キッチン (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店
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本棚登録 : 15335
レビュー : 1666
  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041800089

作品紹介・あらすじ

家族という、確かにあったものが年月の中でひとりひとり減っていって、自分がひとりここにいるのだと、ふと思い出すと目の前にあるものがすべて、うそに見えてくる-。唯一の肉親の祖母を亡くしたみかげが、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居する。日々のくらしの中、何気ない二人の優しさにみかげは孤独な心を和ませていくのだが…。世界二十五国で翻訳され、読みつがれる永遠のベスト・セラー小説。泉鏡花文学賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 時代や環境は、時が経てば変わりうるもの、それによって、共感できない人も出てくるだろう、それほど、時代や環境というものは、人にとって、大きい

    でも、人の感情、心というものは、それに比べたら、ものすごく、不変だ
    愛すること、食べること、眠ること、喪失すること
    人はきっと、それを繰り返す
    そこには、悲しみと苦しみがつきまとう
    渦中にいる時は、優しさには気づきにくい
    気づいた時には、後悔と罪悪感に押しつぶされそうになる
    それでも生きてゆくこと、それが、強さなのだろうか

    自分が前に進もうとしているのか、過去と決別したいのか、はたまた過去にしがみついているのか、わからない時に読みました

    人の死は、いくら過去にしがみつこうとも、その人は戻ってこない
    前に進まざるを得ないのだ
    でも、そんなに、すぐには進めない。そんな繊細なこころの動きを、一つ一つ丁寧に描く
    そして、最も死を意識するその瞬間に、ググッと、背中を押す
    まるで、自転車の練習をしている時に、今だ!というタイミングで背中を押してもらって、前に進んで、自転車に乗れるようになった、そんな感覚
    カツ丼のシーンだ

    全てに共感できたかと言われたらそうではない
    けれど、またいつか、読み返すであろう作品だ
    生と死の空気が、ゆらゆらと波のようにたゆたっている作品
    次に読みたいと思うのは、わたしが何を想う時だろう

    今のわたし、つまり、自分が前に進もうとしているのか、過去と決別したいのか、はたまた過去にしがみついているのかわからないわたしは、そのどれでも、生きてゆくのだ
    どうなってもいい覚悟で、なるようになる覚悟で、生きてゆくのだ

    • 大野弘紀さん
      嗚呼、月がきれいだ、

      てやつですよね。

      かつ丼のシーンは大好きですね。

      それらの抒情を、このようなレビューで言語化できてい...
      嗚呼、月がきれいだ、

      てやつですよね。

      かつ丼のシーンは大好きですね。

      それらの抒情を、このようなレビューで言語化できているのが、素晴らしい。
      うんうん、と、頷きながら、読みました。

      私とは全く違う言葉の体形で、同じような景色を綴っているように見えて、とてもシンパシーを感じます。
      2020/06/27
  • 長らくブクログを休んでいたこともあり、
    今一度、自分の原点を探ろう企画の第4弾(笑)

    学生時代、僕が初めて読んだばななさんの本は 
    「キッチン」だった。 
    恋愛や別れを経験する中で 
    口に出せなかった気持ちや、思春期に自分が見ていた景色や、言葉で表せないもどかしい感覚を、 
    こんなにも見事に 
    美しい『言葉』で表せる人がいたのかと本当に衝撃的だったのだけれど、
    20数年ぶりに読み返した今もその驚きは変わらない。



    主人公は唯一の肉親の祖母を亡くした大学生、桜井みかげ。
    何もやる気が起きず、宇宙の闇に引きこもり
    この世でいちばん好きな場所、『台所』で、
    冷蔵庫のぶーんという音を聞きながら
    眠り続ける日々。

    飽和した悲しみの後には
    柔らかな眠気があとから襲ってくるのを思い出す。

    ああ~そうだ。悲しみってこんなんだったよな。

    ばななさんの小説は、本を開き読んだ時の
    言葉の音感やリズムのつけ方が独特だ。
    この独特なリズムが合わない人は
    多分彼女の小説は合わないし、
    最初から合う人は何を読んでもずっと合うのだ。
    そして事件よりも、
    人間の深い心の動きだけを描いていきたいと
    以前テレビのインタビューでばななさん自身が述べていたように、
    読者は小説の中で大きな事件が起きなくとも
    主人公の心の揺れだけで
    いともたやすく引きこまれてゆく。
    (ハートを掴まれるとはまさにこのことだ)


    同じ大学でみかげよりひとつ年下の田辺雄一。
    生前、祖母と仲の良かった雄一の計らいで、
    雄一とその母えり子(実は父親)の家に居候することになるみかげ。

