ダリの繭 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041913017

作品紹介・あらすじ

幻想を愛し、奇行で知られたシュール、リアリズムの巨人-サルバドール・ダリ。宝飾デザインも手掛けた、この天才の心酔者で知られる宝石チェーン社長が神戸の別邸で殺された。現代の繭とも言うべきフロートカプセルの中で発見されたその死体は、彼のトレードマークであったダリ髭がない。そして他にも多くの不可解な点が…。事件解決に立ち上った推理作家・有栖川有栖と犯罪社会学者・火村英生が難解なダイイングメッセージに挑む。ミステリー界の旗手が綴る究極のパズラー。

感想・レビュー・書評

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  • シュールレアリスムの巨人、サルバトール・ダリに心酔する宝石チェーンの社長が別邸で殺された。繭のようなフロートカプセルの中で発見された死体には、トレードマークだったダリの髭がなくなっていて──。

    作家アリスシリーズ(火村英生シリーズ)2作目。2016年のドラマで取り上げられた作品の一つ。別邸で発見された堂条秀一の死体から、ダリの髭がなくなっているのはなぜか?という殺人事件とは関係なさそうな謎が物語の底を走っているのが面白い。別邸での状況も不可解。突発的な犯行に見えて、計画的な面もあるちぐはぐ感。事件が発覚するまで時間的猶予があるのにもかかわらず、秀一の死体をフロートカプセルに入れたのはなぜか?謎という繭がある一点から解けていくのは爽快。凶器の正体もシュールすぎる。

    事件の糸をたぐっていく火村とアリスは、関わる人々の「繭」を目にする。自分を優しく包んでくれる家庭を再構築しようとする姿勢を指した「コクーニング現象」。蚕と回顧。それを起点として、自己の逃避場所である繭についてもテーマとして語られる。明かされていく繭の形は人それぞれ。アリスの繭──なぜ小説を書くようになったのかも明かされる。あれはぼくだったらトラウマになりそう。ぼく自身の繭は読書と感想を書くことだろうなあ。

    ボタンの掛け違えに始まり、意図のすれ違いが糸となって、明解だったはずの事件が複雑に編み上がってしまう。そういう謎の繭の紡ぎ方が上手いなと。ミステリとしてシンプルに読みやすく、さらに深読みしてダリと重ね合わせて考えることもできる作品。もう一回ドラマで見たいなあ。


    p.220
    「女性の美は千差万別だ。ある男はこの輝きこそ至高のものだと信じ、別の男は別の輝きを発見して詠嘆する。それぞれにとって、自分が見つけた輝きが宝石になるんだ。女を選ぶのに訓練を積んだ鑑定師の技能は必要がない。遊べば目を肥やせるとお前は考えているようだが、そうやっているうちに目が曇っていく男だってたくさんいるに違いない。私は自分が発見した美を信じている。女性の美の条件は、男が見出せるかどうかの一点に尽きる」

    p.347
    私たちは理解理解と繰り返した。彼と私は時々このように、自分が他者を理解していることを口に出して確認し合う。とても共感などできない主義、思想、趣味でも、理解は可能でありたい、という共通の認識からくる二人ひと組の口癖だ。遠い他者と自分たちの間だけでなく、彼と私の間にも当然ながら共感しがたい主義、思想の食い違いは多々あった。死刑に対する賛否などもその一例だ。しかし、お互いに相手の考えることを『それも考えとして成立する』と理解することは放棄するまい、と考えていた。

  • やっぱり短編より長編の方が読み応えがある!
    手がかりが少しずつ発見される過程が丁寧に描かれているので引き込まれる。
    幾つもの要因が絡まりあう謎にはそれぞれの理由があり、無理なく説明がされていて良い。
    最後はしんみりしちゃったけれども、きれいな終わり方だったなぁと思う。
    アリスたちの掛け合いもコミカルで、ミステリも楽しかったので、本当に面白かった!

  • とても丁寧で、ある種の安心感を抱きながら読むことができ、最後には程よい驚きを味あわせてくれる。

    "なぜ遺体にトレードマークの髭がないのか"
    "いつもと違ってなぜフロートカプセルは50分に設定されていたのか"
    などの奇妙な謎を残したまま、一つ一つ手がかりを提示していく。
    それらの謎が綺麗に解かれる様も鮮やかだし、手がかりを基にした推測で犯人を指し示しながらも、最後には失言によってロジカルに犯人を特定しているところも好印象。

    学生アリスシリーズとは少し雰囲気が違うが、このシリーズにも既にハマりかけている。

  • 作家アリスシリーズの初期長編。
    繭を思わせるカプセルの中から見つかった死体をめぐるミステリー。
    死体が見つかった現場の異常さや、なぜか切り取られていた死体のひげの謎を中心に物語は展開していきます。
    事件の背後にある一人の女性をめぐっての人間模様は、どことなく往年のトレンディードラマ感があり、時代感が楽しい作品でもありました。

    前半は証言や動機をめぐって地味目な展開が続きますが、後半から現場の不可思議さの原因が分かったり、凶器が見つかってからのめまぐるしく変わっていく展開が良かった。
    次々と有力な容疑者が移り変わっていく様子は、安定感のある運転だとのんびり車に乗っていたら、急に突然ハンドリングが激しくなって、面食らってしまうような感覚。
    一方でその転換が楽しく、後半は自分の読むペースも一気に早くなった気がします。

    この作品だと繭のイメージも印象的。被害者や容疑者たち、そしてアリスや火村も含めて、みなそれぞれ抱えた心の闇や弱点。
    それから身を守ろうとする心象をアリスが繭に例えて思い巡らすのが、しゃれていて、またアリスのナイーブな面がよく現れていて味がありました。

