大誘拐 (角川文庫)

著者 : 天藤真
  • 角川書店 (1991年発売)
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  • レビュー :12
  • Amazon.co.jp ・本 (455ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041466018

大誘拐 (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 世の中、傑作と呼ばれる作品はけっこう多いが、これは正真正銘の傑作。週刊文春が募集した20世紀ベストミステリで見事1位にも輝いた作品。とにかく冒頭から最後まで終始予想も付かない展開でしかもコミカルで敵味方双方のキャラクターも立っており、読後、この上なく幸せな気分になれるというけなしようが無い作品だ。
    最初私がこの作品に触れたのは岡本喜八監督の映画版で、原作の存在は知らず、テレビで放送された映画を観たらあれよあれよという間に引き込まれてしまった。そして数年後ミステリに再び興味を持った私は『遠きに目ありて』で天藤作品に触れ、そこで彼の代表作が『大誘拐』というのを知った。そのときは昔観た映画と同じ題名だなぐらいしか思わなかったが、書店で探したところ、角川文庫で主人公のとし子刀自を思わせる暖かな微笑を湛えた老婆が正座する版画図とその右隅に“レインボーキッズ”と名乗っていた誘拐団の面々のイラストが小さく描かれており、そこで初めてあの映画と原作と作者が一致したのだった。
    映画が面白かったので原作はなお面白かろうと迷わず購入し、読んだところ、期待以上の面白さ。そのときは単純に映画をなぞるような読書だったが、今こうして内容を振り返るとかなり奇抜なアイデアでエンタテインメント性に満ち溢れた作品だというのが解る。

    まず和歌山の山林を所有する大地主の柳川とし子刀自が“虹の童子”と名乗る誘拐団に攫われた。が、しかしなぜかその後の犯行計画の指示を出すのは誘拐された当のとし子刀自。しかも身代金まで自分で決める始末。その額なんと100億円!しかも身代金受渡しの模様をテレビ中継しろという前代未聞の要求を警察に出す。事件の捜査の指揮を執るのはとし子刀自に大恩ある井狩警部。しかし誘拐事件のセオリーからことごとくかけ離れた“虹の童子”らの要求に警察、マスコミそして全国民は翻弄されていく。

    と、このようにあらすじを書いただけでもその面白さは解ると思う。誘拐された当人が犯行を企て、さらに身代金は破格の100億円!この作品が書かれたのは80年だが、当時から貨幣価値が下がった現代でもその金額は驚嘆するものがある。誘拐事件を扱ったミステリで作品の肝となるのはやはり身代金の受渡し方法だろう。単純に100億と読者を驚かすだけならば簡単に書けるが、80年代当時、インターネットも無かった時代にネットバンキングで画面上の数字を右から左へ動かすだけで金を送金できるわけもなく、当然受渡しは現金。その量、なんとジュラルミンケース67個分!この大量のお金をどう強奪するのか、このアナログ感覚が実にいい!
    とにかく警察の思惑の裏の裏を行くとし子刀自の指示と全く予想が付かないストーリー展開はかなりミステリを読まれた方々でも面白く読めるだろうし、また結末で明かされるある真相は看破できる人はそういないのではないだろうか。

    また映画にも触れたい。概ね小説、マンガの映画化作品というのは原作の出来を上回ることは無く、むしろ原作を阻害したと作品を愛する者たちから激昂を買い、けちょんけちょんにけなされるのが常だが、本作においてはそれは全くない。よく「先に読むか?先に観るか?」と云われるが本作はどちらでもよい。前述したように私は最初に映像から入ったクチだが、逆に原作でそれぞれの登場人物が映画のキャストで想起され、イメージ豊かな読書になった。これは映画版のキャスティングが実に優れており、また原作のテイストを損ねることなく、丁寧に作られた証左だと云える。読書中、とし子刀自は北林谷栄氏であり、井狩警部は緒形拳氏で、くーちゃんは樹木希林氏だった。古い作品なのでレンタルショップにあるかどうか解らないが、もし見かけたらこちらも観る事をお勧めする。

