狗神 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041932032

作品紹介・あらすじ

美希の一族は村民から「狗神筋」と忌み嫌われながらも、平穏な日々が続くはずだった。一陣の風の様に現れた青年・晃が来なければ……そして血の悲劇が始まり、村民を漆黒の闇と悪夢が襲う。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の名前はどことなく聞き覚えがあり、読み終えて気づきました。

    1999年に「リング2」と同時上演され、映画館で見た「死国」の原作者。

    調べてみると高知県の産まれだそうで、納得。

    映画「死国」も舞台はもちろん四国、本書の舞台も高知県の山里で、そこで暮らす美希が主人公です。

    彼女の一族は「狗神筋」と呼ばれ、村人達から忌み嫌われていました。

    「狗神」とは?

    血が引き起こす恐怖の伝播。

    そして、明かされた血の内容にはある種の戦慄を覚えました。

    読み始めた時にプロローグとして始まる信濃•善光寺のシーン。

    そこから舞台は高知県に移りますが、善光寺の「戒壇廻り」から始まらなければ本作の恐怖は味わえなかったと思います。

    何故に人々が善光寺にお参りに行くのかも知ることが出来ました。

    「リング」や「呪怨」程のホラー感はありませんが、思わず一気読みさせられました。


    説明
    内容紹介
    美希の一族は村民から「狗神筋」と忌み嫌われながらも、平穏な日々が続くはずだった。一陣の風の様に現れた青年・晃が来なければ……そして血の悲劇が始まり、村民を漆黒の闇と悪夢が襲う。
    内容(「BOOK」データベースより)
    過去の辛い思い出に縛られた美希は、四十路の今日まで恋も人生も諦め、高知の山里で和紙を漉く日々を送ってきた。そして美希の一族は村人から「狗神筋」と忌み嫌われながらも、平穏な日々が続いてゆくはずだった。そんな時、一陣の風の様に現れた青年・晃。互いの心の中に同じ孤独を見出し惹かれ合った二人が結ばれた時、「血」の悲劇が幕をあける!不気味な胎動を始める狗神。村人を襲う漆黒の闇と悪夢。土佐の犬神伝承をもとに、人々の心の深淵に忍び込む恐怖を嫋やかな筆致で描き切った傑作伝奇小説。

  • 初めて読んだ坂東眞砂子氏の作品。トリックのあるミステリーなのか、ホラーなのか‥‥ホラーでした。濃い血の繋がり、いわゆる近親相姦と、閉鎖された山村での村八分が描かれています。ドロドロですが、先が気になって、あっという間に読破。

  • なんとも業の深い物語である。
    前作『死国』と同じく作者の故郷、高知の山村、尾峰という閉じられた空間を舞台に、昔ながらの風習が息づき、「狗神」を守る坊之宮家とそれらに畏怖の念を抱く村の人々の微妙な関係をしっかりした文体で描いている。

    前作『死国』でも感じた日本の田舎の土の匂いまでも感じさせる文章力はさらに磨きがかかっていると感じた。後に『山妣』で直木賞を獲るその片鱗は十分に感じられた。

    そして今回は物語の語り方が『死国』よりも数段に上達したように感じた。

    まず主人公の美希の人物造形である。
    この41歳の薄幸の美人の境遇に同情せざるを得ないような形で物語は進んでいくのだが、次第に明かされていく美希の過去のすさまじさには読者の道徳観念を揺さぶられる事、間違いないだろう。

    結婚を諦めざるを得ない原因となった高校時代での妊娠。
    しかしその相手が従兄である隆直だという事実。
    そしてその隆直が実の兄だったという三段構えで、この美希の業の深さをつまびらかにしていく。

