少女地獄 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 5371
感想 : 429
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041366059

感想・レビュー・書評

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  • 表題は3篇を含む若い女性を主人公とした書簡体小説。その他の短篇と合わせ、実質6篇の短篇集。約260頁。

    「何んでもない」(少女地獄)
    耳鼻科医の臼杵から同業の白鷹へと送られた手紙から、開業したばかりの臼杵のもとで看護婦を志願した美しい姫草ユリ子が巻き起こした事件の顛末が語られる。病的な嘘つきのユリ子はいわば承認欲求の塊ともいえる。言葉遣いや雰囲気は時代差もあって現実離れしているが、テーマとしては今日的で身近に読める。臼杵と同じく、ユリ子を憎むような気持ちは起こらず、哀れを感じた。

    「殺人リレー」(少女地獄 P97~)
    バスの女車掌であるトミ子が、同じく女車掌になりたい希望をもつ友人への手紙という形でトミ子の身に迫った危険が綴られる。はじめに、トミ子の別の友人であるツヤ子からトミ子への手紙が紹介され、恐ろしい裏の顔をもつある男についての警告にはじまる。少し尻すぼみな印象。

    「火星の女」(少女地獄 P120~)
    冒頭は手紙ではなく、女子校の廃屋に近い物置の火事跡での少女の焼死体の発見と、直後に起きた同校の校長の失踪し、女教諭の自死、教頭による学園の資金持ち逃げといった一連の事件を報じる新聞報道にはじまる。つづいて、焼死した張本人である「火星の女」こと甘川歌枝の遺書によって、歌枝が死を決意するにいたるまでに起きた出来事と学園の暗部が明るみに出る。かなり動きが大きく、かつ後味の悪い作品。

    「童貞」
    肺病で死にかけて街をさまよっている若い男が、偶然から話しかてすぐに去っていった幻のような女性に一目ぼれをする話。明確なオチもなく、本書中もっとも不思議な作風。主人公が童貞であることはあまり内容に関係ない気もする。

    「けむりを吐かぬ煙突」
    新聞記者である主人公による事後の独白。記者の男は世間で評判の良い未亡人を疑い、周囲を嗅ぎまわっている。夫の死後、未亡人が住む邸宅の図書館には煙突が取り付けられていたのだが、その煙突が冬のあいだに煙を吐くことは一度もなかった。記者は家政婦を手がかりに、未亡人の身辺に関するある証言を手に入れる。ミステリに分類できる作品は、未亡人の謎とあいまってバランスの良い一篇と思える。

    「女坑主」
    元女優であり、妾から本妻に取って代わったあとに夫の急死によって炭坑主となった新張眉香子を中心に据えた作品。主人公である青年は、政府の指示により海外で敵国の対立を誘発する目的でダイナマイトを所望するために、眉香子のもとを訪れている。豪放な眉香子はこれを快諾するのだったが、青年を引き留めて帰そうとはしない。眉香子の劇画的なキャラクター描写を味わうための作品。

    著者作品を読むのは今回がほぼ初めてだった。過去に読んだなかでは江戸川乱歩に近く、寓話的な乱歩の作品をリアル寄りに詳細化した作風という印象をもった。ストーリーの特徴としては、「童貞」を除いてはいずれも、ワイドショーが喜んでネタにしそうな事件を扱っているという点で共通している。姫草ユリ子をはじめ、全般に女性キャラクターの描かれ方に強い印象が残る。会話文をはじめとして作品に漂う雰囲気から、過去の日本をノスタルジックに体験する楽しみもある。

  • 短編集。『少女地獄』が読みたくて。
    可憐で看護師として天才的な手腕を見せる少女・姫草ユリ子。「無鉄砲とも無茶苦茶とも形容の出来ない一種の虚構の天才である彼女」は嘘を嘘で重ね、言い逃れのできないところまで突き進んでいきます。

    医師で語り手の白杵もその妻も、彼女に惑わされ混乱させられた言わば被害者です。しかし妻をはじめ周囲は彼女の不思議な魅力に魅せられ、怒りを見せるどころか許し世話を焼こうとします。

    ユリ子のまるで悪気のない「純真無垢」な振る舞いと「天才的虚構」に読者も翻弄されます。最後まで読み、たしか冒頭で既にユリ子は……と思い出しつつも、何故か腑に落ちません。知らない土地で、小悪魔的微笑を醸しながら天真爛漫に逞しく生きる彼女をつい想像してしまいます。

