あゝ、荒野 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041315330

作品紹介・あらすじ

1960年代の新宿-。吃音と赤面対人恐怖症に悩む"バリカン"こと建二と、少年院に入り早すぎた人生の挫折を味わった新次は、それぞれの思いを胸に、裏通りのさびれたボクシング・ジムで運命の出会いを果たす。もがきながらもボクサーとしての道を進んでいく2人と、彼らを取り巻くわけありな人々の人間模様。寺山修司唯一の、珠玉の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  •  詩人、劇作家、映画監督、写真家等、マルチに活動し47歳で逝去された寺山修司さん。
     本書は1966年に刊行された著者唯一の長編小説です。ボクシングに関わる2人の若者と、周辺の人間模様が描かれ、中心に2人の絆、友情、成長、そして逃れられない宿命を置いた物語です。

     寺山修司さんといえば、1968年から連載が始まった『あしたのジョー』の主題歌の作詞を手掛け、ジョーのライバル・力石徹が死亡した際に、実際に喪主として葬儀を執り行い、弔辞を述べるという、今では信じ難い逸話もあります。
     『あしたのジョー』がもつ若者の孤独、友情、挫折、再生といった普遍的なテーマが、何となく寺山修司さんの生き方と重なる気がします。

     1960年代、新宿の猥雑な雰囲気とネオンを荒野に喩え、プロットも作成せずに即興描写による実験的手法作品とのこと。

     全15話の冒頭に巻頭歌(?)が添えられ、ふんだんに名言・詩・流行歌等の引用がありますが、直接物語との関係性は? とやや困惑し‥。個人的には、その既成概念を壊すような挑発、退廃的な性、薄暗い新宿の土着文化が多い描写になかなか入り込めませんでした。泥くさいのはいいのですが‥。

     寺山さんの遊び心が散りばめられ、時代と著者の考証には欠かせない作品には違いないと思います。

  • 群像劇。

    「モダンジャズの手法で書いた」と本人は言っているけれど。

    ポールトーマスアンダーソンの映画みたいな。

    それぞれが闇を抱えていて、それぞれの人生が交差する場所としてのリング。

    世の中に問題提起している感じがする。


    荒野。

    って、いいことばだな。

    バーのカウンターは、荒野。

    リングは、荒野。

    ベッドは、荒野。

    みんな別の方向を向いている、そしてそれぞれが重みを持って生きている、それがひとつの物語で収束している感じがいい。音楽的。

    この、孤高なロマンチストな感じが、今俺でもやり直せそうな青春を感じさせてくれるよな寺山修司。

  • 映画に触発されて読んでみた。あの映画、驚くほど原作に忠実だったのだなと思った。あともうひとつ思ったのは、なんとなく中村文則っぽくね?ということだった。今まで寺山さんと中村さんを同列で考えたことがなかったので、この感覚は自分でも意外だった。いたるところに荒野はあり、その中で個人の力で立ち向かうのが人生なのだ。「田園に死す」がなければきっと「荒野に死す」というタイトルになっていたのではないかな。

  • ボクシングの描写以外は退屈なとこが多い
    新宿シンジとバリカンのパートだけ読みたかった

    特に宮木パートが生々しくて苦手

  • 映画鑑賞後の後追いですが、時代を現代に置き換えた映画版とあまり変わらない内容な事に驚いた。
    寺山修司がいかに現代的な(または普遍的な)感性を持っていたかということもあるが、地震などまさに今にリンクする事象も多く興味深く読んだ。
    また映画を観直したい。

  • 2021年、2冊目は、最近、プチブームの少し前の話題作シリーズ(菅田将暉主演で映画化されたため)であり、敬愛する寺山修司の作品(敬愛するとか言っておいて、今さらかい⁉️)。

    吃りと赤面対人恐怖症に悩む〈バリカン〉建二は、〈片目〉の堀口のボクシングジムの門を叩く。同じ頃、堀口はレコード店の前で、新宿新次をジムにスカウトする。二人は、同期のボクサーとして歩み始める。

