母 (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店
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本棚登録 : 931
感想 : 101
  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041437179

作品紹介・あらすじ

「わだしは小説を書くことが、あんなにおっかないことだとは思ってもみなかった。あの多喜二が小説書いて殺されるなんて…」明治初頭、十七歳で結婚。小樽湾の岸壁に立つ小さなパン屋を営み、病弱の夫を支え、六人の子を育てた母セキ。貧しくとも明るかった小林家に暗い影がさしたのは、次男多喜二の反戦小説『蟹工船』が大きな評判になってからだ。大らかな心で、多喜二の「理想」を見守り、人を信じ、愛し、懸命に生き抜いたセキの、波乱に富んだ一生を描き切った、感動の長編小説。三浦文学の集大成。

感想・レビュー・書評

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  • 「蟹工船」を書いた小林多喜二が
    こんなにも素直で、底なしに優しく、バカがつくほどの真面目であったのかと
    そこに驚かずには居られなかった。
    そしてこの多喜二を育てた母の天性のおおらかさ、
    苦労を重ねてきながら少しもいじけたり、ひねくれたりしていない
    明るく穏やかで情け深いその性質に
    「ああ、こんな人間がいるのか、こんな家族があるのか」と
    深く感じ入ったのである。

    私にとってはこの小説のメインは
    未洗礼だろうが、キリストを知らなかろうが、
    貧しかろうが、学がなかろうが
    美しく優しい、正直な心を持った人間がいた、という部分にある。
    そしてその人間が営んだ家庭だからこそ、
    経済的には豊かになれなくとも、こころは世界で一番豊かで、
    おもいやりに満ちた美しい家族が育まれたのであろう。

  •  自身の誕生日にこの作品を読み終えたことがとても感慨深いです。
     物語の語り手やその時代に生きた人々の『苦』を想像すれば自分の人生で感じた悩みや苦労の小ささを知ることができ、彼らの『苦』の万分の一をも満たしていないことを思い、胸中の受け皿がよりいっそう大きくなったことを実感しています。
     本当の『強さ』『やさしさ』『幸せ』について、もう一度零から見つめる決意を固めました。

     一文だけ引用させていただきます。

    「誰だって、隣の人とは仲よくつき合っていきたいんだよね。うまいぼた餅つくったら、つい近所に配りたくなるもんね。むずかしいことはわからんども、それが人間だとわだしは思う」

    この中の『つい』が今までの、そしてこれからの自分の心の中に[在る]ことを信じて

  • 何と素朴で優しい人だろう・・・とこれを読んで思いました。
    この物語の主人公で語り部の母のことです。
    その母とは小説家、小林多喜二さんの母、セキさんのこと。
    13歳で農家に嫁ぎ、その後主婦として母として、ただただ愚直に正しい道を生きた女性の追想からなる物語。

    母の口から語られる小林多喜二は親孝行で働き者、正しい心根をもち、誰よりも強い意志をもつ人でした。
    常に社会的に恵まれない人の立場に立ち、小説を書いた。
    そしてそれが元で命をなくしてしまった。
    あまりにも無残な拷問という形で-。
    それを見た母のあまりの衝撃。
    それを思うと胸がつまります。
    親孝行な息子だけど、最後にはとんでもない親不孝をしてしまった。
    正しい道を選んだが故に。
    それがとても悲しい。

    セキさんは13歳で嫁ぎ貧乏な中、苦労をしてきた女性ですが、それでも自分よりも恵まれない人への愛情をもっているというのが素晴らしいと思いました。
    だからこそ、小林多喜二のような思想をもった息子が育ったのだと思う。
    文字の読み書きができない事を恥じ、こんな母親は息子に何もしてやれんと思う場面がありますが、それよりもずっとずっと人間として大切なものをこの人はもっている。

    だけどそんな人もあまりにもむごい息子の死に神を呪います。
    しかし、それがやがて信仰の道へ進むきっかけとなるのです。
    世の中って、何がきっかけになり、どうなるか分からない。
    今の時代に、ただシンプルに単純に素朴に生きることは難しい。
    だからこそ、同じ女性としてセキさんに憧れ、こんな風に生きたいと思いました。

  • 多喜二のすること信用しないで、誰のすること信用するべ

    母さんはいい母さんだ。体はちんこいけど、心のでっかい母さんだ。

    そんな会話ができる子育て、素晴らしい。学歴じゃない!

