定本 言語にとって美とはなにかI (角川ソフィア文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041501061

作品紹介・あらすじ

言語とはなにか、芸術とはなにか。そして文学とはどのような言語の、どのような芸術なのか-。『万葉集』『古事記』といった古典や現代の詩歌をはじめ、森鴎外「舞姫」、国木田独歩「武蔵野」、夏目漱石「それから」など、文学史上のさまざまな作品を豊富に引用し、具体的に分析。表現された言語を「指示表出」と「自己表出」の関連でとらえた独創的言語論の1。『改訂新版共同幻想論』に並ぶ、吉本隆明の主要著作、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 作家や文学研究に携わる人でなくとも、読書好きな人なら「文学とはなんだろう」という疑問を抱くことがあるだろう。しかしその疑問も私たち一般読者は、作品を読み重ねていくうちに独自の文学観なるものが形成され漠然した答えが導き出されることで解消されてゆくように思う。それは大抵、自分の「好み」がはっきりすることと、名著と評価された作品(一般的な価値基準)を取り入れることである種の(独自の)価値観が形成されるからではないだろうか。
    この著書は、研究対象としての文学の捉え方といった堅苦ものではなく(この著書の学術的な価値を批判するわけではない)、文芸作品の読み方の一つの例として私たちに貢献してくれる本だと思う。詩人であり、批評家である吉本隆明の文学観を順をおって知ることは、前述した私達が作り上げてきた価値観を明確なものとする手助けになるだろうと思う。

  • 「定本 言語にとって美とはなにかⅠ」吉本隆明著、角川ソフィア文庫、2001.09.25
    399p ¥700 C0195 (2022.08.24読了)(2016.05.22購入)
    本の題名からは、何を論じる本なのか、見当がつきません。「言語論」「文字」「表現の仕方」「発音」…。読んでみてもよくわかりません。
    わかった範囲でいえば、最初の方は、言語論。後半は、日本近代文学における小説表現の変遷を具体的な小説の一節を引用しながら、考察しています。
    円朝「真景累ヶ淵」、東海散士「佳人之奇遇」、坪内逍遥「当世書生気質」、
    二葉亭四迷「浮雲」、森鴎外「舞姫」、幸田露伴「風流微塵蔵」、
    幸田露伴「五重塔」、泉鏡花「照葉狂言」、広津柳浪「今戸心中」、
    国木田独歩「武蔵野」、永井荷風「地獄の花」、島崎藤村「水彩画家」、
    島崎藤村「破戒」、鈴木三重吉「千鳥」、泉鏡花「婦系図」、
    田山花袋「一兵卒」、森田草平「煤煙」、夏目漱石「それから」、
    森鴎外「ヰタ・セクスアリス」、近松秋江「別れた妻に送る手紙」、
    志賀直哉「網走まで」、谷崎潤一郎「刺青」、夏目漱石「道草」、
    志賀直哉「和解」、夏目漱石「明暗」、有島武郎「カインの末裔」、
    佐藤春夫「田園の憂鬱」、横光利一「蠅」「無礼な街」「頭ならびに腹」「ナポレオンと田虫」、
    佐藤春夫「都会の憂鬱」、中条百合子「伸子」、竜胆寺雄「放浪時代」、
    野上弥生子「真知子」、平林たい子「施療室にて」、横光利一「機械」、
    小林多喜二「蟹工船」、川端康成「浅草紅団」、武田麟太郎「銀座八丁」、
    谷崎潤一郎「春琴抄」、徳永直「八年制」、太宰治「満願」、
    伊藤整「生物祭」、中野重治「歌のわかれ」、野間宏「暗い絵」、
    椎名麟三「深夜の酒宴」、武田泰淳「蝮のすゑ」、椎名麟三「邂逅」、
    坂口安吾「白痴」、梅崎春生「桜島」、原民喜「夏の花」、
    織田作之助「世相」、石川淳「焼跡のイエス」、太宰治「斜陽」、
    三島由紀夫「仮面の告白」、佐多稲子「私の東京地図」、大岡昇平「武蔵野夫人」、
    小島信夫「小銃」、安岡章太郎「遁走」、吉行淳之介「原色の街」、
    堀田善衛「時間」、中野重治「むらぎも」、三島由紀夫「金閣寺」、
    深沢七郎「笛吹川」、島尾敏雄「重い肩車」
    日本文学の代表的作品は、結構読んできたつもりでしたが、まだ読んでない作品がたくさんあります。70ほどの作品が取り上げられていますが、読んだのは、17作品です。4分の1ですね。

