絶対泣かない (角川文庫)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • / ISBN・EAN: 9784041970058

作品紹介・あらすじ

あなたの夢はなんですか。仕事に満足してますか、誇りを持っていますか? 専業主婦から看護婦、秘書、エステティシャン。自立と夢を追い求める15の職業の女たちの心の闘いを描いた、元気の出る小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 『あなたはあなたの仕事が好きですか』。

    仕事、仕事、仕事、と世の中にはおびただしい数の仕事があります。2011年の厚生労働省の職業分類によると、この国にはなんと17,209もの職業があるそうです。そんな分類を見ていると聞いたことのない職業、幼い頃憧れた職業、そしてやってみたい職業…とそんな職業の名前を見ているだけでも色んな感情に包まれるのを感じます。憲法第27条に定められている通り、私たち日本人には”勤労の義務”が課せられています。しかし一方で、誰がどの職業に就かなければならないかということは規定されていません。私たちは”勤労の義務”によって働かなければならない一方で、憲法第22条によって仕事の内容を自由に選ぶ権利も有しているのです。それは、私もあなたも同じです。この国の万人が同じ条件の元、この国に暮らしています。では、冒頭の一文を再度書きます。

     『あなたはあなたの仕事が好きですか』。

    どうでしょうか?昨今は段々と薄れてきていますが、それでもこの国の多くの人は、まだまだ”終身雇用”という名の下で仕事をしていると思います。人生は一度きり、二度と送ることのできない大切な人生。そんな人生の中で多くの時間を捧げることになる仕事。しかも憲法の下で好きな仕事を選ぶ権利さえ有している、それが私たちです。そんな私たちですから、当然に『あなたの仕事が好きですか』と訊かれれば、間髪入れずに”はい!”と大きな声で全員が答えることになるはずです。しかし、どうでしょうか?そんな風に元気に答える人は、果たしてどの程度いるのでしょうか?少なくとも私には、そんな風に答えることはできません。そんな風に答えることができる人を羨ましいとさえ思います。

    さて、そんな“職業選択の自由”の中で私たちが選べる職業は多種多様です。一生かけてもその全てに就くことなどできません。この作品は、そんな数多くの職業の中から15の職業に光を当てる物語。そんな職業を選んだ15人の女性の仕事への思いを知る物語。そして、それは、この作品を読むあなたが自分の仕事を好きになるための物語です。

    さて、15もの短編から構成されたこの作品。それぞれの短編間に関係性は一切ありませんが、短編ごとに様々な職業に就いている女性が一人ずつ登場します。そんな作品で取り上げられている職業は極めて多彩です。『フラワーデザイナー』『体育教師』『デパート店員』『営業部員』『看護婦』『女優』『タイムキーパー』『銀行員』『水泳インストラクター』『秘書』『養護教諭』『エステティシャン』…とこれだけあげると、このレビューを読んでくださっているあなたの職業が登場したかもしれません。そして、この作品は1995年に発表されていますが、取り上げられている職業は全て今も存在するものばかりです。また、それぞれの職業の描写自体には不思議と時代感を感じないのが不思議です。

    当然人によって好みというものがあると思いますが、私は全体として作品前半の短編群に好印象を持ちました。そんな中でもじわっといい話と感じたのが『漫画家』が取り上げられる〈愛でしょ、愛〉です。

