哀しい予感 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041800010

感想・レビュー・書評

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  • p56
    夜の電話はいつも少し淋しい。真実はわかればいつも切ない。夢とうつつのはざまで、子供のような気持ちでぼんやり聞いていた。

    p64
    あそこにはもっと何かちがうものがあった。そう長続きするとは思えないほど幸福な物語みたいな何か……

    p68
    この人は、時間の止まった古城の中で、失われた王族の夢を抱いて眠る姫だったのだと私は思った。もうこの世にその栄華を知るものはたったひとり、心はいつもそこへ還ってゆく。何と高慢な人生なんだろう。病いのように彼女にとりついたその強情なものは何だったんだろう?

    p69
    「……私は、今も、忘れられないの。ずっと、呪いや祝福のように、体から抜けないのよ。」

    p83
    まっすぐ私を見すえる瞳には恋の色だけがあって私は困惑した。

    p101
    知らない人にすぐなじむのは、哲生の特技だった。つまり他人なんてどうでもいいと思っているのだ。

    p101
    時々、彼はこういう無邪気な態度になる。

    p103
    恋する男はみんな相手を特別なものと思うものだが、この人の言っていることはよく分かる気がした。

    p103
    『ないしょですが……』とか言ってね、

    p104
    ずっと、恋してたんだな。そして、それは僕だけではなった。それはずっと感じていた。

    p104
    うん、あんなに楽しかったことはない、今まで。最高だった、彼女と恋愛するのは。

    p106
    そうやって、うまくやりながら育ってきた。でも、肝心なのは、置き忘れてきた部分なんですよ。誰とも分かちあえない。

    p115
    するとしないとでは何もかもが180度違うことがこの世にはある。
    そのキスがそれだった。

    p118
    はたから見れば微笑ましいという程度のこの生活態度の違いが、おばにとって恐怖だったろうことはよく分かった。彼女は単に教師としてのモラルや年齢差におびえたのではなく、彼の健全さを異星人のように嫌悪したにちがいない。ずっと守り続けてきた自分の小さな、だらしない暮らしが変わることにおびえたのだ。私にはその気持ちが、とてもよくわかる気がした。若気の至りという言葉の通りに、恋の嵐が過ぎ去れば彼はまた元の日々へかえってゆくかもしれないことの、その率はあまりに高い。どう考えてもおばは、きちんとつきあう恋人にするには変わりすぎている。
    おばの人としての弱さをはじめてちらりと見たような気がして、少しつらくなった。こわいものや、いやなものや、自分を傷つけそうなものから目をそらすのが、おばのやり方だった。

    p140
    私は言った。確かめたかった。
    子供の頃から。
    他の人と比べるたびに。
    この子でないと思うとつまらなかった。

    p142
    いいかぜんな気持ちで私にあてて手紙を書いているところだった。私にあてて、来るかどうかわからない私のことを思い浮かべて……私は、おばの旅行をむしょうに止めたかった。ここでつかまえないと、あの人は一生こんなことばっかりやってるように思えた。そんなことだけじゃないんだ、と教えてあげたかった。

    p153
    夕空を背にして、風に吹かれてにっこりと微笑んだ姉の大人びた笑顔に、その手のぬくもりに悲しい気持ちをすっかりあずけた。
    わけもなく悲しく、みんな優しかった。
    ああ、あれほど美しい夕方の中、私の小さな心いっぱいにその予感は満ちていたと思う。
    その日以来、家族はもう二度と、その幸福な生活を営んでいた町に戻ることはなかったのだから。

    p162
    青に沈む湖は、山々を背にしてひっそりと澄んだ水をたたえていた。

    p163
    もう、二度とない、貴重な。一度きりの。

    p163
    私は答えた。家へ帰るのだ。厄介なことはまだ何も片付いていないし、むしろこれから、たくさんの大変なことが待ちうけている。それを、ひとつひとつ、私が、そして哲生が乗りこえていかなくてはいけない。それは不可能なほど重々しいことに違いない。それでも私の帰るところはあの家以外にないのだ。運命、というものを私はこの目で見てしまった。でも何も減ってはいない。増えてゆくばかりだ。私はおばと弟を失ったのではなくて、この手足で姉と恋人を発掘した。
    風が強くなった。まるでビロードの幕がゆっくりと降りてくるように、空がだんだん暗くなり、星がひとつ、またひとつと浮かびあがる。

