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Amazon.co.jp ・本 (352ページ) / ISBN・EAN: 9784042464013
感想・レビュー・書評
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アイザック・バシェビス・シンガー(1904~1991年)は、ポーランドのワルシャワ近郊の町で生まれ、ナチスの迫害から逃れるように31歳のとき渡米し、全米図書賞にくわえ、1978年にはノーベル文学賞を受賞した作家。
彼はイディッシュという東欧系ユダヤ言語(少数言語)で小説を書き続けています。
以前から、なぜだろう? と興味津々。
そこでまずはイディッシュから日本語に直訳された傑作短編集『不浄の血』を読んでみると……、これは切れ味鋭い、おもしろい! がぜん気をよくしていくつか長編をながめてみると(重訳ながらイディッシュ⇒英訳は、すべてシンガーが監修あるいは共訳している徹底ぶり)、その内容もさることながら、静かな筆致といい、確かな表現といい、読み返しを迫られるような結末といい、いやはや素晴らしい~♫
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ナチスによる虐殺で妻子を失い、ポーランドの田舎で3年ものあいだ身を潜めていたハーマン。命の恩人のポーランド娘ヤドヴィーガと結婚した彼は、ナチの迫害を逃れて彼女とともにアメリカへ渡るのですが、しばらくするとユダヤ難民の美女マーシャと愛人関係に……そこへホロコーストで殺害されたはずの妻タマラが現れ、ハーマンは一夫多妻の重婚状態になってしまうはめに(-_-;)
ホロコーストの犠牲となったユダヤ人は600万人以上とも言われています。なかでもポーランドに暮らしていたユダヤ人に対する虐殺は、老若男女、子どもたちも含めて300万人以上。彼らの集落(シュテトル)はすべて壊滅しました。イディッシュを話す人々は激減し、国外へ逃げおおせた人々も時の経過とともに姿を消し、現地に同化していくなかで、イディッシュは滅びゆく言語となっているようです(ちなみにイスラエルはイディッシュではなくヘブライ語)。
本作の主人公ハーマンは、まさに九死に一生を得たシンガーの生き様と重なるよう。登場する人物は誰もかれも強迫神経症やトラウマ、あるいは形容しがたい内なる狂気性を帯びていて、胸がつまってしまいます。ですが、そんなハーマンの言動はどこか滑稽で笑えます。どんどん物語の中に引き込まれ、シンガーワールドにはまってしまう……まさに愛のアリ地獄! ふと、シンガーの描くこの笑いこそ、人類史上、最悪の集団虐殺の愚劣さを鮮明に浮かび上がらせていることに気づき、おぞ気立つのです。
「……ユダヤ民族は温室植物だという考えがハーマンに浮かんだ。救世主、来るべき正義、永遠に彼らを催眠術にかけたバイブルの約束を信じて異邦の地に育つ温室植物」
まるで聖書からぬけ出たような流浪の民、民族の魂や遺伝子を内包したイディッシュで書き続ける作家シンガー、虐殺の歴史を物語で世界に知らしめ、その忘却を決して許さず、後世に橋渡ししようとするシンガー、そんな気迫と執念が行間から気炎のように立ち上がってきます。
思えば、言語はそれを母語として暮らしてきた人々の記憶や歴史が凝縮している生命の繋がりです。集団虐殺/ホロコーストによってイディッシュが消えていくということは、東欧の地に生きていたユダヤの人々の文化や命脈も失われていくことにほかなりません。とすれば、ホロコーストはまだ終わってはいないのでは? ナチスの手から逃れ離散した彼らは、言語やアイディンティティを徐々に喪失していく、いわば文化的ホロコーストの苦悩に今も喘いでいる人々では? だからこそシンガーはイディッシュで書き続けたのではないのだろうか?
そんなシンガーが77歳のときに書いた最後の長編『メシュガー』も素晴らしい作品です。やはりイディッシュでしたためています。すでに死んでしまった人々の魂や記憶という重荷を背負いながら、シンガーの脳裏をよぎったであろう、ついえていく人々の記憶や歴史。このうえない物悲しさにいたたまれなくなってしまいます。ふとアイヌや沖縄、台湾や朝鮮などの人々に強いた激しい日本同化政策によって、彼らのもつ独自の言語やアイディンティティをいたく傷つけてしまったことも脳裏をかすめていきます。
本作は映画にもなっているようです。ハーマンが3人の女性の中で右往左往して可笑しい、エンタメ性もある作品のようです(『敵、ある愛の物語』は改題して、『愛の迷路』へ)。
さらに『やぎと少年』をはじめとする、少年少女用に書かれたシンガー作品群は、なるほど「お話しの名手」と言われるだけあって、東欧のユダヤの人々の古きよき時代の雰囲気が伝わってくる、切なくほっこりした仕上がりになっています。ぜひのぞいてみてください(^^♪詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
『ショーシャ』は、アイザック・B・シンガーの実生活と重なる部分が多い小説。
『やぎと少年』は、児童向けの昔話風。
『敵、ある愛の物語(『愛の迷路からの改題』)』は、ある意味、エンターテーメント性のある作品。
『敵、ある愛の物語』は、同名で、ポール・マザースキー監督によって映画化されているが、私はみていない。
小説を読んでとても面白かったので、できれば映画もみたいと思いました。
ユダヤ人のハーマンという男は、1949年、ニューヨークでひっそりと暮らしている。
妻とふたり暮らしだったが、妻のヤドヴィーガはポーランド人でハーマンの親の召使だった。
ヤドヴィーガは、戦時中、ユダヤ人のハーマンを匿い、彼の命を救った。ハーマンは結婚していたが、戦後、妻と子は死んだと聞かされ、アメリカに亡命しヤドヴィーガと所帯をもった。
読み書きもできないヤドヴィーガだったが、異国にハーマンとともに渡り、召使のようによく働き、心からハーマンを愛した。
ハーマンにはマーシャという美人の愛人がいた。
マーシャはユダヤ人でゲットーや収容所で過ごした過去があり、母と同居している女性で、彼女は既婚者だったが、結婚生活は破綻しつつあるようだった。
ハーマンは、妻に仕事と偽り、よく愛人の元に通った。
身勝手ながらもその生活をエンジョイしていたある日、戦争で死んだはずの妻のタマラが突然現れる。
今の妻のヤドヴィーカ、愛人のマーシャ、元の妻のタマラ。
3人の女たちの間で優柔不断さを大いに発揮しながら右往左往するハーマン。
やがて、ヤドヴィーガが妊娠する。
3人の女たちは、それぞれに個性的で、健気に、一生懸命生きている。3人とも魅力的だ。
ハーマンは、3人の女の前で、主体性がなく、まるで波間を漂っている一羽の鳥のよう。
やがて、女たちはそれぞれの人生を選択する。
ハーマンなど本当に彼女たちに必要なのか?(笑)
「夜をこめて、塩のようにざらざらと乾いた雪が降った」
どんな雪が降ろうと、その雪を見上げる男を尻目に、女たちは自分の足でその雪を踏みしめる。
アイザック・バシェヴィス・シンガーの作品
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