シベリア鉄道9400キロ (角川文庫 緑 598-3)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041598030

感想・レビュー・書評

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  • 昨日テレビで、最近エンタメ界が鉄道ブームだとかいうのをやっていて、なんてタイムリーな!とびっくりした。
    宮脇俊三さんが四年も前に亡くなられていたことをつい最近知り、追悼の意を込めてちょうど宮脇作品を再読していたところだったのだ。


    『シベリア鉄道9400キロ』 宮脇俊三 (角川文庫)


    鉄道ファンの間では宮脇さんは有名である。
    「鉄道紀行文学」というジャンルを確立させた人だそうだ。
    私は鉄道ファンでも何でもないのだが、宮脇さんの書く旅の話がとても好きで、何冊か持っている中でも一番好きなのがこの本なのだ。

    横浜から船でナホトカへ、ナホトカから夜行列車「ボストーク号」でハバロフスクへ、そこからモスクワまで「ロシア号」で6晩7日のシベリア鉄道の列車の旅。
    馴染みの編集者ヒルさんとの、男二人旅だ。

    旅の目的が、“目的地”ではなく“列車に乗ること”なので、二人は他の乗客からは何だか浮いている。

    寒風吹きすさぶ中、窓を開けてひんしゅくを買ったり、外が見えないからと肩車で窓拭きをしたり、一両ずつ車両を“点検”して歩いたり。
    そして客室の内部はもちろん、トイレや食堂、通路や連結部の様子など、事細かに説明がされていて、まるで妹尾河童さんの細密画を見ているような感じがする。

    シベリアの寒さがシベリア鉄道を支えているのだという。
    一年のうち半分以上は空港も道路も凍結して使えない。鉄道は寒さに強いのだ。
    なるほどーと納得する。

    いかにもマニアというような専門用語や車両の型名やらの羅列や、評論家みたいな難しい説明などは一切なく、簡潔で素直な文章が親しみやすくて好きだ。
    蛍光オレンジのチョッキを着た保線係が、夕日を浴びて線路際に立っているシーンなどは、一幅の絵画を見ているようだ。

    幼い頃から鉄道好き、お酒が大好きで論戦を好まず、多くの人から親しまれていた宮脇さん。
    戒名は、「鉄道院周遊俊妙居士」なのだそうだ。
    なんかいいな。
    楽しかった~っていう声が天国から聞こえてきそうですね。

  • 20年振りに再読しました。
    私は鉄オタではありませんが、宮脇さんの鉄道紀行が大好きで、ほとんどの作品を読みました。本作は私の好きな宮脇作品ベスト5に入れてもいいほど好きです。

    内容のほとんどが列車内のことで、退屈かと思いきや、無愛想な女車掌、ちゃっかりした食堂車のボーイ、色んな同乗者、不味そうな食堂車の料理·········などなど、自分もシベリア鉄道に乗っている気分で読ませてしまいます。

    宮脇さんが亡くなった後に開通した北陸新幹線や北海道新幹線、存命でしたら絶対すぐに乗られただろうなと思います。

  • 1週間も電車に乗り続けるとか!
    しかもロシアに渡るのにまずは船で、とか。
    何が楽しいんだかさっぱりわかんないけど、楽しそうだなーって思った。

  • 旅は時として、実際に出かけた後よりも、あれこれとプランニングする方が面白いという事があります。それを体現したのかどうか、宮脇俊三氏の旅行記には、旅立ちの経緯は詳細なのに締めはごくあっさりとしているというケースが良く見られます。

    本書はその際たるもので、「シベリア鉄道」と銘打ちつつ、ロシア号に乗るまでに紙幅の実に半分を費やしています。しかしそこにこそ面白さがあるわけで、憧れのシベリア鉄道が徐々に近づいてくる高揚感がひしひしと伝わってきます。

    気がつけば刊行から20年以上が経過しているのですが、数年前に半分乗った時の記憶と本書の描写は驚くほど合致します。
    世界は変われど鉄路は変わらず、と言ったところでしょうか。

    宮脇氏の海外紀行の中では、ダントツにお気に入りです。

  • 台湾に続く、宮脇氏の海外鉄道紀行は、あのシベリア鉄道です。タイトルもずばり『シベリア鉄道9400キロ』。
    シベリア鉄道は、一般的には浦塩からモスコーまでの約9300キロと言はれてゐますが、表題は「9400キロ」となつてゐます。本文によると、当時の浦塩は外国人の立ち入りが禁止されてゐたため、ナホトカからハバロフスクまでは別線を走る「ボストーク号」に乗り、ハバロフスクから「ロシア号」に乗車するルートをやむなく選択したさうです。その際、浦塩から乗るよりも乗車距離は長くなり、約9446キロとなるとのこと。ゆゑに9400キロは間違ひではないのです。

