哀しい予感 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041800010

作品紹介・あらすじ

いくつもの啓示を受けるようにして古い一軒家に来た弥生。そこでひっそりと暮らすおば、音楽教師ゆきの。彼女の弾くピアノを聴いたとき、弥生19歳、初夏の物語は始まった。

感想・レビュー・書評

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  • あるかたのレビューを見て、吉本ばななさんが無性に読みたくなりました(それはキッチンのレビューだったのだけれど)。こういう出会いに感謝いたします。
    弥生19歳の初夏の物語。弥生は、時折、一人暮らしの風変りなおば、ゆきののもとを訪れる。
    弥生は父母、年子の弟哲生の四人家族。絵にかいたような明るい幸せな家族だ。なのに弥生は小さいころの記憶が無いという。弥生には霊感があるらしい。これはオカルトか?とも思った。
    ユーレイを見たという。お風呂でなかったはずのアヒルのおもちゃの黄色いくちばしが現れた。リアルな表現に今にも見えてきそうだ。考えてみれば年頃のころは偶然に偶然が重なったりして奇妙なことが起こったりする。そんな曖昧な記憶、人に言えないこともあった気がする。そういう微妙なかすんだ過去(誰もあるあるの)の表現がなんかいいなと思った。
    そのあと、おばのゆきのが姿を消し、つかみどころのないストーリー、どこへ向かっているのだろう。私には合わないかも、と思ったのもつかの間。正彦くんが出てきて、話が真に迫ってくる。
    弥生は本当の自分の生い立ちを知る。

    ゆきのと弥生が幼いころを回想する。そこには温かいゆきのと弥生、両親の幸せが確かにあった。ほんの4頁が悲しすぎて(いとしすぎて)泣けた。
    「その日以来、家族はもう二度と、その幸福な生活を営んでいた町に戻ることはなかったのだから」
    もう、二度と。

    そして弥生は、
    「家へ帰るのだ。厄介なことはまだ何も片付いていないし、むしろこれから、たくさんの大変なことが待ち受けている。それをひとつひとつ私が(哲生が)乗り越えていかなくてはいけない。(中略)それでも、私の帰るところはあの家以外にないのだ。」
    このセリフはそっくりそのまま私に返ってきた。
    (私も)抱えるものは家族だから。

    ゆきのはどうしようもなく掴みどころのない女性だけど、寂しさの中に強さを見、魅力を感じた。
    弥生を愛おしむ愛情に溢れている。

    感じたのは、やはり今を生きなければ、ということ。

  • ---するとしないでは何もかもが180度違うことがこの世にはある。そのキスがそれだった。---

    この一文の重み。もう姉弟じゃない。もうおばじゃない。
    喪った家族の思い出に胸を痛めながらも、今そばにいる家族や始まる恋の予感に慰められて・・・

    普段、カレーは辛口派だけどこのフルーツカレーは気になりますね。

  • こちらの作品、私が高校生くらいの時に初めて小説を購入して読んだ作品。
    改めて、すっかりおばさんになった今現状で読んでみて、あの時とは違う感覚を味わった。
    ものすごく、古い作品なのに、そんな違和感なく、さすが吉本ばななさんだなぁと!
    設定も、今のドラマや映画でも通ずるものあり。小説の中の繰り広げられる世界が、頭にぱっと浮かびました。
    主人公、姉、弟、父、母、姉の恋人の登場人物。家族愛ともいうべきか、初恋ともいうものか。とにかく、一つ一つの表現が甘くうっとりしてしまった。例え描写が、優しくて心が温まるストーリーでした。

  • 2024年、最初の読了。こういう、徐々に秘密が明らかになる冒険譚、好きだなあ。

  • 私よりずっと年上の作品です。
    よしもとばなな先生はもともと母が好きで、その影響で読み始め、私も大好きです。

    よしもとばなな先生はどの作品も靄がかかってるような、霧がかかってるような遠くまで見渡せない濁っているけれど、それが心地良いような印象を受けます。
    この作品は、あまりそういった感じはしないけど、澄みきった真っ直ぐさが強い気がします。
    これはこれで素敵です。

    淡くて柔らかくて、それでいて澄んでいる。
    濁っているのにすっきりしてる。
    そんな感じがして、心があたたかくなります。

    ぜひ、読んでみてください。

  • 普通に、明るく、元気そうに生きていても、人は喪失してしまったことから本質的には逃れられない。
    乗り越えても、何もなかった頃のように、元通りになれるわけではない。
    「でも肝心なのは置き忘れてきた部分なんですよ。誰とも分かち合えない」
    欠けてしまった部分を埋めるために、前向きなものに触れようと思う。
    だけど本当にそれを埋められるのは、自分の哀しい部分に触れてくれる何かなのかもしれない。

    霊感、直感、不思議に惹かれ合う感覚。
    よしもとばななさん特有の世界観の中に、姉妹愛や姉弟愛や親子愛が絡み合った、切なくて愛しい物語。

  • 雨の冷たい空気とか、軽井沢の涼しさとか、部屋の暗さとか埃っぽさとか、上野のムッとした雑踏とか

  • キッチンもよいけど、
    何だかこれが一番好きな話でした。
    うまく言えないけど、読んだ後の余韻がよい感じでした。

  • 弥生とおばさんは、事故現場である恐山に行き、
    やっと、何かがひとつ終わった。
    誰しも多かれ少なかれ、過去の悲しい出来事や、後悔はあると思うが、弥生とおばさんがやっと清算できて良かった。
    弥生とおばさん程の辛い出来事ではないかもしれないが、私も過去にあった事を思い出し、どうしようもないのに頭を悩ませ、気分が落ち込むことが多々ある。
    私の場合はもう99%清算できないが、その出来事が故に失ったものと、得たものがある。
    せめて得たものを大事にして生きていきたいと、読み終わった後に強く思った。

  • 弥生はおばと弟を失って、姉と恋人を手に入れた。

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著者プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

「2023年 『はーばーらいと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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