キッチン (角川文庫)

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  • 角川書店
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レビュー : 1591
  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041800089

感想・レビュー・書評

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  • 大切な人との永遠の別れの中で残されたものがそれでも前を向いて生きていくということ。希望、という単純な二文字におさめられてしまうけど、読んだあと、一歩踏み出そうと思える一冊。本題とは関係ないが、「満月」に出てきたカツ丼、本当に美味しそうだった。あと、人と人との繋がりの強さ、というか、軽っぽさがないところが羨ましくもあった。恋人という関係だけでなく、兄弟の友達、兄弟の彼女、居候先の親という主人公との色々な関係が描かれているが、その誰もがお互いを思いやりあっている。美しいなと思った。

  • 好きです
    本当に好き
    切なさの迫り方好き

  • これはベストセラーになると思いました。「透明感のある」文章でついうかうかと読み進めて分かった気になるのですが、描写のエッジがうすい分、あれ、いまどこにいるんだっけとか、どこの話だっけ、と読み返すことにはなったが、透明感がある小説なので仕方ない。下手に写実的な描写が入っていたら平凡になっていたかもしれないのでこれはこれでいい、としか言いようがない小説でした。

  • 馴染みやすく気取り気のない文章で様々な「愛」の形を描いた吉本ばななの鮮烈なデビュー作。デビュー作は作家の書く本の中では120点の作品、と評されるらしいのですが、この本は間違いなくその評価以上に値するものです。
    軽いタッチと比較的少ない文量でとても読みやすく、しかしページの厚みやシンプルな文体の裏に、一言では言い尽くせない深い魅力が溢れています。

    愛や死に触れることも、得ることも失うことも、床を磨くことも料理をすることも、葉書を出すことも涙を流すことも、生きてエネルギーを使わなければできないことで、天涯孤独となった主人公の「みかげ」が、愛おしくも取り留めのない日々に、新たな意味や気づきを見出しながら進んでいく、その行動力や生き様から、立場の違う読み手の心すらも励ますような力強さを伺うことができます。

    魅力は個性豊かな登場人物たち。完璧でないところに見出される人間味や彼らが背負っているものへの過不足ない描写が、純文学としてはフィクショナルで心情移入しにくい登場人物たちに馴染みやすさや愛着を抱かせてくれます。映像ではなく、小説だからこそ許される非現実的な面白みが最大限に生かされた作品です。

    元気がでないとき、途方にくれてしまったとき、そして前向きになりたいとき、ぜひ手にとってみてください。

  • 人を愛するかたちは自由である

  • 長らくブクログを休んでいたこともあり、
    今一度、自分の原点を探ろう企画の第4弾(笑)

    学生時代、僕が初めて読んだばななさんの本は 
    「キッチン」だった。 
    恋愛や別れを経験する中で 
    口に出せなかった気持ちや、思春期に自分が見ていた景色や、言葉で表せないもどかしい感覚を、 
    こんなにも見事に 
    美しい『言葉』で表せる人がいたのかと本当に衝撃的だったのだけれど、
    20数年ぶりに読み返した今もその驚きは変わらない。



    主人公は唯一の肉親の祖母を亡くした大学生、桜井みかげ。
    何もやる気が起きず、宇宙の闇に引きこもり
    この世でいちばん好きな場所、『台所』で、
    冷蔵庫のぶーんという音を聞きながら
    眠り続ける日々。

    飽和した悲しみの後には
    柔らかな眠気があとから襲ってくるのを思い出す。

    ああ~そうだ。悲しみってこんなんだったよな。

    ばななさんの小説は、本を開き読んだ時の
    言葉の音感やリズムのつけ方が独特だ。
    この独特なリズムが合わない人は
    多分彼女の小説は合わないし、
    最初から合う人は何を読んでもずっと合うのだ。
    そして事件よりも、
    人間の深い心の動きだけを描いていきたいと
    以前テレビのインタビューでばななさん自身が述べていたように、
    読者は小説の中で大きな事件が起きなくとも
    主人公の心の揺れだけで
    いともたやすく引きこまれてゆく。
    (ハートを掴まれるとはまさにこのことだ)


