朱色の研究 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
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本棚登録 : 2302
レビュー : 221
  • Amazon.co.jp ・本 (421ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041913048

作品紹介・あらすじ

"2年前の未解決殺人事件を、再調査してほしい。これが先生のゼミに入った本当の目的です"臨床犯罪学者・火村英生が、過去の体験から毒々しいオレンジ色を恐怖する教え子・貴島朱美から突然の依頼を受けたのは、一面を朱で染めた研究室の夕焼け時だった-。さっそく火村は友人で推理作家の有栖川有栖とともに当時の関係者から事情を聴取しようとするが、その矢先、火村宛に新たな殺人を示唆する様な電話が入った。2人はその関係者宅に急行すると、そこには予告通り新たなる死体が…?!現代のホームズ&ワトソンが解き明かす本格ミステリの金字塔。

感想・レビュー・書評

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  •  ロジックも良かったし、アリスの推理小説論も面白かった。朱色とは夕日のことなのですが、冒頭の夕日の描写も印象的でした。

     でも、それをすべて持って行ってしまったのが犯人の動機。人ってそんな感情になることがあるのか…

     順を追って感想書いていきます。まずロジックについて。

     この話は前半、後半に分けられそうですね。

     准教授の火村が自身のゼミの学生から、過去の未解決事件の捜査を依頼されますが、その事件を本格的に追い始めるのは後半から。

     前半は火村とアリスが謎の電話に呼び出され、マンションの一室を訪れると、そこに他殺体があります。そして、その部屋に直前までいた容疑者が現れるのですが、その容疑者の話では部屋に死体は無かったらしく…。この謎が主題です。

     個人的には、過去の事件だけでがっつり長編にしてほしかった思いもあるのですが、この前半部もきちんと意味があり、それはそれでやっぱりよかったのかな、と思ったり。

     トリックについては、ちょっと悔しかった…。もうちょっとじっくり考えたら分かりそうだったんだけどなあ…。

     そして、後半部。いよいよ過去の事件へ。こちらはロジックがしっかりしてました。たった一つ条件が変わるだけで、ここまで推理が展開されるとは!

     続いてアリスの推理小説論について。アリスたちが火村のゼミの学生と過去の事件現場へ向かう電車内で、アリスは質問されます。

    「なぜ推理小説は殺人事件を描くことが多いのか?」

     それに対しアリスはこう答えます。

    『死者は、こちらがいくら問いかけても絶対に答えることがない。その不可能性が鍵のような気がします』

    『問いかけても答えないと確信しているものに、答えてくれないと確信しながらなお問いかけるというのは、切ない行為だと思いませんか?』

     推理小説とは、世界や運命、過去になぜ? と問わずにはいられない人間の思いを引き受けたものなのかもしれない、と。

     推理小説をここまで昇華してみることができる作家さんって、有栖川さんをおいて他にいないような気がします。

     有栖川さんの描く推理小説やその探偵たちの魅力の秘密は、こうした有栖川さんの思いなんでしょうね。

     夕日の描写に限らずなのですが、有栖川さんの描写って何だか好きです。どこか推理小説ぽくないセンチな感じや、繊細な印象を受けるときがあります。この作品の夕日の描写もそうでした。

     きっと有栖川さんのどこかロマンチストなところが反映されているからだも思うのですが、これ本人に言ったらどう思われるでしょうか(笑)

     そして犯人の動機。個人的にはなかなか理解の難しいものだったのですが、犯人の最後の告白はなんだか身につまされる、切ないものでした。

     きちんとロジックや物的証拠を検証したわけではないのですが、個人的な意見だと、まだ犯人は言い逃れできそうな感じではあったんですよね。

     ではなぜ犯人は、罪を語ったのか。それは今まで決して表に出すことの無かった感情を告白できる、最初で最後の機会だったからだと思うのです。

     共感しがたいのに、なぜか犯人の切ない思いを想像してしまう、そんな不思議な結末でした。

  • ドラマを忘れたころに読了。

    ドイルの緋色の研究を意識した題名のせいか、友人に勧めようとすると「朱色?緋色でしょ。何言ってんの」とかさんざん言われたのは嫌な思い出…(笑)


    夕焼け、日本人にとって故郷や心の落ち着く場所を意識させるものですが、今回は「夕焼け恐怖症」ともいうべき女子大生が登場。夕焼け=朱色ということで、朱色を見ることさえNG。ひょっとすると心が安らがない様子を表していたのか…。そう考えると、最後のセリフは彼女がやっと安らぎを手に入れることを暗示していたような気もするのですが



    …なぜカットされた^^;

  • 夕暮れの切なさを感じさせる、
    全体的に夕日色に染まった作品。

    トリックや犯人についてはそんなに驚きはなかったけど、
    色彩の美しさがとても印象的だった。

    殺人の動機も切なく純粋。
    シリーズの中でもだいぶお気に入りの作品です。

  • 作家アリス&火村先生シリーズ第8弾。情景が美しくて切なくて、ただのミステリーではない大好きな本。電車の中で、アリスと火村先生の生徒が2人で話をする場面が好き。

