トウェイン完訳コレクション アーサー王宮廷のヤンキー (角川文庫)

  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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レビュー : 20
  • Amazon.co.jp ・本 (573ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042142089

作品紹介・あらすじ

コネチカット生まれのちゃきちゃきのヤンキー、ハンクが昏倒から目を覚ますと、そこは中世円卓の騎士たちの時代だった!科学の知識で、魔術師マーリンに対抗し、石鹸や煙草作りに始まり、ついには新聞や電話網まで整備して、次第にお人好しのアーサー王の側近として地位を固めていくが…。奇想天外なストーリーでSF小説の元祖とも呼ばれ、ひとつの価値観に凝り固まる現代文明を痛烈に批判する幻の名作が改訂版で登場。

感想・レビュー・書評

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  • 『アーサー王宮廷のヤンキー』!? なんだか手に取るのも躊躇してしまいそうなタイトルで大丈夫かしら? ちなみにオリジナルタイトルをみても、『A Connecticut Yankee in King Arthur’s Court』(ニューヨーク版)、『A Yankee at the Court of King Arthur』(イギリス版)ということで、ふふふ、ちょっと怖いもの見たさでページをめくってみました。

    マーク・トウェイン(1835~1910年)といえば、『トム・ソーヤの冒険』や『ハックルベリー・フィンの冒険』があまりにも有名で、おもしろくてリーダブルな作品を残していますが、どうも少年少女向けの印象が強かったり、笑えるホラ話のような短編のイメージに凝り固まっていた、なんとも無知な私でした。
    先日久しぶりにトム&ハックの冒険譚を再読したのを機会に本作に手を伸ばしてみると、いやはやびっくり仰天! トウェインの印象ががらりと変わってしまいました。

    ***
    ある日トウェインがイギリスのウォリック城を見学していると、一人の不思議な男に出会います。中世の騎士の甲冑にやたら詳しい、ツアーガイドの説明にちゃちゃを入れる……コネティカット出身だというその男は、一冊の本をトウェインに託して姿を消します。羊皮紙に書かれた古文書のようなそれをひもといてみると、そこには驚くべきことが綴られています。6世紀のイングランドに迷い込んだコネティカットのヤンキーが、あの伝説の王アーサーの参謀へのぼりつめていく、奇想天外な回想録。

    この作品が世に出た1889年当時は、アーサー王と円卓の騎士の活躍を描いたトマス・マロニー『アーサー王の死』のパロディだと揶揄されたそうですが、いやいや、決してそれだけでは終わらないところがトウェインの才気煥発なところですね。

    ファンタジーの形式をとりながら、絶対君主制、キリスト教会権威、王権神授、階級制度と差別、経済社会や労働の意義といった広範な文明論を、おかしな物語の中にじっくりこってり、シニカルなユーモアたっぷりで、う~ん、同世代の我らが夏目漱石先生の文明論も危ういかも(笑)。くしくも1889年はあらたな君主制をしいた大日本帝国憲法の発布……文明に逆行するなんとも皮肉なことで。

    ある日アーサー王とヤンキー参謀はお忍びで村々を見回っていると、二人は奴隷商人に囚われてしまいます。鎖に繋がれた多くの奴隷たち、乳飲み子を抱いた女の背を激しく鞭打つ奴隷商人、泣き叫ぶ女の様子に思わず目を背けた男に激怒した商人は、さらに激しくその奴隷男をも打ち据えます。その様をやんやと愉しげに眺めるやじ馬の巡礼者たち……。

    「彼らの心はこれまで毎日のように奴隷制度に慣れ親しんでいるので、あまりにも無感覚になってしまっているのだ。そのため、批評をうながすこうした光景の中には、別の見方だってある、ということに気がつかないのだ。これこそ奴隷制度がなしうる本質的な事柄であって、要するに人間のもつ感覚の外側の部分とでも言うべきものを無感覚にしてしまうものなのだ。なぜなら、この巡礼者たちにしても心の底はやさしい人たちなのであって、彼らは決してその奴隷商人を黙って見逃しはしなかったはずだからだ。もしその商人が「馬」をそのように扱おうとした場合にはだ」