    日程は15日間。長い旅であります。初期の宮脇氏は普段一人旅が基本なのですが、さすがに今回はソ連を走破するといふことで、連れがゐた方が何かと安心であります。そこで、版元の編集者「ヒルさん」に同行を頼むことに。なぜ「ヒルさん」なのかと言ふと、「会社では昼行燈なのです」(本人談)とのことで、宮脇氏が命名しました。

    まづは横浜港から「バイカル号」による船旅。なぜか松竹歌劇団(SKD)のお嬢さん方と一緒になります。
    二泊三日でナホトカ着。ナホトカから漸く汽車の旅になりますが、まだロシア号には乗れず、ボストーク号なる夜汽車でハバロフスクへ向かひます。
    ハバロフスクでつひに「ロシア号」に乗車。六泊七日の大旅行であります。車内設備に関しては、有名な列車にしては今一つ質素といふか、日本人にとつては中中不便な住環境のやうです。
    一週間も汽車に乗り詰めだと、車窓風景にも飽きてきます。如何なる絶景でも数分眺めてゐれば腹一杯になるのです。さうすると、興味は勢ひ食事になるのですが、「ロシア号」の食堂車はどうも、充実とは言ひ難い内容らしい。メニューにあるのに片端から「無い」と断られるし、酒類は種類が少なく、甘くて不味いシャンパンしかない。酒飲みの宮脇氏としては痛恨の極みでありませう。

    そして同乗の乗客同士、情が移つて何となく仲良くなるのも洋の東西を問ひません。しかしカメラをぶら下げたイギリス人だけは、宮脇氏もヒルさんも虫が好かない。どうやら日本人に反感を抱いてゐるらしく、こちらの感情を害する言動ばかりするやうです。ヒルさんなどは激怒し、一発殴つてやらねば気が済まんなどと物騒な事を言つてゐます。そのイギリス人は途中駅で下車したので、特段のイザコザは起きなかつたのは何よりであります。

    ロシア号の第三日、「シベリアのパリ」ことイルクーツクで、ほとんどの乗客が下車します。バイカル湖見物などするのでせう。しかし我らが宮脇氏一行は当然乗り続けます。日本語が出来るガイドのワジム氏も下車するとのことで、ロシア語が出来ない宮脇氏たちを心配します。といふか、この有名観光地で下車しない二人を変人扱ひしてゐました。
    ワジム氏は親切にも、食堂車のミーシャに「くれぐれもこの日本人二人をよろしく」と念を押して下車したのです。そのおかげで、それまで不愛想だつたミーシャが、がらりと態度を変へ、まことに友好的になつたのであります。

    あまりに長大な旅ゆゑ、宮脇氏も本書執筆にはかなり呻吟したやうであります。しかしその苦しみの成果は、如実に表れました。同行のヒルさんを肴にするといふ禁じ手を犯しながらも、十分にシベリア鉄道の奥行と間口を感じさせる一冊となりました。海外篇の代表作の一つと申せませう。

    では今回はこんなところで、ご無礼いたします。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-606.html

  • 12/11/18、一箱古本市で購入。

  • 宮脇俊三の文章というのは、自分もそこにいるような
    錯覚をおこすほど自然である。
    奇をてらわず、感じたことを率直に書き記している
    からだけではないようだけど…

  • 1982年4月、世界最長のシベリア鉄道に乗った紀行文。 横浜から船でナホトカ港へ向かい、ナホトカの近くのシベリア鉄道の発着駅である ウラジヴォストクは外国人立ち入り禁止のため、ハバロフスクからモスクワまで 「ロシア号」に乗り、8531キロを6晩7日かけてモスクワへ向かう。 キロポストや到着時刻、発車時刻を細かくチェックしたり かなりの鉄道好きと思われる著者。鉄道だけの話ならおもしろく なさそうだが、同伴者のヒルさんや食堂車の給仕などとのやりとりがおもしろい。 「インド鉄道紀行」もおもしろかった。

  • 出発は雨の横浜港からであった。50余時間の揺れに揺れた船の旅だ。だが、ナホトカからは待望の汽車である。これから延々8521キロを6晩7日かかってモスクワまで走る世界最長の列車、シベリア鉄道。ひとたび乗れば毎日毎日が汽車の中である。長大なアムール川の鉄橋を渡り列車は氷雪と白樺のシベリアを一路モスクワ目指して走り始めた。

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著者プロフィール

宮脇俊三
一九二六年埼玉県生まれ。四五年、東京帝国大学理学部地質学科に入学。五一年、東京大学文学部西洋史学科卒業、中央公論社入社。『中央公論』『婦人公論』編集長などを歴任。七八年、中央公論社を退職、『時刻表2万キロ』で作家デビュー。八五年、『殺意の風景』で第十三回泉鏡花文学賞受賞。九九年、第四十七回菊池寛賞受賞。二〇〇三年、死去。戒名は「鉄道院周遊俊妙居士」。

「2023年 『時刻表昭和史 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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