あ・じゃ・ぱん!(上) (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041616574

作品紹介・あらすじ

昭和天皇崩御の式典が行われている京都の街中で、偶然、テレビカメラに映し出された一人の伝説の老人。「この男からインタヴューを取ってもらいたい」と上司から指示された人物は、新潟の山奥で四十年もゲリラ活動を展開してきた独立農民党党首・田中角栄その人だった。しかし、私の眼は、老人の側に寄り添う美しい女にくぎ付けになっていた。その女こそ…。来日したCNN特派記者が体験する壮烈奇怪な「昭和」の残照。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争に負けた日本は壁で東西に分断され
    西日本はアメリカに、東日本は共産党に統治されることとなった
    そんなアナザーワールドもの
    富士山にはエノラゲイの誤作動で原爆が落ち
    ふっとばされちまってる

    主人公はアメリカ黒人でCNNの特派員
    東側で反政府ゲリラを指導する田中角栄のインタビューを取るため
    壁を越えて新潟へ向かった
    壁なんていっても、そこは日本ならではの曖昧さ
    トンネルなんか勝手に空けられてるし
    そこを通じて、新潟のうまい米や酒が西側へ流れていってるのだ
    しかし京都御所の昭和天皇が崩御して以来、どうも
    西側が態度を硬化させており
    東側の人民が飢餓に直面する事態も生じている…らしい
    田中がCNNを招いた意図は、その告発にあるようだが
    祝十郎(月光仮面?)を教祖とする謎の宗教団体が
    なぜか主人公たちを妨害するのだった

  • 娯楽小説でありながら、読者の教養や雑学など幅広い知識が試され、事実と虚構の間で作者に弄ばれる。
    実在したいろんな人物や事件を小ネタとしてぶち込みまくってくるが、残念ながら不勉強の身ですべての理解はかなわず、Google検索のお世話になりながら読み進めることとなった。(たとえば加山雄三や三島由紀夫、さらには川内康範と月光仮面の本名など知る訳もなく、笠置シヅ子が吉本興業の御曹司と付き合ってたなんてことは興味もなかったネタだし)
    便利な検索ツールがなかった初出当時なら自分には読むことが難しかった作品なのだろうが、逆に言うと、いま検索しながら読むのは極めて無粋な行為なのかもしれない。

    「吉本興業が総理大臣を出して政治や経済を牛耳ってる」という設定は、本書が執筆された当時は絶対にありえない笑える冗談だったのだろうが、吉本興業が政府や地方政治に擦り寄る現在ではもはや笑えない冗談と化している。
    多くの公的サービスが民営化された拝金主義国家、というのもそうだ。
    スラップスティックな歴史改変物なのに、執筆の二十数年後のいま読むと、現実も負けじとなかなかすごいことになっている。
    これほどまでに奇想天外な小説なのに、それでも「事実は小説より奇なり」というまったく別の感想も持つ。

  • 文学

  • このSF小説は、第二次世界大戦後の処理で分割された架空の日本の話です。
    話としては。「昭和天皇の崩御」のニュースである人物が映っていて、ある記者にその人物にインタビューするようにtと言われてからの話です。

  • 戦後、日本が東西に分断して統治され、
    社会主義国家東日本のトップは中曽根康弘、資本主義西日本のトップは吉本しづ子(吉本興業)、新潟のレジスタンスの長は田中角栄、独善的に日本国家の再生に暗躍しているのが三島由紀夫、その他にも東日本のジャーナリストに和田勉、伝説のメジャーリーガーとなっている長嶋茂雄、李香蘭、杉本高文などなど…。

    想像しただけでもワクワクするようなトンデモ設定です。
    「たら」「れば」という仮の話を軸にして見えてくる本質っていうのがあると思うのてすが、この小説は、このトンデモ設定という「たら」「れば」を用いて、日本の戦後民主主義の本質をアイロニーたっぷりに描いていきます。

