人面瘡が現れたというのだが…。
    表題他、四編収録。
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    本書は、1949(昭和24)年から、1954(昭和34)年に発表された「金田一耕助」シリーズの短篇ミステリー5篇で構成されています。

     ■睡れる花嫁(原題:妖獣)
     ■湖泥
     ■蜃気楼島の情熱(原題:堕ちたる天女)
     ■蝙蝠と蛞蝓
     ■人面瘡(原題:支那扇の女)


    『睡れる花嫁』は、近隣の家屋から離れ、亭々たる杉木立に囲まれた不気味なアトリエで、警邏中の巡査が殺害される事件が発生し、アトリエには花嫁衣裳に身を包んだ女性の死体が残されていたという、猟奇的な事件を扱った物語、、、

    そのアトリエは、現在は空き家となっているが、以前は、画家の「樋口邦彦」が住んでおり、彼は妻が病死したあともその届けを出さず、床に寝かせてその身体を愛し続けるという異常な行為に及んだ場所だった。

    「樋口」は、実刑を受けて刑務所に服役していたが、一カ月前に出所していたことから、容疑は「樋口」に向けられる、、、

    真犯人は「樋口」の異常な行為の発見に関わった意外な人物でしたが、死体愛好(ネクロフィリア)という異常な性癖を持つ男が、その満足を得るためのみに女を殺し、死体を作りだすという異常性、猟奇性に、嫌悪感を感じてしまう作品でした。

    まっ、「横溝正史」らしい作品なんですけどね。



    『湖泥』は、岡山の僻村を舞台に、対立する二つの名家の愛憎を絡めた殺人事件を「金田一耕助」が解決するという物語で、舞台も犯罪の状況も王道的な「横溝正史」作品、、、

    この地域で力を持っており反目し合う「北神家」と「西神家」… その両家の息子たちが好意を抱いていた「御子柴由紀子」は、結婚相手として「北神浩一郎」を選んだが、その後、隣村で祭りが開かれ夜に行方不明となる。

    その後、「由紀子」は、村の外れで牛馬同然の生活を送る敗戦ボケの「北上九十郎」の小屋で死体として発見され、同時期に行方不明となっていた村長の妻「秋子」も、村外れの山中で死体として発見される、、、

    村人の当夜の行動を確認した結果、婚約者の「北神浩一郎」や、そのライバルだった「西神康男」、村長の「志賀恭平」等の不審な行動が浮かび上がるが、その背後には狡猾な犯人よる奸智な犯行計画があった。

    閉鎖的な農村を舞台にした憎悪や怨恨、嫉妬、反目… それらが原因となった姦通、暴行、殺人… 「横溝正史」らしい作品でしたね。



    『蜃気楼島の情熱』は、『湖泥』と同じく岡山が舞台… 瀬戸内の沖合いに浮かぶ、蜃気楼のような小島に建てられた竜宮城のような屋敷での怪事件を「金田一耕助」が解決するという物語、、、

    「志賀泰三」は新妻の「静子」とともに、その屋敷で暮らしていた… 「泰三」が親族の通夜で故人「村松滋」の遺言として、あることを告げられ、心身が不安定な状態で帰宅した夜、「静子」が殺害される。

    「泰三」は、かつてアメリカに在住しており、現地で結婚していたが、妻を殺害されたという経験があり、その事件も含め、嫌疑は「泰三」に向けられる… 「金田一」は故人「村松滋」の遺族の不審な行動に気付き、捜査を始める。

    小島での殺人事件ということで、密室性があったのですが、「金田一」が、そのトリックを見事に暴きます。

    成功者への羨望や嫉妬が動機となった事件でした。



    『蝙蝠と蛞蝓』は、比較的軽めな内容のミステリー作品、、、

    同じアパートに引っ越してきた蝙蝠のような男「金田一耕助」と、隣家に住むメソメソして陰気で蛞蝓のような女「お繁」… この二人のことを嫌う「湯浅順平」は、この二人が登場する小説を書くことで大いに溜飲を下げる。

    その小説は、蛞蝓女「お繁」が「湯浅」によって殺され、蝙蝠男「金田一」がその罪をかぶって、死刑になるという物語であったが、、、

    それから半月程がたったある日、「お繁」が本当に何者かによって殺され、例の小説が犯行計画書と誤認され警察に捕縛されてしまう… 「湯浅」が嫌っていた「金田一」が、事件を解決し、「湯浅」の潔白を証明するという内容でした。

    少しコメディタッチのミステリーって感じでしたね。



    『人面瘡』は、またまた岡山が舞台… 僻村、孤島の次は山間の温泉宿で発生した事件を、骨休みとして滞在していた「金田一耕助」が解決する物語、、、

    宿の若主人「貞二」と結婚の約束をしていた女中の「松代」が毒を飲んで自殺未遂を起こす… その後、「松代」の妹「由紀子」が稚児が淵で溺死体として発見され、夢遊病の症状を持つ「松代」は自分が殺害したと証言する。

    「松代」の謎めいた半生と、その身体にある人面瘡の秘密が、明らかになるに連れて、真相が徐々に判明する… 「金田一」の推理というよりも、登場人物の証言により真相が明らかになるという展開でしたね。



    それぞれ愉しめましたが、ちょっと物足りない感じ… 「横溝正史」作品は長篇の方が面白いですね。

  • 別の本でも同じような感想を書きましたけど、金田一耕助ものの短編集で、長編とは違う魅力がありながら、安定のおもしろさで一気に読んでしまいました。
    「人面瘡」という短編も佳作でしたが、題名にはしない方がいいと思うなあ。

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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