神々の埋葬 (角川文庫)

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著者 : 山田正紀
  • KADOKAWA (1979年6月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041446065

神々の埋葬 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  • かつてのレビュー。
    こんな長くてまじめな文、よく書いてたなあ。

    単行本も文庫本も絶版だけれど、筒井康隆が絶賛していたので、
    図書館で探して読みました。

    インドのモヘンジョーダロ(死者の町)が滅びた経緯の
    推測(注1)、モヘンジョーダロからの出土品がほかの遺跡同様
    印章だったことなど、「面白いけれどまさか嘘だろう」と
    思いつつ調べてみると、ほんとうにそのとおりで
    目から鱗なことがたくさんありました。


    さて、山田氏の推測だと、仏陀が肉食を禁止したのは、
    仏教の母胎であるタントリズムが生贄祭儀を行って
    いて、破壊的だったことを憎悪して、肉食を禁止したのでは
    ないかということで、仏陀の思想や信仰の流れ、
    歴史的な関係から仏陀の思想や戒律を考えることは
    とても興味深いことでした。
    現在、多くの場合、インド思想史を読むと、タントリズムは
    紀元7世紀に仏教の中の密教として顕れたような印象を
    受けますが、実は上述の注1にあるように、タントラが先で、
    そこからバラモン教や出家というものが生まれ、その
    延長線上に仏陀がいるのです。

    モヘンジョーダロには偶像崇拝の習慣の後がなく、
    神殿に類する建造物が発見されてないことや、
    当時たくさんの城、城塞を破壊していた「城塞破壊者
    (ブランダラ)」(破壊神インドラの別名とみなされている)が
    ヴェーダ聖典の記述によると、「鼻が低く、皮膚が黒く、
    理解することのできない言語を喋っていた」というのも
    「神」と呼ばれていたものが何者だったのか、
    興味深いヒントになりました。

    また、共同浴場とされている場所にヤントラがあることも。
    わたし自身がかつて、やはり死滅した町、イタリアの
    ポンペイを訪れたとき、共同浴場とされている場所が
    ルネサンス期のローマの聖堂そっくりなことに首を
    かしげました。
    以来、浴場が宗教と関係あったのか、または浴場と
    たんに言われているだけで、ほんとうは宗教的な場だった
    のではないか、そんなことを考えていたのです。

    山田氏はさらに、宇宙の法(ダルマ)は人類を
    徹底して疎外している、といいます。
    「抑制性シナプス電位」こそが世界や自然が人類に
    無慈悲な理由だ、いや無慈悲とすらいわない、法(ダルマ)は
    機械的に一片の関心すら払わずに人類を虐殺しているのだ、と。

    SF作家のこうした神論、宗教論は時に面白い視点を
    教えてくれて、新たな角度から物事を見られるようになるので、
    好きです。

    ストーリー自体はいま話題の川内康範氏原作の
    レインボーマンのような「超越者の苦悩」がテーマ
    でしたが、この小説はストーリーよりは舞台設定、
    世界観が面白かったです。

     

    注1
    http://home.att.ne.jp/green/nirvana/tantra.htm
     インダス文明は紀元前3000年頃に興った。タントリズムの源泉は、ここまで溯(さかのぼ)るべきだろう。*モヘンジョダロ遺跡でシヴァ神の原型と見られる石像彫刻が発見されたが、その頃すでにヨーガの原型は出来ていたと誰でも推測できよう。

     紀元前1500年(前16世紀)頃、インダス文明は勢力を失い、すでに衰亡に向き始めていた。そこへ放牧民族*アーリヤ人が、イランとパンジャブへ侵入し始めた。彼らの宗教は、供物、生けにえを*聖火に投げ入れ、特別な*酒(ソーマ)を神に捧げ、福徳を得ようとした。アーリヤ人は次第に先住民族を奴隷化(隷民に)し、農耕生産の増大と高効率化、社会の安定を計り支配下においた。王権が強大化し、祭祀者階級(バラモン)を頂点に*カーストの原型が出来つつあった。
     紀元前1000年頃になって、アーリヤ人はパンジャブ地方からガンジス川流域にまで移動し、*勢力を拡大した。バラモンは、知識を独占し呪術の優位性を保つために教義をより複雑にし、それら(祭祀、行事、呪文、教義)を正確に暗記するための教典の*集成が行われた。こうして生まれたのが天啓文学(シュルティ)*ヴェーダである。ヴェーダとは狭義において*サンヒター(本集)を言うが、広義にはヴェーダ、それに附随する文献群を含む。

