ブルーもしくはブルー (角川文庫 や 28-2)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041970027

作品紹介・あらすじ

広告代理店勤務のスマートな男と結婚し、東京で暮らす佐々木蒼子。六回目の結婚記念日は年下の恋人と旅行中…そんな蒼子が自分のそっくり「蒼子B」と出くわした。彼女は過去の記憶をすっかり共有し、昔の恋人河見と結婚して、真面目な主婦生活を送っていた。全く性格の違う蒼子Aと蒼子B。ある日、二人は入れ替わることを決意した。誰もが夢見る「もうひとつの人生」の苦悩と歓びを描いた切なくいとおしい恋愛ファンタジー。万華鏡のような美しい小説。

感想・レビュー・書評

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  • あなたは”自分の分身”と出会ったことがありますか?

    何を言ってるんだ、意味不明?というそんなあなた!

    では、あなたは『ドッペルゲンガー』という言葉をご存知ですか?また、そんな『ドッペルゲンガー』と出会ったことがありますか?

    さて、どうでしょう。私は最近あるテレビドラマで『ドッペルゲンガー』という言葉を知りました。それは、『前に本で読んだんだけど……分身っていうのかなあ。ひとりの人間から影みたいにもうひとりの人間が分かれて、どこか別の場所に生きてるってことがあるんだって』というまさかの”自分とそっくりな姿をした分身”が現れる現象のことです。まあ、そんな伝説か迷信のようなことをいきなり言われても…とも思うこの現象ですが、あの芥川龍之介が小説「歯車」の中で自身の分身があちこちで知人に目撃される話を残し、他にも多くの作家さんが小説に取り上げるなど、古くから多くの人々の関心をとらえてやまない現象でもあるようです。

    さて、そんな現象を正面から取り上げたこの作品。それは、選ばなかった道の先に続いていた人生を見る物語、選ばなかった道の先を歩いている自分自身の姿をそこに見る物語です。

    『片手で口許を覆い、時々唸り声を漏らしている』隣の連れを見て『私には、男性を見る目がないらしい。乱気流の中を行く飛行機で、私は唐突に気が付いた』と思うのは主人公の佐々木蒼子(ささき そうこ)。その時『天井のスピーカーから「機長のお知らせがございます」とアナウンス』があり、関東に接近する台風の影響により福岡空港へ着陸することになった搭乗機。『おいおい待ってくれよ。俺、明日から仕事なんだよ』と言う連れに『大したことではないのに。この人はなにをおろおろしているんだろう。どうしてもっと、どっしり構えていられないのだろう』と不満に思い『不倫相手も選び間違えた』と考える蒼子。『あと一時間で福岡へ着く』、『そこには懐かしく、苦い思い出があった』と思う蒼子は『ちょっと観光してから帰ろうと思』うと彼に告げます。『そんなあ。蒼子さん、ひどいよ』と不満げな連れ。『私はかつて、この人が好きだった』というその連れの牧原とは『四年前に知り合った。バイトで入ったデパートの婦人服売り場に牧原はいた』という始まり。『私が結婚していることは牧原も最初から知っていたし、それをどうこうとはふたりとも言わなかった』という二人の関係。しかし『可愛いと思っていた年下の男が、甘ったれで卑屈な男に見えてき』たという蒼子が『サイパン旅行の前に私から切り出した』別れ話。『俺、しばらくは待ってるからさ。気が向いたら、また電話でもしてよ』と新幹線が発車してひとりになった蒼子はホテルにチェックインした後、博多の街へと食事に出かけます。『この街のどこかにかつて結婚も考えた恋人が住んでいるのだ。河見俊一という名前の、ごつくて大きな男』と七年前を思い出す蒼子。『小さな料理屋で』板前をしていた河見との出会い、そして交際のスタート。一方で『お節介な上司が、自分の大学の後輩だと紹介』した佐々木との交際も同時期に始まったという当時の蒼子。『二股をかけているという罪悪感は、思ったよりも重く私にのしかかった』というその時代。しかし河見の父親が倒れ、故郷の博多へと帰った河見。ついていくことを拒否した蒼子。そして、『それからの彼のことはよく知らない』とあの時代を思い返していた時、『私は目を見開いた。河見だった。間違いない。あれは河見だ』という再開の瞬間が不意に訪れます。しかし、蒼子に気づいていない河見は女性連れ。思わず後をつける蒼子。そして二人が分かれた後、河見に近づこうとする蒼子に『何かご用意ですか?』と連れの女性が声をかけてきました。しかし、途中で口をつぐんだ彼女。一方の蒼子も口がきけなくなる事態。『あなた、誰…?』、『あなたこそ、誰なのよ?』と二人を襲う衝撃。それは『私は、私と同じ顔をした女を、愕然と見つめた』という信じがたい光景。そんな『目の前にいる人間は、私とまるで同じだった』という衝撃的な佐々木蒼子と河見蒼子の出会いが、二人の人生を大きく動かしていきます。

