霊長類 南へ (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041305195

作品紹介・あらすじ

毎読新聞の記者澱口は、恋人の珠子をベッドに押し倒していた。珠子が笑った。「どうしたのよ、世界の終りがくるわけでもあるまいし」その頃、合衆国大統領は青くなっていた。日本と韓国の基地に原爆が落ちたのだ。大統領はホットラインに手を伸ばした。だが遅かった。原爆はソ連にも落ち、それをアメリカの攻撃と思ったソ連はすでにミサイルを。ホテルを出た澱口と珠子は、凄じい混乱を第三京浜に見た。破滅を知った人類のとめどもない暴走が始ったのだ。

感想・レビュー・書評

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  • [偶発的な核ミサイル発射により引き起こされた、世界規模の核戦争。
    放射能におびえる人間の狂気じみた行動を描写。]

    筒井がこの作品の表題を『霊長類南へ』と、一風変わったものにしたのにはやはり何かしら理由があってのことだろうが、果たしてそれはいかなる理由によるのだろうか。『霊長類』と人類を表現するのはなぜであろう。『南へ』というのはやはり人類が放射能を避けて南へ移動するからだろうが。
    実は、この作品が自らのアイデンティティを保つためには他の表題は考えられないのであり、また、この中にこそ作品最大の『毒』が入っているのである。『霊長類』この呼び方はきわめて冷徹であり、まるで滅び行く一つの対象物としての見方ではあるまいか。何を隠そう、筒井はこの作品を神の視座から描いているのだ。筒井は一貫して絶対者の立場に立ち、人々を見下ろす形で作品を描き上げた。筒井はそのため、人類をもはや超越してしまい、一種の絶対存在となったのである。場面がよく切り替わるという効果的な演出はツツイヤスタカ神が目をいろんなところにやっているためなのである。神となった筒井は人間に対して、下手に愛着を表現することもない。それゆえ完全に冷徹、冷静である。
    人間への愛着がなければ、人間はサルともゴリラとも大して差はなく、同じ一つの霊長類であると比較的容易にいえる。これが表題に『霊長類』を使わせる理由であろうが、さらに大きく皮肉が入っているような気がする。サルやゴリラは自ら絶滅することはない。人間のように理性を持たずとも、自己保存の本能があるゆえに内的な理由により滅びることはないのである。しかし、サルやゴリラよりも高等とされる我々人間は理性も本能も持ち合わせてはいるが、たとえば核などの使用により内的理由で滅びうるのである。理性があるから我々はサルやゴリラよりも高尚であるといえるのだが、理性によりサルやゴリラでも作らない自己破滅の道を我々は作った。さすが人類。こういう皮肉が私には感じられるのである。
    この作品で筒井は“生”を描いている。間接的な描き方ではあるが、かえって明確的である。淡々と生を語るのではなく、まずいきなり無数の死に様を表現する。そこに見られるのは極度の生への執着、大いなる生の有意味性にすがる霊長類どもの姿なのである。“生”を、対概念である“死”を大量に表現することによっていっそう際立たせている。書き方が間接的、かつ明確的といったのはこういう点においてである。核戦争下という極限状況において人間がいかに醜悪であるか、エゴイズムがいかなる形で顔をのぞかせるかが繊細に描写され、そこには人間が本来有するはずの理性のひとかけらさえ垣間見ることはできない。異常なまでの生への執着心、果たして生にどれほどの魅力を感じているのだろうか。ショーペンハウエルは世界を支配するものとして、盲目的な生への意志(Wille zum Leben)をあげたが、まさにこの小説がそれを証明しているかもしれない。自己保存の本能、即ち生存への本能の描写は、ここでも『霊長類』というタイトルを輝かせる。
    最後になるが、核軍備下における生命の無力さとはいかなるものなのだろうか。今でこそ核削減の交渉は続いており、着々とその数は減ってはいるが、この作品がかかれた時代は東西イデオロギーの対立の構図がはっきりしていた冷戦時代の只中だった。かなりのリアリティをもちえたのは事実である。核の脅威は決して消えうせることはない。次の瞬間にも我々は“ジュッと蒸発する”かもしれないのだ。

    • amesaburouさん
      核戦争の脅威を描いたSF作品は『猿の惑星』とかいろいろあるけど、永遠のテーマかもしれないな。
      2010/08/30
  • ここ数年の北朝鮮での核開発やミサイル発射から、今ほどこの小説がマッチする時代はないと思う。最初に読んだのは、たしか高校生の頃。当時の仮想敵国は中国で、北朝鮮はその属国という扱いだった……。

  • NONSENSEという言葉に尽きるそんな話

  • ポスト・アポカリプス小説を漁っていた時に読んだ作品。期待したほどではなかった記憶が。

  • そうそう、この本だった。タイトルから内容が思いつかず、長らく忘れていた。面白かったからまた読みたいなぁ。

  • 下らない理由で世界が滅ぶ時代。

  • 「不謹慎」と連呼する人に今こそこの本を読ませたい。どういう状況になろうと表現に枷を嵌めてはならない。

  • 一切感傷に逃げることのない(リアリズムでもない)、スペクタクル終末もの。

  • 081226(n 090112)

  • 終わり方がすき。

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