テロリスト (角川文庫)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (495ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042520108

感想・レビュー・書評

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  • マルティン・ベックのシリーズラスト。
    1965〜1975に最初から10巻の予定で書かれたシリーズ。
    本作は米国の有力な外務官を迎えるにあたって、スウェーデン警察がテロリストと戦います。

    最終話とあって今までの主要キャラがほぼ勢ぞろい。人気ドラマの最終回みたいでした。
    過去の役立たずを集めた「足手まとい班」とか(笑)
    テロリストが4人出て来ますが、そのうち2人は日本人と言う設定。回天さんと神風さん。食事や服装など当時としてはやむを得ない誤解で書かれているのも面白いです。なんせ40年以上前のスウェーデンですから。

    シリーズ通して、近代化するスウェーデンで増加する失業者や暴力、ドラッグの問題などがありありと書かれています。
    社会派ミステリと言うととっつきにくいかもしれないけど、マルティン・ベック主任警視が戦うのは悪者だけではないというのが、また面白さになっていると思います。

  • マルティン・ベックシリーズの最終巻。だいぶ偉くなったベックはスウェーデンを訪問する重要人物の護衛の指揮を任される。国際テロリストが狙う中、果たして阻止できるのか。上司たちから次々に繰り出される妨害にも関わらず、ベックと仲間たちが立てた計画はテロリストの手口を読みきっていて、切れ味抜群。コルベリ始め、過去の作品の登場人物たちも顔を出して、最後にふさわしい作品。ただ個人的にはこんなに政治色が強くなければもっと好きになれたと思う。ちょっと一方的過ぎる書き方が残念なところ。

  • なかなか手に入らないので、手に入るものから読んでいるが、これが最終巻とは…コルベリいなくなってるし、マルティン・ベックは新しい恋人といちゃいちゃしてるし(笑)早く間の8巻分を読まねば!!
    自分が生まれた頃のスェーデンの警察小説。本作と『笑う警官』しか読んでないが、時代性もあるのか、職務に忠実でお堅い警察官の面々、と言う描き方ではなく、どの捜査官も個性を持っており、チームとして団結してるでもなく、それぞれに得手不得手があるのだが、それを丸ごとひっくるめて事件の捜査に当たる。この辺りはハリウッド映画の刑事ものを見慣れ過ぎた人間にはとても新鮮に映る。ぼんくら下っ端警察官の描写などを読んでると、これ大丈夫なのか、と思うし、逆にグンヴァルト・ラーソンが出てくるとどんな事件も剛腕椀力でへし折ってしまいそうだし。
    捜査官一人一人の個性を際立たせ(それぞれ実に個性的な性質ではあるのだが)、群像劇としてのエンターティメント性を上げる書き方でもなく、かと言って捜査状況を克明に記すドキュメント的な手法でもない、捜査官の緊張が読者にまで逼迫してくるような書き方でもないのだが、退屈がない、と言うのが読中読後の素直な感想。
    表題には3つの意味がある。ラーソンがテロリスト対策の現場を学びに行く導入から、ある若いシングルマザーの描写があり、アメリカの上院議員が来国するに辺りテロ攻撃を警戒する、と言う3つ。テロと言うものに対する憎しみを殊更描くのではなく、犯人は捕まえると言う警察の仕事を一見淡々とこなすに見えるベックの警察官として普通に有能である、と言うものを堪能できる一冊。
    ベックが未だ好きな同僚とは言い難い、個性ありまくりなラーソンに対して、あと5年で彼を人間として好きになるだろう、と書いてあり、人間同士の相性は年月が培うものである、と言う事も書いてある。
    ラーソンをルンは全く違う性質の人間であるのに、実は彼らは無二の親友、と言う下りの描写が非常に好きだ。
    『マルティン・ベックは無言でルンの後姿を見送った。グンヴァルト・ラーソンとルンは、まったくタイプが異なる男同士なのに、互いに口にださないことまで理解し合っている。二人は友人、かけ値のない親友同士なのだ。』
    これをベックが理解しているのが彼の人間臭さを表現している。ベックもラーソンもルンも殺人課の警官で、おっさんばっかである。まだ文庫になった『笑う警官』しか読んでないが、マルティン・ベックにもコルベリと言う頼りになる相棒がいたのだが、本作ではコルベリが警察を退職してしまっている。全く同性愛要素はないし簡潔な文章なんだが、こう書かれている…匂い系と言うのでもない。ラーソンとルンは見た目も性格も真逆の二人で、ラーソンは誰に対しても傲慢で歯に衣着せぬ物言い、ルンは小柄で冴えないおっさんまんま、この二人が親友!?と周囲が思うほどなのに、休暇を一緒にとり、釣りをしたりする仲なのだ…「馬が合う」ってこう言う事だろうなぁ。あと8冊、なんとしても手に入れて読む。

  • 味わい深い大人のための警察小説。
    主人公ベックをはじめ、登場人物すべてに無駄がなく、それぞれの人生に思いを馳せることができる。

    愛情の込もった訳者あとがきも素晴らしい。

  • マルティン・ベックシリーズの最終巻。
    読み応え、内容ともに凄いシリーズでした。10冊順番通り読んでみて到達感も満たされましたが個々の人間像に愛着が湧いてきて離れがたい。人間臭いし、シリーズの中での役割も本当に活きている。
    どうしてイマイチな評価しか与えられてないんでしょうか…手に入りにくくて10冊読み終えるの大変でした。