  • 小林セキという小林多喜二の母の話。義理の兄の借金などで、ひどい貧乏に暮らしてきたが、そんな義兄もパン屋で当たって、小樽で夫婦で手伝うことになった。パン屋には、人夫たちも多くやってきて、苦労話や身の上話を手拭いで涙を拭き拭き語っていく。そんな人の話を聞いてあげることはとても良いことなんだと感じたものだという。
    多喜二は拷問の末に命を落とすが、本書が一定の明るさというか、ほのぼのしさが漂っているのは、小林一家が非常に明るい、貧乏だけど底なしに明るい一家だったからだろう。
    貧乏で暮らしが苦しい描写がおおいものの、親と子と兄弟と親戚と、その夫婦と、お互いに気持ちの通いあった者同士がいたのが救いだった。

  • 罪と罰、善悪、赦し・赦される者は幸い。

  • 小林多喜二の母・セキさんが生涯を語り聞かせる形を取った物語。
    高齢の方が語って聞かせる昔話というのは、文章で読んでも、ゆったりと、しみじみと、染み込まれていくように感じるものなのだろうか。
    文中でも語られているが、話が前後したり、同じことを繰り返したりというのはある。物語ならば読みにくいと感じるところだが、おばあちゃんが語る話ということで、すんなりと受け入れられた。

    小林多喜二についての予備知識は何もなかったのだが、読み進めるごとに、こんな明るくマジメで、家族思いの人だったのかと知って、胸が温かくなった。
    そんな息子が、あんな惨い死に方をするなんて。
    セキさんがたびたび嘆き、白黒つけてほしいと願った気持ちを思うと、たまらなくなる。

    あらためて、蟹工船など、小林多喜二の本を読みたくなった。

  • 小林 多喜二の母の物語。
    母の愛、無償の愛に感動しました。
    小林 多喜二などの人物、時代背景などの予備知識無しでも
    読み進めることができるのでお勧めです。

  • かの『蟹工船』作者、小林多喜二氏の母の物語。
    とにかく純粋かつ真っすぐ、そして計り知れないほどの愛が伝わってくる小説です。この本を読んだ後に『蟹工船』を読んでみても良いのかも。
    この本を読んだのは高校生の頃でしたが、母・セキさんによるおばあちゃん口調で進められるので非常に読みやすく、感情が入りやすくなっています。

  • 獄中で非業の死をとげた小林多喜二の母セキが自身の生涯を聞かれ、その中で家族や社会、貧しさゆえの苦悩、心のあり方を優しげな方言で実に素直に語る物語だ。小賢しい教育からは生まれない、素の感じ方には刺激される。

    多喜二さんが繰り返す「世の中に貧しい人がいなくなって、みんな明るく楽しく生きられる世の中にしたい」 という言葉を同じように願う母。貧しく余裕のない生活でも笑いや歌が常にある家庭を営み、貧しさを恨むよりは、その中でさえより困った人に手を貸そうとする無類の強さ。売られた娘タミちゃんを引き取り、息子の嫁に……と考えられる本物の人格者。

    キリスト教徒には、多喜二の活動と死がキリストのそれに薄く重なる部分もあり、特別の思いとして読めるかもしれない。小説ではあるけれど、登場する人々がそれぞれに美しい気性を見せる。良き人の周りには、また良き人が集まるということか……。

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著者プロフィール

1922年北海道旭川市生まれ。小学校教師、13年にわたる闘病生活、恋人との死別を経て、1959年三浦光世と結婚し、翌々年に雑貨店を開く。1964年小説『氷点』の入選で作家デビュー。約35年の作家生活で84にものぼる単著作品を生む。人の内面に深く切り込みながらそれでいて地域風土に根ざした情景描写を得意とし〝春を待つ〟北国の厳しくも美しい自然を謳い上げた。1999年、77歳で逝去。

「2021年 『残像 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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