夜の海に瞑れ (角川文庫)

  • 角川書店 (1997年10月23日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (400ページ) / ISBN・EAN: 9784041911020

感想・レビュー・書評

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  • 久々に真っ当なハードボイルド小説を読んだ気がした。
    香納諒一デビュー作の本書はハードボイルド小説を書く事に真摯に向き合っている姿勢が感じられ、作者の作家になることに対する並々ならぬ決意という物を感じた。

    第1作目にして、作者は結構複雑なプロットを用意している。
    暴力団の影がちらつく余命幾許も無い老人の頼みとその老人が記録上、シベリア抑留者の死亡者リストに上がっていること、老人が何故麻薬と金を持ち逃げしたのか、逃亡する老人を複数の暴力団のみならず、ロシア人もなぜ追いかけるのか、などなどなかなか読ませる。物語の進め方も一つ一つ手掛かりが解るたびに更に謎と新たな関係者が登場し、事件の裾野がどんどん広がっていく構成になっており、飽きさせない。第2次大戦の混沌を巡る深い因縁が事件の裏側に横たわっているという真相も作者のこの作品に賭ける意欲がひしひしと伝わってくる。

    そしてこの作者の魅力として、しっかりとした描写力と人物像の造形深さが挙げられる。主人公碇田の一人称描写で語られる本書において視線のブレがなく、また時折挟まれる自然描写の雅さなど、物語を形成する風景についても筆を緩める事がない。
    一つ一つの言葉を慎重に選んでいるのが実によく判る。

    そして魅力ある登場人物の数々。
    付き添いの看護婦の弥生、悪友ともいうべき安本兄弟の兄、兵庫県警の綿貫刑事、敵役の恩田庄一など、それぞれに癖があり、物語に膨らみを与えている。特に碇田の敵役である安本兄弟の兄と恩田のキャラクターが際立っている。
    河合組側の人間、安本と敵対する森田組側の人間、恩田。しかし、その2人は吉野老人を中心に動いており、それぞれが違った形で主人公碇田をサポートする(いや正確には、サポートを余儀なくされるのだが)。
    この辺の敵味方が入り乱れる構成がそれぞれのキャラクターを惹き立てる事に成功している。

    さて、結局のところ、本作は『血の収穫』を思わせる構成となっている。主人公が『血の収穫』が二大勢力の潰し合いを仕掛ける側、本作が知らずに巻き込まれる側というそれぞれ立場は違うものの、最終的に行き着くところは「河合組」と「森田組」の麻薬取引先を巡っての抗争だ。
    『血の収穫』といえば、ハードボイルドの始祖ダシール・ハメットの代表作である。このことからも作者が、自分はハードボイルド作家としてこれからやっていくのだと宣言している風にも取れる。
    俺はこういう小説が書きたいのだ!と声高に叫ぶ声が聞こえてくるかのようだ。

    傑作とはまで行かないまでも佳作であることは確か。語弊があるように聞こえるだろうが、正に典型的なハードボイルド小説、プライヴェート・アイ小説である。
    しかし、これがデビュー作であるのならば上出来の部類だろう。
    この時、作者香納諒一30歳か。また一人応援したくなる作家が出来てしまった。

  • 二転三転しながら様々な傷を持った男達と
    闇社会に蠢く男達が交錯する、ストーリー…
    これぞ、ハードボイルドといったスリリングで
    醍醐味の詰まったデビュー作。
    20代で書いた内容とは全く思えないですね。

    過去のハードボイルドの枠を大きく逸脱した、
    新世代感覚というものでもなく、この時代に優れた
    内容、ストーリー、表現のハードボイルドそのもの…
    という芯の強いブレない作品のような気がします。

  • 最後がちょっと不満だけど、単純に面白かった。事態の転換がおもしろく、またシベリア抑留がツボにはまった作品。

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著者プロフィール

1963年、横浜市出身。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。91年「ハミングで二番まで」で第13回小説推理新人賞を受賞。翌年『時よ夜の海に瞑れ』(祥伝社)で長篇デビュー。99年『幻の女』(角川書店)で第52回日本推理作家協会賞を受賞。主にハードボイルド、ミステリー、警察小説のジャンルで旺盛な執筆活動をおこない、その実力を高く評価される。

「2023年 『孤独なき地 K・S・P 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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