    『結婚相手の選択を間違い、離婚する理由もきっかけも摑めない。情熱を注げる仕事もなければ、逃避行してしまえるような不倫相手もいない』と自分の人生に不満ばかりを抱える主人公の佐々木蒼子。そんな蒼子がかつて一時期結婚まで考えた河見俊一を博多の街で偶然に見かけたことからそんな蒼子の人生が大きく動き出していく様を見るこの作品。そんなこの作品は『ドッペルゲンガー』を扱ったファンタジーでもあります。『ドッペルゲンガー』の知識は人によっても分かれると思います。”自分とそっくりな姿をした分身”と説明されるこの現象。この作品でも佐々木蒼子(蒼子A)が博多の街で偶然に出会った河見蒼子(蒼子B)は、『似ているのではない。何から何までおなじなのだ』と、外見、そして過去の一時期までの記憶も全て同じでまさしく”分身”といった面持ちです。『ひとりの人間から影みたいにもうひとりの人間が分かれて、どこか別の場所に生きてるってことがある』とされるこの現象は『すごく難しい選択があった時に現れる』ともされています。そんな言ってみれば、”私と私の出会い”が描かれるこの作品は、その現象事態への興味深さと、どうなるのか全く想像もつかない結末への展開に、まさしくページをめくる手が止まらない!という読書の醍醐味をこれでもか!と味わわせてくれる非常に読み応えのある作品だと思います。

    そんなこの作品では、『ドッペルゲンガー』という興味深い現象を背景に、蒼子がAとBに分かれる前、蒼子が二股をかけていた恋愛のそれからが蒼子A、蒼子Bに分かれた後のそれぞれの人生として見ることができるのが大きなポイントとなっています。あなたは今までの人生の中で何らかの二者択一の選択をしたことがあるでしょうか?複数受かった大学の一方を選んだあの時、複数内定をもらった会社から今の会社を選んだあの時と、人は何かしらの選択を重ねて今を生きています。そんな今が幸せなら、あの時選択しなかった道の先に何があったかなど考えることはないでしょう。でも、今に幸せを感じていないとしたら、今に幸せを感じられなくなってしまっていたとしたら、ふと、あの時選ばなかった道の先に何があったのだろうか?そんな風に考えることがあるように思います。この作品で登場する『ドッペルゲンガー』との出会いは、まさしく、そんなあなたが選ばなかった道の先には何があったのか?を知ることのできる貴重な機会とも言えます。

    そして、この作品では、そんな貴重な機会として、自分と”分身”のそれぞれが進んだ先にあった結婚生活の”結果”が描かれていきます。そんな”結果”は『もうひとつの人生、それも正しい人生が、別の場所で営まれているのだ。私は選び間違えた。きれいな見かけに騙されて、私は欠陥車を選んでしまった』と感じている蒼子Aが味わった”結果”。そして『この河見との生活は、東京で暮らす蒼子から押しつけられたものであるとも言えるのではないか。二台ある自転車のぴかぴかの方をあちらの人が先に乗って行ってしまったので、自分は仕方なく残された錆だらけの自転車に乗って人生を走っているのではないだろうか』と考える”分身”の蒼子Bが味わった”結果”というように、いずれもその”結果”には満足していないばかりか、”隣の芝生は青い”というように、選ばなかった道の先を羨む気持ちが生まれてきます。蒼子Aだけでなく、”分身”の蒼子Bでさえもその結婚生活に大いなる不満を持っているというこの現実。その現実を踏まえ、蒼子Aからの『一カ月だけでいいから、私達、入れ替わって暮らしてみない?』という提案が物語を進めていくことになるのはある意味必然とも言えるものだと思います。