    Kindleで読んでいると、他の人がハイライトをつけた文章が分かるのだけど、「アリスと火村の仲の良さがより伝わってくる」会話の場面にたくさんの人がハイライトをつけていたのが、ちょっと面白かった。みんな、好きやわねえ……

  • 2021.10.15読了

    犯罪学者火村先生と推理作家有栖川有栖のコンビ探偵。
    ドラマから入ったのですが、雰囲気や世界観はそのまま。

    ワープロ、固定電話などの時代ですが、古さは感じられません。
    久々の本格推理、堪能しました。

  • 作家アリスシリーズ2作目。
    アリスの友達が事件に関わっており、
    火村にも依頼が来て事件が始まる。
    この作品は犯人が嘘をついているので、
    読み進めないと話が読めてこない。
    一人の女性を巡る恋の物語。

  • なんだかふしぎな話だった。
    ミステリとしては、「えー」って思うようなところがそれなりの理由を持って説明されるので、わりとすっきりした感じで読めてよかったし、ダリと繭のイメージが印象的でそこがよかったな。
    幻想とか妄想とか感覚とかの揺らぎとか現実との乖離とか、TRUMPシリーズの繭期のイメージもあってすごい不安定でもろい感じがしたんだよね。

  • 中盤くらいまであまり読み進まなかったけど、曝露が始まってから推理がどんどん進んだ。

    火村さんシリーズも好きで、推理の行動範囲が広まるけど、やっぱ大人になるとどうやっても男女のもつれの類が入ってくる。学生アリスシリーズは青年達の奮闘が面白かったんだよなーと思いつつ、大人の推理を堪能。

  • 作家アリスシリーズ2作目。
    火村の33回目の誕生日を祝してフランス料理店で食事をしていた有栖たちは、宝石チェーンのオーナー社長・堂条秀一が若い女性を伴って来店したところを見かける。
    後日堂条は、彼が繭と呼んでいたフロートカプセルの中で遺体となって発見された。
    画家ダリに心酔していた彼が似せていたトレードマークの髭を剃られ、現場には堂条の下着しか残されていない。
    有栖のもとに警察から問い合わせの電話が入る。
    大学時代の知人で、友人の結婚式で顔を合わせたばかりの吉住のアリバイを確認するためだった。
    事件推定時間に友人・吉住には明確なアリバイがない。
    しかも、吉住は堂条の弟で事件現場となった山荘にもたびたび出入りしていたという。
    もともとの犯行計画。
    どんなことをしても手に入れたいもの、他人には譲れないものがあったとしても、人はそう簡単に犯罪に手を染めるとは思えない。
    やはり計画を思いついた時点で、歪んだ感情は狂気に支配されていたのだろう。
    自分の態度がはっきりしなかったからと謝っていた・・・彼らにとっての女神。
    本当に何の計算もなかったのか。
    二人の男の間で、強い意図はなかったとしても、彼女にも事件の責任の一端がある。
    そう思うのは女だからだろうか。
    鳥羽のみやげ物屋にあった手作りの女神像。
    ひとつひとつが手作りのため、よく見れば違いははっきりとわかる。
    計画そのものが杜撰なこともあり、「殺す」という目的だけに目が行き、完璧な計画だと思っていたのは犯人だけだった。
    すべてが思い通りになると、傲慢にも思い込んでいた男の最期を火村はどう受け止めたのだろう。
    誰かを自分だけのものにしたい。
    誰にも渡したくない。
    それは愛ではなくて執着だ。
    正当防衛が認められればいいと思ってしまった。
    過剰防衛だとしても、情状が酌量されればと考えてしまった。

  • 推理作家・有栖川有栖は大学時代からの友人で二人の母校である英都大学で社会学の准教授を務める火村英夫は、フィールドワークと称して警察の協力という名目で事件現場に出向き犯罪者を狩る。"人を殺してみたいと思ったことがある"という彼は、そちら側におちるのを踏みとどまった自分が、飛びたっていった人間を叩き落とすのだ、という火村を、私は密かに彼がそちら側に惹かれて一緒に飛び立つことを恐れている。せめて手を伸ばせるよう、彼のフィールドワークに同行する。
    ダリを崇拝する宝石商の社長が別宅のフロートカプセルの中で死んでいるのが発見された。彼は秘書の女性のことで会社の宝石デザイナーと三角関係だった。そして彼には腹違いの弟が二人いる。愛憎のもつれか、遺産争いか。社長のトレードマークだったダリと同じ髭が切り取られ、衣服も凶器も持ち去られた。果たして犯人は?
    作家アリスシリーズ二作目。

    ドラマを見て、前々から気になっていたこのシリーズ、というか有栖川さんの作品についに手を出してしまった。これからこの楽しくて少しひりひりする関係の二人と摩訶不思議なミステリの世界をたくさん歩けるかと思うと、うれしくて踊りだしそう。でも本の置き場にまた頭痛を抱えたな、と。これ有川さんの本を買った時も思ったな。本屋さんで売り切れていたので、二作目から。

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著者プロフィール

1959年大阪生まれ。同志社大学法学部卒業。89年「月光ゲーム」でデビュー。「マレー鉄道の謎」で日本推理作家協会賞を受賞。「本格ミステリ作家クラブ」初代会長。著書に「暗い宿」「ジュリエットの悲鳴」「朱色の研究」「絶叫城殺人事件」など多数。

「2023年 『濱地健三郎の幽たる事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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