    【目次】
    文庫版まえがき
    選書のための覚書

    第Ⅰ章 言語の本質
    第Ⅱ章 言語の属性
    第Ⅲ章 韻律・撰択・転換・喩
    第Ⅳ章 表現転移論
    第Ⅰ部 近代表出史論(Ⅰ)
    第Ⅱ部 近代表出史論(Ⅱ)
    第Ⅲ部 現代表出史論
    第Ⅳ部 戦後表出史論
    解題  川上春雄
    文庫版解説 言葉について  加藤典洋

    (「BOOK」データベースより)
    言語とはなにか、芸術とはなにか。そして文学とはどのような言語の、どのような芸術なのか―。『万葉集』『古事記』といった古典や現代の詩歌をはじめ、森鴎外「舞姫」、国木田独歩「武蔵野」、夏目漱石「それから」など、文学史上のさまざまな作品を豊富に引用し、具体的に分析。表現された言語を「指示表出」と「自己表出」の関連でとらえた独創的言語論の1。『改訂新版共同幻想論』に並ぶ、吉本隆明の主要著作、待望の文庫化。

  • ー 原始人がはじめて現実の対象を有節音声としてえらびとったとき、発したその音声は意識に反作用をおよぼした。それは一連の意識の波紋をえがいたにちがいない。こういった一連の意識の波紋は、また一連の音声波紋として表出せられたかもしれない。これを、不完全な言語の段階での文だとかんがえれば、わたしたちは、カッシラアにならって、言語の世界でいちばん簡単なのは、常識的にかんがえるような単語ではなく、むしろ文だとおもわれる。

    しかし、こういう仮定にそれほど固執するわけではない。原始人たちは、海を眼のまえにはじめてみて〈海(う)〉といっただけかもしれたない。ただこう仮定したのは、一連の音声波一紋の表出が完結するためには、有節音声は、よりおおく意識の自己表出としてのアクセントで発せられるものと、指示表出として発せられるもののどちらかに傾かざるをえないことをいいたかったからだ。もちろん、言語の本質はこのふたつの面をもっているから、いずれのばあいも他を含んであらわれるといえる。 ー

    想像していたより分かりやすくて面白い。

    最近、ビジネス書とか地政学とかが多かったので、違うジャンルを読みたく、かなり遠めのジャンルに行きました。

    とは言え、佐藤優繋がりで、マルクス主義文学論とかも出てくるので無縁ではない。

    言語にとって美とはなにかを問うことは、言語と行動の問題、言語が人々に与える感情の問題、言語と戦争の問題、言語と世界内存在の問題を問うことに繋がってくる。

  • 画期的な言語論。
    言語をウィットゲンシュタインのように本質的な起源から構想したというよりは言語を意味論的なものとし、表現形式としての単語を解体し、それを文法表現から自己表出(最も自己表出性を帯びたのは感嘆詞)と指示表出(前略 名詞)に分けている。また、彼の美意識によって日本文学から引用しながら作られた表出史なるものは文語体と話体で区別し、前者を自己表出性のある文学と区分し、それぞれ表出史に出てくる文学を解説する試みであるが、これはスゴい。しかし、一読しただけなので、私はまだ、半分も理解できてないだろう。
    これは素晴らしい言語論だ。