    そんな出会うはずのなかった自分の”分身”と出会ったことで一変していく蒼子の人生を見るこの作品では、『人はふたつの人生を生きることはできない。けれど、どういう訳か私にだけそのチャンスが与えられたのだ』と、この現象との出会いを”チャンス”と捉える蒼子の考え方に焦点が当たっていきます。それは、『退屈で孤独だった毎日が、どういう方向であれ転がり始めたのだ』という運命の悪戯とも言える展開です。そんなこの物語は上記した通りページをめくる手が止まらない!という読書の醍醐味を味わわせてくれる非常に興味深い展開を辿ります。ネタバレになるのでこれ以上の詳細に触れることはできませんが、『ドッペルゲンガー』というものは、あくまでファンタジー世界の産物であることに違いはないと思います。しかし、そんなファンタジー世界から、自分というものを第三者的に見つめ、そんな自分が行う無数の選択の先に何があるのか、何が見えてくるのかというとても興味深い考え方をこの作品は見せてくれたように思います。『退屈で孤独で平穏な毎日。そこへ戻るにはどうしたらいいのだろう』と考え出す蒼子が最後に見ることになる結末。それは『嘘つきでわがままで冷酷な人間。それが私だ。彼女は私そのものではないか』という自分自身を深く知る、本当の自分に出会う物語でもあったのだと思いました。そう、選ぶ人が同じである限り、選ぶ人が変わらない限り、選ばなかった道の先に広がるのはどこまでいってもその人に待つ人生を飛躍的に変えるようなものではないという現実。人生に不満を持つ人は、そんな自分自身が変わらない限り、どんな道を選んでもそこにあるのは不満ばかりの人生という現実。『ドッペルゲンガー』を描いたこの作品、それはファンタジーの舞台設定を借りた、人が自分自身を深く見つめる物語なんだと思いました。

    『人はふたつの人生を生きることはできない』という当たり前の現実。しかし、そんなふたつ目の人生の先にどんな物語が描かれたのか?とふと思う時があります。自分が生きたかもしれないもうひとつの人生の先にある物語。そして、そんなもうひとつの物語の世界に一カ月間入り込んだとしたら、そこに何が見えるのか、そこで何を感じるのか?そんな興味深い展開が描かれるこの作品。衝撃的な展開のその結末に、自分の”分身”はどこまでいっても自分なんだという当たり前のことを思い知らされるこの作品。自分とはどんな人間かを思い知ることになるその結末に、なんとも言えない感情に包まれるのを感じた、そんな絶品でした。

  • ◯超面白かった。小難しいことを考えながら読めるような精神状態ではなかったので、はてどれくらい頭に入るのか。。。と思いながら読んでいても、あっという間に読み込ませてくれた。サスペンスなストーリー展開は本当に面白い。

    ◯冒頭、男性としてはなんとも身につまされるというか、自分の恋愛でもこのようなことを相手に
    思われていたのかと思い辛くなる。なんと横道に逸れたことかと我ながら呆れる。
    ◯解説では、この作者のテーマは愛であると論じられていたが、情けない男性の代表としては、なんとも男性の居場所のない愛の小説であるなぁと思わされる。エゴとエゴが正面からぶつかり合って、どこまでもお互いが溶け合うことのない悲しい愛だとも思った。

  • 偶然出会った分身と入れ替り,自分の捨てた人生をやり直す。正しい幸福の選択は難しい。後半,泥沼の展開は作者らしい。苦く嫌な味が残る。後悔のない人生はない。

  • 1992年初出。
    山本さんが文芸に活動の場を広げ始めた当初の作品で、時代背景も含め懐かしさ満載。
    ジェンダー観や、豊かさや幸福の象徴としての百貨店での贅沢品購買。
    カードで大金を使うというバブルを私も若干経験したから。「ハウスマヌカン」は死語だけれど、先端の感じだったのはあの頃。

    冒頭、読み手の心をぐっと惹きつけ、作品の世界観に引き込んでいく筆致は山本さんらしい。

    「たられば」の人生。岐路に立ったとき、あの時、別の選択肢を選んでいたら…。誰しもが一度は想像や妄想を経験しているのではないかな。

    表現が若干単調であり、直喩を用いての描写が続いたりと、まだ筆の青さを感じる30年前の山本さん作品。

    私は晩年のできるだけそぎ落とした描写や絶妙な隠喩を用いての描写が好み。
    読み手に説明しよう、展開しようという部分を感じてしまい、もう少し深みが欲しいところ。

