アメリカ (角川文庫)

制作 : 中井 正文 
  • 角川書店 (1972年1月30日発売)
3.54
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  • レビュー :20
  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042083054

アメリカ (角川文庫)の感想・レビュー・書評

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  • カフカの本の中で一番好き。
    カフカの夢に出てくるアメリカは謎めいていて不思議。

  • 審判、城に続く、孤独三部作。
    審判や城では、手探りで何も見えない大きな機構や仕組みに取り残された、閉鎖空間に閉じ込められた叫びが感じられた。その一方で、このアメリカは、そういうところから離れてどこかのびのびとしているような気がする。
    どちらかと言えば、偶然に偶然が重なって、システムの中を漂流し続けなければならない、そういった類のものであると感じられる。行く先々で、システムに溶けこもうとするも、ちょっとした縺れからすぐに異分子として爪はじきにされてしまう。どこまでいっても、この広大なアメリカという土地では、カールは異邦人でしかない。
    転々としていくだけでは、おそらく書いていて辿りつく場所が見えなかったのだと思う。漂流に漂流を重ねても、カールがカールであることに変わりはないし、いくらでも漂流先を変えることで、引き延ばすことができる。おそらく、船や叔父の家、ホテルや奇妙な共同生活だけでなく、カフカの中には、徒弟や政治家秘書といった、多くの漂流先が用意されていたに違いない。漂流なんて、ちょっとしたことがきっかけで決まるし、行った先のことは行った時に考えればいいだろうから、わざといくつかのスケッチを残しただけで筆を置いたのだろう。
    この作品では、漂流というものがある種、独特の不条理さを生んでいる。漂流先が決まるのも、漂流が決まるのも、偏にカールの望んだものではない。ヘッセのの漂泊の旅は、基本的にしたくてしているものだが、このカールの漂流は、望んだわけでも、望まれたわけでもない。ちょっとした行き違いや誤解、そういうものによって転がり落ちていくような、そんな感じ。しかも、シェイクスピアのように強い思惑があってのズレではなく、ほんの些細なズレによるところが大きい。何気ない行動のひとつがいとも簡単に、漂流の種となってしまうのだ。びっしりと描かれたカールの行動のいきさつや様相も、簡単に、数行の出来事の後には、漂流へとなってしまっている。その緩急の使い分けが、閉鎖空間にあっても冗長さを感じさせないのかもしれない。漂流するとは、追放されることだが、追放されても、いつまでもふらふらしてるわけではなく、辿りつく先は、これまた意図せずちょっとしたことで決まってしまう。「たまたま」、そういうことばが最もよく似合うのが、カールの漂流であると思う。
    終盤のサーカスの場面は、明らかに審判や城の様相を呈している。やはり、カフカにとって、未知なる閉鎖空間というテーマは外せなかったものなのだろう。残念ながら、閉鎖空間の最初の部分だけでその不可解さや複雑で不条理なものはわずかしか描かれていない。けれど、わずか数十ページで城や審判同様の設定を敷いているあたり、スケッチや思考実験としての機能をこの作品は果たしていたのかもしれない。

  • 少年は追放され続ける

    『城』『審判』『アメリカ』は、作者の親友・ブロートが<孤独の三部作>と名づけた作品群だ。

     この中で私が一番好きなのが『アメリカ』だ。先二作とは若干異なる孤独が描かれた物語だと思う。それは、自由の匂いのする孤独。旅する少年の孤独は、それすら魅力のうちなのだ。

     カフカの小説は興味深いのだけれども、出口のないところをぐるぐる回っているようで、『城』なんてとても息苦しい。読み続けながらも救いを求めていた時、『アメリカ』の明るさに出会った。この少年となら、カフカの無限ループを一緒に脱出できると信じてページをくった。

     主人公はまだ10代なのに、年齢の離れた女中に不思議と気に入られて誘惑され、子どもまでできてしまって(自分も少年なのに?)、勘当されちゃうのだ。ドイツを離れアメリカへ渡るも、伯父の家からも追い出され、勤め先を得たと思えばクビになり……。

     人生は石のように転がり続ける。少年は追放され続ける。

     他では見られないようなきらめきがあって、比較的親しみやすい。作者がもう少し長生きしたら、『アメリカ』のようにいきいきした小説がもっと書かれたのだろうか? と思ったのだけど、いや、そうはならなかったところがカフカのカフカたる所以でもあるのかな……。

