紀州 木の国・根の国物語 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 219
感想 : 20
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041456118

作品紹介・あらすじ

新宮、古座、吉野-。神話と伝説、そして敗者の地、故郷・紀州。その自然の核を探り当てたい。生の人生を聞きたい。地霊と言葉を交わし、美しさのおおもとを見たい。漁業組合で、製材所で、食肉センターで、この土地に生まれ、生活する人々の声を求め、中上は歩き廻り、立ちどまり、また歩く。「差別」という物の怪は、まだこの地をさすらっているのか。鋭い視線で半島をえぐる旅を記録した、ルポルタージュの歴史的快作。

感想・レビュー・書評

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  • ルポタージュのくくりなのだけど、散文詩のよう。「○○である、△△である、ということは××だ」というキーワードのつながりが見つけられない。知らないことが多すぎて、文字にされていても白くつぶれて見える個所がたくさんある。70年代・紀州・部落差別・中上健次の抱えるオブセッションについて、自分は知らなさすぎる。

    そんな風に情報が欠け落ちる「ルポ」は、地図の上にある和歌山県ではなくて、紀州を旅する中上健次が感知する「見えないもの」を写しとっていく。あの音楽的な文体に酔って、頭ではなくておなかで分からされる。でも、文章の波に乗りかかっては、「このままうっとり読んじゃっていいのかな」と落ち着かなくなる。それはやはり本書のテーマが部落差別であるからだ。

    本書が発表された当時、やじうま気分で紀州見物に行った人はいなかっただろうか? 被差別部落として紹介された土地の人が嫌な目に合わなかっただろうか? すぐにそんなことを考えてしまう自分はうわべだけを見ているつまんないやつなんだろうか? 本の外にいる自分が巻き込まれる。同和問題をデータに基づいて解説する本を読むより、よっぽど揺さぶられてしまう。

    差別・被差別の構造の根深さ(それはわたしたちの成り立ちの本当に深いところに組み込まれている)、暴力性、被差別者の持つ(とされた)力、妖しさ、それらに魅入られ生まれる物語、今そこで暮らしている人たちの苦しみ、誇り。紀州の圧倒的な緑と海を背景に、中上健次の幻視を通じてさまざまなことどもが、遠く近くににチカリチカリと光を放つ。

  • 中上健次と一緒に歩き、立ち止まり、考える
    差別という物の怪を
    この国の闇の構造を
    この本はそのための手がかり

  • 枯木灘や岬を復讐するようにこのルポルタージュを読んだ。
    差別、被差別の感覚は、ざらっとした感覚として持っていたけど、内面をえぐるような表現で、心を揺さぶられた。
    そして、改めて島崎藤村の破戒を読みました。

  • 久しぶりに読んだ、中上健次。
    本書は中上健次が残した唯一のルポルタージュと言われているが、読んだ感触としては私小説に近かった。この、紀州全域を回る旅路は、現実の旅でありながら、自己の内面へ、内面へと向かう旅路だったように思えてならない。
    なんというか、『枯木灘』などの代表作が、小説という散文作品に昇華する前の、もっと生々しい部分を直に読んでいるような思いがした。

  • 鬼らが跋扈する「鬼」州、霊気の満ちる「気」州、中上氏の原点である紀州を巡るルポタージュである。彼が問うたのは自身の源流と紀州サーガであり、それらを霧のように包む被差別と非差別を解き解し、剥き出しの本質を探り出そうとしている。作中の突然の屠殺願望などは、中上氏のなかに眠る「濁った高貴な血」の放出なのかもしれない。

    紀伊半島は紀伊山地を挟み近畿至近にありながら隔世感がある。私自身串本に観光へ行ったことがあるが勉強不足でその隣に「枯木灘」があることも知らなかった。その「路地」で育った(いわゆる部落)中上氏は、紀州の溜へ足繫く通い、血脈と被差別について推敲を重ねる。

    ルポタージュという形式でありながら、ドキュメンタリーのような周到な準備と緻密な取材があるわけではないが、時々の出会いと発見に触れ、自身の思考を醸成していく過程が興味深い。

  • 紀州に横たわる漂泊者と非人の歴史。私が産まれた頃にはリアルだった歴史の残像。東日本にいると全く理解出来ない、この皮膚感覚。
    分からないから読むのですよ。

  • 2017年9月10日に紹介されました!

  • どこかで紹介されているのを見て、いずれ読んでみたいと思っていた中上健次ではあるが…重かった。他の作品に手を伸ばす気には今はちょっとなれないけど、いずれじっくりと読んでみよう。

  • 「紀州」を散文化する試み。というのも、否が応にも紀州には物語や詩(うた)が溢れているから。熊野の森や海のみならず、差別でさえすぐに、1つの旋律をなしてしまう。しかしそのために失われてしまう紀州という現実がある。そこで中上健次は旅に出た。人一倍物語に塗れた身を禊ぐべく。

  • こう、並べて読んだからかもしれないが、上記の天皇百話、下巻にこの中上の文章が入っていないことが不満に思えるほど、天皇制、差別構造、それらの総体としての日本を考えるときに、この本は必読書なのではないか?80年代初頭という時代を背負っていることは確かだが、現代に生きる我々から地続きの場所から発せられている言葉(戦争と現代をつなぐ時代の言葉、ということもできる)が、特に後半部分で重く低く響く。

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著者プロフィール

1946年和歌山県生まれ。74年『十九歳の地図』でデビュー。76年『岬』で芥川賞、77年『枯木灘』で毎日出版文化賞、芸術選奨新人賞を受賞。他の作品に『千年の愉楽』『地の果て 至上の時』『日輪の翼』等。

「2015年 『中上健次』 で使われていた紹介文から引用しています。」

中上健次の作品

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