    いつか必ず、誰もが時の闇の中へ
    ちりぢりになって消えていってしまう。

    みかげや雄一と同じく、
    肉親を早く亡くし、施設で育った僕は
    そのことを身体中に染み込ませながら、生きてきた。

    みかげは僕だ。
    あらためて腑に落ちた。
    だからこそ、学生時代この小説に激しく惹かれたのだ。

    バスの中で見た知らないおばあちゃんと小さな女の子の会話に
    二度とはこない時間を思い知らされ、
    涙が止まらなくなるみかげ。
    みかげが祈る
    『神様、どうか生きてゆけますように』には僕の涙腺も崩壊した。


    好きなシーンを挙げるとキリがない。

    ワープロ(懐かしい!)を買った嬉しさから
    大量に引っ越しハガキを作る雄一とみかげのシーン。

    みかげの夢の中、
    夜中に汗だくで台所を掃除するみかげと雄一。
    お茶を飲んで休憩しながら
    菊池桃子の知る人ぞ知るセンチメンタルな名曲『二人のNIGHT DIVE』を口ずさむ二人。
    真夜中のしんとした台所に歌声が響くシーン。

    えり子さんを亡くし、うちひしがれる雄一と彼を励まそうと大量の料理を作るみかげ。
    そんな二人のみなしごが、初めてお互いがお互いを必要とすることに気づく切ないシーン。

    えり子さんがまだ男だった頃の
    奥さんとえり子さんを繋いだパイナップルの鉢のエピソード。

    旅先で巡りあった『非の打ち所のないカツ丼』を手に、
    傷心の雄一が泊まる旅館に忍び込む
    みかげの奮闘を描いた
    物語のクライマックスシーン。


    そして、記憶に残るたくさんの食事のシーン。
    (この小説ほど、食べ物や食事が血肉となって物語を輝かせているものを僕は知らない)

    光り降り注ぐ朝の木漏れ日の中、えり子さんと食べる
    玉子がゆと、きゅうりのサラダ。

    夜中の台所でみかげが雄一と食べるラーメンと
    真新しいジューサーで作ったグレープフルーツジュース。

    雄一が旅先で食べたとうふづくしの御坊料理。
    (茶碗むし、田楽、揚げ出し、ゆず、ごま、すまし汁、茶がゆ)

    そして、やはり最後に登場するは
    真打ち、カツ丼だ!
    (食事が美味しそうだった小説を挙げるとすれば、まっさきにこの『キッチン』が頭に浮かぶくらい
    強烈な破壊力!)


    一組の男女の再生を描いただけの
    その後のばななさんの小説の原型となるストーリーだし、
    単純明快な話なのに
    何度心が揺れて、気持ちが持っていかれただろう。

    言葉にしようとすると消え去ってしまうものや、
    繰返し繰返しやってくる夜や朝の中では
    夢になってゆくしかない儚い瞬間を
    小説というものに見事に落とし込めた吉本ばなな。

    人はどんなに負けまくっても、愛する人が死んでも、
    それでも生きてゆかなければならないし、
    誰もが暗い闇や息苦しい夜を越えるために密やかに戦っている。

    ばななさんの小説は
    そんな人たちに寄り添う。
    暗闇を歩く人たちの
    言葉にできないはがゆい気持ちを丁寧に丁寧に掬いとる。

    僕はこの小説を思春期に読んで
    たくさんのなくしたものたちの影から
    解放された。
    忘れるのではなく、手放す勇気を持つことができた。

    これは、報われない愛の前で立ちすくんでしまった人や
    誰かをなくした喪失感から立ち直れない人に向けて書かれた小説だ。

    暗闇から一歩前に進む追い風となるであろう、
    寒空の下で飲む
    ブランデー入りホットミルクのような
    切なくもあたたかい一冊なのだ。



    ★小説内でみかげと雄一が口ずさむ名曲、
    菊池桃子『二人のNight Dive 』

    https://youtu.be/gBha86AutgI

  • 今更ながら、吉本ばななにハマり
    キッチンを読みました。
    本当に美しい文章で読んでいて心が休まるようです。
    これから、吉本ばななの作品をたくさん読めると思うと楽しみでしょーがない笑

  • creoleさんの、本棚を見て、図書館で、再読しようと思いました。

    • りまのさん
      日本
      各地でも、花火師さんからの、エールの花火、あったようです。
      日本
      各地でも、花火師さんからの、エールの花火、あったようです。
      2020/08/25
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      りまのさん
      コロナ禍で皆が塞いだ気分だから、綺麗なモノを見て少しでも元気が湧くと良いね!
      りまのさん
      コロナ禍で皆が塞いだ気分だから、綺麗なモノを見て少しでも元気が湧くと良いね!
      2020/08/25
    • りまのさん
      ありがとうございます!
      ありがとうございます!
      2020/08/25
  • いわゆる名作と呼ばれる本書、
    1度は読んでおきたいと思って手に取りました。