    ドラマ化にはぴったりかもと思い調べたところ、NHKで2003年稲盛いずみさん主演で放映されているとのこと。

    冒頭の飛行機での部分で気になるところ一点。
    大きな揺れの最中は機内サービス中止なのと、特に飲み物、それも熱い飲み物の提供はしないなあ。ちょっと気になっちゃいました。
    まあフィクションの世界ではあるけれども揺れているのにビールやコーヒーも違和感かな。

  • 人間だれしもが、あの時あっちを選んでいれば、ってことがあるんじゃないか。恋人の選択だけとは限らず、進学だって就職だって言えること。
    「隣の芝生は青く見える」っていうけれど、お互い自分の今の状況を振り返って、あっちのほうが幸せ、正しい選択をした、と思っている。けれどそれは、どっちを選択しても同じことなのだろう。
    ホラー小説のように、怖かった!!けど、読む手は止められません…。

  • 山本流って感じですね。
    最近少女小説ばっかり読んでいたので久しぶりの大人向け小説、つい夢中になりました。
    あとがきにもかかれていましたが不思議な作家さんだと思います。なんていうか、内容が透明感があって、山本文緒さんの本だ!ていうのがひと目でわかる、個性がある本。
    言葉の綾がキレイで、個人的にはエグい話なのにあんまり後味が悪くなかったです。読み終わった今でもあの向かい側に座りあったカフェのシーンが鮮明に蘇ります。
    それにしても怖いというかハッピーエンドで終わりにゃしないさすが山本流。てっきりもっと明るい話かと思っていました笑

  • 自分にそっくりな女性と遭遇しちゃったら…
    コンタクトをとった方がいいのかどうか…
    もし自分なら、と考えるとおそろしくも興味がある
    ドッペルゲンガー怖いですね
    でも結果そのままどちらも消えずに生きていく展開が、なんとも前向きでよかったと思います

  • 広告代理店勤務のスマートな男と結婚した佐々木蒼子。
    けれど夫婦仲はあっという間に冷え切り、互いによそで恋人をつくるようになってしまった。
    そんな折に蒼子は自分とそっくりの女〈蒼子B〉と遭遇する。
    ドッペルゲンガーそのものの彼女は、かつて自分が佐々木と迷った末に捨てた男と結婚し、真面目で幸福な主婦生活を送っていた。
    まったくちがう性格ながらも、過去の記憶をも共有する二人はすっかり意気投合する。
    慎ましいながら夫に求められ愛されている蒼子B。
    しがらみもなく悠々自適に都会で暮らす蒼子A。
    互いの真逆の生活にあこがれた二人は、一ヶ月間の入れ替わりを決意する。

    というストーリー。
    どたばたラブコメみたいな印象で読みましたが見事に裏切られました。
    スリリングなサスペンス展開で、寝るのも忘れ一気読み。
    「もしあのとき別の道を選んでいたら」という、誰もが思い描いてしまうだらしなく甘やかな妄想に真正面から挑んだ小説でした。
    結局、どちらを選んでも自分は自分なんだ。
    何を持っていても何を失ったとしても、行き着くところは変わらない。
    現実をつきつけられました。あぁ怖かった…。

  • 山本文緒さんの本を初めて読みました
    題名だけは知っていたけど、、、途中ホラーかと思った

    人間は持たないものに憧れる 他の人が羨ましく見える
    なのに持ったら飽きる

    いつまでも満たされない
    何を本当に欲しいと思っているかわからない主人公の本当に手に入れたかったものは 愛 だったんだなと感じました

    小説なのに映像が浮かぶ文章がすごいと思った!

  • リアルなドッペルゲンガー遭遇物語。

    ドッペルゲンガーに遭遇したら色んな意味で死ねるな、
    言うなれば桃鉄で数ターン他人に操作奪われるような恐怖感を感じた。

    ところで、妊娠発覚早すぎん?

