キッチン (角川文庫 よ 11-8)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041800089

作品紹介・あらすじ

家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる-。唯一の肉親の祖母を亡くしたみかげが、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居する。日々のくらしの中、何気ない二人の優しさにみかげは孤独な心を和ませていくのだが…。世界二十五国で翻訳され、読みつがれる永遠のベスト・セラー小説。泉鏡花文学賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • これは雰囲気を感じるお話だなぁ。肉親との別れ。辛さ、迷い、そして願いや希望に向かってゆく過程の気持ち。きっと、読む年齢によっても感じ方がかわってくるのだろう。あたりまえのようで特別のようでもあり、言葉にするのが難しい淡い感動や
    、美しい記憶の、やさしい文章が素敵だと思いました。
    特に大きな出来事が起きるわけでなく。ありえない設定や展開の部分もあって、その辺りはファンタジーと捉えて受けとめられる。
    台所から立ち込めるてくるその家独特の匂いや、ピカピカでなくても、散らかっていても年季の入った使い込まれた道具への愛着。自分が毎食ごと立っているキッチンを思い返してみる気持ちになった。どんな時も美味しい食事をすれば元気になれた。食べて生きていかなきゃいけない。
    えり子さんの名言が刺さる。いやなことがめぐってくる率はかわらない。自分では決められない。だから他のことはきっぱりとめちゃくちゃ明るくしたほうがいい。明るく、楽しく。一歩先に進めそうなお話でした。他の作品も読んでみたいです。

  • どんな人生を歩んでいても、誰もが大切な人をなくす痛みを経験するものだと思う。
    そんな時そっと寄り添ってくれるような小説。また大切な人をなくした自分の大切な人に、この小説のように寄り添ってあげれるような人になりたい。
    また読み返したい。



    「本当に暗く淋しいこの山道の中で、自分も輝くことだけがたったひとつ、やれることだと知ったのは、いくつの時だろうか。愛されて育ったのに、いつも淋しかった。--いつか必ず、誰もが時の闇の中へちりぢりになって消えていってしまう。そのことを体にしみ込ませた目をして歩いている。」

    「その人はその人を生きるようにできている。幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ。」

    「なぜ、人はこんなにも選べないのか。虫ケラのように負けまくっても、ごはんを作って食べて眠る。愛する人はみんな死んでゆく。それでも生きてゆかなくてはいけない。」

    「人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことが何かわからないうちに大きくなっちゃうと思うの。」

    「私は彼女の早とちりも、恋にだらしないことも、昔は営業マンで、仕事についてゆけなかったことも、みんな知っているけれども…今の涙の美しさはちょっと忘れがたい。人の心には宝石があると思わせる。」

    「私はもうここにはいられない。刻々と足を進める。それは止めることのできない時間の流れだから、仕方ない。私は行きます。ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる。また会える人がいる。二度と会えない人もいる。いつの間にか去る人、すれ違うだけの人。私はあいさつを交わしながら、どんどん澄んでゆくような気がします。流れる川を見つめながら、生きねばなりません。」


    あとがきより 吉本ばなな
    「感受性の強さからくる苦悩と孤独にはほとんど耐えがたいくらいにきつい側面がある。それでも生きてさえいれば人生はよどみなくすすんでいき、きっとそれはさほど悪いことではないに違いない。もしも感じやすくても、それをうまく生かしておもしろおかしく生きていくのは不可能ではない。そのためには甘えをなくし、傲慢さを自覚して、冷静さを身につけた方がいい。多少の工夫で人は自分の思うように生きることができるに違いない。という信念を、日々苦しく切ない思いをしていることでいつしか乾燥してしまって、外部からのうるおいを求めている、そんな心を持つ人に届けたい。」

    「愛する人たちといつまでもいっしょにいられるわけではないし、どんなすばらしいことも過ぎ去ってしまう。どんな深い悲しみも、時間がたつと同じようには悲しくない。そういうことの美しさをぐっと字に焼きつけたい。」

  • 結構明るい本だと勘違いして読んでしまいました(´;ω;`)でも内容もしっかりしていて、いいお話でした。表紙がバナナなところがいいなぁ・・・
    (о´∀`о)

  • 長らくブクログを休んでいたこともあり、
    今一度、自分の原点を探ろう企画の第4弾(笑)

    学生時代、僕が初めて読んだばななさんの本は 
    「キッチン」だった。 
    恋愛や別れを経験する中で 
    口に出せなかった気持ちや、思春期に自分が見ていた景色や、言葉で表せないもどかしい感覚を、 
    こんなにも見事に 
    美しい『言葉』で表せる人がいたのかと本当に衝撃的だったのだけれど、
    20数年ぶりに読み返した今もその驚きは変わらない。



    主人公は唯一の肉親の祖母を亡くした大学生、桜井みかげ。
    何もやる気が起きず、宇宙の闇に引きこもり
    この世でいちばん好きな場所、『台所』で、
    冷蔵庫のぶーんという音を聞きながら
    眠り続ける日々。

