ひとたび人を殺さば (角川文庫 赤 541-1 ウェクスフォード警部シリーズ)

  • KADOKAWA
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784042541011

感想・レビュー・書評

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  • 上手い!
    重厚で昏いイメージを数多の書評子から植え付けられていたが、いやいやどうして!何と読み易い、そして抜群のリーダビリティーがある。

    恐らく本作は著者にとっては傑作ではなく寧ろ佳作となるべき作品だろう。しかし、登場人物、特に女性像がどれも印象的で、登場人物表に載ってないのが不思議なくらいだ。
    しかもプロットをしっかり形成して取りかかる作者らしく、終始一貫したテーマが立ち上り、着地も見事決まった。

  • 人間心理の冷静な観察力と、それを端的に描写する文章力。ただのミステリではなく「ミステリ小説」と名乗るなら、著者の作品くらい読ませるものであってほしいものです。
    強烈な印象を残す「ローフィールド館~」とは異なり、言っちゃあなんですが凡庸な展開です。健康を害した初老の警部が、ロンドンでの休暇中に起きた事件に首を突っ込み、独自に捜査を進めていく。けれど、いくつもの顔をもつ再開発の進むロンドンの雰囲気と当時の社会、警部自身にも向けられる人間が陥りがちな心理状況に目が離せなくなります。時折挟まれる、主に滞在先の家で繰り広げられるユーモラスな描写も息抜きにちょうどいい。「ユートピア」の引用も効果的で、最後まで小道具の役割を果たしています。事件だけ捉えれば結局誰も救われていないように思えますが、陰鬱にならず読後感はむしろよい作品でした。
    何人か赤ちゃんが出てきて、彼らに注がれる親の愛情が何とも尊く感じられます。形は様々だし必ずしも理想郷に繋がるものではないけれど、尊いことに変わりありません。

  • すごい!
    薄皮をはぐように謎が解き明かされていく。
    見事!

  • ロンドンの街並が浮かぶ描写とどんでん返しのきいたミステリー。楽しめました!

  • ウェクスフォード警部は病気療養のため田舎町からロンドンの甥の家の世話になっていた。退屈しきっていた中、近くの墓地で女性の絞殺死体が発見されるという事件が起きた。警部は微妙な立場ながら捜査に携わるが、女性の身元がわれず、捜査は難航する…。天才型ではないが、堅実な捜査と人を見る目を持つウェクスフォード警部が、ロンドンというアウェーでの捜査に難航しながらも持ち前の長所を発揮して真相に近づいていく様が、安定感があっていい。まあ、少々早とちりもするが…。ところが、この早とちりもただの失敗に終わらず、ラストの真相にうまく絡めたところも面白い。女性の生前の痕跡を探そうとすればするほど影が薄くなるような人物造型もうまい。背景に閉鎖的で特殊な家庭環境があるとわかったときはちょっと驚いた。イギリスという国の暗部をのぞかせる、低所得者層の生活描写にもちょっとショックを受けた。※懐かしのレンデル。一時はまっていたのにすっかり内容を忘れてしまった。このシリーズは好きだったなあ。

  • 1972年発表、レジ・ウェクスフォード警部シリーズの一作。本作が日本初紹介となり、そのあと飜訳された心理サスペンス「ロウフィールド館の惨劇」(1977)で、人気に火が付いた。一時期のレンデル・ブームは凄まじく、新たな女流推理作家の登場に、ミステリファンらが沸いていたと記憶しているが、個人的には「…惨劇」は好きな作品ではなく、レンデルは敬遠していた。

    本作は、ウェクスフォードが籍を置くキングズマーカム警察を離れた休養中の話で、いわば番外編に近い。ロンドンの古い墓地で若い女の死体が見付かる。住まいと名前は判明したが、どうやら偽名らしく、身元もはっきりしない。暇を持て余したウェクスフォードは、同じく警察官である甥から情報を得つつ、単独で捜査を始めたが、死んだ女の正体を探るほどに、その名も相貌も性格も変わっていった。果たして、被害者は何者なのか。

    何故、この作品から翻訳がスタートしたのかは不明。内容もさして本格推理小説の真髄が味わえるものではなく、極めて地味な印象。ロンドンの観光案内も兼ねた舞台設定や、往時の若者らの風俗にも触れている展開が、読み手に馴染みやすいと判断したのだろうか。
    真相を解く鍵となるのは、養子縁組に伴う愛憎で、それに新興宗教を絡め、或る若い母親を襲った悲劇を主軸としている。短いストーリーの割には登場人物が多く、整理されているとはいえない。最終的に明かされる殺人者の動機もすんなりと納得できるものでは無く、伏線も弱い。

    関係者の間を渡り歩くウェクスフォードは、試行錯誤しつつ事実を掘り起こす。その捜査法は実直で、人情派らしく、人々を見つめる眼差しは穏やかだ。脅しや駆け引きなどは一切とらない。その分、必然的に誤りをおかして、推理は二転三転するのだが、単なる推理過程でのズレから生じているだけのため、驚愕のツイストとまではいかない。
    恐らく、本シリーズの魅力は、一にも二にも生真面目なウェクスフォードの〝渋さ〟に寄っているのだろう。ただ、シムノン/メグレのような達観的な味わいにまで結び付かないところが、物足りない。といっても、〝伝統の英国ミステリ〟ファンにとっては、私には蛇足に感じる家族間の日常的やりとりさえも心地良いと感じるのだろうが。

  • 老刑事ウェクスフォードが体調不良による休養のため、甥の首都警察ハワード警視のもとに滞在した際に、身元不明の女性の殺人事件が発生し、刑事魂が抜けずに、独自に事件の捜査を行う話。
    「ロウフィールド館の惨劇」と「わが目の悪魔」を読んで、異常性格者が引き起こすサスペンス小説を書く作家だと思っていたが、本作品は全く毛色が違っている。
    ジャンルとしては、老刑事ウェクスフォードの紆余曲折の捜査課程を描いた警察小説と言えよう。
    身元不明の女性を取り巻く人間関係が複雑で、私の理解力不足なのか、最初に読んだ時点では登場人物間の関係が十分に把握できず、「誰が誰?」状態であった。パラパラとページをめくり直して確認し、ようやく理解できた(と思う)。
    身元不明の女性の過去を探るのが焦点の話だが、ウェクスフォードも地元警察も、仮説を確信するあまり、間違った道に入り込んでしまい、それが話を複雑にし、わかりにくくしている。
    ウェクスフォードが最後に、人物Aが犯人ではなく、人物Bが犯人であるという根拠を示すのだが、その根拠はいずれも薄弱であり、本格物とは言い難い。
    てっきり、私はAでもBでもない人物を犯人だと思っていた。

  • ロンドンの墓地で若い娘の絞殺死体が発見された。聞き込みを重ねても身許が割れず、名前も偽名だった…。二転、三転、捜査は意外な結末へ。第二のクリスティと評される気鋭女流の傑作ミステリー。

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