(2023/06/26読了分)スポーツノンフィクションだけかと思いきや、こんな洒脱なエッセイも書いていたとは。タイトルは東京かニューヨークかどちらに住むか迷う夫婦が地震にでくわし、「でも、ニューヨークは笑わないわ」とそれが決めてでニューヨークに決めたエピソードから。野田知佑からカヌーの手ほどきをうけた腕で、ニューヨークのイーストリバーにカヌーを浮かべたり。第一線の日本のプロ野球選手をメジャーに送る構想を語ったり、ドナルド・トランプがまだ新進気鋭の不動産業者だったり、東京には永久歯がないと頻繁に建て変わる町並みをなげいたり。人づきあいには距離感覚が必要、心のなかで感じている親しみと、それをおもてに出すこととはおのずと別もの、と感じていたり。なかでも目に止まったエピソードはふたつ。◆「開けることばかり考えているやつは、まあ、この道じゃ半人前だね。同じ腕と、それに頭を使って、キチッと閉めるシステムを作るやつが一人前だ」p.89◆使わなくなったカード式のキイは赤茶けた更地の上にさしてきた。何のことか、誰にもわからないだろう。p.91◆「ある朝、気がついたらあいつジュディーのウォーターベッドの水がすっかり抜けていた。フロアは水びたしだった。そして、ジュディーはいなかった」p.100(2014/02/26読了分)スポーツノンフィクション…だけではなく、エッセイ風のものもあり。青山通りで追い越していった車のカーステレオから流れる音楽に思いを馳せたり。ニューヨークにながれる川をボートでわたり、どこへいく?ととわれれば、from NY to NYとこたえる、大笑いで Welcome to NY!とかえしてくれる、そんなシーンが好き。バブルのころの様々なモノを買いあさる日本人に、アメリカ人のコメンテーターが、「かつて、ドルがとても強かったころのアメリカ人の姿を思い出しますね」という皮肉。プロの鍵師の「開けることを考えてばかりいるやつは、まあ、この道じゃ半人前だね。同じ腕と、それに頭を使って、キチッと閉めるシステムを作るやつが一人前だ」と語る語り口。監督を解任されたばかりの王貞治から、インタビューで、解説者や評論家について「どうしてもおれがやらなきゃならない商売じゃなさそうだからね。男として、おれじゃなきゃといわれるような商売をしたいじゃない、どうせやるなら」と語られたり。マイク・タイソンのインタビューととるために、暑いブルックリンをかけずりまわり、鳩の話しで少しは反応をだせたけど、結局はあまりインタビューとならなかった件。ヘルナンデス戦で目の当たりにしたフォアマン。「フォアマンがのっそりと近づき、ぼこっという音を立てて右のフックを打った。叱りつけているようなパンチだった。虚勢を張って格好つけてどうするんだ、ボーイ、生きるってのはそんな簡単なことじゃないんだ、わかってるのか。そういうパンチである。」(p.191)/いつもせわしなく旅しているような、私小説というより私ノンフィクションといような、不思議なあじわい。