螢川 (角川文庫)

  • 角川書店 (1980年3月3日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (192ページ) / ISBN・EAN: 9784041469019

作品紹介・あらすじ

思春期の少年の心の動きと、螢の大群の絢爛たる乱舞をあでやかに描く芥川賞受賞作「螢川」。安治川河畔に住む少年と川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交遊を描く、太宰治賞受賞作の「泥の河」も併録。

みんなの感想まとめ

思春期の少年たちの心の動きと、自然の美しさが交錯する物語が描かれています。主人公たちは、日常の中で過去を振り返りながら、愛や喪失、成長を経験します。特に、蛍の大群は彼らの未来への希望や不安を象徴し、感...

感想・レビュー・書評

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  • 「泥の河」と「螢川」の二篇を収録。

    「泥の河」
    戦後の大阪が舞台。
    川と川とが交わり、安治川となる一角。
    ここで、やなぎ食堂を営む両親と暮らす少年信雄と、川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟との束の間の交流と別れ。

    「市電の轟音や三輪自動車のけたたましい排気音」「自動車の数が急速に増え」…など活気のある街の姿もちらほら見受けられるが、
    行き交う川は汚れ、戦争の傷跡もまだまだ残る人々と街の現状に、物語は全体的に灰色に埃っぽく煙たく感じられた。

    ついにトラックが買えるのだと喜び勇んでいた荷馬車引きの男の死や、
    雨の中に佇む少年を「振り乱れる大きな柳の緑が、………いまにも絡み込んでしまいそうに思えた」と表現したり、
    鳩の雛の死など、
    生活のすぐそばにある死を意識させる表現も多い。
    そんな危うさの中に毎日があることを、幼いながらも信雄は何かしら感じ取っている。

    信雄と喜一の前に姿を現した巨大なお化け鯉。
    泥の河を悠々と泳ぐその鯉は、中々抜け出せないこの危うい世の象徴だろうか。
    一旦この泥に足をとられたら、易々とは抜け出せない社会の闇のようだ。
    新たな生活を求めて新潟へと向かう信雄たちとは対照的に、いつまでもお化け鯉が着いてゆく喜一ら家族の舟が去ってゆくラストは印象的で、この先も変わらぬであろう彼らの生活を予感させる。


    「螢川」
    舞台は昭和三十七年の富山。
    雪、桜、蛍の三章が、思春期の少年竜夫を中心に描かれる。
    好きな女学生のこと、まだ青い性のこと、受験勉強のこと、そして親友の突然の死。
    やがて季節は初夏をむかえ、竜夫は、病に倒れていた父親の死に直面する。
    「死ということ、しあわせということ、その二つの事柄への漠然とした不安が、突然波のように体の中でせりあがってきて、竜夫はわっと大声をあげてのけぞりそうになる自分を押さえていた。」

    ラストは何十万もの蛍の乱舞で締め括られる。
    美しいというよりも、生々しくて、恐ろしさも感じた。
    生々しさは性にも通ずる。
    「そしてそれは、…(略)…心に描いていた華麗なおとぎ絵ではなかったのである。」
    「はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し、天空へ天空へと…(略)……舞いあがっていた。」
    交尾をしては力尽きてゆく蛍の瞬間瞬間の瞬きが、見ている者たちに、これまでのことを思い起こさせる。
    いつ果てるともない命の儚さ、切なさ、美しさ、恐ろしさ。

    「…(略)…何万何十万もの螢たちは、じつはいま英子の体の奥深くから絶え間なく生み出されているもののように竜夫には思われてくるのだった」
    若い竜夫は、生あるいは性の力と勢いを蛍から感じ取っていたのだろうか。
    一方、千代が見た「螢の綾なす妖光が、人間の形で立っていた。」とは、何だったのだろう。
    重竜の幻か、それとも千代自身か。