    同じ大学でみかげよりひとつ年下の田辺雄一。
    生前、祖母と仲の良かった雄一の計らいで、
    雄一とその母えり子(実は父親)の家に居候することになるみかげ。

    いつか必ず、誰もが時の闇の中へ
    ちりぢりになって消えていってしまう。

    みかげや雄一と同じく、
    肉親を早く亡くし、施設で育った僕は
    そのことを身体中に染み込ませながら、生きてきた。

    みかげは僕だ。
    あらためて腑に落ちた。
    だからこそ、学生時代この小説に激しく惹かれたのだ。

    バスの中で見た知らないおばあちゃんと小さな女の子の会話に
    二度とはこない時間を思い知らされ、
    涙が止まらなくなるみかげ。
    みかげが祈る
    『神様、どうか生きてゆけますように』には僕の涙腺も崩壊した。


    好きなシーンを挙げるとキリがない。

    ワープロ(懐かしい!)を買った嬉しさから
    大量に引っ越しハガキを作る雄一とみかげのシーン。

    みかげの夢の中、
    夜中に汗だくで台所を掃除するみかげと雄一。
    お茶を飲んで休憩しながら
    菊池桃子の知る人ぞ知るセンチメンタルな名曲『二人のNIGHT DIVE』を口ずさむ二人。
    真夜中のしんとした台所に歌声が響くシーン。

    えり子さんを亡くし、うちひしがれる雄一と彼を励まそうと大量の料理を作るみかげ。
    そんな二人のみなしごが、初めてお互いがお互いを必要とすることに気づく切ないシーン。

    えり子さんがまだ男だった頃の
    奥さんとえり子さんを繋いだパイナップルの鉢のエピソード。

    旅先で巡りあった『非の打ち所のないカツ丼』を手に、
    傷心の雄一が泊まる旅館に忍び込む
    みかげの奮闘を描いた
    物語のクライマックスシーン。


    そして、記憶に残るたくさんの食事のシーン。
    (この小説ほど、食べ物や食事が血肉となって物語を輝かせているものを僕は知らない)

    光り降り注ぐ朝の木漏れ日の中、えり子さんと食べる
    玉子がゆと、きゅうりのサラダ。

    夜中の台所でみかげが雄一と食べるラーメンと
    真新しいジューサーで作ったグレープフルーツジュース。

    雄一が旅先で食べたとうふづくしの御坊料理。
    (茶碗むし、田楽、揚げ出し、ゆず、ごま、すまし汁、茶がゆ)

    そして、やはり最後に登場するは
    真打ち、カツ丼だ!
    (食事が美味しそうだった小説を挙げるとすれば、まっさきにこの『キッチン』が頭に浮かぶくらい
    強烈な破壊力!)


    一組の男女の再生を描いただけの
    その後のばななさんの小説の原型となるストーリーだし、
    単純明快な話なのに
    何度心が揺れて、気持ちが持っていかれただろう。

    言葉にしようとすると消え去ってしまうものや、
    繰返し繰返しやってくる夜や朝の中では
    夢になってゆくしかない儚い瞬間を
    小説というものに見事に落とし込めた吉本ばなな。

    人はどんなに負けまくっても、愛する人が死んでも、
    それでも生きてゆかなければならないし、
    誰もが暗い闇や息苦しい夜を越えるために密やかに戦っている。

    ばななさんの小説は
    そんな人たちに寄り添う。
    暗闇を歩く人たちの
    言葉にできないはがゆい気持ちを丁寧に丁寧に掬いとる。

    僕はこの小説を思春期に読んで
    たくさんのなくしたものたちの影から
    解放された。
    忘れるのではなく、手放す勇気を持つことができた。

    これは、報われない愛の前で立ちすくんでしまった人や
    誰かをなくした喪失感から立ち直れない人に向けて書かれた小説だ。

    暗闇から一歩前に進む追い風となるであろう、
    寒空の下で飲む
    ブランデー入りホットミルクのような
    切なくもあたたかい一冊なのだ。



    ★小説内でみかげと雄一が口ずさむ名曲、
    菊池桃子『二人のNight Dive 』

    https://youtu.be/gBha86AutgI

  • 初めての吉本ばなな作品。
    死というものに重苦しくなく爽やかに、けれど真摯に向き合っている印象だった。
    読んでいて涙が何度も出たのは何故だろう。
    あの頃のような恋愛はもう出来ないのだと感じたからだろうか。

