- Amazon.co.jp ・マンガ (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784041929070
感想・レビュー・書評
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南方熊楠は、慶応3年、和歌山に生まれた博物学者である。
博物学者とひと言で言うが、その興味は広く、民俗学や生物学、人類学、生態学とさまざまなものに渡った。記憶力は驚異的で、よそで100冊の本を読んできて、家に帰ってから書き起こすほどであったという。語学力も抜きん出ており、18ヶ国語を操った。英学術誌、Natureへの論文掲載は51本あり、単著では最多という。
これだけであれば、天才・秀才というところだが、熊楠の尋常ならざるところは、その学識だけではなかった。癇癪持ちで著しい奇行はおよそ凡人のものではなかった。一例を挙げれば自由自在に嘔吐ができ、気に入らない相手には吐瀉物を吹きかけることができたという。猥談も大好きで始終一物をぶら下げて歩くが、一方で意中の相手を目の前にするともじもじしてしまう。ある種、無邪気と言ってよく、子供がそのまま大人になったようであった。浮世離れしているというか、出世や金銭には興味がなく、自分の感覚に素直な人物であったのだろう。
そんな「怪人」を、妖怪を描かせたら右に出る者がいない水木しげるが描くのだから、濃くならないはずがない。
水木は怪人・熊楠を描く狂言回しとして、1匹の猫を配す。熊楠は実際、猫好きであったことが知られており、どんなに困窮しても、手元には常に猫がいたという。食べ物は自分がしゃぶった残りかすを猫に与え、布団代わりに猫と寝たというから恐れ入ったものである。
物語は熊楠がアメリカ・イギリスへの外遊後に和歌山に戻ったところから始まる。熊楠は野良猫を飼い、これを「猫楠」と名付ける。実は猫語も操れる熊楠は、それまでの体験を語って聞かせたり、研究に伴ったりする。猫はこの後、熊楠の半生をじっくり見ていくことになる。
熊楠が熱心に取り組んだ粘菌の話もあれば、自身の結婚にまつわる逸話もある。遠野物語のように、妖しのものとのエピソードもある。大小さまざまな事件に熊楠が奮闘する様を、猫楠と仲間の猫たちがゆるりと見守る。猫であるだけに、必要以上に熱くなったり立ち入ったりしない。暑苦しくはないが、さりとて無関心でもない、「猫目線」の距離感が、熊楠ほどの大変人を扱うには、意外にちょうどよいのかもしれない。
全般にこの人は、常人とは違う透徹した目で周囲を見ていたように思われる。同じ世界にいても、他の人と見えるものがまったく違う。それはさながら、ユクスキュルの『生物から見た世界』で、種の違うもの同士がまったく違うものを見ているかのようだ。
晩年、熊楠は昭和天皇に粘菌に関して進講をする栄誉に浴する。それは大きな喜びであったが、一方で、その数年前には、かわいがってきた長男の発狂というショッキングな事件もあった。
粘菌だけでなく、植物や菌類の標本も数多く、熊野の自然を愛し、時代に先駆けて森を守る運動に奔走した。
孫文や柳田国男、ディキンズ(『方丈記』の英訳者)など、多彩な人物との交流もあった。
よく笑い、よく怒り、よく学んだ、密度の濃い一生。
熊楠という複雑な巨人を知るには恰好の1冊だろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
破天荒な天才、南方熊楠の伝記。
十四か国語を習得した上に、猫語も解したという熊楠を、飼い猫となった「猫楠」の視点から描く。
奇才ぶり、ひとたび戦うことになれば徹底的な戦いぶり、心を病んだ息子への愛情など、どれをとっても規格外。
それでも支持者を得て、やっていける。
私のような凡人には理y解が及ばない。
興味の赴くままに研究した彼が魅了されていたのが、生と死が混在する命の有様で、それを最も感じさせるのが粘菌だった、ということはよく理解できた。
死んだ後の世界がそんな結構なところなら、人間はみんな死にたがるはずだ、というのも、虚を突かれた気がする。
ついでに、猫又踊りが楽しそう。
ちょっと参加してみたい気がする。 -
最近はまっている南方熊楠。。こないだ読んだ伝記本は、最後には涙が止まらないほど、その孤独を孤独として書いたドラマチックな本だった。子どもが生まれたなら、南方熊楠といつまでも肩を組んでいられるような子になることを願った。
でもまあさすが水木しげる先生だこと。熊楠がかわいがった「猫」が見る熊楠は、どうしようもなくて、ひょうきんで、下のことばかり言っていて、学術的名声の反面にみる天才ゆえの孤独というよりは、「本当にどうしようもない人だった」というエピソードばかりの羅列と言うか、ロマンチックに浸りたい熊楠観をがつんと殴られるような気持ちであった。さすが。
しかし更にすごいのはそれではなくて、この「本当にどうしようもない」奥に見え隠れするしんみりとした孤独がなんとも言えないいい味。というか、この人にしか書けないなあというなんとも人間臭くて、思わず愛してしまう熊楠が見え隠れしている。何を書いても水木しげるだなあとしみじみ感じるというわけです。 -
猫たちがかわいい。水木先生の描く猫の手(足)大好き
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いや…もう、絵がとにかくすばらしすぎる!! コマ割りもネームも、妖怪ものとは違い、細かく、細心の心遣いをしている感じがした。これは本当に水木先生の真骨頂です。
とにかく長く、読み応えは満点。個人的には前半の熊楠のはちゃめちゃな半生より、所帯をもって定住してからのストーリーがよりうならされた。金に汚い弟夫婦だとか、先生とあがめる周辺の人間がびた一文助けないとか、熊楠の視点からの当時の日本文化を描き出しているのも水木先生のお家芸。
息子の熊弥がてんかんでヨイヨイになってしまってからの話も迫力があり、何度も読み返してしまう。息子が描きためた粘菌の絵を、発作を起こして自分でびりびりにしてしまう、そのときの熊楠の涙の描写。熊楠がちゃんと死ぬところまで描いた漫画家は、もしかしたらいないんじゃなかったか? とにかく、名作です。 -
おじさん・・・アメリカ・・・
↑これがツボでした。
ちんこにフマキラー注入して大丈夫なんだろうか。
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南方熊楠記念館に行った後、丁度京都の行きたかった本屋さんで見つけて運命だと思って購入
南方熊楠の荒々しいところ、猥談やしょーもないことをするところ、全てが新鮮で、大好きな水木しげるさんで漫画化。面白くないわけがないな〜!
一生を粘菌に捧げ、周りから愛される南方熊楠、もっともっと知りたくなったなあ -
熊楠自身の著作内容と外部から記された彼の人間像にはいつもすごいギャップがある。
紙一重…でもそれが天才の証なのかもしれないとも思う。 -
まんがでみると
変人とは思えない