    『急遽、東京に住む娘を訪ねることに』なり、新幹線の中で『窓の外を流れる風景に目をやりながら』、『娘を東京に出したことを後悔して』いるのは主人公の『私』。『無口で地味で陰気な子だった』という娘が『東京のデザイン専門学校に行きたい』と言い出したのは高校三年生の時。『確かにあの子は、絵はうまかった』という娘は『専門学校を出たら田舎に戻って来る』と言ったはずが、『東京で就職先を見つけたから』と帰っては来ませんでした。『息子の大学受験や自分の母親の病気』が重なり、娘のことに気をかけることができなかった『私』は、しばらくして娘が『漫画を描いていること』を知ります。『顔見知りの奥さんに』、『渡戸さんのお嬢さんも、大活躍じゃありませんか』と声をかけられた『私』は『きょとん』とします。『逃げだそうとした彼女を捕まえて』追及し、娘のペンネームを知った『私』は愕然とします。『玉桜ふぶき』というその名前。飛び込んだ本屋でレジの女の子に教えてもらった漫画雑誌を見て『手が震えた』『私』。『下着姿の女がソファで寝そべっている』という雑誌の『巻頭カラーだった』というその雑誌を手にした『私』は、『からだ中の血液が沸騰するのを感じ』ます。『ものすごいセックスシーンではじまっていた』というその漫画には『露骨に唇を半分開いた女、裸の男の尻、そして「ああ、すごいわ」なんて台詞が書かれ』ていました。『姉ちゃんもやるなあ』と、『腹を抱えて笑』う息子に『あの子の所に行ってくる』と言うものの『親にやめろって言われて、やめる歳じゃないだろう』と言い返される始末。しかし、気持ちがおさまらず翌日東京へと向かった『私』は、タクシーから降りて、目の前の『白くて立派なマンション』を見て『むかむかが』再びこみ上げてきました。そして、『渡戸千恵子』という表札の下に『玉桜ふぶき』というペンネームが添えられた部屋へと辿り着き、チャイムを押した『私』の前に現れたのは『上半身裸で下だけパジャマのズボンを穿いた若い男』でした。そんな『私』がマンションの中で見たもの、出会った人、そして感じたこと、『むかむか』した気持ちに包まれていた『私』の感情がひっくり返ることになるあたたかい物語が描かれていきます…というこの短編。15の短編中、その職業以外の人の視点から描かれるのは二つのみ。その一つが母親視点で娘の『漫画家』という職業を見るこの短編でした。『漫画家って人が思ってるよりずっと地味なんじゃないかな』と息子が『私』に言った言葉の通り、そんな『漫画家』の生活を垣間見せてくれる好編でした。

    上記した通り思った以上に時代を感じさせないこの作品ですが、おそらく立ち位置に変化があると思われる職業が二つ入っているのも特徴です。その一つが〈アフターファイブ〉の『派遣・ファイリング』です。『学習参考書や教育書を専門に出している出版社』で派遣社員として働く主人公の加納。そんな加納はある日課長から呼び出され注意を受けます。それが『加納さんは社員でもないのに、働き過ぎ』というものでした。縁故採用された正社員の女性から、加納が『ばりばり仕事して、皆にも気に入られて、それでいて五時で帰ってくのが癇に触ってしょうがない』と訴えてくるというのがその起点となる物語は、『自由の代償は、孤独だった』というまさかの展開を辿ります。25年前にはこの国でおそらく当たり前の価値観だったであろうオフィスの風景も垣間見ることのできるこの短編は今とは微妙に立ち位置の異なる派遣社員のあり方も伺える好編でした。そしてもう一つが『専業主婦』を取り上げた〈愛の奇跡〉です。『私の十年越しの片思いは、実を結んだ』と、中学生の頃から大ファンだった脚本家の妻になった主人公の『私』は、『私は彼の家庭になろう。彼の必要とする家の備品に喜んでなろう』と『専業主婦』という人生を選びます。脚本家の妻という少し特殊な境遇ながら『他人に人生を預ける、というのは、何と無謀で何と気持ちがいいことだろうか』と感じる主人公が描かれるこの短編。この時代に比べると、自分も『専業主婦』です、という方の数は減ったと思いますが、もしかするとこの考え方、この気持ち自体は今も昔も変わらないのかもしれない、そんな風に感じた短編でした。

    そして、そんなこの作品の読みどころは、本編の後にも続きます。それが、山本文緒さんによる〈あとがき〉でした。単行本用と文庫本用に二つの〈あとがき〉が存在し、それぞれ違う観点から読者への問いかけがなされ、それぞれに胸を打つものがあるその〈あとがき〉。ここでは、文庫本の問いかけをご紹介したいと思います。15もの様々な職業の舞台裏、その職業に人生を捧げる女性たちを描いた山本さんは、こんな風に読者に問いかけます。

    『あなたはあなたの仕事が好きですか』。

    そんな問いに『必ずしも好きである必要はないと、私は思います』と語る山本さんは、『たとえば感じのいい友達みたいな仕事、あるいはそんなに仲良くはないけれど一緒に暮らしている家族みたいな仕事、そんなふうに自分と仕事に距離感をもって接するのもいい』と続けられます。私は自分の仕事が好きなんだろうか?改めてそう問われると間髪入れずに”はい”と答えられない自分がここにいることに気付きます。何か特殊な技能や資格が必要でもない自分の仕事、まさしく”歯車”のように幾らでも替えがきく自分の仕事を好きだとも言い切れない自分に気づきます。でも一方で、