    その他にも、物語の前半で美希の人と成りを彩る色んな小道具が、実は美希の業の深さを知らしめるガジェットであることを知らされる。特に美希が毎日手を合わせる地蔵の真相には胸の深い所を抉られる思いがした。
    まさか死んだ我が子がその下に埋められているとは。しかも尾峰の言い伝えである、死んだ赤子を路傍に埋め、石を載せないと甦るという迷信から石を地蔵に仕立てたなどという、驚愕の設定なのだ。
    この坂東眞砂子という作家は、人間が正視したくない心の奥底に潜む悪意というものを眼前に突き出すのが非常に上手い。「これが人間なのだ」と決して声高にではなく、静かに読者に語りかける。云うなれば、そう、人間が獣の一種なのだという事実、獣が持つ残忍さを秘めている事を改めて思い知らされる、そんな感じがした。

    そして坂東眞砂子氏の文学的素養というのも今回確認できた。

    まず美希が晃と山中での雨宿りの最中に初めて交わるシーン。これは歴代の日本純文学から継承される恋愛シーンの王道だろう。三島由紀夫氏の『潮騒』を思い出してしまった。

    私自身が一番好きなのは晃が美希と結婚することを決意した際に、不審な目で二人を見つめる村人の視線に真っ向から対峙したときに美希が晃を頼もしく思うシーンだ。これは私が結婚を決意する時の心情に似ていたからだ。

    「もし世界中の人が俺の敵になっても、こいつだけが俺の味方だったら、それで十分だ」

    この思いと等価だからだ。これはストレートに我が胸に響いた。

    他にも美希に対しては住みよいとは云い難い尾峰を、美希が好きだというところの台詞、

    「ここにおったら・・・、空に飛びだせそうな気がするき」

    なんていうのも胸に響いた。

    前作『死国』では物語のメインテーマ「逆打ち」を中心に色んな人々が状況に取り込まれていく様を描く、いわゆるモジュラー型の構成を取っているのに対し、今回は美希からの視点のみでしかも尾峰で起こることのみを語っている。このような構成上、前作よりも単調になりがちだと思うのだが、全く物語がだれることなく、終末へ収束していく。全く退屈する事が無かった。

    それは前にも書いたように、手品師が一枚一枚、布を捲りながら種明しをするように、徐々に事実を明かしていくその手法によるところが大きい。この構成からも坂東眞砂子氏が格段に進歩したのが如実に解る。

    構成といい、文章といい、もっと評価されてもいいのだが、子猫を殺すなんていうスキャンダルのせいで変なところで話題になっている作家である。実に勿体無い話だ。

  • 田舎の閉鎖的な、しかし美しい自然の情景が浮かんでくる。救われない話だけど自分的には好み。

  • 期待したほど怖さはなかったが、面白く読めた。「ホラー」というよりは、角川文庫の惹句のように「伝奇ロマン」というほうが合っているかも知れない。横溝正史へのオマージュか、と思わせる要素がいくつかあり、横溝ファンとしては軽くくすぐられる感じ。だが実は全然関係なくて、自分がタイトルに引っ張られただけ、という可能性は無きにしもあらず。

    「怖さ」はそこそこでも良いけれど、禁忌を描くストーリー上、「忌わしさ」「呪わしさ」を演出でもっと煽って欲しかったな、とは思う。読んでて生理的嫌悪感を感じるくらいでないと。

    他にも残念な点がいくつか。割と早い段階で、物語の中核である隠された事実がネタ割れしてしまった。これは作者が意図したところではないだろう。それならむしろ、早めに読者にだけ事実を明かして、その上で経過を見守らせるのもアリではないかと。

    重要要素であるコミュニティ内の対立について、ヘイトが唐突に沸点に到達した感があった。最終的に極端な展開を見せるだけに、この辺りもう少し段階を経て欲しかった。じわじわとテンションを上げていく展開はスティーヴン・キングが上手い。本作もキングの諸作品くらい(或いは『山妣』くらい?)長尺にしてもよかったのでは、と思う。

    また、終盤に新要素が投入されたことで、話がとっ散らかった感は否めない。もっと早い段階で投入してフリを効かせておくべきだろう。プロローグとエピローグがちぐはぐなのも気になった。そういったあたりは「若書き」と言えるのかも。

