むごく静かに殺せ (角川文庫 緑 365-16)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041365168

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  • "事故処理屋"星名五郎を主人公とした森村最初期の異色サスペンス連作集9編。星名は"事故処理屋(「トラブルエイジェント」と読む)"を名乗るが、その実体は殺し屋である。「退屈で仕方がないので自分をむごく静かに殺してほしい」なる特殊な依頼もあるが、多くは恨みを晴らしてほしいというもの。この男、虚無的でビジネスライクではあるが、金さえ貰えば誰でも殺す冷血漢とは必ずしもいえない。端々で義理堅さや人間味も垣間見せる。殺さずに依頼を遂行することもあるし、その逆に依頼主の求めに応じて、手間暇と費用をかけて残酷に葬ることもある。当世風にいえばアンチヒーローといったところか。現実味より娯楽性を重視した作品であり、漫画原作でも通用しそうだ。

    ヨットの専門誌『スタッグ』に連載され、昭和44年に単行本が刊行された。本作のような病的な登場人物ばかりの暗色調の小説が、健全なスポーツ誌に連載されていたのは不思議だが、当時としては普通だったのかも知れない。第七章「白鳥焼身」はヨット乗りが登場する。後年『人間の証明』などによってベストセラー作家となり、本作の文庫化を勧められた際、作者には一縷の逡巡があったという。初期の荒削りの作品だったからだろう。だが実際に文庫化されるとたちまち100万部を突破。読者と作者の評価の乖離に驚かされたという。同じく角川によって後押しされ、超人気作家となった横溝正史も同様の経験をし、同様の感想を漏らしたりしている。当時の森村の人気度と角川文庫の隆盛が窺える。

  • 殺し屋・星名五郎が主人公の短編オムニバス。普通、私立探偵でやりそうなシリーズを、殺し屋でやったというような作品。

    森村誠一の代表作扱いになっている割に、ドラマや映画化もされていなかったので読んでいなかった。短編集というところでちょっと意外。

    全体に、ミステリのような謎解きをするわけでもないので、展開は早い。だからといって手を抜いているわけではなく、オチ(殺し方)に対して、非常に細かく調査して書いている当たりは好感。「メチルシアノアクリレートだ!」とか、森村誠一らしい。普通そんなの書かなくて良い。

    しかしながら、2つの不満。

    なんというか、「星名五郎」が薄っぺらいのだ。クールでニヒルなのはわかるけど、ちょっとはピンチになったり、しがらみからドロドロしたものがあったりしても良いんじゃないのかね。漫画っぽくて軽いのが売りなのかもしれないが。

    もう一つはいつものやつ。何でもかんでもエロ、シモ、妊娠云々の方向に持って行かないと、怨嗟を描けないのはいかがなものか。「大人向け」=「エロ」というのが、この時期の森村作品なのだろうか。

    電子書籍向き。

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著者プロフィール

森村誠一
1933年1月2日、埼玉県熊谷市生まれ。ホテルのフロントマンを勤めるかたわら執筆を始め、ビジネススクールの講師に転職後もビジネス書や小説を出版。1970年に初めての本格ミステリー『高層の死角』で第15回江戸川乱歩賞を受賞、翌年『新幹線殺人事件』がベストセラーになる。1973年『腐触の構造』で第26回日本推理作家協会賞受賞。小説と映画のメディアミックスとして注目された『人間の証明』では、初めて棟居刑事が登場する。2004年に第7回日本ミステリー文学大賞受賞、2011年吉川英治文学賞受賞など、文字通り日本のミステリー界の第一人者であるだけでなく、1981年には旧日本軍第731部隊の実態を明らかにした『悪魔の飽食』を刊行するなど、社会的発言も疎かにしていない。

「2021年 『棟居刑事と七つの事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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