    北欧ミステリーというジャンル、この頃から確立していたんですね、としみじみ。

  • 1965年から10年間にわたり、一年一作のペースで発表されてきた北欧ミステリの傑作とされる〝刑事マルティン・ベック〟シリーズの完結編である。以下は、全10作品を通しての個人的印象。

    ◎定点観測としての警察小説

    現代のスウェーデン社会が抱える問題について、〝定点観測〟的な手法で描き尽くしたいとかんがえた作者マイ・シューヴァル=ペール・ヴァールー夫妻が選んだのが「警察小説」というスタイルだった。犯罪こそは「高度福祉国家」のネガであり、それを職業柄誰よりも冷静にみつめているのが「警察官」という人種だからだろう。ひとによっては、ミステリ的要素よりもときに作者による社会批判的な要素が強調されることに違和感をもつかもしれない。たとえばこの『テロリスト』では、社会システムに翻弄される少女を登場させ、彼女のためにひと肌脱ぐ〝名物弁護士〟の言葉をかりて自分たちの考えを代弁させている。娯楽小説としてはノイズとなりうるこうした部分も、「となりの芝生はよく見える」的にふだん好意的に「北欧」を捉えているぼくらにとっては、〝内側〟からの眺めということで興味深い。

    ◎アンチヒーローとしての警察官

    ここには、スーパーマンはひとりも登場しない。便宜上〝刑事マルティン・ベック〟シリーズとなっているが、他の警察官のほうが活躍する作品もあるくらいだ。全編をとおしてたびたび語られる警察官の〝素養〟とは「論理的な思考力、常識、律儀さ」であり、「すぐれた記憶力、ときとしてロバ並みと称されるほどの頑固さ、それに論理的な思考力」を兼ね備えたマルティン・ベックこそは実直で泥臭い、いってみれば〝警察官の中の警察官〟ということなのだろう。そうした警察官たちが、地道に、少なからぬミスもやらかし、ときに幸運に助けながらも難事件を解決してゆく様に、おなじくふつうの人間であるぼくらは共感をおぼえ、登場人物たちに対しヒューマンな魅力を感じるのだ。

    ◎笑い

    シューヴァル=ヴァールー夫妻の〝笑い〟のセンスが個人的にツボであったことは、続けざまに全10作を読み通す上で大きな助けになった。緊迫した場面で、絶妙のタイミングで挿入されるアキ・カウリスマキ顔負けの脱力系ユーモアは、この〝マルティン・ベック〟シリーズのもうひとつの魅力である。ところどころに往年のコメディアン、ローレル&ハーディの名前も出てくるが、作者のふたりはきっとスラップスティックコメディーにも通じているにちがいない。『テロリスト』でいえば、たとえばテロとは無関係に唐突に起こる暗殺がいい例だが、階段から足を踏み外したかのような錯覚&失笑を読者にあたえ効果抜群。そうした仕掛けに、創作上のテクニックというよりは、むしろふたりの〝遊び心〟を感じる。

    〝北欧〟と〝ミステリ〟という、個人的なふたつの関心事を同時に満たしてくれるという点で、このシリーズはまちがいなくぼくにとっては★★★★★だが、ここ最近注目されている「北欧ミステリ」の〝元祖〟ともいうべきこれらの作品が、現在『笑う警官』を除きふつうに書店で入手できないのはとても残念なことである。角川書店には、ぜひ新装版での復刊を願うばかり。

    PS.このシリーズを読むことをすすめてくれたアアルトコーヒーの庄野さんに心より感謝!!

  • このシリーズの最終巻。
    ようやく人物がこなれてきて、
    良くなったと思ったのに、残念。

    まだまだスェーデン社会がよくわかっていない気がするが、
    まあ読んで良かったかな。

  • 最後までわからない捜査陣の仕掛けた罠。このシリーズでは初めてで最後の試みである。極悪非道の日本人を捕らえに行くシーン、ベックが初めてラーソンに歩み寄るシーン、初物のオンパレードなのは最終回のサービスだったか。個人的には狙撃用のスコープからテロリストが引き金に力を入れようかどうか悩むシーンが忘れられない。サスペンス色よりも一番ミステリー色の方が濃かった感じがする。

  • 冒頭に登場した不運な女性がまさかあんなことになるなんて…ここでは書けないけれど、これには驚いたな。1965年から始まり10年間に渡って全10作からなるシリーズ。こんなに面白いのに殆ど絶版であるのは何とも残念なことだ。

  • 韓国、ソウル、オーストラリア、シドニーなどを舞台とした作品です。

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著者プロフィール

1935年、ストックホルム生まれ。雑誌記者・編集者を経て65年から10年間ペール・ヴァールーとマルティン・ベックシリーズを10作書き上げる。ストックホルムに詳しく、マルティン・ベックシリーズの陰の主役ストックホルムの町と人々の暮らしの卓越した描写はマイの功績。現在ノルウェー語、デンマーク語、英語の翻訳者。

「2017年 『バルコニーの男 刑事マルティン・ベック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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