青の炎 (角川文庫)

著者 :
制作 : 角川書店装丁室 
  • KADOKAWA
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本棚登録 : 10355
レビュー : 1377
  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041979068

感想・レビュー・書評

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  • 1994年刊行の作品で今更ながらの感が無きにしも非ずだが、「日本ミステリー史に残る感動の名作」との謳い文句に、初読み。
    倒叙推理小説に分類されるだろうが、いまだ少しも色褪せない青春小説の趣もある(主人公と彼の同級生の女生徒との関係)。
    そして、かつてこれほど切ない殺人者もいないだろう。
    人を殺害することは最大の犯罪であり、決して許されるものではない。
    しかし、真相が明かされることなく、何とか逃げおおせてほしいと願わずにはいられない程、主人公に感情移入した読者も多いことだろう(勿論読み手も)。
    対象者は、家族にとって忌むべき存在で、何よりも彼は、その行為を愛する家族のために計画したものであり、けっして自己満足や己の欲望から発した行動ではないからだ。
    ただ、第二の行為は自己保身が垣間見られ、汚点となっているが。
    中島敦の『山月記』や、夏目漱石の『こころ』が、巧みに引用され、文学性の薫りさえ漂う作品になっている。

  • なんとなく見つけて買った本

    殺人を犯す側からの視点で書かれた内容だった。

    殺人を犯す高校生の心理描写が細かく書かれていて、だんだん暗く重い気持ちにもなるが、状況がわかりやすく読みやすかった。

    「一度火をつけてしまうと、いかりの炎は際限なく燃え広がり、やがては、自分自身をも焼き尽くす」
    このセリフが印象に残った小説でした。

  • 秀一の気持ち、紀子の気持ち、遥香の気持ち、母親の気持ち…。
    誰の立場になってもみんな、辛く切ない。
    もう少し待っていれば…。そんな後悔もツラい。
    ストーリー自体は暗めだけど、青春要素と湘南の情景が、少し緩和してくれます。
    これまでいろいろ読んだけど、ミステリー小説で泣けたのは初めてでした。

  •  サークルの同期の友達に薦められた本。2003年に映画化されていた事実すら知りませんでした。気に入った著者の本しか読まない傾向にあるので、いろいろな本を紹介してくれる友達はありがたいです。
     推理小説の一種(倒叙推理小説)なんだろうけど、従来の倒叙推理小説とは違う趣がある。概ね犯人側に立って「犯罪がバレなければ」という思いを抱きがちな人にとっては、ラスト100頁くらいは「気になってしょうがない」という気持ちで一気に読めるのではないでしょうか。伏線とかもしっかりしていて、ちょいちょい出てくるペダントリーも伊坂ほど気になりませんでした。万城目氏にしてもこの貴志氏といい、京大出身の作家は上手いですね。ポスト島田荘司世代も京大ミス研出身者が多いし。
     ラストもありきたりな終わり方ではなく、多少の余韻を残している。3時間ほどで一気に読んでしまった。読ませる力がある本だと思う。
     舞台が「鎌倉~藤沢」を中心となっているので、こういう場所にゆかりがある人はより一層楽しめるのではないでしょうか。最近のミステリとしてはよく書けていると思います。

  • 高2の櫛森秀一は、母友子の別れた再婚相手である曾根隆司の突然の不法滞在による縦横無尽の生活で、家庭が壊されていくのを打破するために、「殺人」という完全犯罪を行う。しかしそこには大きな落とし穴があった。

    この作品は主に、家族を守るがゆえ深みにはまっていく秀一の葛藤を描く。
    テンポのいいこの物語は、序盤から読者の心臓を鷲掴みにするような息苦しさと緊張感の世界に一気に引き込まれる。

    私は、世の中に正しさと秩序を求めるには救いが少なすぎるといささか感じる。
    だから代わりに少年が正義を執行したのだと思う。そして、彼の手は汚れてしまった。彼にとってあの光景は、一生忘れられることのない一瞬として、今後の人生を大きく変えていくだろう。

  • 1人目は仕方ないと思ったけど、2人目はないなー。最後の結末は納得いかない。
    逃げるなよ!
    残された母・妹は殺人者として逮捕されるより辛すぎるよ。