    多分、日本文学史上でも大傑作の部類となる作品だと思うのですが、
    正直、私には消化しきれないほどのネタがブッ込まれています。
    どこまでがパロディで、何が元ネタになっているのか分からない箇所も多々ありました。

    本当は星5つにしたいのですが、わたし個人的に感じた面白さは星3つです。
    だけど、「こういう作品を推している自分って知的だろ?」みたいな見栄も働き、星4つにしました。

    映画化にしたら面白そう。ただ、実現する力は無いんだろうけど…。

  • 歴史のいじくり、へえと言う感じでおもしろいけど、ぐちゃぐちゃめんどくさい。

  • 「たまには、けれん味に満ちあふれてるのを読みたい」ってときにうってつけなのが矢作俊彦。

  • 数多出てくる現代日本史のパロディに四苦八苦しながらも、高校時代に読破した思い出の書籍である。
    ストーリーは、ドイツのごとく西と東にわかれた日本国で主人公が文字通り「東奔西走」するといったものである。前述の通り、作者の圧倒的知識量に裏打ちされたパロディの数々に驚かされる。
    知識を付けてから、もう一度読破に挑戦したい本でもある。

  • 「あ・じゃ・ぱん」の続きをを311の震災以来半年ぶりに読み始めた。冗談ではなく、折しも「あ・じゃ・ぱん」の文庫本下巻の第四部の冒頭での、日本の東西を分断した境界が決壊する直前の富士山近くのM7.4の地震の発生と、311の大震災が偶然にも重なってしまい、それで読めなくなっていたのだ。

    アテンション・プリーズ。この「あ・じゃ・ぱん」は矢作俊彦の傑作だ。東西日本が戦後に大日本国と日本人民民主主義共和国の二つの国家に分断された90年代が描かれるいわゆる偽史物で、東洋史の研究で有名なライシャワーに師事し、日本語(しかしながらここでいう日本語は大日本国の標準語となった大阪弁ではなく東京官話の方)がペラペラの小柄な黒人CNNレポーターが主人公だ。そしてこの傑作のとりわけおもしろいのは登場人物たちで、田中角栄、中曽根康弘、三島由紀夫、加山雄三、和田勉、長嶋茂雄など実在の人物たちがまったく違う様相でキャラクター化されている。また、いたるところで日本の様相も違っている。その最たるは富士山だ。日本が誇るその山はアメリカが落とした原爆によって消失し、阿蘇のカルデラのような状態になっているのだ。

    ところで、戦後ニッポンを朝鮮やドイツと同様に分断させた歴史によって形成された現代を物語る偽史物はけっこうある。その中でもぼくが一番に思い当たるのは、村上龍による「五分後の世界」そして「ヒュウガ・ウイルス 五分後の世界Ⅱ」だが、こちらは戦後も日本は戦争を続けており、迷い込んだ主人公も戦争に加担していく、というようなまったく違った作品である。日本の戦争に対するヒステリーが過剰に推し進められ続けた先にあるカタストロフィーを描いたような作品である。それから、かわぐちかいじの漫画「太陽の黙示録」なんかはけっこう「あ・じゃ・ぱん」のそれと似てる気がする。また、三島由紀夫が陰謀に加担しているという設定なんかは大塚英志の一連の偽史物が思い出されて親しみ深い微笑が漏れる。

    レビューも下巻に続く・・・

  • よくぞ出版できたなあと思う。面白いけど、ここまで実在の人物をおょくって大丈夫なんだろうか。もっと評価されてもいい作品だけど、友人に推薦するには気が引ける。でも、この本が好きな人とは多分友達になれる。

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著者プロフィール

1950年、神奈川県横浜市生まれ。漫画家などを経て、1972年『抱きしめたい』で小説家デビュー。「アゲイン」「ザ・ギャンブラー」では映画監督を務めた、『あ・じゃ・ぱん!』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、『ららら科學の子』で三島由紀夫賞、『ロング・グッドバイ』でマルタの鷹協会・ファルコン賞を受賞。

「2022年 『サムライ・ノングラータ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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