    ただただ日常が繰り広げられていくだけで、冒険や大きな事件が起こる訳でも無いのに、じんわりと心に染み入る言葉たちが、既に愛しいです。

    大切な人を亡くした「悲しみ」。そして未来へ進もうとする心。言葉では言い尽くせない所を、しみじみと普通の会話で表しているように感じました。

    キッチンの後の、ムーンライト・シャドウもよかったなぁあ。どちらも、大事な人と当たり前に一緒に居られることの有り難さを改めて感じました。

    今の私で感じたこと、未来の私で感じること。
    違ってくると思うから、手元に置いてまた読み返したいとおもいます。

  • 生きることと愛すること,食べることと,失うこと.

    初めて読んだのは高校一年生の時,学校の推薦図書に指定されていたからだった気がする.その時もすっかり気に入ってしまって,最初は図書室で借りていたけれども,すぐ本屋さんに走った.大学生になって塾講師のアルバイトをしていたとき,たくさんの生徒に読んでもらいたくて塾に寄贈した.
    そして最近,もう一度買うか迷って,電子書籍を買った.ハイライトが引けるのはいいものですよね.便利な時代になったもんだ.

    こうやって振り返ると,やっぱりこの本は私の原点というか,根幹に近いものなんだなあとすごく思う.こんなに長い年月を経て,繰り返し読む本は,この本以外には存在しない.だいたいのストーリーはもう頭に入っているのに,それでもこの本を開くのは,この文体に込められた空気を,とても愛おしく思うからだと思う.

    幸い親戚もまだ皆元気だし,近しい友人や恋人を亡くした経験は私にはないけれど.だからこの本の真価が分かるのも,当分先なのかもしれない.それでも,みかげの考え方ひいては著者の感受性がとても好きだ.みかげや雄一の誠実さ,こんなに人間臭いのに空虚なところが,相手のことを考えて突発的に行動してしまうところも,本当に大好きだ.

    好きな本は?と聞かれたとき,すぐにこの本が浮かぶけれども,いざ説明しようとするとどうしてもうまく伝えることが出来ない.
    文体が好き?雰囲気が好き?空気が好き?ってなんなんだよってなる.
    でも空気を見つめることが出来ないように,私はこの本への愛をもしや一生,言い表すことが出来ないのかもしれない.

  • 死 をとりまくお話が、2編。
    はじめて読んだか、中学生以来に読みました。(あまりおぼえていない)
    「ムーンライト・シャドウ」で泣いてしまった・・・
    とても、とてもつらいこともあるけれど、しっかりと前を向いて生きていこうとする登場人物たちの強さが、伝わってきました。
    吉本ばななは、切り取って部屋に飾っておきたい文章ばかり書くなあ。

  • この小説に納められている3つの作品。共通するのは、どれもとても身近な人の死。
    家族であったり、恋人であったり。
    死に囚われて、でもそこからまた生へ向き直る様子が、時に抽象的に、時に具体的に、登場人物ごとに描き分けられています。
    読む前は、台所を偏愛する人の話かと思ってたら全然違った笑。
    吉本ばななさんの本は、むっかーーし、TSUGUMIを読んで以来。歳を重ねて、少しはこの世界観を理解できるようになったかな。

  • わたしの好きな「くだらなくあたたかく、愛おしい日常」が詰まった素敵な本。
    読んでいて切なく、どこか懐かしい気持ちになります。
    愛する人を失って消えたくなるくらい辛くても、人は生きてゆかねばならない。そんなとき、もしそばで寄り添い、理解してくれようとしてくれる人がいるならば、もう一度前を向ける。
    そんなことを思いました。

  • 生きていると辛く苦しい思いをすることがある。とても、とても苦しくてどうすれば良いのかわからない。何かよくわからないこの苦しい気持ちがいつまで、どこまで続くのか。言葉にできない怖さがある。
    特に若い頃は居場所やお金もないことが多い。自分から助けを求めることも難しい。
    この本がそんな人達を救う希望になると思う。

    最後の吉本さんの解説までしっかり読むことをオススメしたい。

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著者プロフィール

一九六四年東京都生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。八七年「キッチン」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。八九年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、九五年『アムリタ』で紫式部文学賞、二〇〇〇年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞を受賞。著作は三十カ国以上で翻訳出版されており、海外での受賞も多数。noteにてメルマガ『どくだみちゃん と ふしばな』を配信中。

「2020年 『吹上奇譚 第三話 ざしきわらし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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