三浦和義事件 (角川文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (924ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041682050

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  • 令和の今、「みうらかずよし」と云えば、サッカー選手を連想するだろうが、昭和生まれ、育ちの者にとっては今でも『ロス疑惑』の彼を連想する。
    そしてこれはその『ロス疑惑』の全貌及び真相解明に臨んだ島田流ノン・フィクション作品なのだ。

    事件が起きたのは昭和56年11月18日とあるから、当時私は9歳であったが、連日テレビで報道されていたのは記憶に鮮明に残っている。事件そのものはLAで妻を殺害された男、三浦和義が実は妻の保険金を狙った殺人だったのではないかというものだったのいうのは鮮明に覚えており、当時事件現場を遠巻きに移す映像も記憶にある。
    本書はその内容を、マスコミ側と三浦氏本人側から語り、そして裁判のあらましを語るという大きく分けて3部構成の体裁を取っている。文庫版である本書はその後日譚もエピローグとして補足した補完版となっている。

    まず面白いのは当然のことながら、マスコミサイドの視点で描かれた三浦像と三浦本人の視点で描かれた造形がものの見事に食い違っていることだ。特に前者のそれは性豪の気障男として描かれており、どうにも読者の共感を得られない人物となっている。しかしこれが正に当時マスコミで報道されていた三浦和義像他ならなく、情報操作というものは非常に恐ろしいものだと痛感した。

    のっぴきならない状況でやむを得ず嘘をつかざるを得なかった三浦氏がそのために人生をふいにする有様は胸の痛む思いで、築き上げた会社、取引先、家族全てがことごとく自分の掌から零れ落ちていくプロセスは正視に堪えられないものがあった。
    単にLAで写真撮影をしており、そのとき通りかかった暴漢に襲われ、妻と我が身を撃たれた、この単純な事件がかくも歪に歪められ、一人の男の人生を台無しにする、これは誰の身にも起こってもおかしくない現象だ。だからこそ恐ろしい。
    たまたま女性にもてて、たまたま会社経営者で金を沢山持っていたというだけで日本人の総スカンを食らう、これは堪らない。
    私が思うのは、よくぞこの事件を島田氏が紐解こうとしてくれたなという賞賛の気持ちだ。

    『秋好事件』とは違い、今回は堅苦しい司法文書の類を転載することを避け、終始事件の模様を小説タッチで著したのが非常によかったように思う。
    ただ、後半の裁判の模様は今まで述べられてきたことの反復が続き、だれたのは否めなかった(これはこういう冤罪事件を扱う上では避けられない欠点なのだろうか)。

    結果的に島田氏は矢島峰子という女の愛憎のなせる執念の産物だと警告を鳴らしている。
    確かに彼女の告発が無ければ、このように事件は拡大していかなかっただろう。それがために存在しなかった『妻殴打殺人計画』の主犯というレッテルを貼られた。そしてこれをきっかけにしてメインの『銃殺事件』の犯人にされそうになった。
    最後に述べられた最高裁判官の逆転無罪判決でこの事件は三浦氏無罪となるわけだが、それが最高裁判官辞職を招く。
    私は何故?といいたい。
    正しいことを成すのに何故辞職を覚悟しなければならないのか?
    司法独立の理念は存在しないのか?

    また事件の取調べ方の非人道的行為が細かく語られ、ほとんど被告人は人扱いされない。平成の今の世においてもこのような取調べが横行しているのかは寡聞にして知らないが、これが島田氏は日本に冤罪を招く素だと強調する。

    本書の最後で島田氏はこのようなことを云う。

    「重大事件に必ず犯人が挙がるとは限らないことを、われわれ日本人はそろそろ学ばなければならない」

    これは世間が騒ぎ立てたがために警察・検察が三浦を何が何でも犯人として挙げざるを得ない状況に追い込まれたことを批判した文章なのだが、本格ミステリ作家である彼がこのようなアンチテーゼめいたことを発言するのが興味深い。
    当たり前のことだがミステリの場合、必ず事件は解かれるのである。それを島田氏は現実では当然だと考えるなと訴えているのだ。
    作家としての自己否定的な発言であり、これを考えるとミステリ作家は作品を書けなくなるのではないかと思うのだが。

    読後はかなり重いが、『ロス疑惑』とは一体なんだったのかを知るのに格好の力作ではあった。

  • タマフル読書特集(2009.3.7 O.A.)宇多丸推薦。

    いみじくも宇多丸が番組で述べていたように、国民裁判員制度が施行する前夜であるからこそ読み返すべき一冊だ。

    ロス疑惑に於いて三浦和義が黒なのか白なのかは結局闇の中ではあるが、最高裁でも無罪判決とでたのは事実である。
    13年間に及ぶ警察・検察からの執拗な時には脅迫めいた取調べ、偏見と予断にみちたマスコミ報道による誹謗中傷などそのストレスは計り知れない物がある。

    丹念に事実関係を洗い出し、関係者からの証言も取材し、中立的な立場で書かれたこのドキュメントを読んでも果たしてそれが冤罪であったかと断ずる自信は評者にはない。

    ここに国民裁判員制度のそこの無い闇のような恐ろしさを感じる。

    特に感情論から先走った結論ありきの推定をもとに集団ヒステリー状態になっていく当時のマスコミ・日本人の"善意"の恐ろしさには身の毛もよだつ想いだ。

    結局、軍国主義の賜物=国家総動員法に代表される全体主義、集団ヒステリーから抜け出せていないのではないか。
    折りしも昨日、日本テレビ社長が虚偽の情報を放送した責任を取って辞任を表明した。
    目先の視聴率ために大衆好みのセンセーショナルな情報をてんこ盛りにした結果が今の"マスゴミ"という蔑称に繋がっているのだと思う。


    三浦和義氏がロスアンゼルスにて自決(他殺説も?)した今、改めてこの事件を振り返り考え直す時期に来ているのではないか。

  • 20171208

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著者プロフィール

●著者紹介
1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2021年 『島田荘司選 日華ミステリーアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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