    “あなたはあなたの仕事が嫌いですか”。

    と訊かれたとしたら、それにも間髪入れずに”はい”とは答えられない私。モヤモヤとした気持ちは収まりません。そんな私に問いかけるかのように山本さんはおっしゃいます。

    『もし、あなたがあなたの仕事が嫌いだとしたら、それがどんなつまらない仕事でも、それをつまらないと思っているのはあなた自身です』。

    その問いかけをあなたならどう感じるでしょうか。自分の仕事が好きでも嫌いでも、その全ての感情は自分次第ということ。また、少なくともこの国では仕事は自分自身で自由に選べるものでもあります。誰に強制されるものでもありません。そんなある意味での自由の中で今の仕事を選んでいるのは自分自身です。山本さんはさらにこうもおっしゃっいます。

    『どうか、あなたがあなたの仕事を好きになれますように』。

    生きている限り、私たちは何らかの仕事に就くことになります。そう、生きているということは、仕事をすること、仕事をするということは、生きることでもあるのです。

    仕事ってなんだろう、仕事にどう向き合えばいいんだろう、そして、仕事を好きになるってどういうことなんだろう。時代を経ても変わらない仕事というものに向き合う15人の女性たちの生き様を通じて、改めて人生における仕事とは?ということに思いが囚われたこの作品。今の仕事に疑問を感じている、今の生き方に疑問を感じている、そんなあなたに、特に女性のあなたに是非読んでいただきたい、そんな作品でした。

    • さてさてさん
      nikuさん、こんにちは!
      かつてこの作品を読まれたのですね。90年代の作品なので時代を感じるかと思ったのですが、15人の女性たちのそれぞれ...
      nikuさん、こんにちは!
      かつてこの作品を読まれたのですね。90年代の作品なので時代を感じるかと思ったのですが、15人の女性たちのそれぞれの生き様を描いた物語は、とても新鮮で、時代が変わってもそこに働く気持ちというものは決して変わらないのだと思いました。また、作者の〈あとがき〉が書かれた作品は他にもありますが、こんなにも胸を打たれた〈あとがき〉は初めてです。初心に帰れた、とおっしゃるnikuさんの心持ち、私も同感です。仕事を続けているとたまらなく辛い瞬間、もしくは時代というものがあると思います。こんな思いまでしてどうして働き続けなければいけないのか、あまりの理不尽さに心が折れそうになることもあります。でも、「絶対泣かない」。山本文緒さんが遺して下さったこの〈あとがき〉を胸に頑張ろう、頑張っていこう、そう思います。
      コメントありがとうございました。
      2021/11/13
    • nikuさん
      そうですよね!
      理不尽な上司とか、文句ばっかのお客様や取引先、なにくそと思いますが、実際泣けてきますが、また明日から月曜日、、がんばります!...
      そうですよね!
      理不尽な上司とか、文句ばっかのお客様や取引先、なにくそと思いますが、実際泣けてきますが、また明日から月曜日、、がんばります!元気をありがとうございます!
      2021/11/14
    • さてさてさん
      nikuさん、ありがとうございます!
      山本文緒さんがおっしゃってくださったように、『どうか、あなたがあなたの仕事を好きになれますように』とい...
      nikuさん、ありがとうございます!
      山本文緒さんがおっしゃってくださったように、『どうか、あなたがあなたの仕事を好きになれますように』という言葉を胸に仕事に向き合ったいきたいと思います。
      お互い頑張りましょう!
      今後ともよろしくお願いします!!
      2021/11/14
  • 働く女性達の短編集

    様々な職業で書かれているので
    全てに共感というわけではないが
    どこかしら刺さる部分は見つかるかなといった感じ。

    自分の仕事や今の生活について見つめ直したい気持ちになった。

  • 先日、訪れた街の古本市で購入!

    しかし、その古本屋は不思議な売り方をしていた。

    本にはブックカバーがされており、中身が見れないように、テープで封印され、表紙に付箋紙が?
    付箋紙には本書の一文が書かれていた

    『ちょっとね、女の子から文句が出てるんだよ』『はあ』『加納さんは社員でもないのに働きすぎじゃないかって』私は課長の言葉の意味が全く分からなかった。

    私はこの一文を決め手に購入しました!

    付箋紙に中身の一文が書かれており、気に入った文章があれば題名も作者も見れずに購入するというルールで売られてました。

    面白そうだったのでやってみたら、たぶん普通だったら絶対に買わないような本と出会えました!

    こんな本との出会いもアリかなぁ!と思いました。


    女性を主人公とした、働く女性達の物語!
    恋愛や家族、自分の境遇に立ち向かって、時には流されての15+1の短編集
    自分の仕事に少し疲れた人達にオススメです!