    1960年代の新宿歌舞伎町を中心に、新宿西口周辺を舞台に、〈バリカン〉建二と新宿新次、その周りの人々で物語は展開されていく。

    序盤はやや緩慢な印象も、徐々にテンポ感が出てくる。さらに、今で言うところの差別用語や、寺山修司の独特な言い回し、表現に馴染めない方々は早々に脱落の恐れあり。

    個人的には、各章ごとに巻頭歌が添えられていたり、『ポケットに名言を』的なモノや、当時の流行歌の引用等、寺山修司的遊び心溢れていて非常に楽しめた。

    一方で、キャラ設定と大まかなストーリーだけ決めて、そこから、各キャラを躍動させていくと言う、「あとがき」で言うところの『モダンジャズの手法(ジャムセッション的手法)』で書かれているため、長編小説としては、物語の幅や奥行きに、少し物足りなさ、弱さを感じるのも否めない。

    それでも、自分的には、★★★★☆評価の価値は充分にある。

  • この本のテーマは、「それでも生きていかなければいけない人間について」とか「命の重さ」かなあと感じた。

    青春小説と言ってる人もいるくらいなので、青年2人がボクシングで絆を深める話なのかと思ったら、全く違う。

    p12.バリカンが「何とかして周囲にひしめく人類の一パーセントたちに好かれたいと思っていた。」で早くも涙が出そうになった。
    同じジムで過ごす新次と健二の様子は微笑ましい以外の何者でもなかったし、健二はここで愛を知ることができるんだと思った。
    だけど、健二は新次に愛されていると思うことはついに最後までなかったのかな、と。
    だからこそ、ボクシングを通して、リングの上で殴り殺されることこそ愛されることだと思ったんじゃないか。きっと、健二は新次のことを愛してしまっていたのであって、健二の新次への愛は新次に愛されることで完成するものだと思っていたんじゃないか。
    薄れていく意識の中で、人生のたった2人の家族であったうち、「憎んだ」親父さんに対してさえ「俺はここにいます、だからどこにも行かないで」と思っていることや、新次のパンチが入るたびにそれを会話のように感じて喜んでいる様子があまりに切なくて、どうしてどうして、と思った。どうにかして、この本の中の健二を愛したいと本気で思うほどだった。

    映画のときに死亡診断書の名前が、お父さんの健夫なのか健二なのかわからないまま終わるシーンが頭に残ってとてもモヤモヤしていたけれど、本では直筆の診断書が載っていて、「二木健夫(20)」と表記があったことが1番ショッキングだった。
    ただ間違えたという説もあるみたいだけれど、命を失った後でさえ、正しい本名も伝えてくれる人がいないくらい、誰にも愛されることなく死んでいったと表す意図があったのか、ただ間違えたのだとしたら、著者だけでも健二を愛して欲しかったのに、と思えてならなくて、読み終わってしばらくは辛い気持ちが消えなかった。

  • 河出文庫版。烏が表紙のやつ。何年も積読やったんやけど、平成が終わる前に昭和の臭いしかしないこれを読み終えたぜ。
    この時代の新宿などわたしが知るはずないけど、路地裏なんかの換気扇の臭いがしてきそうな雰囲気。

    バリカンくんせつないなー。でもそれが彼の向き合い方で自己表現の仕方なんやな。
    バリカンくんと新次くんがどうやって親交を深めたのか、そこが掘り下げられればもっと面白かったと思うんやけど…群像劇っぽい感じだから、他の人の話読んでるうちにしらんまに仲良くなってた。

  • 寺山修司を初めてしっかり面白いと思った。全編通して、薄汚さ、下世話さみたいなものの漂う上にストーリーが乗っかってる。どちらを楽しむべきなのかよく分からないけど、話が純粋に面白くてなんとなくでも楽しめた。結局何もかも曖昧で終わるのかと思いきや、きっちり決着がつけられていて、その描き方に脱帽した。

  • 自由に軽やかにシリアスでいて軽薄にならない。
    すごいなと素直に思う作品だった。

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著者プロフィール

寺山修司(てらやま・しゅうじ):1935年、青森県生まれ。54年「チェホフ祭」で短歌研究新人賞特選を受賞、脚光を浴びる。早稲田大学教育学部在学中にネフローゼを発病、4年間の療養生活を送ったのちに劇団、演劇実験室「天井棧敷」結成。劇作家・演出家として活動するかたわら、映画監督、詩、小説、批評、歌謡、競馬評論など、国内外で様々な分野の才能を発揮した。83年5月、旺盛な仕事のさなかに逝去。

「2023年 『さみしいときは青青青青青青青』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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