    不合理な慣習であればあるほど人は容易に変えられないのかもしれません。奴隷や差別は許されない、今でこそ言えるわけですが、トウェインの時代はそうではなかったし、いまでも差別は形を変えて隠微に根強く残っているわけです。ふとこれまで当たり前だと思い、日常的にやり過ごし、別の見方だってあるということに気がつかない私たちの固定観念、あるいは価値観と呼ばれるものこそが、もしかすると不合理な慣習だったりするのかもしれない。

    この物語の構想が『ハックルベリー・フィンの冒険』の直後だったということからみても、トウェインはとりわけ君主(王、元首)、貴族、聖職者、奴隷といった階級社会や差別を呪い、それを痛烈に批判していて、本のページから自然発火して燃え出しそう……少年の冒険譚からは読み取れなかった、作者のこんな激しい一面にちょっとたじろぎます。

    さらにヤンキーは、労働の喜びや豊かな社会についても語ります。
    「…知的「労働」とはそもそも呼び名が間違っている。それは喜びであり道楽であって、それ自身がすでに最高の報酬となっているのだ。どんなに少ない報酬を受けている建築家だって、技師だって、将軍だって、作家だって、彫刻家だって、画家だって、弁護士だって……歌手だって労働しているときにはおそらく天国にいるはずだ」

    「…どれだけの賃金をとるかということではなくて、その賃金でどれだけ多くのものが買えるのかということが重要な問題なのだ。それこそが決め手となって、賃金が本当に高いのかそれとも名目のうえで高いというだけにすぎないのか、ということがわかるのだ」

    トウェインの鮮烈な文明社会への問いかけは、当時のアメリカやイギリスのみならず、それから100年あまり経た今もなお、色あせることなく世界に発せられているよう。時間と空間を超えても決して変わらない人間性と、かたや刻々変化していく人間社会に対する彼の鋭い洞察力には驚きの連続で、そんな彼の一面を発見できたのはほんとうに幸運でした♪ やっぱり本はいいですね。いつでも書架で読む人を待っていてくれます。

    • nejidonさん
      アテナイエさん、こんにちは(^^♪コメント欄ではお久しぶりです!
      今朝がた見つけたレビューに思わずポチったら、数が増えてました。
      ふふ、...
      アテナイエさん、こんにちは(^^♪コメント欄ではお久しぶりです!
      今朝がた見つけたレビューに思わずポチったら、数が増えてました。
      ふふ、見つけたのはワタクシですわよって喜んでます・笑
      タイトルの「ヤンキー」でちょっとうろたえますよね。
      かつて「トム・ソーヤー」から「ハックルベリー・フィン」を読み、それから「不思議な少年」を読みました。
      そして私も驚きました。少年少女向けとはまるで違うトウェインの素顔に。
      口の悪い皮肉屋で、ペシミスティクで。
      でもそれが世の普遍的な真実を言い当てていることに気が付き、むしろ好きになりました。
      そこから再度トムとハックを読み返し、ますますファンになったものです。
      作家さんの別な面を発見して更に読みたい本が増えていく。本当に本ていいですよね。
      ということで、今年もよろしくお願いします。
      2020/01/07
    • nejidonさん
      アテナイエさん、今更ですがフォローさせていただきますね♪
      アテナイエさん、今更ですがフォローさせていただきますね♪
      2020/01/07
    • アテナイエさん
      nejidonさん、こんばんは! コメント欄ではご無沙汰しています。以前にnejidonさんの体調などもわからないままコメントしすぎたかも...
      nejidonさん、こんばんは! コメント欄ではご無沙汰しています。以前にnejidonさんの体調などもわからないままコメントしすぎたかもしれません、大変失礼いたしました(ご丁寧な返答に感謝します♪)。
      また以前の私のレビューをお読みいただきありがとうございます。久しぶりに自分のレビューを読んでみて、ありゃ? こんなこと書いたかしらん? と妙に懐かしい気分になっています。トウェインは短編のホラ話もおもしろく笑わせるし、まことに可笑しく珍しいアメリカ南部作家ですね。この人のおかげで私は南部作家フォークナーを読む機会がありましたので、心中とても感謝しています。ほんとに本とは不思議ですね~。読んでいるうちに、脳内のどこへでもどのようにも繋がる神経細胞のようですし(たびたび接触不良になりますが…笑)、かたや古今東西、世界中、言語は違えども同じ本を手にして感激した人たちとも繋がるような気がするし、いつでも誰でも、書架で待っていてくれます。ほんとにいいものですね。
      これからもnejidonさんのレビューを楽しみにしています。私は書くのも遅ければ、読むのも遅いので、ゆっくり味わいながらですが。こちらこそ今年も宜しくお願いします(^^♪
      2020/01/07
  • 19世紀のコネチカット出身の男が6世紀のアーサー王の時代にタイムスリップして、もっている知識で王の側近にまでなっちゃう話。