    • りいこさん
      探偵は巫女となりって場面ですね。私も強く感銘を受けました。ぼろぼろになるほど読みこまれたとの事、私も久しぶりにまた読み返したくなりました。
      探偵は巫女となりって場面ですね。私も強く感銘を受けました。ぼろぼろになるほど読みこまれたとの事、私も久しぶりにまた読み返したくなりました。
      2012/06/13
    • jardin de luneさん
      シリーズ自体大好きですが、この本は格別ぼろぼろです(笑)何度読んでも飽きません。
      シリーズ自体大好きですが、この本は格別ぼろぼろです(笑)何度読んでも飽きません。
      2012/06/14
  • おそらく、今までに読んだミステリのなかで一番好きな作品だと思う。なにが好きかといえば、トリックでも全体のストーリーでもない。私の心をとらえたのはひとえに、犯人の動機だ。なぜ、その犯人が最初の殺人に至ったのかというその動機に尽きる。彼は、彼女に愛されていた。そして、彼女は彼を必ず手に入れるといった。彼はそれを恐怖した。彼にはほかに好きな女性がいた。それでも、そう断言した彼女に惹かれていく自分がいた。それに彼は畏怖を覚えた。そして、彼は彼女を殺した。この動機こそ、この作品を愛する理由だ。また、途中、日想観を思い起こさせる補陀落渡海などの夕焼け信仰への解釈が差しはさまれ、それが犯人を殺人へと駆り立てた状況を演出しているという部分も興味深かった。全編を通し夕焼け、夕焼け色がキーワードとなっている。すべてを朱く染める夕焼けはたしかに畏怖を煽り、神秘を感じさせる。

    • jardin de luneさん
      私もこの本は大好きです。どれくらい好きかと言うと、持っている本の中で一番ぼろぼろです。どうしよう新しく買おうか、とおもいつつもそのぼろぼろさ...
      私もこの本は大好きです。どれくらい好きかと言うと、持っている本の中で一番ぼろぼろです。どうしよう新しく買おうか、とおもいつつもそのぼろぼろさ加減が愛おしくてしかたありません。
      有栖川有栖の、ミステリとしては本格なのに、さらに情景がとても丁寧に描かれるところが大好きです。
      2012/06/12
  • 読んだのはハードカバーで。有栖川氏を読み始めた頃。

  • 派手な立ち回りも絶体絶命のピンチもないけれど、しっかり推理小説。火村と有栖の気心の知れたゆるい会話も魅力的。冒頭の恐ろしくも魅惑的な夕焼けと、ラストのどこか遠くあたたかい夕焼けが印象的だった。

    前半のトリックがあまりに運頼みだなと思ったら、という結末。推理に必要な情報が、きちんと開示されてるあたりのフェアさがさすが。
    犯人の動機についてはすんなり理解できた。自分の信念を脅かす誘惑はマーラということだよね。この感性はとても男性的だと感じる。途中、宗教的な話もあったけど、動機の背景としては少し軽い感じがしたな。

    個人的に亜紀が結構好きなので、朱美とセットでも、また出てきてくれたら嬉しいな笑

  • ・プロローグの夕焼けの描写が鮮烈で、まずそこからやられた。
    ・作中に時折挟み込まれる夕焼けに関連するシーンが、リリカルというよりも何だか陰鬱で不安を煽られる感じがして逆に印象深く刻まれる。
    ・しかし、今回の登場人物があまり自分ごのみではなかったのか、それともこのところ疲れていたからなのか、読んでいても途中興味が散漫になってしまって、話にのめり込むことかできなかった…。
    でも、火村先生の夢の内容が語られたりと、このシリーズ的に重要な要素もあるので、また余裕のある時に読み返そうと思う。

  • 久しぶりの長編〈作家〉アリス。やっぱり面白いッ!今作で火村先生のあの“悪夢”の詳細が語られる—— 。読後感は「孤島パズル」に似た悲しみを感じましたね。

  • どうしてさっさとレビューを書かなかったんだろうと思ったけれど、たしか長い感想を書き終わったあとすぐに消してしまってショックすぎてほったらかしにしてたんだった。
    ミステリとしてもかなり好きな内容だった。ドラマの前に読み切ろうと頑張った記憶が。噂の新婚ごっこもあっさりしつつ面白かった。二人の掛け合いが絶妙。こんな親友ほしい。
    生徒の秘密の告白から、事件は動き出し、二年前、五年前のふたつの事件がつながっていく。そこに隠された恋と呼ぶには幼いような感情が、それでも存在を否定されなかったことはアリスの存在が大きかったのかなぁ。
    火星の話、素敵な未来だ。

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著者プロフィール

有栖川 有栖(ありすがわ ありす)
1959年、大阪市東住吉区生まれの小説家・推理作家。有栖川有栖・創作塾の塾長。
同志社大学法学部法律学科卒業後に書店へ就職。それまでも学生時代から新人賞や雑誌への投稿を繰り返していたが、1989年江戸川乱歩賞に投稿した『月光ゲーム Yの悲劇 '88』が東京創元社編集長の目に止まり、大幅に改稿した上で刊行し、単行本デビューとなった。1994年、書店を退職して作家専業となる。1996年、咲くやこの花賞(文芸その他部門)受賞。1999年から綾辻行人と共作でテレビ番組『安楽椅子探偵』シリーズ原作を担当する。
2003年、第56回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞した『マレー鉄道の謎』、2007年発表作で「本格ミステリ・ベスト10」で第1位、「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位、「このミステリーがすごい!」で第3位、「黄金の本格ミステリー」に選出と高く評価された『女王国の城』など、多くの作品がミステリ賞で高く評価されている。
2000年11月より2005年6月まで、本格ミステリ作家クラブ初代会長を務める。

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