再婚生活 私のうつ闘病日記 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
3.60
  • (31)
  • (39)
  • (50)
  • (13)
  • (3)
本棚登録 : 670
感想 : 57
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041970164

作品紹介・あらすじ

「ほんの少しの起きている時間で、パン一枚だけ食べて、書かなくちゃならない原稿だけ死ぬ思いで書いて、猫の世話だけは何とかやって、あとはとにかく臥せっているしかありませんでした」望んだ再婚生活なのに、心と身体がついてゆかない。数回の入院生活と自宅療養、うつ病をわずらった作家が全快するまでの全記録。克明な日記の、2年2ヶ月の空白期。書けない時期に何があったのか-。文庫化にあたり60枚を加え、重症期の闘病を明かす。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 山本文緒さん絶筆『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』のあと、彼女のエッセイを古い順に読んできました。

    2001年1月直木賞受賞、3月担当編集者と再婚。
    その生活ぶりを伝える雑誌連載だったはずが、
    5年にわたるうつ闘病日記となります。

    途中2年3か月の休養期間は、文庫本で書き足されていますが、
    本人の記録はなく、まわりに聞いたり曖昧な記憶をたどったりして仕上げています。

    以前から発病はしていたようですが、結婚してから大変な状態になり、ご主人は途中8か月の介護休職をとりご自身も病院で診てもらいながら奥様を支えてきたそうです。
    そして15年後の昨年、彼はすい臓がんの奥様をみとりました。
    もともと作家と担当編集者という関係でしたから、主役の彼女をアシストする運命だったのかもしれません。

    昨日の週刊誌見出しで村田兆治さんや松原千秋さんが自殺かも?というのを見ました。
    そばにいてくれる配偶者がどんなに大切か、としみじみ思いました。

    『無人島のふたり』を読んだ後、「天国で再会できたらいいな」と思ったのですが、今はようやく解放されたご主人にのんびり暮らしてほしい、できたら新しい伴侶と。

    さて、山本文緒さん自身はうつ病の原因を次のように考えています。

    〈私の場合、悪い体が黒い心を生んだのだと思う。
    浴びるように飲んだお酒が肝臓を痛めつけ、煙草もチェーンスモークとなっていたので、それは肺だけではなく体中の血管をぼろぼろにし、その上まわりの人が私の吹き出す煙草の煙をいやがっていることに気づく感受性を失っていた。
    悪い油で揚げたり炒めたりされたものばかり、消化の悪い肉を毎日のように口にして、中性脂肪を蓄えた。体が重くなり、心も重くなり、ますます手足も内臓も冷え、いいことが考えられなくなった。暗い気持ちにどんどん拍車がかかり、出口を見つけられないで膨張した。
    それが私の病気だったような気がする〉

    休養していた2年3か月のとき、彼女は胆嚢炎になり、
    胆石がびっしりあることが発覚、胆嚢摘出手術をします。
    長年の不健康な生活で、身も心も病んでしまったことを知ります。
    その結果、酒も煙草もやめたのです。

  • 筆者の鬱病闘病日記。

    読んでいてツラかった。
    日記になっているので、彼女の思考がごく自然にナチュラルに身体に入ってくる。
    それが読んでいてウツ的思考なのかすら、読んでいる最中はわからない。

    けれど、後半になるにつれて前半での思考や行動が鬱症状だったことがわかってくる。

    この作品は筆者の目線で書かれているが
    夫の目線だとまた全然異なる作品になることだろう。

    この作品名が「再婚生活」である事が、筆者からの最大限の愛情表現。


    そして最後に
    精神科医師は本当にすごい。
    人は誰しも変わらない。けれど、楽しみ生きる権利はある。
    その可能性を医学の力を使って最大限生かす。
    恐ろしくもあり、深い仕事だと感じた。

  • 著者の過去を知ることになる。

    文章の力があるから、軽妙にともすれば俯瞰的な感覚で伝えてくれる。
    解説の精神科医の言葉にもあるように、作家だから書ける、どこまでが自分の本当の姿と小説家としての自分がいるのだと思う。

    ご主人の呼称を王子として登場していたが、まさに本当の王子様だったのだ、素直に羨ましい限り。

  • 闘病中の快・不快の感覚、或いは満足・不本意の区別が、日常の出来事の中で、解りやすくつづられている。本作品に賛否両論あるとのことだが、私は読んでよかった。あとがきにあるよう「自力ではできないことが生きていくと沢山あります。(一部略)人は人に頼るしかない時もあるのだとわかって本当によかったです。」辛いとき、困ったとき、「助けて」と言い、助けてもらうことで、自分も誰かを助けられる関係にある。山本さんが闘病の末、再び筆を持ってくださって、よかった。

  • 作者ならではの克明さと軽妙さで進む日記式エッセイ。
    文庫版ならではの「空白期間のふりかえり」がとてもとても沁みた。うつ病のつらさ、周囲の辛抱強さなどが強烈に伝わってくる。精神を病むという「見えなさ」は本当につらい。

  • 「再婚生活」の単行本を既に読了。文庫本には書き下ろしがあるとのことで再読。ゴールの見えない病と作家を両立させることは本当に辛かったと思います。著者の苦悩と叫びが痛く伝わりました。涙。