  • 「キッチン」「満月」「ムーンライトシャドウ」3つとも読んだ感想。
    心に染み渡る文章が沢山散りばめられていて、これからの人生において教訓というか、胸に刻まれた言葉が沢山あった。感動した。

  • 新潮社が発行するフリー冊子『波』今号に、『ワタシの一行大賞』に選ばれた読書エッセイが掲載されていた。
    応募資格は中高生にあり、好きな小説から抜き取った一行と、それを巡る思いをエッセイにする。
    そこで極めて短い文章が目に飛び込んできた。
    かと思えば、私を激しく動揺させた。

    言葉はいつでもあからさますぎて、そういうかすかな光の大切さをすべて消してしまう。

    頭を打たれた。
    女の子の本棚に『キッチン』が挿さっていると、その子は無条件に良い子だと信じてしまう。
    そう言ったお笑い芸人も居た。

    その夜すぐに『キッチン』を買った。
    カバーも掛けて貰わず、袋にも入れて貰わなかった。
    あの一行で既に惚れ込んでいたこの小説とは共に生きていくと確信していたから、例えぼろぼろになったとて、それは私の人生だと思った。
    ポケットに入れて電車に乗った。
    電車が走っている間中、心許ない程軽い文庫本を開き、駅に着くと閉じて、またポケットに入れた。
    私はこれからも文庫本をポケットに入れて、身軽に生きたい。
    『キッチン』の質量は、そうも思わせた。

    家に帰って、浴槽に湯を張る。
    湯が溜まるまで読み、湯が溜まれば浴槽の中で読んだ。
    私の人生が染み込む本になるのだから、湯気でたわむ事も又、構わないのだ。
    勿論、寝る前にも読んだ。
    夜中に物を食べるシーンが何度か登場し、肯定感を感じた私は歯磨きを済ませていたのに頓着せず、甘い物を食べながら読んだ。

    私はそうして、一晩で『キッチン』を読みきった。

    私の生活は本に染み込み、物語は私に染み込んだ。
    今まで読んできた現代女性作家達の作品にも、『キッチン』のDNAが息づいていると思った。
    全てが繋がった、そんな気さえした。

    この一冊には『キッチン』とその続編、そして『ムーンライト・シャドウ』の3編が収録されている。
    全てに共通し死が深く関係するが、全く死臭はしない。
    とても清潔で、本物の優しさがある。
    小説家以前に、優しさの才能を持った女性が書いた作品と言えた。

    あの予感は間違っていなかった。
    この小説に、私は何度でも出逢うだろう。
    また別れを経験した時、本棚の中に『キッチン』と書かれた背表紙を探すのだ。

    <Impressive Sentences>
    言葉はいつでもあからさますぎて、そういうかすかな光の大切さをすべて消してしまう。

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著者プロフィール

吉本ばなな(本名:吉本 真秀子 よしもと まほこ、旧筆名:よしもと ばなな)
1964年、東京都生まれの作家。日本大学芸術学部文芸学科卒業。卒業制作の「ムーンライト・シャドウ」が日大芸術学部長賞を受賞。また「キッチン」で第6回海燕新人文学賞を受賞、デビュー作となる。
1989年『TUGUMI』で山本周五郎賞を受賞。1996年イタリアのフェンディッシメ文学賞(35歳以下部門)、1999年イタリアのマスケラダルジェント賞文学部門を受賞。2000年『不倫と南米』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。その他代表作に、映画化された『アルゼンチンババア』などがある。
海外での評価が高く、著作が多くの国で翻訳されてきた。

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