懐かしい家 小池真理子怪奇幻想傑作選1 (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 150
感想 : 19
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041494189

作品紹介・あらすじ

夫との別居を機に、幼いころから慣れ親しんだ実家へひとり移り住んだわたし。すでに他界している両親や猫との思い出を慈しみながら暮らしていたある日の夜、やわらかな温もりの気配を感じる。そしてわたしの前に現れたのは…(「懐かしい家」より)。生者と死者、現実と幻想の間で繰り広げられる世界を描く7つの短編に、表題の新作短編を加えた全8編を収録。妖しくも切なく美しい、珠玉の作品集・第1弾。

感想・レビュー・書評

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  • ホラー作品の路線は大別すると、絶叫系のテンションの高いホラーか、秘めやかに忍びよるような静かなホラーに分かれると思うのですが、この『懐かしい家』に収録されている短編たちは概ね後者の印象。怖さ・不気味さの中にどこか格式高さというか、上品な怖さや哀しさ、憂いや寂しさを感じた気がします。

    ピアノ教室の先生である語り手と、老婆とその孫を描いた「ミミ」
    夫と別居し、かつて住んでいた家に一人暮らしすることになる女性を描いた表題作の「懐かしい家」
    設定は違えど、生者と死者の距離が曖昧になり、そして生死の概念を超えた人の孤独を浮き彫りにします。

    周囲の人間が死に瀕した時にだけ現れる蛇口。その蛇口が見えてしまう男を描いた「蛇口」は、描写の不気味さが見事だったなあ。この蛇口をひねると流れてくる水は、その人間が死ぬか、それとも生き延びるか教えてくれるのですが、蛇口から流れる水の描写の不気味さがたまらない……。

    タクシーに乗った人物をどこかへ連れて行ってしまう「車影」
    ふとした瞬間に生に疲れ、死に誘い込まれそうになる怖さを、一つの物語として上手く昇華されていると感じました。語り手の涙が話に、また一つ情緒を与えてくれているように思います。

    「くちづけ」は夏目漱石の『夢十夜』を読んだときのようなイメージ。物語のイメージはところどころでしか掴めないのですが、そのイメージと繊細で美しい文章にわけが分からないながらも引き込まれます。
    そして語り手の目覚めと共にその夢の儚い美しさと、人を愛してしまったゆえの哀しさの対比が心に残る。
    この短編集の中でも特に短い短編なのですが、美しくも切ない幻想的なイメージが、強く印象に残りました。

    別段派手な話という感じではないのですが、いずれの短編も切り取り方、見せ方、そして文章の技巧が光った短編集だったと思います。

  • 小池真理子は恋愛小説意外では初めて。
    これがかなり面白かった。

    彼女の描く恋愛小説では、男女間にあやうく孕む狂気が関係を破綻させていくことがあるけれど、このホラー短編集の狂気はそれとは異質で、「あっちの世界」のものだ。

    過去に死んだ不倫相手が、違う男の背中に現れる、エロティックな「公平の背中」や、とつじょ壁に現れる蛇口をひねるとおどろおどろしい液体がほとばしり、身近な人の死を伝える「蛇口」など、不気味で印象的な作品が8編収められている。どれも出色の作品なので、これはコストパフォーマンスの高い一冊だ。

    著者のホラーをもっと読んでみたくなった。

  •  小池真理子さんのホラー短編小説アンソロジー。初出誌は巻末に記載されているが、年代が全部は載っていない。「1991年」と「2011年」のものがあることだけは分かるので、その辺りの頃、と推測するしかない。
     とても良い作品集だった。抑制された堅実な文体で淡々と醸し出される「恐怖の」イメージが、美しい。もう少し文章が磨かれれば、泉鏡花とまでは行かないまでも彫琢されれば、これは立派な芸術作品になると思う。
     ただ一つ、「蛇口」だけは、ストーリーは悪くないが文章が良くなくて、1991年の作だからもしかしたら作者のごく初期のものなのかもしれない。
    「ミミ」のような、一種の詩情さえ湛える形象の美しさを、更に「言葉」それ自体の輝きと共に構築できれば、それは素晴らしい芸術になるだろう。

  • 他のアンソロジー読んで、小池真理子さんのホラー短編をもっと読んでみたくなったので。落ち着いた柔らかい筆致で描かれる日常に、すっと異常や狂気が滲んでいる。全体的には怖さは控えめで、喪失と愛情をテーマとした感傷的な作品群となっており、切なさにぐっとくる短編集。
    特に『ミミ』や『懐かしい家』では、失った者への愛情や哀しみが丁寧に描かれる。
    『蛇口』は、不吉な蛇口が現れると誰かが死ぬというホラー色の強い作品。唯一男性の語り、似た系統の作品集の中でアクセントを出している。

  • 突然、壁に現れる蛇口をひねるとおどろおどろしい液体がほとばしり、身近な人の死を伝える「蛇口」
    これが一番、怖かった。小池真理子ってこんな作品もあるのね。

  • 2018 3/2

  • 読書会で小池真理子ぜひ読んでみて!と強くお勧めされたことがあり、初めて読んでみました。ものすごくよかった。どの作品も引き込まれた。ひとつ読み終えると、すぐ次のを読みたくなったけど、夜寝る前に読むのは、怖くて無理Σ(゚д゚lll)怖いけど、憧れる場面ばかりでした。懐かしい家は、映画異人たちの夏を彷彿させられた。あれもすごくよかったな。怖いけど、そっちに行ってしまう感じ、切ない。哀しく愛しい。

  • 怪奇小説とホラー小説をあえて区別するなら、本作は怪奇の方。怖さ酷さは少なめで、物悲しくて薄ら寒い感じ。TV「世にも奇妙な物語」的な短編が揃ってます。

    特に「康平の背中」に出てくる醜い子供が不気味。老人のようなしゃがれた声で「まんじゅう、くれえ」と叫ぶ。何者なのか、なぜ「まんじゅう」なのか詳細不明。ただただ不吉で禍々しい空気は、映画「呪怨」の俊雄を彷彿とさせる。

  • 表題作の「懐かしい家」がたまらなく良い。縁側のある和室も応接セットが置かれた洋間もある昔ながらの和洋折衷の家、という表現に、今はもう無い親戚の家が具体的に蘇るようだった。短いが「くちづけ」も良かった。

  • 夫との別居を機に、幼いころから慣れ親しんだ実家へひとり移り住んだわたし。すでに他界している両親や猫との思い出を慈しみながら暮らしていたある日の夜、やわらかな温もりの気配を感じる。そして私の前に現れたのは…(「懐かしい家」より)。生者と、死者、現実と幻想の間で繰り広げられる世界を描く7つの短編に、表題の新作短編を加えた全8編を収録。妖しくも切なく美しい、珠玉の作品集・第1弾。

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著者プロフィール

1952年東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。89年「妻の女友達」で日本推理作家協会賞(短編部門)、96年『恋』で直木賞、98年『欲望』で島清恋愛文学賞、2006年『虹の彼方』で柴田錬三郎賞、12年『無花果の森』で芸術選奨文部科学大臣賞、13年『沈黙のひと』で吉川英治文学賞を受賞。その他の著書に、『二重生活』『無伴奏』『千日のマリア』『モンローが死んだ日』などがある。

「2022年 『私の居る場所 小池真理子怪奇譚傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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