母 (角川文庫 み 5-17)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041437179

感想・レビュー・書評

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  • 「蟹工船」を書いた小林多喜二が
    こんなにも素直で、底なしに優しく、バカがつくほどの真面目であったのかと
    そこに驚かずには居られなかった。
    そしてこの多喜二を育てた母の天性のおおらかさ、
    苦労を重ねてきながら少しもいじけたり、ひねくれたりしていない
    明るく穏やかで情け深いその性質に
    「ああ、こんな人間がいるのか、こんな家族があるのか」と
    深く感じ入ったのである。

    私にとってはこの小説のメインは
    未洗礼だろうが、キリストを知らなかろうが、
    貧しかろうが、学がなかろうが
    美しく優しい、正直な心を持った人間がいた、という部分にある。
    そしてその人間が営んだ家庭だからこそ、
    経済的には豊かになれなくとも、こころは世界で一番豊かで、
    おもいやりに満ちた美しい家族が育まれたのであろう。

  • 何と素朴で優しい人だろう・・・とこれを読んで思いました。
    この物語の主人公で語り部の母のことです。
    その母とは小説家、小林多喜二さんの母、セキさんのこと。
    13歳で農家に嫁ぎ、その後主婦として母として、ただただ愚直に正しい道を生きた女性の追想からなる物語。

    母の口から語られる小林多喜二は親孝行で働き者、正しい心根をもち、誰よりも強い意志をもつ人でした。
    常に社会的に恵まれない人の立場に立ち、小説を書いた。
    そしてそれが元で命をなくしてしまった。
    あまりにも無残な拷問という形で-。
    それを見た母のあまりの衝撃。
    それを思うと胸がつまります。
    親孝行な息子だけど、最後にはとんでもない親不孝をしてしまった。
    正しい道を選んだが故に。
    それがとても悲しい。

    セキさんは13歳で嫁ぎ貧乏な中、苦労をしてきた女性ですが、それでも自分よりも恵まれない人への愛情をもっているというのが素晴らしいと思いました。
    だからこそ、小林多喜二のような思想をもった息子が育ったのだと思う。
    文字の読み書きができない事を恥じ、こんな母親は息子に何もしてやれんと思う場面がありますが、それよりもずっとずっと人間として大切なものをこの人はもっている。

    だけどそんな人もあまりにもむごい息子の死に神を呪います。
    しかし、それがやがて信仰の道へ進むきっかけとなるのです。
    世の中って、何がきっかけになり、どうなるか分からない。
    今の時代に、ただシンプルに単純に素朴に生きることは難しい。
    だからこそ、同じ女性としてセキさんに憧れ、こんな風に生きたいと思いました。

  • 朗読会の作品として取り上げられていたため、読んでみたかった。
    三浦綾子作品はほぼ読んだつもりだったが、知らなかった。
    蟹工船の作者である小林多喜二の母セキの物語。
    セキが自分語りをする中で浮かび上がる、貧しさと明るさ、清らかさ。
    7人産み3人が亡くなる。そのうちの一人が次男である多喜二。多喜二が身請けしたタミちゃんのこと。

    日本一の小説家でなくていいから、朝晩のごはん、冗談を言い蓄音機を聞きぐっすり眠る、そんな夢も叶わなかった

    もちろん時代も違うけど幸せの基本はここにあると痛感する。多喜二が警察で拷問を受け亡くなったとき、
    私は多喜二だけの母親ではない、と生き続けたこと。
    産んだ子を失う、それだけで十分に辛い。それが3人、そして一人は拷問を受ける。それを忘れはしないが、キリスト教の教えと、子ども、周りの人に支えられ生きていく様子が目に浮かぶ。
    作中、いくつか疑問に思うこともあったが、それ以上の
    『母』。

  • 罪と罰、善悪、赦し・赦される者は幸い。

  • 「シルバーミウラー」まで残すところこの一冊だったので読み始めたのだけど、この作品に限らず三浦綾子作品は読後感が気持ちいい。何か得られたような、希望が持てるような気がする。読むというより、おばあちゃんのお話を聞いている感じだった。

  • 小林 多喜二の母の物語。
    母の愛、無償の愛に感動しました。
    小林 多喜二などの人物、時代背景などの予備知識無しでも
    読み進めることができるのでお勧めです。

  • 獄中で非業の死をとげた小林多喜二の母セキが自身の生涯を聞かれ、その中で家族や社会、貧しさゆえの苦悩、心のあり方を優しげな方言で実に素直に語る物語だ。小賢しい教育からは生まれない、素の感じ方には刺激される。

    多喜二さんが繰り返す「世の中に貧しい人がいなくなって、みんな明るく楽しく生きられる世の中にしたい」 という言葉を同じように願う母。貧しく余裕のない生活でも笑いや歌が常にある家庭を営み、貧しさを恨むよりは、その中でさえより困った人に手を貸そうとする無類の強さ。売られた娘タミちゃんを引き取り、息子の嫁に……と考えられる本物の人格者。

    キリスト教徒には、多喜二の活動と死がキリストのそれに薄く重なる部分もあり、特別の思いとして読めるかもしれない。小説ではあるけれど、登場する人々がそれぞれに美しい気性を見せる。良き人の周りには、また良き人が集まるということか……。

  • 12月から少しずつ読んでいた三浦綾子『母』、ようやく読了。
    小林多喜二の母、小林セキさんが、自分の一生を、自分の言葉で人に語る、というスタイルで書かれている。
    読んでいるときは、綾子さんが直接セキさんから話を聞いて書いたものと思っていたけれど、年譜を見ればセキさんは1961年に亡くなっている。これは、資料を読み込み、関係者への取材を重ねて、綾子さんが創作した小説なのだ。
    1982年頃、夫の光世さんが、「小林多喜二の母を書いてほしい」と綾子さんに頼んだのが始まりだった。キリスト者の苦難を多く書いてきた綾子さんだが、多喜二の思想や人物にうとい自分にはとても書けないと戸惑ったという。それでも光世さんの熱意に応える形で、数年後には資料を調べ始め、十年後、ついに書き上げられた。ちょうど、綾子さんがパーキンソン病と診断された頃で、口述に難儀するようになる直前だったという。
    セキさんの語り口は、秋田方言と北海道の浜弁をミックスしたような言葉だったというが、これは、綾子さん自身の祖母が秋田生まれで小樽に長く住んだ人であったことから、ほぼ自然に再現された。
    あとがきで綾子さんは、「こうして取材が始まった。調べるに従って、第一に私の心を捉えたのは、多喜二の家庭があまりにも明るくあまりにも優しさに満ちていたことだった」と述べている。

  • 多喜二の母がご自身、多喜二のことを語るのを三浦綾子さんを通して書かれている。明治期〜戦前の様子がよく分かる。人と人の繋がりも今よりも濃厚だったのだなぁ。悲しみの中に優しさが溢れている本でした。

  • 多喜二のお母さんの方言の語り口、すこぶる良かった。美しい日本語ってこういうのなんじゃないだろうかと、思った。多喜二もすごいしお母さんもすごい。最後はちょっと泣いた

著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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