  • 吉本ばなな「哀しい予感」
    装丁に記された 主人公の弥生19歳 同い歳であることに親近感を持ちつつ手に取ったこの本は、時計が狂ったように進んでいく旅と記憶の本だった。彼女が衝動的に家を出てしまうことはもう無くなるのではないかとおもう。

  • 初吉本ばなな。
    ストーリー的には、はっきりしない、よくわからなかったが、自然描写が印象的だった。こういうの、文学好きに好まれるのかなと思った。

  • すごいなあ、好きだなあという場面が次々にあった。最近小説を読んでいてこんなことはあまりない。ぽんぽんと次々に出てくるのだからばななさん恐るべしである。
    前回読んだ「白河夜船」も相当好きだったが、それ以上だったかもしれない。血の繋がっていないきょうだいという設定は、他のばなな作品でも用いられているが、なんだかありきたりではなく神秘的なにおいのするものとして読める。家族というものの素敵さが浮き彫りになっている。
    そしてやはり切り取ってくれる気持ちや気持ちの変化が好きだ。その場の空気の一瞬の変化をあるべき姿で書いてくれている。
    吉本ばななさんの小説の装丁はたまらなく好きなものがおおい。

  • 弥生とそのおばであるゆき、そして弥生の弟の哲生。
    本当の血の繋がり…て・・・

    最初は『謎』があり、引き込まれていったが…『謎』が解けてしまえば何てことない恋愛系に感じました。

    上に書いたように『血の繋がり』を強調しすぎて『恋愛』になったのか???
    とにかく…私は苦手でございました。
    (恋愛系が大の苦手です)

  • 難しさは一切なくなんだかずっとふわふわしてるようで読んでて楽しかった。
    普通じゃないことを物凄く普通にかいてていたって日常です。ってかんじが好きだった。ミステリーなのかもしれないけどそんな感じもしなかった。

  • あまり印象に残らない。

  • 恋愛色の強い物語だった。私はあまりそういう物語が好きではないので、面白いとは感じなかった。しかし、冒頭部分はオリジナリティがあったし、想像しやすかった。

  • 何度か読んだことがあったので、大筋は覚えていた。
    女性が書いた甘い小説だ、という感想を改めて持った。
    柔らくて善良で温かい作品だ。
    すれた大人には甘すぎる味わいだ。
    それでも、たまにはこういう美しく優しいお話を読んで、汚れた心を中和させるのもいいのかもしれない。
    なんて、思った。



    2006.7.19
    恋愛をからめているところがマイナス。そこが安い気がする。でも、面白かった。「おば」のせつなさも、弥生の不安や心もとなさもよくわかる。キャラクター設定も面白い。なんとなくおしい気がする。もう一皮むけたら、パーフェクトな本になるのに。


    2003.8.18
    善意にあふれた物語だ。ドロドロとしたところがない。ゆきののキャラクターはとてもいい。ただ、その他の人物のキャラクターが、ややもすれば薄くなり、混合されてしまう。というか、キャラクターがどれもこれも生かし切れていない。みんな当たり障りなく物語の筋を流れていって、インパクトに欠ける。まだまだ青い作品であり、育ちのいい作品だ。登場人物に垢がないのだ。みんなまともな判断を下し、最良をとっていく。その整然具合が、この話をあくまでも物語にとどめている。リアリティに欠けるのだ。もったいない気がする。

  • 2018/06/24
    よい
    おばさんのライフスタイルとか弥生とてつおの距離感とか
    弥生の落ち着きと行動力

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著者プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

「2023年 『はーばーらいと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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