  • 丁寧な文章でやんわりとした言葉で書いてる日記だけど、グッと心を入れて読むと深く刺さる言葉ばかり

    再婚生活だけど鬱病のエッセイ

  • 「そしてわたしは一人になった」の続編。
    「再婚生活」という主題だけれど、実際は副題の「うつ闘病日記」の内容が濃いエッセイだった。
    かなり赤裸々に描かれているので、冒頭に筆者が書いている通り、精神状態がよくない人は要注意。引っ張られてしまうかも。

    わたし自身も7年ほど前にうつで退職した上、仕事でカウンセリングにも関わっているので身近な話題。

    よく言われることだけど、うつになりやすい人の特徴として、真面目に考えすぎる、人に頼るのが苦手というものがある。
    エッセイを読むと筆者の真面目さ、思慮深さや観察力が鋭いからこそ傷ついてしまう苦しみを感じる。
    また完璧主義で成果が出ない時間を待つことができない性質も、うつになりやすい人の特徴なのかもしれない。これも筆者に共感した。

    メンタルヘルスケアは世間的に身近になってきてるし、個人的にはもっと身近に気軽になって欲しいと思うけれど、目に見えないし必要な人こそまだハードルが高い行動だと思う。

    身近な人に頼る練習や、作中の最後にも出てくるように、日記を書いて客観視する、悪いことだけを考えない、というのはぜひ実践したい。

    また自分の身近な愛する人の心の健康にも目を向けたいし、必要な時に手を差し伸べて助けたいと思った。
    それが自立というものだ。たしかに。

    ■引用
    「手に入っているものが多ければ多いほど、人の気持ちは安定するのだと、私も昔思っていた。だからこそ、前の離婚直後、通帳の残高が赤字だったところから始めて約九年、誰かに何かを 貰うんじゃなくて、努力をして、私が私にコツコツと恵んできたのだ」

    「反感を買うかもしれないが、恵まれているんじゃなくて、私が私に多くのものを恵んできたのだ」

    「ほんとは自分の生活が王子に浸食されている部分があって、そのことに怒っていることを私は認めたくなかった。王子はいつだって優しい夫なので。でも、認めて、解決しなくては、体も治らないのかもしれない」

    「年齢的にも(四十代になった)環境的にも(中堅作家になった・再婚した)大きな変化があったので、それに伴って考え方も物事のやり方も、今まで通りでは通用しなくなっていて、新しいベクトルの方向を模索しないとならないという自覚がある」

    「私は時間において、王子を疑りはじめているんだと自覚。これからの長いはずの結婚生活、それを 諦めてゆくんだな、そして自衛してゆくんだなと思った。振り回されないように。気持ちを乱されないように」

    「ずっと私はうつになった原因は、なにか心因性のものだと思っていた。仕事上のいろいろなストレスや引っ越しや再婚で、感情のバランスが狂ったのだと思っていたけれど、そうじゃなかったと最近しみじみ思う。だいたいその「外から攻撃された」という被害者意識がまずいけなかった。  私の場合、悪い体が黒い心を生んだのだ」

    「人にショックや怒りや不愉快な感情を起こさせて物事を考えさせるという手段は有効なのかもしれない。けれど私はしたくない」

    「世の中に向かって表現をできる技術を持っている人間は恵まれている。だからこそ自重も含め慎重にならなければいけない気がする。偽悪的になったり、それを感情任せで論破したり、したり顔で分析したりすることは、ネットの2ちゃんねるで行われていることと大して変わらない気がする」

    「リンダの 旦那 さんはそっけないらしく、彼女が用事で外出から戻っても「どうだった?」とまったく聞かないそうだ。ああ、それってまさに私の前の夫もそうだったなと思う。昔、私は前夫に「なんでなんにも聞かないの?」と尋ねて「興味のないことを延々と聞かされたくないから」と答えられたことがある。きっと私の話がくどかったのだろう。でもヒドイ。王子はそんなことは言わない。それとも言う日がくるのだろうか」

    「調子の悪いときは誰でも多かれ少なかれ視野が狭くなってしまいますが、この頃の私は悪い材料ばかりに目がいっていたので、日記メモを残しておけば、夫が私に「ほら、具合のいい日もあるんだから大丈夫。ずっと悪い日が続いているわけじゃないんだよ」と説得できると考えたそう」

    「身近な人が、それまで貫いてきたであろう意志がぐらついてきているのに気がついたら、気をつけてあげて下さい。単に怠けているだけだと決めつけないで」

    「つまり自立とは、自分さえ良ければいいというわけでなく、弱った人を助けることができることだと知ったから」

  • 日記の量が半端なく、また中身も薄くないので3日くらいで休み休み読んだ。黒い体が黒い気持ちを生むっていうのが刺さった。

  • 無人島のふたりを読む前に再読。想いあって助けて貰えることのありがたさを感じられたけど、鬱の描写が辛い。弱ってる時に読んだら引き摺られそう

全57件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1987年に『プレミアム・プールの日々』で少女小説家としてデビュー。1992年「パイナップルの彼方」を皮切りに一般の小説へと方向性をシフト。1999年『恋愛中毒』で第20回吉川英治文学新人賞受賞。2001年『プラナリア』で第24回直木賞を受賞。

「2023年 『私たちの金曜日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山本文緒の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×