    ☆3.1

  • 「あの時、ああしていれば……」と
    過去の選択を後悔したり、
    別の人生を思い描くことが誰にでもあると思う。

    もう一方の選択をしたドッペルゲンガーに会って
    選ばなかった人生を体験できるとしたら……
    創作ならではのありえない設定だからこそ
    人間の本性が浮き彫りになるような、
    とても考えさせられる作品だった。

    とんでもない企てを計画して
    非日常に飛び込む前のワクワク感からの
    どんでん返し、狂気、絶望、怒り、
    そして驚きの結末……
    ジェットコースターのようなストーリー展開に
    思わず一気読みしてしまいたくなる。

    “余るほどの自由があれば
    心の拠り所が欲しくなり、
    強く愛されればそれは束縛に感じる。”

    どっちを選んだ蒼子も
    もう一方の蒼子を羨んでしまう所や、
    どっちの蒼子の人生も
    最後までままならない所なんかは
    「そんなもんだよなぁ」と心地よい諦念を抱かせ、
    ドッペルゲンガーのいない
    現実世界を生きる読者にとっては
    救いのようにも感じられた。

  • 広告代理店勤務のスマートな男性と結婚し、東京で暮らす佐々木蒼子。六回目の結婚記念日は年下の不倫相手と旅行中…そんな蒼子が自分そっくりの〈蒼子B〉と出くわした。
    〈蒼子B〉は蒼子と過去の記憶をすっかり共有し、蒼子の昔の恋人である河見と結婚して、真面目な主婦生活を送っていた。
    〈蒼子B〉は別人なのかドッペルゲンガーなのかそれとも別の何かなのか。
    そんな中ある日2人は、1ヶ月だけ入れ替わって生活してみることを決意した。

    10年くらい前にこれのドラマ化したのがちょっと流行ってたなぁ、と思い出しつつ読んでみた。
    ある意味ホラー、ある意味ミステリ、そしてある意味教訓のあるラブストーリー。色んな要素があって、そして何より先が気になって一気に読んだ。

    人間誰しも、あの時の選択が違っていたらどんな人生になっていたのだろう?と考えることがあるはずで、この物語の蒼子は、結婚するときに相手に迷い、そして結婚後、選ばなかった方の相手を選べば良かったと後悔していて、そんな時目の前に現れた自分そっくりな〈蒼子B〉が、自分が選ばなかった方の相手と結婚して生活していることを知る。
    そして蒼子は〈蒼子B〉に生活を交換してみることを提案するのだけど、その生活が2人の立場をだんだんと変えていく。
    選ばなかった人生に対する憧憬を抱える人も多いだろうけれど、それは選ばなかったから輝いて見えるのかもしれない。結果を知り得ないからこそ。
    隣の芝生は青い、ってよく言うけれど、その芝生を自分のものにしてみたら、そんなに青くもないことに気づくのかもしれない。

    読み方や感性によって感じることも変わりそうな気がするけど、私は怖かった。欲望というのは際限がなく、自分の望みを叶えるためなら誰かが犠牲になっても構わないと思ってしまうこともあるということが。そういう恐ろしさが、自分の中にも眠っていることを否定出来ない。

    万事うまく進んで、何もかもが自分の思う通りになる人生なんて存在しない、ということかな。どんな道を選択したとしても。

  • 10代の頃に読み、今回再読

    10代の頃に読んだ時は、自分の人生に大きな分岐点もあまり思いつかず、隣の芝生は青いのかな程度の感想でした
    自分が蒼子の年齢に追いついた今、改めて読むと、もう一つの人生や結婚生活に対する価値観など、自分の中で考えられるところが増えました

    以前読んだ時は蒼子自身の問題に目がいきがちでしたが、今回は蒼子の環境に思うところが多かったです

    自分の置かれた環境に納得できず、もう1人の自分と入れ替わる計画を立てる蒼子
    現実には多分ありえないことだけど、現状を打破しようと行動する蒼子が頼もしく見えました

    柚木麻子さんの解説が、私が感じたことと近く嬉しかったです

  • ドッペルゲンガーの話をリアルに表現していて、あっという間に読んでしまった。

  • こわーい。
    結婚生活ってホラーなのかしら。

    人生には「後悔」が付き物なんだなー。っていうことを、作品を読んで改めて思いました。

    あの時あの人と出会わなければ。とか、あの時あの人と別れなければ。とか、出会いと別れには必ずどこかで「後悔」が付きまとうんですよね。

    私は、「他の人と結婚してたら。」なんてことは今のところ思ったことはないので、とりあえずは自分が選んだ道が間違いではなかったと信じてはいるのですが。

    でも、もし、この物語のように、どこかで私とそっくりな人が生活していたら。そしてその人が、私の何倍も何百倍も幸せそうだったら。なんて考えると、蒼子の気持ちも分かるような気がします。