    飽和した悲しみの後には
    柔らかな眠気があとから襲ってくるのを思い出す。

    ああ~そうだ。悲しみってこんなんだったよな。

    ばななさんの小説は、本を開き読んだ時の
    言葉の音感やリズムのつけ方が独特だ。
    この独特なリズムが合わない人は
    多分彼女の小説は合わないし、
    最初から合う人は何を読んでもずっと合うのだ。
    そして事件よりも、
    人間の深い心の動きだけを描いていきたいと
    以前テレビのインタビューでばななさん自身が述べていたように、
    読者は小説の中で大きな事件が起きなくとも
    主人公の心の揺れだけで
    いともたやすく引きこまれてゆく。
    (ハートを掴まれるとはまさにこのことだ)


    同じ大学でみかげよりひとつ年下の田辺雄一。
    生前、祖母と仲の良かった雄一の計らいで、
    雄一とその母えり子(実は父親)の家に居候することになるみかげ。

    いつか必ず、誰もが時の闇の中へ
    ちりぢりになって消えていってしまう。

    みかげや雄一と同じく、
    肉親を早く亡くし、施設で育った僕は
    そのことを身体中に染み込ませながら、生きてきた。

    みかげは僕だ。
    あらためて腑に落ちた。
    だからこそ、学生時代この小説に激しく惹かれたのだ。

    バスの中で見た知らないおばあちゃんと小さな女の子の会話に
    二度とはこない時間を思い知らされ、
    涙が止まらなくなるみかげ。
    みかげが祈る
    『神様、どうか生きてゆけますように』には僕の涙腺も崩壊した。


    好きなシーンを挙げるとキリがない。

    ワープロ(懐かしい!)を買った嬉しさから
    大量に引っ越しハガキを作る雄一とみかげのシーン。

    みかげの夢の中、
    夜中に汗だくで台所を掃除するみかげと雄一。
    お茶を飲んで休憩しながら
    菊池桃子の知る人ぞ知るセンチメンタルな名曲『二人のNIGHT DIVE』を口ずさむ二人。
    真夜中のしんとした台所に歌声が響くシーン。

    えり子さんを亡くし、うちひしがれる雄一と彼を励まそうと大量の料理を作るみかげ。
    そんな二人のみなしごが、初めてお互いがお互いを必要とすることに気づく切ないシーン。

    えり子さんがまだ男だった頃の
    奥さんとえり子さんを繋いだパイナップルの鉢のエピソード。

    旅先で巡りあった『非の打ち所のないカツ丼』を手に、
    傷心の雄一が泊まる旅館に忍び込む
    みかげの奮闘を描いた
    物語のクライマックスシーン。


    そして、記憶に残るたくさんの食事のシーン。
    (この小説ほど、食べ物や食事が血肉となって物語を輝かせているものを僕は知らない)

    光り降り注ぐ朝の木漏れ日の中、えり子さんと食べる
    玉子がゆと、きゅうりのサラダ。

    夜中の台所でみかげが雄一と食べるラーメンと
    真新しいジューサーで作ったグレープフルーツジュース。

    雄一が旅先で食べたとうふづくしの御坊料理。
    (茶碗むし、田楽、揚げ出し、ゆず、ごま、すまし汁、茶がゆ)

    そして、やはり最後に登場するは
    真打ち、カツ丼だ!
    (食事が美味しそうだった小説を挙げるとすれば、まっさきにこの『キッチン』が頭に浮かぶくらい
    強烈な破壊力!)


    一組の男女の再生を描いただけの
    その後のばななさんの小説の原型となるストーリーだし、
    単純明快な話なのに
    何度心が揺れて、気持ちが持っていかれただろう。

    言葉にしようとすると消え去ってしまうものや、
    繰返し繰返しやってくる夜や朝の中では
    夢になってゆくしかない儚い瞬間を
    小説というものに見事に落とし込めた吉本ばなな。

    人はどんなに負けまくっても、愛する人が死んでも、
    それでも生きてゆかなければならないし、
    誰もが暗い闇や息苦しい夜を越えるために密やかに戦っている。

    ばななさんの小説は
    そんな人たちに寄り添う。
    暗闇を歩く人たちの
    言葉にできないはがゆい気持ちを丁寧に丁寧に掬いとる。

    僕はこの小説を思春期に読んで
    たくさんのなくしたものたちの影から
    解放された。
    忘れるのではなく、手放す勇気を持つことができた。

    これは、報われない愛の前で立ちすくんでしまった人や
    誰かをなくした喪失感から立ち直れない人に向けて書かれた小説だ。

    暗闇から一歩前に進む追い風となるであろう、
    寒空の下で飲む
    ブランデー入りホットミルクのような
    切なくもあたたかい一冊なのだ。



    ★小説内でみかげと雄一が口ずさむ名曲、
    菊池桃子『二人のNight Dive 』

    https://youtu.be/gBha86AutgI

  • 時代や環境は、時が経てば変わりうるもの、それによって、共感できない人も出てくるだろう、それほど、時代や環境というものは、人にとって、大きい

    でも、人の感情、心というものは、それに比べたら、ものすごく、不変だ
    愛すること、食べること、眠ること、喪失すること
    人はきっと、それを繰り返す
    そこには、悲しみと苦しみがつきまとう
    渦中にいる時は、優しさには気づきにくい
    気づいた時には、後悔と罪悪感に押しつぶされそうになる
    それでも生きてゆくこと、それが、強さなのだろうか