    題名が「ヤンキー」なので、どんな話だとビビってたが、いわゆる「ヤンキー」は出てこない。アメリカのヤンキーのことだった… 雰囲気は「吾輩は猫である」に似てる。笑いどころもあるし、社会批判チックなところもあるし。「猫」物に飢えてた私としては満足。

    にしても、貴族ヤバすぎ。やりたい放題すぎて読むのに手が止まる箇所もあった。あの時代に生まれなくてほんとよかった…

    教育の重要性も感じた。小さい頃からの教育は洗脳にもなり得るよね。自分にも子どもがいるので、ちゃんと考えさせる教育をしようと決意。

    あとラスト。マーリンってずっと小物扱いだったけど、ちゃんと魔法使いじゃん…19世紀まで眠らせるとかそんな魔法使えるんじゃ、一流だよ…

  • 実際には本書ではなく少年SFシリーズの「アーサー王に会った男」なのだが、探しても出てこなかったのでここに登録する。
    あくまで子供向け版を読んだ感想である事をここに断っておく。

     SFシリーズとは言いながら「ファンタジー」に分類しているのは内容が到底SFとは言えないからだ。
    むしろ昨今ラノベアニメで隆盛を極めている「異世界転生無双」の走りのような話である。
    19世紀のアメリカ人工場長が6世紀のイングランドにタイムスリップし1000年以上進んだ技術を使って好き勝手やるのが話の大筋だが、千年紀も時代が違うと習俗や思考も違うので様々な場面でカルチャーショックを受けることになる。
    トウェインの意図が(当時の)現代アメリカ人から見て中世の封建社会、ひいては当時まだ残っていた君主制国家がいかにバカらしいかを皮肉る事にあったのはよく分かるのだが、その割には随所に穴があり過ぎる。

     まずアーサー王を実在の人物として捉えている点が疑問であり、ご丁寧に「当時使われていた鎧に主人公が撃ち込んだ銃弾の跡がある」という描写が冒頭から出てくる。
    アーサー王とは日本で言えば神武天皇並に実在が疑わしいと言うか伝説上の人物であり、モデルとなった人間が実在したとしても「伝奇物語」の記述は大半がフィクションと考えるべきものである。
    実際華々しい騎士物語も現実には誇大妄想と詐欺の産物であると作中でも語られているのだが、実は騎士道が幅を利かせていたのは12~16世紀であり、本来ならそちらを舞台にすべきだった。
    つまり「アーサー王」に時代を合わせてしまった矛盾がここで生じているのである。
    矛盾と言えば何故コネチカットのアメリカ人が突如(それも過去の)イングランドに飛ばされねばならんかだが、アメリカにはトウェインが風刺すべき「封建時代」が存在しなかった(ことになっているが同じくらい黒人を差別・搾取していたのは周知の通り)から、これもご都合主義である。

