トウェイン完訳コレクション アーサー王宮廷のヤンキー (角川文庫)

制作 : 大久保 博 
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
3.73
  • (8)
  • (7)
  • (8)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 121
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (573ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042142089

作品紹介・あらすじ

コネチカット生まれのちゃきちゃきのヤンキー、ハンクが昏倒から目を覚ますと、そこは中世円卓の騎士たちの時代だった!科学の知識で、魔術師マーリンに対抗し、石鹸や煙草作りに始まり、ついには新聞や電話網まで整備して、次第にお人好しのアーサー王の側近として地位を固めていくが…。奇想天外なストーリーでSF小説の元祖とも呼ばれ、ひとつの価値観に凝り固まる現代文明を痛烈に批判する幻の名作が改訂版で登場。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 『アーサー王宮廷のヤンキー』!? なんだか手に取るのも躊躇してしまいそうなタイトルで大丈夫かしら? ちなみにオリジナルタイトルをみても、『A Connecticut Yankee in King Arthur’s Court』(ニューヨーク版)、『A Yankee at the Court of King Arthur』(イギリス版)ということで、ちょっと怖いもの見たさでページをめくってみました。

    マーク・トウェイン(1835~1910年)といえば、『トム・ソーヤの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』があまりにも有名で、おもしろくてリーダブルな作品を残していますが、少年少女向けの印象が強かったり、あるいは笑えるホラ話のような短編のイメージに凝り固まっていたなんとも無知な私でした。
    先日久しぶりにトム&ハックの冒険譚を再読したのを機会に本作に手を伸ばしてみると、いやはやびっくり仰天! トウェインの印象が変わってしまいました。

    ***
    ある日トウェインがイギリスのウォリック城を見学していると、一人の不思議な男に出会います。中世の騎士の甲冑にやたら詳しかったり、ツアーガイドの説明にちゃちゃを入れてみたり……コネティカット出身だと言うその男は、一冊の本のようなものをトウェインに託して姿を消します。羊皮紙に書かれた古文書のようなその本をひもといてみると、そこには驚くべきことが綴られています。6世紀のイングランドに迷い込んだコネティカットのヤンキーが、あの伝説の王アーサーの参謀へのぼりつめていく奇想天外な回想録。

    この作品が世に出た1889年当時は、アーサー王と円卓の騎士の活躍を描いたトマス・マロニー『アーサー王の死』のパロディだと揶揄されたそうですが、いやいや、決してそれだけでは終わらないところがトウェインの才気煥発なところですね。
    ファンタジーの形式をとりながら、絶対君主制、キリスト教会権威、王権神授、階級制度と差別、経済社会や労働の意義といった広範な文明論を、おかしな物語の中にじっくりこってり、シニカルなユーモアたっぷりで、う~ん、同世代の我らが夏目漱石先生の文明論も危ういかも(笑)。またくしくも1889年はあらたな君主制をしいた大日本帝国憲法の発布……文明に逆行するなんとも皮肉なことで。

    ある日アーサー王とヤンキー参謀はお忍びで村々を見回っていると、二人は奴隷商人に囚われてしまいます。鎖に繋がれた多くの奴隷たち、乳飲み子を抱いた女の背を激しく鞭打つ奴隷商人、泣き叫ぶ女の様子に思わず目を背けた男に激怒した商人は、さらに激しくその奴隷男をも打ち据えます。その様をやんやと愉しげに眺めるやじ馬の巡礼者たち……。

    「彼らの心はこれまで毎日のように奴隷制度に慣れ親しんでいるので、あまりにも無感覚になってしまっているのだ。そのため、批評をうながすこうした光景の中には、別の見方だってある、ということに気がつかないのだ。これこそ奴隷制度がなしうる本質的な事柄であって、要するに人間のもつ感覚の外側の部分とでも言うべきものを無感覚にしてしまうものなのだ。なぜなら、この巡礼者たちにしても心の底はやさしい人たちなのであって、彼らは決してその奴隷商人を黙って見逃しはしなかったはずだからだ。もしその商人が「馬」をそのように扱おうとした場合にはだ」

    不合理な慣習であればあるほど人は容易に変えられないのかもしれません。奴隷や差別は許されないと今でこそ言えるわけですがトウェインの時代はそうではなかったし、いまでもそれらは形を変えて根強く残っているわけです。そんなこんなをつらつら思っているうちに、ふとこれまで当たり前だと思い、日常的にやり過ごし、別の見方だってあるということに気がつかない私たちの固定観念あるいは価値観と呼ばれるものこそが、もしかすると不合理な慣習だったりするのかもしれない……。

    この物語の構想が『ハックルベリー・フィンの冒険』の直後だったということからみても、トウェインはとりわけ君主(王、元首)、貴族、聖職者、奴隷といった階級社会や差別を呪い、それを痛烈に批判していて、本のページから自然発火して燃え出しそうなくらい……少年の冒険譚からは読み取れなかった、作者のこんな激しい一面にちょっとたじろぎます。

    さらにヤンキーは、労働の喜びや豊かな社会についても語ります。
    「…知的「労働」とはそもそも呼び名が間違っている。それは喜びであり道楽であって、それ自身がすでに最高の報酬となっているのだ。どんなに少ない報酬を受けている建築家だって、技師だって、将軍だって、作家だって、彫刻家だって、画家だって、弁護士だって……歌手だって労働しているときにはおそらく天国にいるはずだ」

