Forsyth Collection I戦士たちの挽歌 (角川文庫 フ 6-22 Forsyth Collection 1)
- KADOKAWA (2004年2月25日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
- / ISBN・EAN: 9784042537229
作品紹介・あらすじ
脚の悪い老人がごろつき二人組に襲われる。被害者は身元不明のまま死亡、犯人は直ちに捕まり、有罪確実と見られていたのだが……(「戦士たちの挽歌」)。圧倒的なストーリーテリングが冴え渡る傑作短編集。
感想・レビュー・書評
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イギリスの作家「フレデリック・フォーサイス」の短篇集『戦士たちの挽歌―Forsyth Collection〈1〉(原題:The Veteran)』を読みました。
「フレデリック・フォーサイス」作品は、昨年の3月に読んだ『アヴェンジャー』以来ですね。
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名手「フォーサイス」がいぶし銀のごとく描く、男たちの気骨!
ロンドンの寂れた街角で、足の悪い老人が二人組の男に襲われた。
犯人は殴る蹴るの暴行のうえ、財布を奪って逃走。被害者は脳内出血で、身元不明のまま死亡してしまう。
やがて、犯人は目撃者の証言によって逮捕され、誰もが有罪確実とみていたのだが…。
表題作『戦士達の挽歌』をはじめ、結末の意外性が存分に楽しめる三編を収録。
物語の醍醐味が凝縮された、珠玉の短編集。
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タイトルとなっている『戦士達の挽歌』を含め三篇の作品が収録されています。
■戦士たちの挽歌(原題:The Veteran)
■競売者のゲーム(原題:The Art of the Matter)
■奇蹟の値段(原題:The Miracle)
■訳者あとがき 篠原慎
『戦士達の挽歌』は、足の悪い年配の男が、路上で二人の暴漢に襲われ、意識がもどらないまま死亡した事件を扱った物語、、、
一部始終を目撃していたコンビニエンスストアの店長「ヴィージェイ・パテル」の証言によ り、前科のある街のゴロツキの二人「マーク・プライス」、「ハリー・コーニッシュ」が容疑者として逮捕され、事件は順調に解決するかのように思えたが、そこに突然、大物敏腕弁護士「ジェームズ・ヴァンタシート」が介入… 有罪確実と思われた裁判で証拠や証言の曖昧さを巧みに突き、経験の浅い公訴官(検事)「ミス・サンダラン」を翻弄して二人の無罪を勝ち取ってしまう。
捜査にあたっていた「ジャック・バーンズ警部補」は、心底苦々しく思うが、「ヴァンタシート」の真の狙いは意外なところにあった… その後、被害者は元SAS隊員「ピーター・ベンソン」であることが判明、「ヴァンタシート」も元SAS隊員で「ベンソン」と同じ作戦に従事し、苛酷で非日常的な環境で友情を培った仲間のひとりだった。
「ヴァンタシート」は、司法では極刑で裁けないと判断し、自らが正義を実行するために釈放させ、そして二人を… ほどなくして、ロンドン東部にあるウォンステッド・マーシュズ近くの湖から二人の死体が引き揚げられた、、、
苦々しい思いが残る法廷劇から一転… 拍手喝采したくなるようなスッキリするオチでした。
『競売者のゲーム』は、大伯母の遺産の中世名画を大手のオークション業者に騙しとられた三流役者が、芸を生かして見事な仕返しをする物語、、、
美術品のオークションを扱うダーシー社の受付に、でたばこの煙やほこりのせいで、薄汚れた絵を少しでも金になればと売れない役者「トランピングトン(トランピー)・ゴア」が持ち込んだ… この絵を観たのは若手鑑定人の「ベニー・エバンズ」は、ほこりとごみにまみれてほとんど絵柄もみえなかった古い絵画が、実は素晴らしい価値を持つ逸品であることを見出した。
しかし、借金に窮する会社の幹部「スレード」は、私欲のために彼の発見を闇に葬り、その絵画を利用して私腹を肥やした挙句、証拠隠滅のために「ベニー」を解雇してしまう… 「ベニー」は、みかけはいかれたパンク少女だけど実はコンピューターの達人である恋人「ジュリー」と、絵画の持ち主で売れない役者の「トランピー」と組み、「スレード」へ仕返しするための作戦を考える、、、
学歴も金もないけど、美術品に関し ての知識は超一流という若者とその仲間が、美術品のオークションを仕切る大物企業の幹部をぎゃふんと言わせる、という痛快な展開… 500年以上も前に描かれたと思われた絵の中に、小さなメルセデス・ベンツが登場するという粋な仕掛けが成功したときは思わず笑っちゃいました。
勧善懲悪の展開、ラストの決め方… ホントに痛快のひと言ですね。
『奇蹟の値段』は、トスカーナの街シエナを観光で訪れたアメリカカンザス州の夫婦が、偶然出会った庭師の男から第二次世界大戦の述懐(奇蹟)を聞く物語、、、
毎年7月2日に、世界的に有名なパリオ祭りが行われるシエナの町を旅行で訪れたアメリカ老夫婦が、たまたま休憩を取った空き地でドイツ訛りの男から聞いた第二次世界大戦末期の野戦病院に現れた、ある少女の物語… ドイツ軍と連合軍の負傷兵が同じ野戦病院で治療を受けたが、そこにどこからともなく現れた看護師が傷ついた兵士の間を回り、身体に触るだけで傷を癒していたと言う。
そして物語に感動したアメリカ人は、気前よく募金箱に寄付していくのだが… うーん、これはあれっ という感じのエンディングでしたね、、、
窮地における若い軍医の奮闘や、400年前の聖女の悲愴な物語に引き込まれていただけに… でも、奇蹟を信じることができたなら、高い値段じゃなかったのかも。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2022.6.7(図書館)
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翻訳もの。
フォーサイスさんにしてはめずらしく、スパイものではありません。
この作家さんは、気骨ある人物をかかせたら一級品だと思います。
現代イギリス(といってもこの本は90年代なので今は少し違うのかな)の病んだ面を
考えさせられました。
短編集なのですが、いずれも最後が「大・どんでん・返し」です。
2014.03.31 -
戦士たちの挽歌/競売者のゲーム/奇蹟の値段という3つの小編による一冊。
なかでも戦士たちの挽歌は、結末までの道筋がおもしろくフォーサイス文学のエッセンスが散りばめてあるように感じた。
秀作 -
ラスト1ページのオチが凄い。
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この人は,大作もいいけど短編もいい。
細かい手順なんかへのこだわりは長編も短編も同じで,じっくり読ませてくれるのだけど,先が気になってイライラしてしまった。しかし,そういうところが丁寧にやってあるから,最後の意外な結末にはっとできるのだろう。
なんといっても最後に置かれた「時をこえる風」。最後が意外なのではなく,ストーリーそのものが意外なのだ。というよりも文体と作者名と,描かれている出来事のギャップが,(少なくとも僕にとっては)ものすごくて,頭がくらくらした。隠れた名作だと思う。
2005/10/7 -
09/07/13 さすがフォーサイス。最後の9行で勝負。一気読み。
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短編3作品。どれも、あっと驚く意外性。
なんか、スティーブン・キングの小説と重なりますけど、またそれとも違う感じですね。
さらっと、読めるんだけど奥が深くて、
重いです。
しかし、最期は何故か?爽快感なのですが。そういう不思議な所がフレデリック・フォーサイズの魅力なのかもしれないですね。