  • ここのところ海外作品を続けて読んでいたこともあり、少し気分を変えて宮本輝作品を初読み。

    お世話になっていた古本屋さんが宮本輝さんの作品はハズレなしと言っていた意味が少しわかる気がしました。

    太宰治賞受賞作「泥の河」、芥川賞受賞作「螢川」の2作がおさめられた贅沢な一冊です。

    両作品共に印象に残ったのは主人公の子供視点で描かれたグレー色の世界にさす色。

    「泥の河」では喜一が捕まえた蟹を大きな茶碗に入れ、ランプ用の油につけて火をつけるシーン。

    なぜか私には赤い炎ではなく、青い炎が見えた気がします。

    「螢川」ではやはり最後のシーンでしょう。

    闇夜に乱舞する黄金色の螢。

    暗闇の中でぼわーっと色をさすこの世界観、好きだなぁ。


    説明
    内容紹介
    思春期の少年の心の動きと、螢の大群の絢爛たる乱舞をあでやかに描く芥川賞受賞作「螢川」。安治川河畔に住む少年と川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交遊を描く、太宰治賞受賞作の「泥の河」も併録。
    内容(「BOOK」データベースより)
    堂島川と土佐堀川が合流し、安治川と名を変えていく一角、まだ焼跡の名残りを伝えていた、昭和30年の大阪の街を舞台に、河畔に住む少年と、川に浮かぶ廓舟で育つ姉弟のつかの間の交友を、不思議な静寂のうちに描く、太宰治賞受賞作「泥の河」。立山連峰を望む北陸の富山市を舞台に、熱を秘めた思春期の少年の心の動きと、いたち川のはるか上流に降るという蛍の大群の絢爛たる乱舞を、妖かに、抒情的に描き、芥川賞を受賞した「蛍川」。鮮烈な抒情がみなぎる、期待の新鋭の代表作二篇を収録。

  • 太宰治賞の「泥の河」と芥川賞の「螢川」の2作。著者の作品は初めて読むが、こんな世界もあるよな、と思わせるノスタルジーに富む作品である。2作とも境遇に恵まれない子供を中心に、淡い恋心が純な気持ちとせつなさを感じさせる。
    大阪湾に注ぐ川沿いの食堂、そこの一人息子・信雄が形の定まらない恋を感じる「泥の河」。彼が毎日見ている川に突然現れた舟、そこには母親と二人の姉弟が住んでいた。生活のために身をひさぐ女性へ説明できない思慕が生まれる。舟の姉弟と仲良くなっていくが、突然の別れが来る。再び声を掛け合うこともなく、象徴的な出来事がエンディングを飾る。
    幼馴染に憧れを抱く中学生・竜夫、彼に降りかかる出来事を通して、自意識が育っていく「螢川」。父親が働けない身体になって入院、母の過去が再生されるなか、父親がなくなっていく。四月に大雪が降ると、螢が大量発生するという言い伝えをもとに、螢を求めて森深くへと分け入る、そこで出会う情景に驚きをもって閉じていく。

  • 『螢川』良かった!
    竜夫と千代に重竜、それぞれの人生。考え悩み、ある日には過去を顧みて、流れに身を任せながら送る日常。
    好きな人の事、親友の死、千代と重竜が行った越前の事、先妻の事、重竜の死、生活の事、蛍の大群…

    折に触れふと香る、消してよい香りではない生活の臭気が文章に彩りを添えている。訳もわからず涙が出る。
    蛍の大群にこれからの行く末を賭ける千代。

    最後、青黒に怖いくらいに降る蛍の大群。『華麗なおとぎ絵ではない、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化した螢』にそれぞれ何を想うのか。それに向かって緩やかに、でも力強く流れていく様子が素晴らしいと思った。

    『泥の河』
    両親の愛に包まれ育ったうどん屋の倅信雄と、廓舟で母と姉と流浪の生活をおくる喜一。
    どこか物悲しい雰囲気。まとわりつく臭気。
    物語は信雄の視点で書いてあるが、喜一の心情が痛いほど解る。友達として交流を深めれは深める程、育った環境、考え方の違いを突き付けられ、そしていずれは去らなければならない現実に、距離を取る事に決めたのだろう。2人を繋ぐお化け鯉が切なさを誘う。