    最後に余談。映画(筆者は未鑑賞)では天海祐希が主役を演じたが、自分は読んでいる間ずっと木村多江をイメージしていた。


  • 土俗的な風習や田舎の閉鎖性、憑き物、呪いという
    ある種の和製ホラーの方向性を位置づけた記念碑的作品
    なのだなあということを確認しながら読むような感じだった。

    物語の舞台となる村落の描写を読むたびに
    隣人・村人との不思議な距離感と村全体の閉鎖性と緊密性に覆われた
    小野不由美『屍鬼』の舞台である外場村の雰囲気との酷似を感じたし
    憑き物筋と呪いによる死は三津田信三の刀城言耶シリーズに
    通じるものがあった。

    影響を受けていないのかもしれないが、
    なんとなくそういった後に作られた作品群に
    影響を与えた傑作なのだろうなという思いを持った。

    「血」と「土」を強烈に感じさせる傑作伝奇ホラーでした。

  • 横溝作品のどろっとした部分を抜き出してモチーフにしたような作品。
    憑き物筋という家系に一生を翻弄される女性の諦観や情念がわかりやすく・でも情感たっぷりに描かれていて面白かった。
    最後まで血筋に振り回され、ついに幸せを手にすることができなかった主人公・美希の無念さに涙。

    「死国」に比べると大風呂敷を広げないし視点が主人公に固定されてるので話を集中して追えて、こっちの方がのめりこめたな。

  • こういう幻想的な空想作品にはこれといった感想が・・・無い!
    けれど、別のところ、日本の風景が色鮮やかで、美しくて、風の音とか土の匂いとか、
    春の感じとか、四季に移ろいとか日本人だからわかるのかなと思って、嬉しくなった。
    作者は物凄い五感が冴えてる。それも研ぎ澄まされた感じで好み。
    私は、もともと映画もドラマも好きじゃないけど、本書を読んで、
    与えられた活字から自分の頭の中で再現する世界がやっぱり一番美しいと思った。

  • とにかく面白かった。舞台といい、人物の描写、恐怖の演出、どこをとっても、実に丁寧に描かれていて、読み心地がいいです。特に人と人との関係を通した恐怖感がいい感じだと思います。出だしから前半部分にかけての怖さは、読んでいて鳥肌がたつくらいでした。

    話の進め方も唐突ではないので、細かく読んでいけば、大体前半で物語のキーになっている人物の関係が薄々わかってきます。この辺りの伏線の張り方も無理が無く、気が利いていると思いました。後はページをめくる度に秘密が少しづつほぐれていくのが非常に心地良く感じました。後半に入ってからは、それほど怖くは無くなるが、ある種の気味悪さはずっとつきまといます。

    テーマとして「一族」を扱ったものなので、こういう話は生理的に受けつけない、という人もいるかもしれません(だから気持ち悪くていいと思うのだけれど…)。私はこの日本特有なジメジメ感、割りと好きなのかもしれません。

  • 土佐の犬神伝承を元にした土着ホラー。著者の作の中では最も好きな作品。
    美しい山里の景色と美希が制作を目指す軽やかな七色の和紙のイメージ。それとは対照的な、代々同じ家系で住み続けていると溜まる軋轢やなんかが受け継がれて醸成されていく、じっとりした嫌な部分。
    狗神も存在するが、人の心の陰湿さや攻撃性の方が色濃く描かれた人怖系のホラーでもある。

    ホラー演出としては狗神が見せる赤子の悪夢や村人の陰湿さも中々だが、美希と晃の選択が一番理解しにくく気持ち悪い。そして怖い。でもそれが「血」に縛られ操られた結果の思考と選択だとすると狗神の恐ろしさ、憑き物筋の血筋に産まれる哀しみも増す。



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著者プロフィール

高知県生まれ。奈良女子大学卒業後、イタリアで建築と美術を学ぶ。ライター、童話作家を経て、1996年『桜雨』で島清恋愛文学賞、同年『山妣』で直木賞、2002年『曼荼羅道』で柴田連三郎賞を受賞。著書に『死国』『狗神』『蟲』『桃色浄土』『傀儡』『ブギウギ』など多数。

「2013年 『ブギウギ 敗戦後』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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