夜よりほかに聴くものもなし 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041356739

作品紹介・あらすじ

東京で五十過ぎまで刑事生活一筋に生きてきた八坂は、ある日、車が母子を轢いた現場に遭遇する。居合わせた男の証言によって過失の事故と判明し、運転していた御曹司は無罪に近い判決を受けた。2年後、八坂は証言者が御曹司の運転手として働いているのを知る。その哀しき理由とは…(「証言」)。同情すべき事情、共感できる動機。犯罪者それぞれの背景に心揺れる八坂。だが、それでも…。哀愁漂う連作刑事ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 当初は、へー、という程度だった。
    山風が推理物書いてるんだあ、松本清張以降に社会派ミステリが流行ったからこんなムードなんだあ、と思った。

    三話目あたりから、いやこれは単なる社会派ミステリじゃないなと思った。
    やっぱり山風が書いたらぐっと引き込まれるし、短編なのにすごい長編を読んだかんじになる。
    書き方がうまいんですよ。

    60年代の作品なので、さすがに古いというところもあるけど、日本人の本質は何も変わっていない。
    犯罪の中抜き、声無き傍観者である大衆の持つ卑怯性、SNS自殺そっくりの状況など、普遍的な怖さがある。はっきり言えば日本人社会の怖さを書いている。
    そういう意味では山風らしい。
    この世は黒いし、これでもかと現実を突きつけるけど、八坂の逡巡の決め台詞に毎回少しの清々しさがある。
    うまいんだよねー。
    半七捕物帳の昭和版みたいなかんじ。

  • 著者のうまさが堪能できる短編集。すべて八坂刑事を主人公にした毎回同じフレーズで終わる10編が収録されている。とにかくうまい。けっこう複雑な状況をほんのわずかな文字数で説明し切る文章力もすごいし、途中でものの見方が変わってしまう構成力もすごい。しかもすべてに重い社会的なテーマを含んでいて味わい深い。ストーリー中に偶然という名のご都合主義は若干多いけれど、それも含んでほんと短編小説のお手本のような作品集。ジャンルは違うが、その意味合いで手塚治虫の漫画を彷彿とさせた。本物の職業作家ってのは本当にすごいな。

  •  犯罪者それぞれの背景に心揺れる一人の刑事を通して、哀愁漂う事件を描く連作ミステリー。

     犯罪の裏側に隠された悲しく切ない心の葛藤にページをめくる手が止まりませんでした。

     書かれた当時の世相を象徴しているような事件の裏側も描かれていて、今読むと当時の人々の息遣いが感じられるようでした。

     どの作品も最後に刑事の同じ言葉で締めくくられるのですが、その言葉の重みが最後に心に染み入るようでした。

  • *2023.10.12 感想追記

    『夜よりほかに聴くものもなし』山田風太郎 読終

    「それでも・・・」
    「おれは君に、手錠をかけなければならん」

    の台詞で締めくくられる老刑事・八坂が主人公の連作集
    あの山田風太郎(お色気忍術ものなどで有名)ということでどんなミステリなんだろうと思ったら

    まずタイトルが良い
    そして決め台詞が良い
    老刑事の長年の勘による着眼点が良い
    トリックが全て犯罪者の人間心理にあるところが良い
    人間考察が深いところも良い

    こんなに実直かつ硬質な しかし複雑な人間心理の綾を描く刑事推理物を書いていたとは知らなかった

    全十話の連作の犯罪はほぼ衝動殺人などではなく
    犯行に及ぶまで数ヶ月~数十年という月日を費やし執念深くそして周到に練られた計画が多い
    更に「法では裁けない」であろうと思われるものも少なくない
    そういう秘めた決意の犯人たちに何故か出会ってしまいふとした仕草や言動・または表情などから感じ取った違和感を頼りに事件の本質に迫っていく八坂刑事
    この八坂さんそれほど饒舌でないのだが犯罪に至るまでの犯人の心情を吐露させてしまう何かがあってそれは「罪を憎んで人を憎まず」といった解かりやすい温情のようなものではなく一種の諦めのようなものが垣間見えてそれが犯人たちを安堵させるような気がする