    自分が前に進もうとしているのか、過去と決別したいのか、はたまた過去にしがみついているのか、わからない時に読みました

    人の死は、いくら過去にしがみつこうとも、その人は戻ってこない
    前に進まざるを得ないのだ
    でも、そんなに、すぐには進めない。そんな繊細なこころの動きを、一つ一つ丁寧に描く
    そして、最も死を意識するその瞬間に、ググッと、背中を押す
    まるで、自転車の練習をしている時に、今だ!というタイミングで背中を押してもらって、前に進んで、自転車に乗れるようになった、そんな感覚
    カツ丼のシーンだ

    全てに共感できたかと言われたらそうではない
    けれど、またいつか、読み返すであろう作品だ
    生と死の空気が、ゆらゆらと波のようにたゆたっている作品
    次に読みたいと思うのは、わたしが何を想う時だろう

    今のわたし、つまり、自分が前に進もうとしているのか、過去と決別したいのか、はたまた過去にしがみついているのかわからないわたしは、そのどれでも、生きてゆくのだ
    どうなってもいい覚悟で、なるようになる覚悟で、生きてゆくのだ

    • 大野弘紀さん
      嗚呼、月がきれいだ、

      てやつですよね。

      かつ丼のシーンは大好きですね。

      それらの抒情を、このようなレビューで言語化できてい...
      嗚呼、月がきれいだ、

      てやつですよね。

      かつ丼のシーンは大好きですね。

      それらの抒情を、このようなレビューで言語化できているのが、素晴らしい。
      うんうん、と、頷きながら、読みました。

      私とは全く違う言葉の体形で、同じような景色を綴っているように見えて、とてもシンパシーを感じます。
      2020/06/27
  • 『キッチン』『キッチン2』『ムーンライト・シャドウ』の三作品が収録されているが、どれもが誰にでも平等に起こり得る等身大の不幸に直面した男女のお話。

    ほんの少しのSF要素も含みつつ、死という非日常を体験した登場人物たちがそれに折り合いをつけていく様子は、人間の弱さと強さを同時に感じさせる。
    彼らの繊細な心境は美しく、それでいてどこかやわらくに描かれており、非常に上質な読書体験を味わえた。
    読み終え本と同時に目を閉じると、表題作にも登場した、月に照らされてしんと静まり返った夜のキッチンが浮かび上がってくる。普段料理をしない私も、その匂いを感じ、心がじんと熱くなった。

    いつか大切な人のことを想い、月の美しさにため息を吐くような体験をしてみたいと思わせてくれた作品だった。

  • 1988年に発行された本。(今から35年前)
    再読です。
    手に持っているのは単行本です。
    装丁にもとても惹かれていたのを思い出します。
    どんな内容だったかな~と、思い出しながら読み進めました。
    意外と内容は朧げですが、所々覚えていました(笑)
    文章は淡々と書かれていて、すらすらと、さらさらと、す~と流れていくように読めました。
    そんな中、じんわりと温かく感じることがありました。
    設定は、今でこそ多様性で受け入れらていますが、当時は少々、奇抜だったのでは?と思いました。
    少し変わった形の家族の話でした。

  • 今更ながら、吉本ばななにハマり
    キッチンを読みました。
    本当に美しい文章で読んでいて心が休まるようです。
    これから、吉本ばななの作品をたくさん読めると思うと楽しみでしょーがない笑

  • はじめての吉本ばななさん。

    死があまりにも身近に描かれていることに戸惑いましたが、悲しみから抜け出そうとする強さや、救い出そうとする優しさがじわじわと伝わってくる温かい作品でした。

    おいしいごはんを一緒に食べたり、
    月がきれいだねって笑ったり、

    みかげや雄一だけでなく、
    案外、誰しもがそういう日常の中にあるささやかな幸せに救われながら生きてるのかなぁなんて思いました。

    独特のテンポで綴られる言葉に、
    初めは読みにくさも感じましたが、
    吉本ばななさん、中毒性があります…。

    他の作品も読みたくなりました。

  • 情景描写が多くて、青がイメージなのかな?
    わたしは身近な死は経験がないからうまく共感はできていないけど、登場人物の飾らない雰囲気や言葉に惹かれたなあ。登場人物一人ひとりが好きだなと思えた作品だった。
    あと、心で繋がる関係性にもとても憧れた

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著者プロフィール

1964年、東京生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。87年『キッチン』で第6回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞(安野光雅・選)、2022年『ミトンとふびん』で第58回谷崎潤一郎賞を受賞。著作は30か国以上で翻訳出版されており、イタリアで93年スカンノ賞、96年フェンディッシメ文学賞<Under35>、99年マスケラダルジェント賞、2011年カプリ賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第四話 ミモザ』がある。noteにて配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。

「2023年 『はーばーらいと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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