     少年を乗せた列車が鉄橋にさしかかり、激しく流れる川の水が間近に感じられる。物語中最も映像的なイメージをかきたてられるこの場面で、作品は「ふつり。」と途切れている。ここで終わっているのは、果たして故意か、偶然か。彼は新天地にたどりついただろうか。
     車窓の風景というには描写が鮮やかすぎる気もして、列車が脱線事故を起こしたのではないか? という不安も胸をかすめたのだけど、今は打ち消しておこう。

     人生に敷かれたレールとカフカの無限ループにはまりかけていた少年が、またそこを抜け出し、これまで以上に大きな自由を描いてくれた。その旅にはるかに思いを馳せたい!

  • カフカを読むとどうにも気持ちが重暗くなってしまう。こういう不条理を客観的に読むにはそれなりの素質が必要な気がする。自分が経験しているような辛さがある。この作品は比較的明るいのだけど、そのぶん不条理な出来事の落差が激しい。

  • 書き込みがすごい。

  • 賢い美少年カールは、年増の召使を孕ませ親に追い出される。
    そこから彼は、不条理の道を歩み続ける。

    大国アメリカへ到着した船上でのやりとり、自分の大切なスーツケースを他人に預けたまま、他人の厄介事に首を出す。
    彼の自信は若さに由来するものだろうか。
    ごったがえす人の波、赤の他人の問題に巻き込まれ、この先の混乱した道を予想させる。

    お偉い伯父に預けられるが、途中で厄介払いされる。
    10代半ばの少年が、大国アメリカに放り出されたわけだ。
    その理由は読者にも提示されない。
    この先の物語も、不条理と茨の道が続く。

    この少年は、孤独を感じる間もなく、生きるのに必死なように描かれている。そんなわけはないはずだが、それはこの物語を明るく感じるからだ。
    途中の章が抜けているのだろう。突然始まり終わる第8章は、もっとも希望に満ち、もっとも先行きの不安に満ちた場面だった。

    「身分証明書」を持たない彼は、この先どうなることだろう。
    自分は自分であることを、1枚のカードが証明するわけだが、
    本来、自分を証明するのは他ならぬ自分自身である。

    アメリカという未知で広大な国にポンと放り込まれた少年は、
    この先どのような大人になるのか、最近読んだ物語の中では、
    一番想像力を掻き立てられるものであった。

  • カタチやイレモノはカフカの「文法」そのものなのですが、色調が他の作品とはちょっと違う。比較的明るめじゃないかな。冒険小説的な。未完の三部作、これを最後に読んだのは良かったのかも。
    また、未完の著作とされていますが、私にはそうでもないように感じられました。こういう終わり方もアリだなあ。結論に重きを置く人には不満ですかね。

    「主人公がふいに日常から切り離された世界に投げ込まれ、そこでの存在をどうにかこうにか保とうと画策していく」のが彼の織り成す世界構造だという認識です。日常に生きる私や私たちに示唆を与えてくれます、読み方によっては。そのあたりは、読み手の、受け取り方の自由だね。

  • 未完であるのが悔やまれる小説。その悔やまれ度合いは、「カラマーゾフの兄弟」が未完であるのに匹敵する。それにしても、カフカとアメリカというのは、不思議だけどいい組み合わせだ。

  • 話は両親によって本国から追い出されたカール・ロスマン氏の新天地アメリカ放浪記ですが、ロスマンはトラブルを起こして次々に新たな目的地を目指します。第一章の火夫が短篇集にも収録されていることから分る通り、それぞれの章が自己完結しているので、分量の割には長さを感じさせない構成になっています。未完のせいもあって、最後の第八章がちょっと浮いてる感じもしますが、却って未来への出発っぽくてフィットしています。カフカの作品にしては、比較的ポジティブだと思いました。

  • 喜劇的な要素をふんだんに含み、現実的なストーリーで、一見カフカっぽくない作品でした。
    しかし、無経験な十六歳の少年が、異国の地アメリカで戸惑い、つまづきながらも必死で生活を確立させようとする姿は、現代の混沌とした社会で自身を確立しなければならない私たちの苦悩と共鳴します。

    学生時代にこの作品を読むと、さらに深く感銘を受けることができたかもしれません。

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