- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041437179
感想・レビュー・書評
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「蟹工船」を書いた小林多喜二が
こんなにも素直で、底なしに優しく、バカがつくほどの真面目であったのかと
そこに驚かずには居られなかった。
そしてこの多喜二を育てた母の天性のおおらかさ、
苦労を重ねてきながら少しもいじけたり、ひねくれたりしていない
明るく穏やかで情け深いその性質に
「ああ、こんな人間がいるのか、こんな家族があるのか」と
深く感じ入ったのである。
私にとってはこの小説のメインは
未洗礼だろうが、キリストを知らなかろうが、
貧しかろうが、学がなかろうが
美しく優しい、正直な心を持った人間がいた、という部分にある。
そしてその人間が営んだ家庭だからこそ、
経済的には豊かになれなくとも、こころは世界で一番豊かで、
おもいやりに満ちた美しい家族が育まれたのであろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
罪と罰、善悪、赦し・赦される者は幸い。
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「シルバーミウラー」まで残すところこの一冊だったので読み始めたのだけど、この作品に限らず三浦綾子作品は読後感が気持ちいい。何か得られたような、希望が持てるような気がする。読むというより、おばあちゃんのお話を聞いている感じだった。
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小林 多喜二の母の物語。
母の愛、無償の愛に感動しました。
小林 多喜二などの人物、時代背景などの予備知識無しでも
読み進めることができるのでお勧めです。 -
獄中で非業の死をとげた小林多喜二の母セキが自身の生涯を聞かれ、その中で家族や社会、貧しさゆえの苦悩、心のあり方を優しげな方言で実に素直に語る物語だ。小賢しい教育からは生まれない、素の感じ方には刺激される。
多喜二さんが繰り返す「世の中に貧しい人がいなくなって、みんな明るく楽しく生きられる世の中にしたい」 という言葉を同じように願う母。貧しく余裕のない生活でも笑いや歌が常にある家庭を営み、貧しさを恨むよりは、その中でさえより困った人に手を貸そうとする無類の強さ。売られた娘タミちゃんを引き取り、息子の嫁に……と考えられる本物の人格者。
キリスト教徒には、多喜二の活動と死がキリストのそれに薄く重なる部分もあり、特別の思いとして読めるかもしれない。小説ではあるけれど、登場する人々がそれぞれに美しい気性を見せる。良き人の周りには、また良き人が集まるということか……。 -
12月から少しずつ読んでいた三浦綾子『母』、ようやく読了。
小林多喜二の母、小林セキさんが、自分の一生を、自分の言葉で人に語る、というスタイルで書かれている。
読んでいるときは、綾子さんが直接セキさんから話を聞いて書いたものと思っていたけれど、年譜を見ればセキさんは1961年に亡くなっている。これは、資料を読み込み、関係者への取材を重ねて、綾子さんが創作した小説なのだ。
1982年頃、夫の光世さんが、「小林多喜二の母を書いてほしい」と綾子さんに頼んだのが始まりだった。キリスト者の苦難を多く書いてきた綾子さんだが、多喜二の思想や人物にうとい自分にはとても書けないと戸惑ったという。それでも光世さんの熱意に応える形で、数年後には資料を調べ始め、十年後、ついに書き上げられた。ちょうど、綾子さんがパーキンソン病と診断された頃で、口述に難儀するようになる直前だったという。
セキさんの語り口は、秋田方言と北海道の浜弁をミックスしたような言葉だったというが、これは、綾子さん自身の祖母が秋田生まれで小樽に長く住んだ人であったことから、ほぼ自然に再現された。
あとがきで綾子さんは、「こうして取材が始まった。調べるに従って、第一に私の心を捉えたのは、多喜二の家庭があまりにも明るくあまりにも優しさに満ちていたことだった」と述べている。 -
多喜二の母がご自身、多喜二のことを語るのを三浦綾子さんを通して書かれている。明治期〜戦前の様子がよく分かる。人と人の繋がりも今よりも濃厚だったのだなぁ。悲しみの中に優しさが溢れている本でした。
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多喜二のお母さんの方言の語り口、すこぶる良かった。美しい日本語ってこういうのなんじゃないだろうかと、思った。多喜二もすごいしお母さんもすごい。最後はちょっと泣いた