    「…どれだけの賃金をとるかということではなくて、その賃金でどれだけ多くのものが買えるのかということが重要な問題なのだ。それこそが決め手となって、賃金が本当に高いのかそれとも名目のうえで高いというだけにすぎないのか、ということがわかるのだ」

    トウェインの鮮烈な文明社会への問いかけは、当時のアメリカやイギリスのみならず、それから100年あまり経た今もなお色あせることなく世界に発せられているよう。時間と空間を超えても決して変わらない人間性と、かたや刻々変化していく人間社会に対する彼の鋭い洞察力には驚きの連続で、そんな彼の一面を発見できたのはほんとうに幸運でした。やっぱり本はいいですね。いつでも書架で読む人を待っていてくれます♪

  • アーサー王伝説の世界に、コネチカット州に住むちゃきちゃきのヤンキーがタイムスリップ。現代(19世紀)の知識をフル活用して奇跡を起こし、アーサー王の執政官として、政治・社会改革に挑む。

    著者は、主人公の言葉を借りて、中世の頑迷固陋な社会システムと共に、現代社会をも強烈に風刺している。

    翻訳のためか読みにくくて、読みきるのは結構しんどかった。

  • 歴史改変SFというジャンルがこんなにも面白いものだったんだということを教えてくれる本。

  • アーサー王の時代にタイムスリップした”ヤンキー”がまず作ったのが特許制度という設定に興味を持ったので読んでみたが、特許制度についてはほとんど出てこなかった。トムソーヤやハックルベリ・フィンといった、夢あふれる少年小説かと思いきや時代風刺色が強く、真剣に読むと難しい。マーク・トウェインが生まれたのは1835年。篤姫、小松帯刀、坂本龍馬、福澤諭吉、松平容保、土方歳三らと同級生らしい。アーサー王宮廷のヤンキーが出版されたのは1889年。南北戦争が終わって24年、日本では大日本帝国憲法が発布された。日本の特許法が公布されたのは1885年。その時代の小説と考えると、確かに興味深い。

  • 読み切れなかった~

  • 字詰めが細かすぎて読みづらいため頓挫。

  • あぁ〜読み終えてしまった・・・大事にとっておいた、なかなか手に入らない美味しいクッキーを食べてしまった・・・という感じ。本当にマーク・トウェインの世界に入り込んだのは久しぶりだ。物語としても面白く、人生や人間に対する様々な示唆を与えてくれる。人間の本質を物語の中で見事に表現する名人だと思う。
    物語に出てくる騎士、大衆、奴隷、貧富、差別、理不尽な風習や概念に凝り固まった人達。しかし、我々は決して彼らのことを笑うことも憐れむこともできない。それは鏡に映した我々自身だから。マークトウェインは21世紀の現在もこの先もずっと同じであるということを人間の変わらぬ本質を教えてくれる。それを悲観することはない、そのせいで悲しみも、喜びも、悲劇も、人生の素晴らしさも生まれるのだから。それが人間なのだから。
    マークトウェインにはついつい色々考えさせられてしまうが、そういうのを抜きにして、アーサー王とヤンキーの物語はとても面白い。SFとしても楽しめるし、ディッケンズのように虐げられた人々を扱った部分は目を背けたくなる位辛く、胸が締め付けられるが、ハラハラドキドキする冒険もある。最後はせつない思いをしたが、主人公との時空を超えた旅は充実したものであった。

  • マーク・トウェインにこんな作品があるのを知らなかったのだが、朝日新聞の読書欄の紹介で知った。本屋さんでタイトルだけを見たなら購入しなかっただろう。構想は、なんとなく『ドン・キホーテ』を思わせるもの。痛快と言えば痛快だが、筆者の主張がダイレクトに語られ過ぎている点は、物語としての妙味に欠けるか。正直に言えば、中盤以降はやや退屈かな。

  • ロラン夫人の「自由よ、汝の名の下でいかに多くの罪が犯されたことか」に対する反論のようなテーマ性を持ちつつも、「モンティ・パイソンのホーリー・グレイル」よりシュールでブラックなギャグが多数散りばめられている。

全16件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

Mark Twain, 1835―1910
アメリカ合衆国の小説家。ミズーリ州フロリダ生まれ、同州ハンニバルで育つ。本名サミュエル・ラングホーン・クレメンズ(Samuel Langhorne Clemens)。西部・南部・中西部の庶民が使う口語を駆使した作品によってその後のアメリカ文学に大きな影響を与えた。『トム・ソーヤーの冒険』(1876年)のほか数多くの小説や随筆を発表、世界各地で講演も行ない、当時最大の著名人の一人となる。無学の少年ハックルベリー・フィン自身の言葉で語られる『ハックルベリー・フィンの冒けん』(イギリス版1884年、アメリカ版1885年)はなかでも傑作とされ、アーネスト・ヘミングウェイは『アフリカの緑の丘』で「今日のアメリカ文学はすべてマーク・トウェインのハックルベリー・フィンという一冊の本から出ている」と評した。

「2017年 『ハックルベリー・フィンの冒けん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

トウェイン完訳コレクション アーサー王宮廷のヤンキー (角川文庫)のその他の作品

マーク・トウェインの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
サン=テグジュペ...
ウィリアム シェ...
三浦 しをん
ジェイムズ・P・...
フランツ・カフカ
遠藤 周作
伊坂 幸太郎
有効な右矢印 無効な右矢印

トウェイン完訳コレクション アーサー王宮廷のヤンキー (角川文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする