誰か故郷を想はざる (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 350
感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041315293

作品紹介・あらすじ

「おまえは走っている汽車のなかで生まれたから、出生地があいまいなのだ」。一所不住の思想に取り憑かれた著者は、やがて母のこの冗談めいた一言に執着するようになる。酒飲みの警察官の父と私生児の母との間に生まれて以来、家を出、新宿の酒場を学校として過ごした青春時代を表現力豊かに描く。虚実ないまぜのユニークな自叙伝。

感想・レビュー・書評

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  • 寺山修司の文章からはいつも湿った土と血の匂いがする。それがたとえ美しい詩であっても、その匂いは隠しきれない。雑多な、無秩序に犇めく人の群れ、あるいは何も無い、遠くに望む山と田畑、畦道が続く長閑すぎる田舎の風景。私が抱く寺山修司のイメージは決まってこの2つだ。本書もそんな2つのイメージから成り立っているように思う。幼少期を描いた第一章と上京した頃を描く第二章と。改めて寺山修司は言葉の魔術師だと思う。リズム良く、文章は詩的だ。文学や歌謡曲、新聞、誰かの言葉を引用しながら散りばめ、組み立てる様は言語のコラージュだ。言葉のモザイクの中に彼の肖像があり、また彼の故郷があるように思う。彼が生きた時代はかなり遠くなってしまい、どこもかしかもクリーンな、似たような風景ばかりになってしまった。生活していく上ではこのクリーンで均一化された街、社会はとても便利だ。何処に行っても同じものが手軽に手に入るし、整理され、美化された環境の方が住み心地がいいに決まっている。だけれども、何か味気ない気がするのだ。昔が良かったとは言えないけれど、均一化された景色からは生の、人間の匂いがしない。それがとても不自然な気がする。寺山修司の本を読むといつもそう思う。

  • 一章「誰か故郷を想はざる」
    二章「東京エレジー」の二章からなる。

    「誰か故郷を想はざる」では、青森県弘前市に生まれてから二十二歳の青年になるまでを詩的に綴っている。
    同郷、太宰治の心中について彼は、「死を内蔵しない生などは存在しない」「心中は二人が長い間大切にあたためてきた『死』をも終わらせてしまったのだ」という。
    死を求めるエネルギーは死をも終わらせてしまうという考え方は、彼らしい生へのエネルギー転換方法だ。

    「東京エレジー」で「賭博」について語る部分があるが(彼自身大の競馬ファン)、それはそのまま生き方に対する考えでもある。
    「賭けの心理は娯楽本能から出ているが、その娯楽本能は生存競争から派生したものである」というW・T・トーマスの言葉を引用し、「より強く生きる実感を味わいたいと思うものにとって賭博は、単なるゲームにとどまらないなにかである」という。
    「明日何がおこるか分かってしまったら、明日まで生きるたのしみがなくなってしまう」といった感覚は、賭博の娯楽性に通じる。それは生が内包する不確実性と向き合うことである。その不安と対峙することは、一点の光が暗闇の中で際立つように「生」を際立たせるだろう。
    生の実感を生み出すエッセンスとして不確実性を捉えることは、賭博から贈られた一つの幸福論であるともいえる。

    「幸運とは、存在するための技術、これを受け入れる技、これを愛する技なのだ」
    ジョルジュ・バタイユ

  • 切ない刹那。故郷がないと嘘ぶくやつの、生命をめぐる抒情詩。父の銃口向かう先にアナーキズムと努力を感じる。太宰よりも軽く、安吾よりも伝わる青春讃歌は思い出したいというより、思い出すべき。悲しみから得られるものも、何気に種類豊富だなぁ。

  • 父母との記憶の繊細さ、友達との些細なやり取りが特に印象的だった
    寺山修司の作品が生まれた起源を少し覗き見できた感覚

  • 寺山修司さんの自叙自伝。言葉の文章の一つ一つを通して、想像力を掻き立てられ、情景が浮かんでくるようです。

  • 図書館で。
    これは読んでなかったのかな。一時期ずいぶん寺山さんの本を読んだのですが。

    断定的なモノの言い方と表現方法の切れ味が鋭くてあっという間に魅了される感じの文章。この人がもてはやされたのは物凄いよくわかる。極論を語りながらでも読んでいるうちにナルホド…と納得させられそうになる辺り丸め込まれてるなあと思います。本当にあったことでも虚構であっても読んでいる方に明確なビジョンというかその場面を思い起こさせるための手段に過ぎないのかな、と思ったり。

    面白い、というのではなく引き込まれる文章です。

  • 文章のリズムが良い。難解な言葉遣い、ややタブー視される内容、時代背景の差などを超えて、どんどん読ませる。故郷への想いが行間ににじむ。

  • 「書を捨てよ〜」ではしっくりこなかった寺山修司の文章が上手く飲み込めた。
    途中に「書を捨てよ〜」内にあったセクションが何箇所か出てくるが、この本の中で読むと少し印象が異なる。
    著者の少年時代を描いた序盤から、学生運動を論じた終盤まで、良い意味で期待を裏切られる一冊。

  • 寺山修司さんの自叙伝。
    第一章では、故郷での話が中心。ニ章からは東京へ来てからの話しが中心となっている。

    スクエア=サラリーマンの捉え方が、面白い。これはサラリーマンには理解出来ないだろうなぁと思う。

    実はこの本ずっと読みたかったんだけど後回しにしてきたんです。でも青梅の山中にある「古書ワルツ」という素敵な古本屋さんで発見して買いました。

  • 100817(a 100914)

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著者プロフィール

寺山修司(てらやま・しゅうじ):1935年、青森県生まれ。54年「チェホフ祭」で短歌研究新人賞特選を受賞、脚光を浴びる。早稲田大学教育学部在学中にネフローゼを発病、4年間の療養生活を送ったのちに劇団、演劇実験室「天井棧敷」結成。劇作家・演出家として活動するかたわら、映画監督、詩、小説、批評、歌謡、競馬評論など、国内外で様々な分野の才能を発揮した。83年5月、旺盛な仕事のさなかに逝去。

「2023年 『さみしいときは青青青青青青青』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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