    でも、だからって、自分のこの「今」を否定するのは、ちょっと悲しいなー。という気がしました。

    今よりいい人生なんて絶対どこにもないはず。って思いたいですよね。

  • ないものねだりなのだろうかと、蒼子は思った。余るほどの自由があれば心の拠り所が欲しくなり、強く愛されればそれは束縛に感じる。

    誰かの役にたつこと。誰かに喜んでもらうこと。それは、自分に喜びとなって返ってくる。親切が親切となって返ってくるように。

    「自由になれたはずだった。だけどね、本当に自由になったとたん、私、死ぬほどつらかったの」

  • あの時に違う選択をしていたら…
    蒼子のように、誰しも一度はこんな想いが脳裏によぎる事があるはず。

    もし次にそう強く思った時には、この本を"戒め"にしようと思った。

    なんだか子どもの頃に読んだ童話や道徳の教科書みたい。
    読んでみてどう思った?
    …って友人たちと机をコの字に並べて熱い議論を交わしたい。笑

    選ばなかった人生に想いを馳せるよりも
    選び取った人生を大切に、自分を幸せにしてあげたい!って思えた物語でした。

  • 2020年4月21日読了。愛のない夫と愛人との関係に疲れた蒼子が博多の街で出会ったのは、あり得たはずのもう一つの人生を生きるもう一人の自分だった…。「人生をやり直せたら」「もう一人の自分と入れ替わったら」というのは古今より様々なフィクションが扱ってきた、悪く言えば手垢のついた素材だと思うが、どうオチを付けるのかが特に男性である私には予測がつきにくく意外なサスペンスフルな展開にもなり、「幸せって結局なんなんだろう」と考えさせられる苦さもあって最後まで一気に読んでしまった。「人生の重要な決断」が結婚相手選びに集約してしまうのはなんだかなーという気もするが、「どの会社を選ぶか」よりは人生を左右する決断だよな。あとこの人男選ぶ目なさすぎじゃないか…?ちゃんとした相手を選んでいればこんなことにならなかったのに。

  • もうひとりの自分がいたら。
    むむ、あたしは会いたくないな。すべてを見透かされているようで居心地悪そうやもん。
    あの時、別の選択をしていたら別の人生があったのかもと思う気持ちはわからなくもないが、たいして変わらないもんじゃないかな。
    いつも自分は正しい選択をしているのだから。

  • 面白かった!あまりあらすじを知らずに買ったが、これは何も知らずに読む方が衝撃が強く、より一層楽しめると思った。久々に、読んでいてワクワクしてページを捲る手が止まらない本に出会った。2人の主人公が入れ替わるというありきたりな話にも見えるが、同性、瓜二つ、異なった地位と収入、正反対な旦那の性格という相反する要素があり飽きなかった。
    ファンタジー要素が入っているが、シリアスな部分の方が強いため、あまり非現実味を感じなかった。河見が、他県の人が考える九州男児すぎて読んでいて面白かった。時代もあるのだろうが、今時こんな男尊女卑まみれの男はいない。だが、結婚するのは佐々木か河見かと聞かれるとかなり悩む。

  •  奇想天外な筋書きですが、面白く一気に読了。結婚とは、結婚生活とは、を深く考えさせる作品です。そっくりな女性が、入れ替わって、1ヶ月違う夫と生活するというストーリーです。山本文緒「ブルー、もしくはブルー」、1996.5発行。

  • 人はあの時の選択をいつまでもそれで良かったのかって思い出してしまうものなのかな。
    ないものねだり、隣の芝は青く見える。
    でも、結局はその時いいと思った選択が、自分にとって最良で、もし違う道を選びたくなったらその時にそうしたらいいんじゃないかな。
    そしたら、それが最良になる。