    読んで痛快、終って爽快のこの作品、私の読書人生で5本の指に入る傑作だと断言する。

  • 読み出したら止められない面白さだった。映画も観てみたい。

  • 映画化もされた誘拐コメディ(ミステリ?)。稚拙な誘拐グループが、誘拐した切れ者のおばあちゃんに振り回されて、逆に利用されてしまう。

    映画は一部分しか見ていなかったのだが、その一部分そのままの文章で、シナリオと勘違いしたが、原作は1978年で映画は1991年。おばあちゃんはともかく、誘拐犯は原作のほうがどんくさくて泥臭い。風間トオルや無いわなあ。

    そこそこ長い本だが、ストーリー展開が非常に巧みで、勢い良く読める。さらに全編を通してニヤっとする小ネタも多い。相続税などの税制や和歌山と奈良の間の曖昧な土地のリアリティ、若干荒いながらも警察やテレビ局というところも、かなり調べてから、それなりに噛み砕いて書かれていることは、文章を面白くしているし、非常に好感を持てる。

    ただ読者が置いてけぼりになるかもしれないのは、やっぱりコテコテの関西弁でしょうなあ。関西出身のワタクシなどからすると、あたかも喋りを聞いているかのように読めるけれども、関西弁に抵抗の有る人には受け付けないだろう。そういう人は、ちょっとさわりだけでも、映画の方をご覧になればよろしい。あの声で再生されますよって。

    ところどころの刀自(おばあちゃん)の語りはくどいけれども、なかなかの名作。井上ひさしの関西弁版といったところ。

  • 図書館で。
    これは面白かった。

    おばあちゃんの何とも言えない品格と段々飲まれていく三人組の力関係が面白い。3悪党も悪党と言うほどすれてる訳でも悪人でもなくお金が、自分の居場所が必要なので、というのが面白い。それにしても百億かあ… 途方もないお金ですねえ。
    私も所詮はラーメン単位とまではいかないものの本一冊ぐらいで換算しちゃうんで戦闘機一機の換算は出来ないな、うん。

  • 誘拐作戦の奇想天外さ、犯行(?)の動機、キャラクターの造形、読後の爽快感、そのすべてに於いて一級品。映画もすばらしかった。

  • こら面白い。犯罪の話なんだけど、最後まで誰も悲しまず、エンディングも見事にきまってる。話のテンポもいいし、あっちゅう間に読んでもーた。お勧め。

  • 昭和を代表する名作です。

  • 誘拐モノの小説にはあるルールが存在する。
    推理作家の西澤保彦氏いわく、万にひとつも模倣犯が現れぬよう、わざと犯行過程に実行不可能な手順を紛れ込ませておく、のだそうだ。

    本作でいうならば、それは「100億円の身代金」「劇場型犯罪」「慈愛」である。
    和歌山に山林を持つ、大地主の柳川とし子を誘拐した犯人グループは当初5000万円の身代金を用意させるつもりだった。だが、とし子に「自分はそんなに安くはない」と一喝され、家族に100億円を要求する。
    まず、ありえない。

    そして、警察の手による犯人確保の隙を作らせないため、
    身代金受け渡し等の一部始終をテレビとラジオに生中継させる。
    劇場型とよばれるメディアを使った犯罪…これもありえない。

    そして「慈愛」。
    人質からのアドバイスや巨額の身代金など、
    映画化もされた本作はその奇想天外な部分がクローズアップされがち…だとは思うのだが、この作品の本質はこの「慈愛」にあると思う。

    それは、とし子を助けようとする人々であったり、
    とし子を尊敬する人々であったり、
    犯人がとし子に持つ秘められた思いだ。
    この「慈愛」だけは、どんな模倣犯も真似することはできない。
    それがこの小説を読めば分かる。

    ミステリー史にその名を刻む名作を読み終わったあと、
    思ったのはそんなことでした。(泉)

  • 身代金100億円の誘拐事件。誘拐されたのは全国でも指折りの大富豪。こんな誘拐事件なんて実際にないだろうなぁと思いつつも関西弁のテンポの良さにすらすらと読んでしまいました。この本が出版されたのは1978年ということで30年以上前の本ということもあり、若干時代を感じる部分もありました。おばあちゃん頭いいなぁ。

  • 2016.03.19

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