    そんなに感情移入する描写ではないのに思わず涙しそうになった話もあった
    (個人的には1話・7話・9話が好きかな・・・八坂さんと一緒にため息つきたくなったし)
    山田氏の他のミステリも読んでみたい

  • 老刑事が様々な動機を持つ被疑者にワッパをかける連作ミステリー。
    キメのセリフは同じだが、そこに至るパターンは千差万別。密度が濃いの短編というのが素晴らしい。

  • 定年間近の八坂刑事が狂言回しとなる連作形式の作品。「必要悪」、「敵討ち」など一つ一つタイトルが示す通り、各犯人が犯行に至った動機に重きを置いて描かれているため、ただ単に犯人が捕まってめでたしめでたし、にはならず、1作ごとに読者の心に切ない余韻を残す。

    毎回「それでも、おれは君に、手錠をかけなければならん」と八坂刑事が呟く心情を考えちゃいますよね。

  • 2015年6月12日読了。山田風太郎の現代を舞台にしたミステリ短編集。犯人が愛憎・善悪・法と正義などに悩み犯した殺人を、老刑事八坂が解決していく八編の短編を収録。各編は東野圭吾だったらそれぞれ長編を1作ずつ書けそうな重いテーマで、こんな薄い文庫本にまとめてしまうとは、と贅沢感が半端ない。風太郎の連作短編の常で、最終話で今までの話の裏をすべて覆す驚きが待っているのか、と思っていたら本作ではそれはなかった。ま、なんでもかんでもどんでん返しがあればいいというものではないし、この作品でそれをやると「今までの話の余韻はなんだったのか」という話にもなりそう、ここは作者のバランス感覚がすぐれていると言えるところだろうか。

  • 本格ミステリと呼ばれるものは、動機に弱く、リアリティに欠ける。という批判が現れ、松本清張を筆頭に社会派ミステリが隆盛を築いた時代に、本格ミステリの一角を担う山風が、あえて特異な動機にのみ焦点を当てたこの連作短編集を出した姿勢に、まず敬意を表したいと思います。
    各短編の動機は、側からみれば異様、対価に見合わない、と思われるようなものかもしれません。
    しかし、あくまで外側からはそう見えるというだけであって、本人にとっては、如何ともし難い問題。人を殺してでも訴えたいものがあるということです。
    動機にリアリティなんてものは存在するのでしょうか?そもそも万人が納得するリアリティのある動機などあり得るのでしょうか?
    そんな問いかけが、作中から伝わってくるようでした。
    様々なタイプの動機を書き分けたこの短編集。
    胸に強く響く短編が1つはあることと思います。

  • 古さはいいんです。

    なんといっても60年代の作品なんだから、そりゃ、生活観や年齢観や風俗が古くなっていて当たり前。そんなことはいい。

    でも、
    体が不自由→不幸、とか、
    強姦されたら→夫にも言わないほうが互いの幸せ、とか、
    そういう価値観の古さが気になってしまって。。。

    でも、そこじゃないんだろうなあ。そんなことを思っているようじゃ、山田風太郎の読者失格なんだろうなあ。ゴメンナサイ、としか言いようがない。

    タイトルは素晴らしく秀逸。
    決めゼリフも素晴らしい。
    もっと読みたい、山田風太郎。

  • 「敵討ち」のラストにハッとさせられた。切ないなあ。

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著者プロフィール

1922年兵庫県生まれ。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞、97年に第45回菊池寛賞、2001年に第四回日本ミステリー文学大賞を受賞。2001年没。

「2011年 『誰にも出来る殺人/棺の中の悦楽 山田風太郎ベストコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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