  • 「青の炎」。このタイトルは本当に象徴的だ。
    主人公・秀一の心象風景が描かれている場面では、不気味で無機質な熱さが伝わってくる。
    家族のために殺人を計画する秀一。
    もちろん逮捕されることなど前提にはなく、いかに罪を免れるかを考えながら準備は進められていく。
    特別変わったところなどない、友だち付き合いのいい普通の高校生だった秀一。
    犯罪にはたいていどこかに穴があるものだ。
    綿密に練ったはずの殺害計画にも、思いもかけない落とし穴が待っていた。
    憎むべき相手を殺したために、憎しみも怨みもない人間を殺さなければならなかった秀一の哀しみが切ない。
    たった一人の人間が現れたために壊れていく幸せな空間。
    必死にそれを守ろうとした秀一が哀れでたまらない。
    若さゆえの暴走と言ってしまえばそれまでだが、もしも・・・と何度も考えてしまった。
    母親がもっと早くに真実を秀一に告げていたら。
    二度目の犯罪に手を染める前に思いなおしてくれていたら。
    秀一がした最後の決断が哀しすぎて、たまらない気持ちになった。
    純粋な思いだけが彼を支え、彼を動かし、そして彼を追いつめた。
    年齢を問わず一度は読んでほしいなぁと思った物語だった。
    文庫本の表紙にも写っているロードレイサー。
    物語で最も重要な役割を果たしているアイテムだ。

  • 綿密に練られて、上手くいくように思われた櫛森の計画が最終的に破綻してしまう。最初に犯人の手の内を明かして、そこからどんどん暴かれていく様は、見ていて痛快。しかし、櫛森に対する同情も同時に湧いてくるという、いろんな心情にさせられた小説だった。

  • 秀一の家庭、友人、そして大切なあのこに対する熱い思いが文面からひしひしと伝わってきます。
    もし自分が秀一の様な家庭環境だったらと考えると、決して彼のとった行動を否定できません。
    最期は愛する者の為に。。。

  • 倒叙探偵の形式を取った変則的な青春ミステリ。相変わらず文章は平易で読みやすいというよりは馴染みやすく、情景描写、心理描写ともにするすると頭に入ってくる。文章力もそうだが、価値観や考え方が一般的な視座からそれほど離れていないせいだろう。だからこそ殺人に至るまでの少年の決断に凄まじい説得力があるのだ。また殺人の実行犯側という倒叙探偵小説の面白さも残っておらず、殺人計画の立案や殺害方法のトライ&エラーは非常に読み応えがあり、いざ実行する段になった時の息が詰まるような緊迫感は筆舌に尽くしがたい。この緊張感の正体は未成年の殺人計画という点もそうだが、殺さなければ母や妹に魔の手が伸びるという、時間制限付きのシチュエーションにしたからこそだろう。序盤で法や警察の当てにならなさを散々説明して殺人以外の道を閉ざしていく理詰めの絶望感もさることながら、そこから殺人まで持っていく力強い筆運びと、周到に用意した状況設定の上手さが光っている。しかし小説の面白さとしては最初の事件までがピークで、第二の殺人を犯したあたりからバッドエンドが確定してしまったため、やや読み進める興味を失ってしまった。大義のあった最初の殺人と違い、第二の殺人はやや場当たり的で、最初の殺人に比べるとそこに至るまでの説得力が弱く、状況を悪化させるために用意された殺人でしかないため、どうしても最初の事件に比べてパンチが欠けてしまう。主人公が冷酷非道なサイコパスならばまだ分かるのだが、ある程度読者の共感を呼ぶ主人公にした後にこの殺人を起こすのはどうにも受け入れがたく、やや暴走し過ぎな感じが否めない。瞋恚の炎がいわば青の炎で、それに焼かれてまともな判断能力を失っていたというのは分かるのだが、それにしては第二の殺人は自殺行為にしか思えず、半端なように感じる。下手に計画を立てたのも悪く、これなら第二の殺人は突発的な殺人にして、それを隠蔽しようとする方向にしたほうが主人公の悲劇性は増したと思うし、読み手としても納得したように思う。それでも中だるみはせず、犯行後特有の浮ついた心理や後悔などの心理描写はかなり生々しく、計画の蟻の一穴から崩れていき、第二の事件がトリガーとなって最初の事件と結びつくというクライマックスまでの運びはとてもスムーズであった。そういう意味では第二の殺人は重要なパーツではあるのだが、読み手としてはそれがあったからこそ普通の作品に落ち着いてしまった感もあって、色々と悩ましい。最後もまた悲劇的でこうするしか終わりのない話ではあるのだが、罪を受け入れないのなら逃げ切ってしまっても良かったように思う。倫理的な批判は避けられないだろうが、時に倫理を無視するぐらいの身勝手なエンディングのほうが個人的には読みたかったかもしれない。殺人の肯定、というのは難しいが、そういうアクロバティックな着地は無理なのかと色々と考えさせられる一冊だった。文句は多いが、小説単体としてはまとまりも良く、良作だと思う。

著者プロフィール

1959年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。96年『十三番目の人格-ISORA-』でデビュー。翌年『黒い家』で日本ホラー小説大賞を受賞、ベストセラーとなる。05年『硝子のハンマー』で日本推理作家協会賞、08年『新世界より』で日本SF大賞、10年『悪の教典』で山田風太郎賞を受賞。

「2017年 『ダークゾーン 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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