  • やっと読了。昔買った本だが、挫折してたかも…記憶がない。少し贔屓目にみてなかなかでした。カタカナ使いも雰囲気がある。登場する女子たちを想像して(特に童貞)おかしくなった。

  • 狂気と儚さが共存している感じがクセになる。
    ドグラ・マグラを読んで、衝撃受けてから欲するようになった作家。
    「本当」に触れてるようで、触れられてはいない感じがハマる。中毒性あり。

  • 角川文庫の限定カバーに惹かれて手に取りました。
    ドグラ・マグラが大好きなのですが、夢野久作はこういう「如何して事件が起きたのか」よりも「事件を起こすに至る心理」の描写が非常に上手だなと感じました。

    本書に於いては、全篇に於いて女性の狂気を取り上げている内容でしたが「恐ろしさ」「醜さ」よりも
    私個人が女性だからということもありますが「女性の強さ」を夢野久作のメッセージとして感じ取りました。

    男尊女卑などという言葉もありますが、今でこそ社会的立場が確立されつつある女性に対して
    本作が発刊された時代などはまだまだ男性優位であったことと思います。
    「火星の女」は今ではセクハラに該当するような話ですし、女車掌や女炭坑主など女性が輝く未来を象徴しているかのように思えました。
    この時代に強い女性を描写したこと自体が前衛的で
    やはりとんでもない才能の持ち主だなと改めて感じました。

  • 美しいと醜いは似てるのかもしれない。

  • もっと古臭くて読みづらいかと思ったけど全然そんなことなくて面白かった。
    特に表題作の中の「何でも無い」と「殺人リレー」が良かった。姫草ユリ子みたいな娘がほんとにいたらちょっと怖いけど、何故だか人を惹きつける魅力があるんだろうなぁと思った。
    遺書が十二月三日の日付になってるのもよかった。
    なんだかユリ子には生きていて欲しいなぁと思った

  • 初・夢野久作

    想像していたより読みやすく世界観も好きだった。

  • さて嘘とはどういうものか。少女地獄にはびこるのは嘘、虚構、欺瞞。果たして嘘つきは、嘘をつくことができるのだろうか。嘘をつくためには嘘が嘘であるという点が真実でなければ嘘になりえない。
    そんな嘘をつきとおす正直者たちが紡ぐ3つ物語。この3つが何の脈絡なしに並んでいるとしたら、なぜ地獄になるのか。ひとつの嘘という真実がこの3つを貫いているのだ。火星の女は姫草ユリ子の手紙を届ける者として、素性を偽るバスの男運転手として、姫草ユリ子は殿宮アイ子として、友成トミ子として転生する、まるでそれは地獄のよう。どこにもない虚構の世界だから、どこにでも生まれえる。地獄とは無限の転生のことなのだと思う。
    『童貞』『けむりを吐かぬ煙突』はグロテスクなもので煙に巻いているが、純真であることや理想というものは、最も穢れていることに等しいということのアイディアスケッチのように感じられる。清浄と汚濁とはコインの裏表である。どちらも単一には存在しえない。それをたまたま、男女という性別に背負わせている。男女の埋めがたい断絶ではなくて、この清浄と汚濁が等しく互いを維持しているということを性別に役割として振る舞わせている。彼らが背負った役目こそが、埋めがたい断絶なのだ。
    『女坑主』は恐らく外向けというか何かテーマが与えられて書いたもののように感じられる。語りも構図も夢野にしては単純で、実に何の含みもなくめぐらされた陰謀が展開していく。彼の場合、大衆小説を書いて売る気になれば多分どうにでもなったのだろう。小説家として売れることより、考えることに生まれついてしまっているから、彼の生み出す世界は独自にことばとして息づいている。

  • 15.05.06
    青空文庫なので、「童貞」は読めてない。
    好きなんだよなあ、この作風、言葉選び、テンポ、ストーリー。夢野久作の作品はどの女性も特徴的で、危うくて、怖くて、でも可愛らしさがあって、悲しくて、すごく魅力的なんだなあ。

    少女地獄(「何でも無い」「殺人リレー」「火星の女」)、「けむりを吐かぬ煙」、「女坑主」どれも好き。
    飛び抜けて好きなのは「火星の女」かなあ。映像化して欲しいくらい。切実で息苦しくて悲しい話。
    少女地獄はすべて書簡式なのも好き。夢野久作の作品だとよくあるけど、語りかけてる書き方、すごく好き。普通より綺麗に感じる。

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著者プロフィール

1889年、福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇味と幻想性の色濃い作風で名高い。1936年歿。

「2022年 『人間腸詰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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