     そして「SF」の観点からだが、主人公は6世紀のイングランドで火薬・電信・自転車といった未来の技術を駆使しているにも関わらずそれらがオーパーツとして発見されるなどという事態には至っていない。
    冒頭にも述べたが「鎧に残った銃痕」だけがわずかに伏線として残っているだけである。
    どうもトウェインは歴史改変が現代に及ぼす影響(バタフライ効果)に無頓着なようである。
    本作は別にSFとして書かれたわけではないが、だからと言って話の整合性が損なわれても許されるというわけではない。

     アーサー王を空想世界の住人として描いていれば普通に風刺物語として楽しめた(「ガリバー旅行記」のように)のだろうが、なまじ「歴史改変」をやっているために話の杜撰さが気になった。
    もっとも、話が杜撰なのは現代の異世界転生無双ジャンルも同じだが。

  • 6世紀ブリテン島に転移した19世紀の兵器製造工場主は、遍歴の騎士に「魔法使いだ」と捕らえられアーサー王宮廷に引っ張っていかれた。火刑になる寸前、予言した日蝕が起こって運命逆転、宮廷付き大魔術師となったが…/密かに火薬を作り銃を作り、教会以外で読み書きと科学知識を与える軍人学校も…電信電話網も/アリサンド・ラ・カルトルワーズ美女を割り当てられて「魔物退治」の旅に出て、よくわからない結末でなぜか「大成功」となって美女が妻となり愛称サンデー/中世に馴れ段々に残酷になっていく/しっぺ返しに国王とともに奴隷に売られ

  • アーサー王伝説の世界に、コネチカット州に住むちゃきちゃきのヤンキーがタイムスリップ。現代(19世紀)の知識をフル活用して奇跡を起こし、アーサー王の執政官として、政治・社会改革に挑む。

    著者は、主人公の言葉を借りて、中世の頑迷固陋な社会システムと共に、現代社会をも強烈に風刺している。

    翻訳のためか読みにくくて、読みきるのは結構しんどかった。

  • 歴史改変SFというジャンルがこんなにも面白いものだったんだということを教えてくれる本。

  • アーサー王の時代にタイムスリップした”ヤンキー”がまず作ったのが特許制度という設定に興味を持ったので読んでみたが、特許制度についてはほとんど出てこなかった。トムソーヤやハックルベリ・フィンといった、夢あふれる少年小説かと思いきや時代風刺色が強く、真剣に読むと難しい。マーク・トウェインが生まれたのは1835年。篤姫、小松帯刀、坂本龍馬、福澤諭吉、松平容保、土方歳三らと同級生らしい。アーサー王宮廷のヤンキーが出版されたのは1889年。南北戦争が終わって24年、日本では大日本帝国憲法が発布された。日本の特許法が公布されたのは1885年。その時代の小説と考えると、確かに興味深い。

  • 読み切れなかった~

  • 字詰めが細かすぎて読みづらいため頓挫。

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著者プロフィール

Mark Twain 1835年-1910年.
邦訳された自伝に、
時系列順に並べられている
『マーク・トウェイン自伝 〈上・下〉 ちくま文庫 』
(マーク トウェイン 著、勝浦吉雄 訳、筑摩書房、1989年)
や、トウェインの意図どおり、執筆順に配置され、
自伝のために書かれた全ての原稿が収録されている
『マーク・トウェイン 完全なる自伝 Volume 1〜3 』
(マーク トウェイン 著、
カリフォルニア大学マークトウェインプロジェクト 編、
和栗了・山本祐子 訳、[Vo.2]渡邊眞理子 訳、
[Vo.1]市川博彬、永原誠、浜本隆三 訳、
柏書房、2013年、2015年、2018年)などがある。



「2020年 『〈連載版〉マーク・トウェイン自伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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