    因みに、個人的な白眉は【体育教師】です。

    ↑の本書の一文が気になる方は是非読んで下さい!損はしません。

  • 様々な職業なで働く女性が主人公の短編集。
    私が今やってたり、今までやってきた仕事とは全く関係のない職業だけど、仕事に対する思いや姿勢がちゃんと伝わってくる。

    色んな種類の職業をひとつの小説にしてるけど、それぞれ全部味が違って良い。
    様々な状況で彼女達が選ぶ道を見て、前向きになれた。

    1番心に残ったのが
    【アフターファイブ】···派遣·ファイリング
    1番身に染みた。考えさせられることが沢山あった。
    【ものすごく見栄っ張り】···体育教師
    なんかも好き。

    長くなりそう。割愛。笑

    今日、ちょうど職場で盛大に揉めて帰ってきた。
    ブクトモ様から、あとがきが素晴らしいと聞いていたので、もう朝だけど読み切った。
    んで泣いた。頭がごっちゃになってる!
    私は今の仕事が好きなはずなのに、なんでストレス溜めてんだろ。
    つまらない仕事なのに選んでるのは私だ。
    勝手に自由なのに縛られてるのも私。
    あとがきの最後にあった手相観の方のようになりたいなあ…

    明日からまた、私が選んだ職場で楽しく過ごせるように。自分がらどうしたいのか。ちゃんと考えようと思う。

    なんだかうまくまとまらない…!!


    素晴らしい本でした。
    紹介してくださったブクトモ様、感謝ですm(*_ _)m

    • さてさてさん
      みたらし娘さん、おはようございます。
      この作品、本当に深いですよね。みたらし娘さんのレビューを見せていただいて、私も改めて自身のレビューを...
      みたらし娘さん、おはようございます。
      この作品、本当に深いですよね。みたらし娘さんのレビューを見せていただいて、私も改めて自身のレビューを読み返してみました。
      “仕事ってなんだろう、仕事にどう向き合えばいいんだろう、そして、仕事を好きになるってどういうことなんだろう”、そんな風に私は読後の想いを書きました。さまざまな職業のお話を読むと、みたらし娘さんも触れられている通りそんなそれぞれの主人公が選んだ道の先に何があるのか、何があったのかを見ることになります。それは、必然的に自分自身を振り返ることになり、上記した想いに改めてとらわれてもしまいます。
      “仕事”って難しいですよね。人の嫌な部分が最も見える場でもあると思うので、自身に芯を持っていないとフラフラと振られてしまって余計に気力、体力も消耗してしまって…。なんなのだろうなとも思います。
      この作品、みたらし娘さん、書かれていらっしゃる通り、〈あとがき〉がとにかく絶品だと思います。この作品を読んだ時、私、”仕事”でどうにもならない位に辛い状況の時でした。その時にこの〈あとがき〉は深く沁みました。すでに山本さん、お亡くなりになられていたこともありますが、(安っぽい言い方ですみません)天上から、山本さんに諭されたような感じがして、大泣きしてしまいました。
      どこまでいっても、どこまでいっても自分なんだな、そう思います。人生駆け抜けた最後に、 まあ良かったかな、そんな風に思えるように前を向いて歩いていきたい、そうも思いました。
      もう20年以上も前に書かれた作品ですが、そこに記された山本さんの言葉は全く陳腐化することなく、今の私たちのことを照らしてくださっていると思いました。みたらし娘さんがレビューしてくださったこの場をキッカケに、今、”仕事”に悩み、苦しめられていらっしゃる一人でも多くの方にこの作品を手にしてくだされば、と思います。
      みたらし娘さん、ありがとうございました!
      2022/09/06
    • みたらし娘さん
      さてさてさんこんにちは☆
      いつもありがとうございます(*´ω`*)

      とても素晴らしい1冊でした。
      山本さんがお亡くなりになられてる分、諭さ...
      さてさてさんこんにちは☆
      いつもありがとうございます(*´ω`*)

      とても素晴らしい1冊でした。
      山本さんがお亡くなりになられてる分、諭されている気が…というのとてもよくわかりす。
      そして、今の私にとって山本さんの言葉は"よく考えてみて"と言われてるような気もして、一夜明けて今もまだ考えております…

      自分の愚痴のような話ばかりになってしまいそうなのでのこの辺にしておきます(´・ω・`)笑

      色んな職業が出てきて、それが自分にとって経験のないものでも、仕事に対する思いや姿勢だけで伝わってくるものがあって良かったです。

      本当に多くの方に読んでいただきたい1冊ですね!
      こちらの1冊に出会えて本当に良かったです。
      ありがとうございました(*´ω`*)!
      2022/09/06
  • 様々な職業に就く女性達の短編集。
    看護師、体育教師、エステシャン、銀行員、専業主婦、、、
    皆んなそれぞれ、嫌な事も嬉しい事も心に秘めて、時には吐き出して、頑張ってる。