    見事な文章である。

  • 終戦後の焼け跡の名残りを留める昭和30年の大坂、ポンポン船の行き交う安治川の川辺に建つ小さなうどん屋の息子と、川に浮かぶ<廓船>で生活する姉弟との、束の間の交友を描いた太宰治賞受賞の『泥の河』、立山連峰を望む富山市を舞台に、揺れ動く思春期の繊細な情感を〝蛍の綾なす妖光〟に映し出し、切々と語り紡がれた芥川賞を受賞した『蛍川』との2編は、心ゆさぶられてやまない宮本輝さんの代表作。

  • セピア色の風景
    言葉の操り方が秀逸、情景が思い浮かぶ

  • 「泥の河」「螢川」の二篇収録。

    「泥の河」
    戦後の大阪。河岸に住む少年信雄と、川に浮かぶ郭船で育つ姉弟の交流と別れの物語。
    信雄の目を通して描かれる河岸の町の様子は明るいが、戦争帰りの父の身体に残る傷跡や身近に立ち上る死の匂いから、少しづつ河の色も暗く沈んでいくように思える。
    姉弟と友情を育むも、時折見える貧しさや将来を匂わせる暗い陰…。喧嘩別れしたまま信雄一家は大阪を離れる事となり、船も川を移動してゆく。船について行くお化け鯉は淀み(陰)の予感か…。

    螢川
    こちらも十代の少年を主人公とした作品。歳をとってから産まれた主人公とその母を選び、妻子と別れた高齢の父親と、子を残し夫と別れて来た過去を持つ母。
    突然の病に倒れた父と、貧しくなる生活の予感。親友の死。母は蛍の大群を見れるかどうかに、この先の運命を託すが現れた物は…。どちらも瑞々しいのに、不安が付き纏う。美しい筈の蛍の大群も、どこか恐ろしい

  • 2編からなる短編小説集

    ?泥の河
    戦後の大阪の混乱期安治川舞台にその周辺に住む人々の人間模様を描いた作品。
    河でものをとる、川に流れてくるものがある、時にはそれが・・・・
    生と死が隣り合わせになった人間模様を強烈に描く作品
    2人の少年の視点から純粋に描かれる作風、しかし、大人の世界の現実も隣り合わせにあります。
    その事実が、否応なく、2人に2つの世界を痛感させる作風といえると思います。

    ?蛍川
    富山を舞台にした作品
    独特の方言使いが、臨場感を醸し出す。

  • 私はこの短篇集と「幻の光」しか読んだことないのですが、
    これらの作品群の中で目立つのは人の死をしっかりとふまえたうで、庶民が今を生きているという描写がとても気に入っています。

  • 川船に住む子供と友達になった1編と
    蛍を見に行こう、という1編。

    何故に船生活? と思っていましたが
    自営業もかねて、というのに驚きです。
    これ、船酔いがする人、無理では? とか思いましたが。
    そもそも自営している間、子供はどうしたら?
    お姉さんが汚い恰好をしていたのは、自衛のため?
    友人となった主人公に罵られた事により
    船の友人は、何かを悟ったのか、分かったのか。
    冷たく残る友情、になってしまいました。

    冷たく、といえば次の話も。
    女の友情もわけが分からない時がありますが
    男の友情もわけが分からない時も。
    秘密を共有する事なのか、罪を共有する事なのか。
    やられた側にしても、さっぱり、な友情でしたが。

  • 濃厚な生と死のにおいが川から漂い、戦後復興から経済成長へと向かう時代の流れの中で、少年が自我に、性に、他者との関わりに目覚め、ひとつの成長のステップを踏む。非常に明快な骨格を持つ作品だが、構成そのものは分かりやすくても、物語は全く陳腐でない。少年たちを見守る大人たちもまた、自分の生き方を大きく変えなければならない。そうして慣れ親しんだ土地を離れることは、大人たちにとっての成長でもあり、この物語は、親離れと土地離れの二重の意味の成長物語であるともいえよう。その大人たちが、姿貌や声の調子が分かるほど浮き立つように描写されていて、その味わいは土地性に加えてこれらの作品の魅力であるのだと感じる。