     *モヘンジョダロ遺跡…‥この遺跡は1920年、北西インド・パンジャブからハラッパ遺跡とともに発見された。
     *アーリヤ人…‥インドへ侵入する以前は、西トルキスタンでもっぱら牧畜を営んでいた民族。サンスクリット語はアーリヤ人の言語。
     *聖火…‥(s;)homa.音訳され「護摩」となった。ゾロアスター教(拝火教)、日本の天台宗や真言宗の密教護摩祈祷で、火を扱うのはこれに由来する。ゾロアスター教はゾロアスターを開祖にして、最高神アフラマズターAhura-Mazdaを主神とする。3種の聖なる火を通して最高神へ信仰を示す。
     *酒…‥(s;)soma.歓喜の酒。ヨーガでは歓喜をもたらす特殊な液を言う。類語に甘露があるが、甘露はamurtaと言う。
     *カースト…‥caste.ヒンドゥ社会を構成する極めて閉鎖的な社会単位。身分制度。実際の生活上の規定はジャーティjatiに細かく定められている。ヒンドゥにとってはジャーティ、すなわちカーストを守ることが「法dharama」である。時に(s;)varna「四姓」とも言われるが、 varna本来の義は「色」を言うのであり、すなわちあらゆる物質性を指す。正しくはカーストとヴァルナは区別すべきである。jatiは「生まれ」の意。
     *勢力の拡大…‥アーリヤ人の侵攻は、武力によって先住民を制圧することではなかった。祭祀者の階級(バラモン)の呪術の優性によって帰依させていく方法が多かった。
     *ヴェーダ…‥(s;)veda.紀元前1200-1000年頃の成立。初めの成立はリグ・ヴェーダである。ヴェーダは天啓文学「surti」と言われる。
     *集成…‥ヴェーダにはかなり多くの文献がある。これらを編纂すると言うより、もっと単純に集めると言う作業であったと思われる。これらの構成に統一性が見られないためである。
     *サンヒター…‥(s;)samhita.本集。先のリグ・ヴェーダの他に、サーマ、ヤジュル、アタルヴァの各ヴェーダがある。サンヒターに附随する補則書にはブラーフマナ(祭儀書)、アーラニヤカ(森林書)、ウパニシャッド(奥義書)がある。附随する「ヴェーダ最後の部分」をヴェーダーンタと言い、すなわちウパニシャッドを指す。したがってヴェーダーンタの哲学はウパニシャッド哲学と同義。セミナーテキスト、またはHPの三諦説「空・仮・中」他を参照。


     紀元前7-600年には、インド先住民を支配下におくアーリヤ人の文化は盛んになった。 農業は小麦から稲作に変わり商工業も発達した。そして地方部族は豊かになり、*大国が成立するに到った。地方の部族から勢力を増し大国が出来ると、必然的に社会の構成に変化が起こる。このような風潮は階級制度の崩壊を意味し、新しい思想を求める集団が生まれるのである。それが*出家者(sramana沙門)、思想家、論師である。
     出家し修行すると言う萌芽は、サーンキャ哲学やウパニシャッドの哲学と業の思想、マヌ法典の債務(リナ)などの思想に因り、相当以前よりあった。
     その出家者に*仏教の開祖ゴータマ・シッダールタ、前後して*ジャイナ教の開祖ニガンタ・ナータプッタが現れた。この二人の開祖と、さらに原始仏教成立後の修行者や*比丘、*沙弥などの勢力も後のヒンドゥ教に大きな影響を及ぼすことになるのである。

     *大国…‥仏教教説に出てくるコーサラ国、マガタ国などの大きな国が出来た。
     *出家者…‥(s;)sramana.シュラマナ、沙門。原意は「sram努力する」。「サマナsamana」はsramanaの俗語形。通常は男性修行者を指す。仏教やジャイナ教では、男性出家者一般を「沙門」と呼ぶ。
     *比丘…‥(s;)bhiksu.ビクシュの音写語。原意は「乞う人」「乞食者」。やがて仏教では、出家得度し、具足戒を受けた男性修行者を言う。
     *沙弥…‥(s;)sramanera.20才未満の男性出家者で、雑用を務めながら修行し正式な僧(比丘)を目指すのである。一方、沙弥尼(s;) sramaneriは女性入門修行者である。剃髪し仏門に入り十戒は受けているが、具足戒は受けていない。したがって比丘尼ではない。
     *仏教…‥(s;)buddha-sasana.(E;)buddhism.ゴータマ・シッダールタ(s;)Gautama-Siddhartha(前 463-383年頃)は出家前の姓名。成道後の呼称にはさまざまある。仏教はさまざまなところで説いている。
     *ジャイナ教…‥(s;)jina.原意は「修行を完成した人」。開祖はニガンタ・ナータプッタ(前444年頃の生まれ)。教えの特徴は、徹底した不殺生戒と苦行(s;)tapasの勧めである。無所有の徹底から衣をまとわぬ「裸形派(空衣派)」と白衣のみ許された「白衣派」の二派がある。ナータプッタは苦行成道の後、現バラモンの祭祀には価値はないと主張した。

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