  • もう20年前?くらいに読んだ本をもう一度、いやもう3回目かもしれないけど、読み返した。自分の見たくない所を見てしまう、嫌というほど知ってしまう、怖い話。

  • 【再読記録】
     知らないほうが幸せなこともあると、一言で片付けてしまえればどんなに楽だろうか。
     二人の蒼子は、人生のどこかの分岐点で違う道を選んだもう一人の自分との邂逅により、自分が手放してしまった幸せへの未練と憧憬とに気づく。入れ替わることで、ほんの一時でもその幸せを味わいたいと思ってしまうのも、自然なことであろう。今までの自分と真逆の生活の中で、自分が失った幸せに地団駄踏み、このまま本当に相手に成り替わりたいと願うことも。
     しかし、最初は幸せに思えたもう一人の自分の生き方にも、自分とは違った悩みがあり、不満がある。そのことから目を逸らして生きてきた相手に憤りや歯痒さを感じても、それもまた自分自身に他ならない。最後にはどちらの蒼子も偽りの幸せにピリオドを打ち、新たな人生を歩むことになるのだが、それが幸せな道かどうかはわからない。
     わからなくて当然なのだ。何が幸せなのかは、他人を羨むことでではなく、悩み傷ついて自分自身と向き合うことではじめてわかることなのだから。
     自分の気持ちと向き合い、自分らしくきちんと生きるということは時に残酷である。けれど、その残酷な人生の中にしか幸せは存在しない。どこかにある本当の幸せなどというのは、幻影に過ぎないのだ。

  • ある時点から分岐して、違う人生を歩むことになった二人。
    他人ではなく自分だからこそ、ずるい、羨ましい、奪ってしまおうと思ったのかもしれない。
    でも、環境や相手が変わっても自分は自分でしかなくて。
    ドッペルゲンガーという突飛な設定だけど、それによって女の醜い部分を曝け出すことになり、その心理描写がとてもリアルに書かれていた。

    蒼子は不器用で、正直で、一生懸命で、愚かで。
    主人公を好きになれない話はあまり好きじゃないんだけど、読み終わって、二人の蒼子が心から満たされる日が来ると良いなと思った。

  • 自分とそっくりな人が存在してるってめちゃくちゃ怖いよね。
    みかけても接触しない方がいい気がするけど、気になっちゃうんだろうなぁ…

  • リアルじゃないかな。日常というもの

  •  『自転しながら公転する』の主人公がどうしても嫌いで、そんなことを無遠慮に話していたら山本文緒さんご本人に伝わり、非常に心苦しく、どうにも釈明することもないまま山本さんがお亡くなりになった。その時もしかしたらすでに病と闘っていたら、余計に気分を害されていたのではないかとやりきれない。しかし、作品自体をつまらない、駄作だと言ったわけではなく、主人公が嫌いなタイプというだけで、小説としては素晴らしいできで、だからこそ主人公に実際にいるような人物として感じられて嫌いになった。

     そしてこの傑作との誉れ高い『ブルーもしくはブルー』を読んだら、『自転しながら公転する』とそっくり同じタイプの主人公で、料理人のヤンキーと恋愛するのも一緒だったので驚いた。しかしこちらの主人公は自分が、誰も愛することができず徹頭徹尾自分本位であることを自覚する結末がさわやかだ。

     残念なのは蒼子Bがせっかく妊娠したのに流産してしまうことで、もし出産していたら自分本位の人生から脱却することができたかもしれないのにと気の毒でしかたがない。

  • 初めから面白くどんどん引き込まれた。
    他人の人生は素敵に見えてしまうけど、所詮は人の人生であり、覚悟が持てず嫌なことがあればすぐ逃げ出したくなる。今自分が持っているものでも自分次第で充分に幸せになれるのかもしれない。

  • 旅行中立ち寄った場所で出会った、もう一人の自分。

    そっくり、なのではなく『自分』でしかない存在。
    あの時この選択をしていたら、の存在に
    驚きしかありません。
    どういう存在で、どういう事なのか。
    認識されるのか、されないのか、の謎もそうですが
    そんな不思議な存在と入れ替わろうとか
    怖くてたまらない気がします。
    ここまでの過程で、色々納得して共感したから??

    結局のところ、また分かれて別々に…なわけですが
    これはこれでいい機会になったのかも知れません。

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著者プロフィール

1987年に『プレミアム・プールの日々』で少女小説家としてデビュー。1992年「パイナップルの彼方」を皮切りに一般の小説へと方向性をシフト。1999年『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞受賞。2001年『プラナリア』で第24回直木賞を受賞。

「2023年 『私たちの金曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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