  • 見たことない昔の時代の話なのに、安治川のまわりで戦後の日々を貧しくとも精一杯暮らす人々の姿が頭の中に容易に浮かんできた。信雄の両親は食べ物屋を営んでいるけれど、銀子と喜一姉弟は母と三人で舟上で暮らす。姉弟の母は男性を相手に生活費を稼ぐしかなく、まわりの大人はみなそれとなくわかっているけれど信雄にはまだ深くは理解できない。子ども同士の交流にもそんな影が落ちる様子に胸が痛んだ。二話目の「蛍川」も中学生の竜夫を通じて父や母の歩んできた過去が描かれている。同級生の死も悲しい。最後の蛍が飛び交う光景が幻想的だった。

  • 「泥の河」素晴らしすぎる

  • 主人公の行動にちょいちょい共感できない。が、これが宮本輝なのだ。

  • ダブって買ってしまった。

  • 二作品あり、どちらも川が出てきて貧しくてジメジメしてるけど、人と人の交流が濃厚で、温かさも感じる。全体的に寂しい感じが付き纏うけど、別に嫌な感じはしない。不思議な読後感。

    一作目は大阪の川沿いのうどん屋の息子と、廓船の子供達との交流。
    二作目は富山で父を亡くした男子の話。

    戦争が終わってすぐで、売春婦がその辺にいた時代。
    人と人が出会い話し、仲を深めていくさまが淡々と語られていく。「その時代に生きたとある人の物語」で、現代を生きる私とは全く繋がりが見出せない。
    70年前ってこんな世界だったのかと興味深く読んだ。こういう話を読むと、現代の生活ってだいぶ進歩したんだなと感じる。

  • 文句なし

  • 学生の頃、夏休みの課題で読んだ記憶があります。無理矢理、読まされている学生の頃と、懐かしいと手にした今では、あらすじや大人の事情や社会背景など、より理解できることもあれば、子供の事情など、理解度が低くなっていることもあると思います。

  •  太宰治賞を受賞した「泥の河」と芥川賞を受賞した「螢川」の二作品が収まっている。
     まだ戦後の復興が色濃い時代の大阪湾沿いにおいて、少年と対岸の舟に住む姉弟を中心に物語は進んでいく。
     それにしても当時の人々が織りなす生き生きとした会話や、都会ながらもまだまだ言わばボロ臭さのある風景が無理なく物語に形作っており、螢川にも共通することなのであろうが、ふとしたところに死という影が潜んでおり、本来それは身近なものであることを思い知らされる。
     それは単に人間だけでなく、馬やら蟹やら鯉といった生物もそのことを暗示しているかのようで、そういった避けられることのできないことをも全てひっくるめて、生きて死んでいくことは本来ドロドロとしたものであるということを打ち含んでいることの象徴として題名が当てられているようである。
     螢川については、さらに思春期の少年の心理描写や、特にラストにおける情景は怖さを帯びた艶やかについては見事の一言に尽きる。そこにも螢が次世代に子孫を残そうとしていることを祖父が語るのとともに、「滝壺の底に寂寞と舞う微生物の屍のように、はかりしれない沈黙と死臭を孕んで光の澱と化し」と、あまり多くは語らずとも生死が一如であることを、物語の終曲として描かれるように思えた。

  • 昭和30年の堂島川と土佐堀川が合流する船津橋あたりの大阪の街を舞台に描かれた『泥の河』(太宰治賞受賞作)。河岸に住むうどん屋の息子と川に浮かぶ廓舟で生活する姉弟の束の間の友情の話。幼いながらも薄らと勘付く触れてはいけない事情など、物哀しくやるせない描写に心が切なくなる。
    富山を舞台に、父や親友の死を経て成長する少年・竜夫を描いた芥川賞受賞の『螢川』。
    竜夫の唯一の楽しみは、4月に大雪が降る年に観れるという蛍の大群が織りなす妖艶な世界を、密かに想う英子と一緒に観ること。終始暗い印象で話は進むが、螢の乱舞、そして最後の竜夫の母・千代が見た場面が、映画でも観ているかのような描写が衝撃的で何とも言えない読後感でした。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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