    1998年の本なので、時々価値観や感じ方にあれ?と思う事はあったけど、そんな事は気にならないくらい彼女達の働くという事に対する気持ちが近くに感じられて、沁みた。
    すごく頑張ってる話ではない。
    ちょっとした会話や出会いで、「明日も頑張ってみようかな」って思えるような、ごく普通の身近にいる感じの話で、ほっこりする。

    何のために働くのか、
    自分はどうしたいのか、
    それを問いかけてくる本。

    手相観さんである日笠さんののあとがきが印象的だった。
    「泣きたくなったら、泣けそうになったら、チャンスと思って、思いっきり泣けばいい。我慢しないで泣いて泣いて、泣きわめいてみればいい。ただし、一人ぼっちでね。ー中略ー 
    悲しみを我慢するっていうのはどこか臭いものにふたをする的なところがあって、無視しようとか考えないようにしようとしている間はいつまでたっても、その臭いものは残り続ける。時々は心のふたをばかっと開けて、大泣きパワーで洗い流そうとしてみるといい。そしたらずいぶんすっきりするし、自分という味方も育って開運の手助けになっていく」

    元気をもらえる温かい話だった。

  • 数々の仕事の短編。短くとも読みごたえがあった。でも、実は仕事についてのあとがきが一番よかった。

  • 1995年に描かれているだけに現代の考え方や在り方とは違った感じもあったけれど、スラスラと読みやすかったです。
    様々な女性の仕事や立場、考えさせられる事がたくさんあった。
    私は自ら選んだ今の仕事を頑張ろうと思えた。泣きたい時は思い切り泣こう!

    山本文緒作品が大好きだ!
    天国でも描いてるかなぁ…

  • 短篇集というよりは、ショートショート集。
    幸不幸はあるけれど、なぜか読み終えたときには「よし、また少しずつ歩こう」と思える、女性にオススメの1冊。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    15の職業の中で生きる女性たちの断片を、時には本人の視点から、時には第三者の視点から書いたショートショート集です。
    どのお話もすごく読みやすく、隙間時間に読み進められます。

    登場する女性たちは、職業も、置かれた境遇も何もかもが違います。
    1話1話、こんなに少ないページ数にも関わらず、どの女性たちの姿も、あざやかにイメージできるので、驚きました。

    本タイトルは「絶対泣かない」となっていて、同タイトルのお話も収録されています。
    とても見事だったのは、その本タイトルとラストのエッセイの呼応性です。

    文庫あとがきの後には、「涙の力」というエッセイが収録されています。
    このエッセイは著者が書いたものではなく、手相観(てそうみ)の日笠雅水さんによって書かれたものです。
    なぜこのエッセイがこの位置にあるのか、なぜ著者ではなく日笠さんが書かれているのか、その理由は文庫あとがきにて書かれています。
    「涙の力」には、「いろんな人が泣いた状況」、もっと端的に言うと「涙の流し方」が書かれています。
    本タイトルが「絶対泣かない」なのに、その本のラストを飾るのが「涙の流し方」だなんて、すごく素敵だなと思いませんか。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    女性、というだけで理不尽な目に合うことも、たくさんあります(もちろん、男性というだけでひどい目にあうこともありますけれども…)
    そんなとき、このお話の多くの女性は、涙をこらえ、その先の人生になんとか進もうとしています。

    でもやっぱり、「絶対泣かない」で生きるって、しんどいです。
    つらいとき、悲しいときに涙をこらえて進むって、本当にしんどい。
    だからこそ、この本のラストには「涙の力」というエッセイが、そっと置かれているのだと思います。

    さまざまな境遇で生きる女性の姿を通して、泣くこと、泣かないこと、どちらの世界ものぞいてみませんか。

  • さまざまな職業にさまざまな立場で従事する人たちのショートショート。嫉妬や怒りも随所にあるけれど、必ず救いのある、さらっとした終わり方が良い。

  • サクサク読める
    だけど、もうちょっとだけ先まで読みたい!
    というところでお話が終わる感じ
    想像力が伸びそう!

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著者プロフィール

1987年に『プレミアム・プールの日々』で少女小説家としてデビュー。1992年「パイナップルの彼方」を皮切りに一般の小説へと方向性をシフト。1999年『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞受賞。2001年『プラナリア』で第24回直木賞を受賞。

「2023年 『私たちの金曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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