  • 思索
    文学

  • 『言語にとって美とはなにか』によって、文学の政治による抑圧から解放された。この著作に至る前に、日本共産党批判、社会主義リアリズム批判を著者は成し遂げている。「政治と文学」論争を通じて、「文学」の「自立性」を追求し、時枝誠記の言語理論、三浦つとむの言語理論を援用し、古代から、近代までの文学作品の評価軸を確立した。ただ、歴史社会学派からの批判的な継承に関して、立場は明確だが、記述から不分明な感もある。不思議なことに『平家物語』には一切触れていない。

  • 「文学の作品や、そのほかの言葉で表現された文章や音声による語りは、一口にいえば指示表出と自己表出で織り出された織物だと言っていい」。

    『言語にとって美とはなにか』という命題は、
    長年、詩や文学に対峙してきた吉本が、
    これらを原理として上昇させようとした意気込みとある種の確信を表している。

    彼は、差異性をことさら強調するのではなく、
    共通性にこそ着目する。
    それは信じて疑わない。

    この態度は、しばしば断定的に現われるため、
    違和感を感じるかもしれないが、配慮してもなお余りある成果が在る。

    この理論に対する正当な批判は存在するのか?

  • 一巻。まずは言語について、え そこからですか…?ってくらいのところ(それこそ原始人が叫んでいた頃から)から、本当に確かか丁寧に丁寧に固めながら、言葉の意味とは、価値とは、音韻とは、比喩とは、正に冒険と言う感じに根本から問い直して、答えを出してくれる。凄くエキサイティングだし説得力があった。
    後半は、イデオロギーや歴史に依らない、表出の変遷だけを追った表出史。主に文学体、話体(自己表出、指示表出)と言う切り口で、これもまた丁寧に言語表現の歴史を追っている。

    全篇通して異常な密度。

    二巻が楽しみ。

  •  まだ、読みかけなのにレビューを書く。
     読了語のレビューは2の方にでも書く。難しい本だけど、頑張って読んで、読了後のレビューを書きたい。

     吉本氏の賢さに文庫版の前書きでやられる。
    「言葉で表現された文章や音声による語りは、一口にいえば指示表出と自己表出で織り出された織物だと言っていい」
     いきなりか。
     凄いな。

     吉本氏の書くものというのは、読む価値がある。
     なぜってありきたりではない、しかし、突拍子もないくだらない戯言ではない。彼には膨大な知識がある。
     膨大な知識があると、逆に新しいものが書きにくかったりする。それまでの知識に足を取られる。
     がりがりの大学教授の話が面白くないのはそんなわけなのだ。

     とは言っても、吉本氏の本には難しすぎるものも多い。
     だから、基本的には簡単なものを読みつつ、自分の興味のあるところだけでも難しい本も少しずつ読めれば良いと思う。

     ブックレビューなのに、ちと脱線したが。

     まあ、冒頭から改めてそんなことを感じさせてくれる一冊。

     頑張って読んで行く。

  • [要旨]
    言語とはなにか、芸術とはなにか。そして文学とはどのような言語の、どのような芸術なのか―。『万葉集』『古事記』といった古典や現代の詩歌をはじめ、森鴎外「舞姫」、国木田独歩「武蔵野」、夏目漱石「それから」など、文学史上のさまざまな作品を豊富に引用し、具体的に分析。表現された言語を「指示表出」と「自己表出」の関連でとらえた独創的言語論の1。『改訂新版共同幻想論』に並ぶ、吉本隆明の主要著作、待望の文庫化。

    [目次]
    第1章 言語の本質;第2章 言語の属性;第3章 韻律・撰択・転換・喩;第4章 表現転移論(近代表出史論;現代表出史論;戦後表出史論)

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著者プロフィール

1924年、東京・月島生まれ。詩人、文芸批評家、思想家。東京工業大学工学部電気化学科卒業後、工場に勤務しながら詩作や評論活動をつづける。日本の戦後思想に大きな影響を与え「戦後思想界の巨人」と呼ばれる。著書多数。2012年3月16日逝去。

「2023年 『吉本隆明全集33 1999-2001』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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